僕らの意識次第で、本当に思い通りにできる。そう思っているんですよ
現代日本のマイノリティーに焦点を当て、その生きざまを肯定するように舞台上で昇華させていく舞台を上演してきた劇団「ゴジゲン」。彼らの第14回公演「くれなずめ」もまた、コンプレックスや悩みを抱えた人々が、それを笑い飛ばせてしまうような独自のスタイルで上演される。作・演出の松居大悟が作り出す今回の物語がどのようなものになるのか、その概要と魅力について稽古が始まったばかりの目次立樹と東迎昂史郎に話を聞いた。
――ゴジゲンの公演としては今回が14回目になります。今回、これまでとは変わった部分はありますか?
目次「今回、初めての劇団員だけの公演になるんです。前々回、前回とメンバーは全く変わっていなくて、同じ6人なんですけど(笑)。僕と松居(大悟)の2人だけがゴジゲンだったんですが、今回4人もゴジゲンに入ったので、初めての劇団員のみの公演になっています。そういう意味ではちょっと気持ちも新たにというか…そのへん、どうなの?」
東迎「そういう気持ちが無いわけでもないんですが…今のところは、大きくは変わらないですね。この6人でやってきたということは変わらないので。でも、ふとした時に“そういえば…”と思い出したりします」
目次「そのほかには、前回と前々回は比較的ドキュメンタリータッチの作品だったんですね。メンバーの個人的な体験なんかを各々が書いてきて、それを松居が編集するというスタイルだったんです。全員本人役でしたし。その点、今回は全員に役がついて、物語になっている。そこも大きな違いですね。こういう作品はもう6年ぶりくらいになります。ゴジゲンは休止期間が3年ほどあって、復活して3年目なので」
――久しぶりに、役作りをする演目というわけですね。
目次「そう、役作りしなきゃいけないんですよ…」
東迎「いや当たり前っちゃ当たり前なんですけどね(笑)。ほかのメンバーは役者として活躍していましたが、僕はゴジゲンだけだったので、本当に6年ぶりです」
――今回はどのような舞台になるんでしょうか?
目次「松居の中では、もう出来上がっているんですよ。たぶん。ただ、まだ文字にしていない(笑)。松居が簡単なスジだけ持ってきて、それを実際にやってみてよかったものを脚本に落とし込んでいく。そういうのを今やりはじめたところといった感じです」
東迎「松居さんの中では全体が10ブロック位に分かれていて、それを1回の稽古で1つずつ出していくって言っていましたね。今はまだ2ブロック目くらいです」
目次「本番には間に合いますから(笑)」
――みなさんもまだ、全容を把握されていないんですね(笑)。現時点でわかっている部分を教えていただけますか?
目次「今回は、披露宴と2次会の間の時間を描いていて。その時間って、なんかちょっと独特じゃないですか。移動してもまだちょっと時間余ったりして、その間は久しぶりに会った友達なんかと向き合うしかなくなってしまう。披露宴までは取り繕えていたことが、その時間を過ごすことでちょっとずつメッキが剥がれていくような…そんなふうになるんじゃないかと思っています」
――お互いの近況を探りつつ、ちょっと見栄も張りたいあの感じですね。それぞれの役どころは固まってきていますか?
目次「僕の役の男は、ねじ工場で働いているらしいです。何とかして見栄張りたいんだけど…という気持ちでいて、そのあたりからホワイトカラー組とブルーカラー組とで、いろいろあるんじゃないかなぁ」
東迎「僕の役はちゃんと仕事もしているんですが、結婚して子供もいる設定になっています。ゴジゲンでは一番年下なんですが、設定としても年下になりそうですね。千葉県で柏あたりの団地に住んでいるらしいです(笑)」
――東迎さんの役は、結婚しているということで他よりも1歩進んでいる感じもするけど…という感じでしょうか。団地というのもちょっとイメージが膨らみますね。役の中で自分の個性を活かしていきたいというような意識はありますか?
目次「役の中で達成しなきゃいけないミッションはあると思うんですけど…、それよりも6人のグルーヴ感を大事にしたい。ゴジゲンって役者だけをガッツリやってる人間ってそんなに多くないんですよ。だから舞台の上にいるけれど、どこか一般人っぽいというか、自分の延長線上にあるものとして感じてもらえるんじゃないかと思うんですよね」
東迎「昔は、出来上がった本を読んで、役のことを考えてというのがスタートだったんです。でもゴジゲンでは役をあまり意識しないというか…作品の空気感みたいな部分にアンテナを張っていないと取り残されてしまう。自分の役はこうだから、と役のことを考えてしまうとうまくいかないことが多いんですよね」
――なるほど。個々が目立つよりも全体の空気を見逃さないことが重要なんですね。稽古をしていて、印象に残っていることなどはありますか?
