cube 20th Presents Japanese Musical「戯伝写楽 2018」 橋本さとしインタビュー

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写楽は、自由に演じていいと思わせてくれる余白がある存在なんです

江戸時代、彗星のように現れてわずか10か月の間に145点余りの作品を残して消えていった謎多き浮世絵師・東洲斎写楽。その謎めいた存在を題材にしたジャパニーズ・ミュージカル『戯伝写楽 2018』の上演が決定した。初演から8年、この日本製オリジナルミュージカルに再び挑む橋本さとしにその胸中を聞いた。

――今回、8年ぶりの再演となりますが、初演の時の印象はいかがだったんでしょうか。

橋本「8年前、カンパニーの雰囲気がすごく良かったんですよ。演出が荻田(浩一)さんで、彼独特の解釈で江戸の華やかさを魅せてくれたエンターテインメント作という印象でした。今回は演出家が河原雅彦さんに変わります。河原さんは人間描写、人間を掘り下げるのがうまい演出家なので、エンターテインメントでありながら、さらにキャラクターに焦点を合わせてくるんじゃないかと思っていますね」

――初演の時、どのような気持ちで作品に臨んでいらっしゃいましたか?

橋本「当時、脚本の中島かずきさんと一緒にできる事がうれしくて。劇団☆新感線時代にずっと一緒にやっていましたが、その時が10年以上ぶりにかずきさんの作品への出演だったんですね。セリフのひとつひとつが中島かずき節で、懐かしいなぁ!と思いながらやっていました。自分の中でノスタルジックな気持ちになりながらも、20代のころの劇団で生きてきたパワーやエネルギーをかずきさんのセリフから呼び覚ましてもらったような感覚もありました。もう42~3歳にはなっていましたから、いいお年頃にもなっていましたけど(笑)、若き日の自分に戻らされましたね。今回、そこからさらに8年経っています。今回は20代の自分に返るというよりも、自分の年代の年相応な部分を出していきたいですね。そういう部分で、役としても前回とは違うキャラクターにしたいなという気持ちがあります」

――8年経ったからこそできるキャラクター像にしていきたいというお気持ちでしょうか

橋本「そうですね。彼が持っている狡猾さや背負っているもの、もがき苦しんでいるような負の部分を入れていけたらと考えています。江戸では浮世絵とか歌舞伎とか、華やかなものもたくさん生まれてきましたが、その一方で人間の生々しさのような部分もあったはずなんです。今回は、そこも描けたらと思いますね」
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――写楽の作品自体も、誇張などである種その人の生々しいまで個性を表現していたようにも思えます。写楽という作家自体にはどんな印象をお持ちですか?

橋本「ミステリアスな画家ですよね。いろいろな説があって、複数の人間でやっていた写楽という組だったんじゃないかという話もあって。そのグループだったかもしれないという部分は、こういう作品に携わる者としてとても魅力的に感じられますね。興味をそそられるというか。写楽の存在感って、僕らの解釈で自由に演じていいんじゃないかな、と思わせてくれるような余白を感じさせてくれるんですよ。だけど、謎が多いのに日本の画家の中でも、もっとも有名なんじゃないかと言うくらい、切手とかいろいろなところで目にしますよね。日本文化の中で欠かすことのできない人物で。そういうことを思いめぐらせながら演じるのはすごく楽しいですね」

――余白の多い存在だからこそ、想像や意欲が掻き立てられるという感じでしょうか

橋本「本当に、特殊な存在だと思います。ゴッホなど海外の作家にも影響をおよぼしていているんですよね。ちょうど昨年、ゴッホの役も演じていて(ミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』)、日本の浮世絵にゴッホがとてもインスパイアされていることを知ったんです。そこから1年半経って、日本の画家をテーマにしたミュージカルに出演できる。何か、不思議な縁のようなものを感じますね。あの時演じたものが、こんな形で活かされていくんだ、と、パズルのピースが嵌まっていくような感覚があります」

――役がつながっていくような感覚というのも面白いですね

橋本「もちろん、それぞれ違う役として捉えてはいるんですけど、演じる肉体は所詮1人なので(笑)。そこにどこか、橋本さとしテイストが入ってくるんだと思います。自分が演じたキャラクターは自分だけの、オリジナルとしてやるという気合はいつもありますし、それが役者としての責任なんじゃないかと思いますね」

――橋本さんは本当に出ずっぱりで、先日『アダムス・ファミリー』のイベントでお見掛けしたばかりですが、本日はまた別の作品のお稽古を済ませた後に、今回の『戯伝写楽』の衣装を着ていただいての取材に来ていただいています。いろんな役が同時進行しているような印象ですが、ご自身の中に切り替えのようなものはありますか。

橋本「僕自身、なんだか夢の中にいるような感覚です。ラテン系のスパニッシュかと覆えば、今日はアメリカのセントラルパークを歩いている気分になって、さっきいきなり日本に戻ってきて、しかも江戸時代になって(笑)。でも、その感覚は役者冥利に尽きるというか、非現実的なものの中に自分を入れ込むことができることがありがたいですね。そこがこの仕事の面白いところだと思いますし、ワクワクします。正直、稽古の後で“疲れたなぁ”という感覚もあるんですけど(笑)、こうやって作りこんだ衣装を着せていただいて、作品の中に入り込んでいくとパンッと自分を違うところに連れていける。この後、衣装を脱いでメイクを落としたら“疲れた…”ってなるんでしょうけど…。1日の中でいろんな自分に出会えるなんて、なかなかないんじゃないかな。とても幸せで充実感がありますね」

―本作は“ジャパニーズ・ミュージカル”と日本発のオリジナルミュージカルであることも大きな特徴だと思います。その点についてはどのように感じていらっしゃいますか?

