東京公演開幕!日本テレビ開局65年記念舞台『魔界転生』観劇レポート

2018.11.06

11/3(日)、明治座にて東京公演初日を迎えた舞台『魔界転生』。アクション・プロジェクションマッピングなどの大胆演出と、繊細な人間ドラマが融合する、全く新しいスペクタクル時代劇だ。

この作品の原作は、山田風太郎の伝奇小説。これまでに映画、漫画、アニメなど様々な分野でリメイクされた人気作である。今回、舞台『真田十勇士』でもタッグを組んだマキノノゾミと堤幸彦が再結束し、2018年最後の超大作舞台『魔界転生』が誕生した。

 

【あらすじ】
江戸幕府に弾圧されたキリシタンたちは一揆を起こしたものの、寛永15年(1638年)に幕府軍の総攻撃を受け大敗。およそ3万7千人が犠牲となった。やがて、「魔界転生」という死者再生の術によって、「島原の乱」の総大将・天草四郎(溝端淳平)がこの世に蘇る。四郎は幕府への復讐を決意し、宮本武蔵(藤本隆宏)・荒木又右衛門(猪塚健太)・そして淀殿(浅野ゆう子)ら、無念の想いで命を絶たれた者たちを魔性の者に転生させ、「魔界衆」を結集する。隻眼の剣豪・柳生十兵衛(上川隆也)率いる「柳生衆」は、悪魔の恐ろしい企てを阻止すべく「魔界衆」と激突を繰り返すのだが…まず注目すべきは、ほぼ全てのシーンで用いられた圧倒的なプロジェクションマッピングだ。舞台上の演技に合わせて展開される映像により、観客は非現実的で壮大な世界観に自然と導かれる。火花散る特効や大人数でのアクション・殺陣には、理屈抜きで魂が高揚する感覚を覚えた。また堤幸彦のお家芸とも言うべき“小ネタ”は、舞台上でも健在。絶妙な間・時代設定一切無視の時事ネタやギャグに、客席の温度がぐんと上がる。
演出だけを切り取っても、堤を筆頭としたスタッフ陣のこだわりを強く感じることができるだろう。そしてなんと言っても、この超大作を“演劇”として成立させた俳優陣の実力に感服した。

剣豪、柳生十兵衛を演じる上川隆也は、飄々とした振る舞いと凛々しい剣さばきで舞台の中央に立つ。主君や父親にも楯突く異端児っぷりを見せつつも、「柳生衆(道場の弟子達)」や弟妹を想う兄貴としての信頼感は抜群。十兵衛が持つ度量の大きさは、上川本人の懐の広さが強く反映されているように感じた。

天草四郎を演じる溝端淳平は、フライングや映像と融合させた演技によって魔界のおどろおどろしさ・浮遊感を見事に表現。一方で「神の子」として生きねばならぬ葛藤や、親の顔も知らない若干16歳の孤独、そして多くの仲間を惨殺した幕府への強い怨念など、さまざまな感情を魅せる。

幕府惣目付であり、十兵衛の父でもある柳生宗矩役の松平健。魔性の者を演じながらも、ただならぬ生命力・気迫を感じさせるのは流石の業だ。
特に息子・十兵衛との決闘シーンは圧巻である。2人は鏡なのでは?!と驚くほど呼吸の合った殺陣を披露し、親子の血筋を感じさせた。まばたき厳禁、誰もが思わず息を飲む、本作の大きな見せ場の1つだ。また今回、若手俳優陣の好演ぶりに目を見張らずにはいられない。

舞台『真田十勇士』から続投の村井良大は、十勇士の生き残り・根津甚八(前作と同役)を演じる。前作では頼りない役どころであったが、今作では人情深さと芯の強さを見せ、物語の繋がり・甚八の成長を感じさせてくれた。木村達成は、実直で思いやりのある十兵衛の弟・又十郎を演じ、今までのクールな印象とはまた一味違った新境地を開拓。田宮坊太郎役の玉城裕規は、独特な声質と狂気的な存在感で劇場の空気を一変させる。無慈悲で不気味な笑みを浮かべるのとは反対に、“あのシーン”で一瞬垣間見せた必死の作り笑いが非常に切なく、観客の胸を打った。

他にも松田凌演じる北条主税のコミカルなセリフ回しやまっすぐな眼差し、猪塚健太演じる荒木又右衛門の野生的な叫びと悲哀の表情など、印象的な場面が数多くあった。ベテランの確かな演技力に加え、各々の個性を正面からぶつけてきた若手の熱量が、この作品に勢いと厚みをもたらしたように感じる。本作が、ド派手な演出を用いた豪華絢爛な超大作であることは間違いない。しかし一方で、「演劇として、自分たちの身体を媒体にこの物語を伝えるんだ」という俳優陣の想いを強く感じるのもまた事実である。斬新で大胆な演出と、キャラクターの繊細な人間性にとことん向き合った俳優陣が織り成す舞台『魔界転生』。11/27(火)まで東京・明治座で上演された後、12/9(日)からは大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演される。

超絶エンターテイメントと骨太な人間ドラマを堪能できる本作を、ぜひ劇場で体感して欲しい。

 

取材・文・撮影/ローソンチケット