目次「高校の同窓生という設定なんですけど、久しぶりに会った友達とよそよそしくなるというか…こいつとどんな距離感だっけ? みたいなことってあるじゃないですか。それが、カラオケボックスのシーンをやってみたときに、あの当時に歌って曲を一緒に歌ったりすると、一気に昔の空気に戻るんですね。実際自分が30代になって、それはすごく思いますね。僕らの頃は青春パンクがど真ん中でGOING STEADYとか175Rとか…。あの曲が流れると、当時に戻れるんですよね」
東迎「これまで実際に、結婚式とかでどんな余興やった?とか、文化祭でどんなことやった?とか、いろいろな話をみんなでしたんですけど、6人共通の思い出じゃなくても“それわかる!”っていうことがたくさんあって。そういうところは世代も近いからかもしれないけど、面白いなと思いましたね。なんかいいなって」
――世代ならではの共通認識があるわけですね。チラシには松居さんの言葉で「記憶は目に焼き付いた永遠!」「沈む夕焼けは火傷しながら支えるだけさ!」など、意味深で熱いメッセージが書かれていますが…
目次「そうなんですよ(笑)。それを高校生くらいの子たちがやっていると、青いなーってなるんですけど、いい年したおっさんたちがあえてこういう言葉を使っているのは、逆にいいんじゃないかなんて、松居は言ってましたね」
東迎「初耳だ(笑)」
目次「まだ松居の中で固まっているわけでは無くて、どんどん変化させていくところだとは思うんですけど…。時間や空間の変化って、映像だとカットを入れて簡単にできたりするんですけど、演劇だとなかなか難しいところがあるんですね。でも、なんとなく、松居はそれができるんじゃないかと思っているフシがあって。時間がテーマになっている作品なので」
――「時間」がひとつのテーマになるということですが、それはタイトルの「くれなずめ」という言葉にもつながりそうです。
目次「タイトルの『くれなずめ』は、暮れなずむ(夕陽が沈みそうでなかなか沈まないさま)を命令形にしたような言葉なんですね。つまり、その状態で居ろ!ということ。僕らの意識や想いなんかで、本当に時間や場所を思い通りにできるんじゃないか。そんな風に松居が言っていたことがありますね」
東迎「チラシの言葉も、ひとつひとつには強い意味がありそうでも、全部を読んでみるといまいち掴みきれない感じなんですよね。演じる側の僕らもそうなんです。前回公演の時は、それぞれのエピソードを持ち寄って、そのそれぞれは各々のリアルな出来事ではあるけれど、それをまとめたらどうなってしまうんだろう…っていうのはずっと不安だったんです。でも、松居さんには見えていて、つながっているんです。だからゴジゲンの全体像って、最後の最後まで、わからないんですよね。稽古場でもそれは一緒なんです(笑)」
――ちなみに、作・演出の松居大悟さんについてそれぞれどのような印象をお持ちですか?
目次「僕はもうかれこれ10年以上の付き合いになりますから。でも、すっげー仲の良い友達ってワケでも無いんです。プライベートでは合わないし、2人で飲みに行ったりもしないし。でも大学1年からずっと同じサークルで、彼が書いた作品には必ず出ていて。ゴジゲンの中では、友達のような感覚ではいます。でも、ゴジゲンの外ではすごい活躍をしていて、尊敬している部分もあって。ちょっと客観的に見ちゃうところもあるんですよ。でもゴジゲンにくると、いつもの松居だな、って思ったり。ちょっと不思議な感じですね」
――本当に、演劇だけでつながっている関係なんですね
目次「確かにそうですね…。松居がどう感じているかはわからないですけど。でも、松居がゴジゲンでどういう作品を作りたくて、どうしたいのかは、俺がわかっているはず。まぁアイツも言わないからわかんないけど(笑)。でも汲み取れていると思うんですよ。なんというか、単純にゴジゲンでやる作品が好きなんですよね」
――東迎さんは松居さんにどのような印象をお持ちですか?
東迎「僕は、ゴジゲンの『チェリーボーイ・ゴッドガール』を客として観に行って、本当に好きで、僕から松居さんに猛アタックして今ここに居るんです。ゴジゲンの中で唯一、自分から来たんですよ(笑)。ほかの方は、松居さんが面白いなとか思って声をかけた人たちだと思うんですけど。僕はオーディション受けて、その時には印象がゼロだったと思うんですけど、そのあとの打ち上げで『好きでした!』って言って。憧れの気持ちが強かったですね」
目次「すんごいヨイショしたんだよね。だから松居も気持ちよくなっちゃって(笑)」
東迎「そうなんです。松居さんは人気者だから打ち上げの席ではそんなに喋れなかったんですけど、帰りの電車で超長文のメールを1時間くらいかけて打って…。それを送信したんですけど、酔いが覚めたら“あぁ絶対に引いてるだろうな”って思ったりしてたんですけど(笑)。そしたら“芝居やるから来ないか”って連絡が来たんです。それからですね。僕は劇団員になりましたけど、ファンなんです(笑)」
――かなりの猛アタックですね(笑)
東迎「その後、休止期間の後の復帰公演で呼んでくれて、とても嬉しかったです。復帰公演はドキュメンタリーを作っていたということもあると思うんですけど、松居さんと全員が同じ視点で作品創りをしました。役者としてゴジゲンに参加していく中で、今までは憧れの松居さんに、少しだけ通じ合う部分が見えてきたような気がしています」
――ファンとしては、どんなところがゴジゲンの魅力でしたか?