野田「いや、チャレンジングだな、と(笑)。真っ向勝負ですよね。やはり、日本にとってミュージカルは異文化なんですよね。日本の演劇文化は、歌舞伎などのような形式美、様式美のような文化の中にあります。まだまだ日本の方はミュージカルに対して“いきなり歌いだした!?”というような印象を持たれている方も多いんですよね。でも、それは演じ手にも問題がある気がしています。やっぱりセリフと歌声が大きく違うと違和感がありますよね。あと、さっきまで役者同士で会話していたのに、いきなり観客に向かって歌いだすような…。ミュージカルは感情の爆発というか、思いの丈をメロディに乗せて歌うものだと思うので、ストレートと音楽の境目がより無くなれば、もうちょっと自然に受け入れてもらえると思うんです。そこが僕ら演じ手が目指していくところだと思いますね」

――ミュージカルそのものが西洋の文化である中で、本作は日本らしさを目指す挑戦的な演目なんですね

橋本「もちろん、これまでも日本をテーマにしたオリジナルミュージカルはあったと思いますが、ここまでの真っ向勝負はなかなか無かったように思います。頑張らないといけないなと思いますね。少しおこがましいですね…伝説というか、これからの日本のミュージカルの先駆けになればと思いますね。8年前もチャレンジしていたなぁという印象はありますが(笑)、あの時の気持ちを受けて今回への意気込みや気合に変わっている部分はあります」

 

――今回、ヒロインを中川翔子さんが演じられますが、彼女の印象についてもお聞かせください

橋本「まだちゃんとお会いしていなくて、ミュージカル『マーダー・バラッド』という作品に出演していた時に観に来ていただいていたんですが、面識がなかったので“中川翔子さんだ!”と思ったのを覚えています。いろいろなところで拝見していましたし、ミュージカル『ブラック メリーポピンズ』に出演されていたときに観劇もさせていただいたんですが、華のある俳優さんでした。その華というのも、中川さんが笑顔でいたとしても、その笑顔に切なさを感じたり、悲しみを持ったりと、どこか人を惹きつける魅力なんですね。可憐な、少しケレン味のある華なのかなという印象です。音楽的なセンスの部分でも、彼女の歌から客席で感じられたので、とても楽しみにしています」

――中川さんもとても絵がお上手なので、写楽を扱った作品にはぴったりですよね

橋本「僕と中川さんの共通点としては…実は僕、楳図かずおさんが大好きで。小学生くらいから読み続けていて、その世界観が大好きなんです。中川さんも楳図かずおさんが大好きで尊敬されているというのをお聞きしていましたし、番組なんかで楳図さんが中川さんを書いたイラストを貰っているのを拝見していて“めっちゃ羨ましい! いいなぁ!”なんて思っていたので(笑)。僕は『おろち』という作品が大好きなんですけど、中川さんの瞳には『おろち』で感じたような謎めいた女性像を感じるところがあって。だから何か共感できるところがあるんじゃないかなと思っています」
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――今から稽古が楽しみですね(笑)。最後に公演を楽しみにしていらっしゃる方にメッセージをお願いします

橋本「皆さんが良く知っているような江戸時代の空気感を持ちつつ、写楽という謎めいた人物像が、本当にこうだったのかも…と感じさせられるようなリアリティのある作品にしていきたいと思っています。キャスト一同、写楽に向かっていける素敵な方々がそろっていますので。異文化に触れる感を得るためではなく、自分たちの文化に誇りや喜びをもっていただけるようなミュージカルに、皆さんと一緒にたどり着けると思っています。ぜひ観に来ていただいて、皆さんがどう感じるかを私自身も知りたいですので。地方公演もありますし、僕は地方公演も大好きですので(笑)、ぜひ足を運んでいただけたらと思います」

取材・文:宮崎新之

【プロフィール】
橋本さとし
■ハシモト・サトシ 1966年4月26日生まれ、大阪府出身。1989年に劇団☆新感線の公演でデビューし、数多くの作品に出演。97年に退団後は、舞台、映像作品などに幅広く出演。代表作には『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』など、日本のミュージカルを牽引する役者として活躍し続けている。

【公演概要】
cube 20th Presents Japanese Musical「戯伝写楽 2018」

日程・会場:
2018/1/12(金) ~ 28(日) 東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2018/2/7(水)  日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール(愛知県)

中島かずき
演出:
河原雅彦
作詞:森雪之丞
音楽:
立川智也

出演:橋本さとし、中川翔子、小西遼生、壮一帆、東山義久(Wキャスト)、栗山航(Wキャスト)、山崎樹範、吉野圭吾、村井國夫 ほか