『表に出ろいっ!』がもともとどのような作品なのかは、こちらやインタビューを見ていただくとして、今回はまったく新しく生まれ変わった英語作品。
日本国内で英語上演作品を観るときは字幕が出るのがおなじみですが(舞台の両端に、タテに長い字幕が出ることが多いですよね)、本作品では字幕は使わず、イヤホンガイドで日本語吹替えが流れます。<父>キャサリン・ハンターさんの吹替えは大竹しのぶさん、<娘>グリン・ブリチャードさんの吹替えは阿部サダヲさん、そして<母>野田秀樹さんの吹替えは野田さんご自身。
出演キャストも吹替えキャストも、あまりに豪華なこの作品。ただし問題は(た)の英語力。洋画を観るときは字幕派ですが、字幕を読まないとちんぷんかんぷんだし、街なかで海外の方に道を聞かれたら、ことばでは説明できないのでスマホで地図を出して指さし案内するくらいの英語習得レベル。さて、そんな(た)がこの作品を観るとどうなりますやら。
劇場に着くと、まず入口で、小さな袋に入ったイヤホンガイドが配られます。手のひらサイズのガイド本体と、イヤホン1本のセット。つまりイヤホンは片耳分だけなので、舞台上の英語の台詞を片耳で聞き、もう片方の耳にイヤホンを挿して日本語吹替えを聞くんですが、この「片耳ずつで聞く」がキモなんです。
舞台上で飛び交う英語、そしてときおり日本語も。それに合わせてイヤホンガイドからは吹替えの台詞が聞こえてきますが、ひとことで台詞といっても量が違う!野田さんの作品を一度でも観たことがある方はおわかりかもしれません。その台詞の量の多さ、さらに掛け合いの多さにことば遊び。ストーリー展開もめまぐるしく早い。さらに、舞台脇では田中傳左衛門さんが生演奏をしている。
ストーリーを追ってお芝居を観たいし、出演しているキャストの声で台詞を聞きたいし、日本語吹替えキャストの声でも台詞を聞きたいし、生演奏も聞きたいし、衣裳や舞台セットもとっても魅力的でよくよく目を凝らして観たい。あれもこれも全部観たいし聞きたい!
正直、開演直後はこの情報量の多さに面食らいました。右耳から聞こえる英語!左耳から聞こえる日本語!とってもかわいらしいお衣裳!鳴り響く小鼓!…これは気を抜いたらあっという間に置いていかれる!と必死に食らいついて、気がついたら終演していました。頭がフル回転してた気がします。
終演後、「もっと英語がわかればなぁ…」としょんぼりしたわけですが、いや待てよとこの必死さの一因に気づきました。出演キャストと日本語吹替えキャスト、三者三様×2の「声」がとっても魅力的だったんです。だから英語だけじゃなく、とにかく全部聞き逃したくない!と必死だったわけです。
<父>を演じるキャサリンさんの、いちど聞いたら忘れられない独特の低い声。<娘>を演じるグリンさん、<母>を演じる野田さんが“女性”を演じる声。さらに、イヤホンガイドからは大竹さん、阿部さん、野田さんの声も聞こえてくる。全員の台詞を、それぞれの声でもらさず聞きたい!と思ってしまうのは決して(た)だけのわがままじゃないと思います。
ちなみに、吹替えキャストの語り方はわりと淡々としています。吹替えは朗読劇とは違って、あくまでも目の前のお芝居を「吹替え」する役割。でも、そこは野田さんをして「贅沢なキャスト」「日本の俳優のトップクラス」と言わしめる大竹さんと阿部さん、そして野田さんですから、控えめななかに芝居口調がにじむとき、こちらの耳はついつい「おっ!」と反応してしまう。この“ほんのりにじむ”ところも、台詞を一言一句あますところなく聞きたくなる理由のひとつなんだと思います。
公演は開幕したばかり。ぜひ、こころとあたまに余裕をもって劇場へ行って、この作品の要素をひとつでも多く吸収してくださいませっ!
*おまけ* キャサリン・ハンター出演『夏の夜の夢』DVDが、まもなく発売!2014年にニューヨークで上演された演劇作品を収録したもので、日本でも何度か映画館上映されている本作。内容や映像美もすばらしいのですが、妖精・パック役のキャサリンさんのひょうひょうとした演技から目が離せなくなります。よろしければ、ぜひっ。
>> ジュリー・テイモア『夏の夜の夢』 2017年11月24日発売予定
http://www.hmv.co.jp/product/detail/8196072
撮影:篠山紀信
文・ローチケ演劇部(た)
【公演概要】
アートディレクション:吉田ユニ
「表に出ろいっ!」English version One Green Bottle
日程・会場:
2017/10/29(日)~11/19(日) 東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
作・演出:野田秀樹
英語翻訳:ウィル・シャープ
演奏:田中傳左衛門
出演:
キャサリン・ハンター(父役)
グリン・プリチャード(娘役)
野田秀樹(母役)
<日本語吹き替えキャスト>
大竹しのぶ(父役)
阿部サダヲ(娘役)
野田秀樹(母役)