東迎「初めて観た作品が童貞の話で。そういうのって恥ずかしいことだと思っていたんですけど、なんかちょっとカッコよかったんです。こんなにストレートでいいんだ!って。役者をやっていく中で、深く考えなきゃいけないんだとか、言葉をもっと考えなきゃとか、いろいろ考えてしまっていたんですけど、感じているものをバーンと出されてきて、すごいエネルギーで感動したんですよね」
――おふたりにとって、役者という仕事の魅力はどのようなものだと考えていますか?
目次「魅力ですか…。正直なところ、ゴジゲンの休止の時に役者はもう一区切りしていて。地元で農業をやっていたんです。そしたら松居から酔っぱらって電話がかかってきて。ちょうどその時に岩松了さんの戯曲を読んでいたので、それを伝えたら、嬉しそうに“じゃあやろうぜ!”なんて言ってきたんです。じゃあ、農閑期だけなーなんて感じでまた始めたんです。いい意味で、もう一回役者やるぞー!っていう感じじゃないんです。ありがたいことに舞台に立つ機会をもらって、目の前のことを一生懸命やっていたら、今の形がある。もしかしたら、全然別の…お前の料理が必要だ!なんて言われたら、キッチンで頑張っていたかもしれない。それがたまたま、役者だったという感じなんですよね」
東迎「僕は一度ゴジゲンに所属していたんですが、参加して3か月で活動休止しちゃって。その時に、役者がつらいという気持ちになって一度はやめて…。でもまた呼んでもらって、後追いで役者のことを考えているというのが正直なところなんです。まだはっきりとはしていないんですが…前は役者ってどんな状況でも観客に感動を与えていて、そういう魅力的な俳優になりたいと思っていました。役者とはこうでなければならない、という漠然とした像があったんです。でも、それにつかれてしまったんです。今は、作品の中にいる自分が考えたり動いたりしている時間は、日常では味わえないもので、自分自身がそれを楽しんでいるんだな、と。舞台を作り上げる、その過程が魅力的なんです。それを、お客さんに観てもらえることがうれしいですし、役者というものを楽しめるようになってきたのかもしれません。もちろん、楽しいばかりじゃないですけどね」
――最後に、公演を楽しみにされている方にメッセージをお願いします!
目次「普段着の気軽な感じで来ていただけたらと思います。劇場に来てみたら、いつの間にか始まっていて、なんかちょっと楽しい時間が流れているような。そんな、ごきげんな作品です。」
東迎「肩ひじ張らず、普段の感覚でというのは同じですね。でも、ゴジゲンの作品を観ると何か考えちゃうと思うんです。答えが出てないのに作品にするじゃないですか、僕らって。僕らもやりながら、いろいろと考えているんです。なので、ぜひ皆さんも観ながら僕らと一緒に考えてくれたら、ありがたいですね」
インタビュー・文/宮崎新之
【プロフィール】
■目次立樹
メツギ・リッキ 1985年10月29日生まれ、島根県出身。慶應義塾大学入学とともに演劇サークルに参加し、松居大悟とともに劇団「ゴジゲン」を旗揚げ。松居作品には欠かせない俳優として舞台に立ち続けたが、2011年のゴジゲン休止に伴い、地元で俳優、農家、ワークショップデザイナーなど多彩な活動を展開。2014年のゴジゲン再結成により、東京での俳優活動を再開した。
■東迎昂史郎
ヒガシムカイ・コウシロウ 1987年9月30日生まれ、沖縄県出身。円演劇研究所専攻科を卒業後、劇団「ゴジゲン」の本公演に多数参加。そのほか、舞台「おどくみ」「リリオム」「0号室の客~帰ってきた男」や、映画「スイートプールサイド」への出演など、俳優としてのキャリアを重ねる。2017年7月より劇団「ゴジゲン」の正式メンバーとなり、さらなる飛躍が期待されている。
【公演概要】
ゴジゲン『くれなずめ』
日程・会場:
10/19(木)~29(日) 東京・下北沢駅前劇場
11/4(土)・5(日) 京都・アートコミュニティスペースKAIKA
11/11(土)・12(日) 福岡・北九州芸術劇場 小劇場
作・演出:松居大悟
出演:奥村徹也 東迎昂史郎 松居大悟 目次立樹 本折最強さとし 善雄善雄