「ゴジゲン」の目次立樹(メツギリッキ)です。
さて「ゴジゲン目次の ボクには下校のチャイムが聞こえない!」略して「ボクチャイ!」なんですが、なかなか下校できない大人たちに贈る、甘酸っぱくない、むしろ饐(す)えたテイストのコラムです。
今回は「東迎の人生向かい風ッ!!!」ということで、この度ゴジゲンに新しく加入した東迎の昂史郎(ヒガシムカイコウシロウ 通称:トンコツ)の、世間の逆風に耐えながらも逞しく生きる男・東迎の生き様を皆様にご紹介します。
~前回までの流れ~
石垣島に生まれ育ち、ジャッキー・チェンに憧れ上京した東迎は、何を血迷ったかゴジゲンの劇団員になる。
しかし彼が入団して三か月後、ゴジゲンが活動休止!
それから3年の月日が流れた。
「もう舞台の上に立つ日は来ないだろう」、そう思っていた矢先ゴジゲンが活動再開を発表する。
稽古初日、劇団主宰・松居からメンバー全員に指令が下された。
「この活動休止中の3年間、どこで何をしていたのか脚本にして書いてきてくれ」
彼は悩んだ。
他のメンバーと違い、この3年間特別なことは何一つしていなかったからだ。
松居は、映画はもちろんのことミュージックビデオを手掛けるなど華々しく活躍していた。
先輩劇団員の目次は、地元で農業をしながら自然の中で生活していた。
最強さんは、色んな劇団の作品に出演し、俳優としてのキャリアを着実に積んでいた。
後輩の奥村は、ドロップアウトして自分の劇団を立ち上げたらしい。
あまり面識のない堀さん(善雄善雄)は、自分と似た匂いを感じなくもないが、それでも自分よりは何かあるだろうと思った。
彼は悩んだ末に、故郷の沖縄に飛んだ。
そして那覇空港からタクシーを捕まえ、ある場所へと向かった。
「ここが斎場御嶽(せーふぁうたき)か…。」
御嶽とは、沖縄の聖なる空間であり、祈りの場である。
中でも世界遺産にも登録されているこの 斎場御嶽 は、琉球の創生神話にも登場する沖縄の七御嶽のなかでも、最も格が高い聖地とされている。
彼の中に眠る沖縄の血がここまで導いたのかもしれない。
ここはパワースポットなどという言葉では片づけられない、そう…「聖域」。
必ずや困難に打ち勝つための天啓を得ることができる、東迎はそう思った。
そしてかつて空も覆い尽くすほど巨大なハブの大将「ガジュマルもどき」に襲われた時、島の精霊・キジムナーがくれた魔法の調味料「こーれーぐーす」によって命を救われたことを思い出し、気付いたらそこには百万ドルの夜景………
んんんっ!?
なんやかんや言ってるそばから天から謎の声が!?!?
トンコツよ…
「え、誰ですか!?」
私だ…
「え…誰ですか?」
私だ…
「え…誰ですか?」
私だ…
「え…マジで誰ですか?」
私だ…
「しつこいですね。そんな言われてもマジわかんな………もしかしてあなたは!?」
正解だ…
「やはりそうでしたか、失礼をいたしました」
お前は悩みを抱えているな。
「そうなんです。松居さんに3年間何をしていたのかを書いてこいって言われて、でも何も書くことがなくて、しかも「稽古なんてしない、生きるだけだろ」とかわけのわからないことばかり言って何もしないまま稽古が終わるし」
あいつはあとで私がきつく叱っておこう。しかしおまえにも書くべき出来事があったはずだ。
「ないですよ」
あるよ
「ないです」
あるよ
「ないですって」
ある
「ない」
ある
「ない」
ある
「ない」
ある
「しつこいですね。そんな言われてもないものはな………もしかしてあのことですか?」
ああ、あれだ。
「あれかぁ!ありがとうございます!」
東迎はペンを握り、綴った。
たしかに何もない3年間ではあった。
役者を志して島を飛び出したにも関わらず、すべてを失い、千葉の端っこで黙々と肉体労働をしている。
唯一続けてることといえばゴジゲンのブログの更新ぐらいだ。
過ぎていくさえない毎日。
でもあの娘だけは光の粒をわけてくれた。
明日の窓で。
そうなんだ、運命の人が現れたのだ。
その人に注ぎ込まれた。
何もかも。
しかしそこでも風は強く吹きつける。
決して生半可な道のりではなさそうだった。
でも二人なら乗り越えられると思った。
そう、彼が書いた3年間、それは二人の「愛」についてだった。
コンビニでは買えないやつだ。
数日後の稽古の日、メンバーはそれぞれの3年間を脚本にまとめて書いてきた。
そして、みんなが書いてきたものを読んで東迎は拍子抜けをした。
松居は童貞を卒業する話、目次は鹿と遊ぶ話、最強は改名する話、奥村は会社を辞めるまでの話、善雄に至ってはただただおじいちゃんに車を借りて旅行するだけの話だった。
みんながみんなそれなりにしょうもなかった。
そして自分の人生をむやみに卑下するのはやめようと思った。
その後、いわゆる「脚本」というものは出来上がる気配はなかった。
その代わり「ごきげんさマイポレンド」は、僕らメンバーが思い思いに書いてきた六人六様の3年間をまるで友達の家で順番に語り合うというスタイルの作品になった。
東迎の書いてきた愛にまつわる話はトップバッターを務め、概ね好評だった。
というよりも、初っぱなからメンバーの中で一番純朴そうな彼にドロドロの恋愛劇場を見させられて、彼を知る人知らない人全員が面食らった感はある。
すべてのステージを終え、東迎の中にあったものは今まで感じたことのない充足感だった。
自分の人生の光の当たらない日陰の部分でお客様を笑顔にすることができた。
不思議とこれまで自分に吹きつけてきた向かい風もまんざらでもないように思えた。
中学生まで続いたいじめも、ゴジゲンが活動休止したことも、遠のいていったジャッキー・チェンへの夢も…。
振り返ってみると、パラグライダーが向かい風で飛ぶように、すべて自分が高く飛ぶために必要な風だったとも思えるのだった。
早朝、下北沢駅から乗った小田急線は彼を千葉まで運んでいってはくれなかった。
11月の風がホームで待つ東迎を容赦なく襲う。
やっとの思いで乗り換えたJR常磐線の車内、打ち上げで疲れ切った体を全力でシートに預けるが、瞼はまったく重くならない。
家が近づくころになって、ようやく深い眠りに落ちた。
おしまい
最後まで読んでいただきありがとうございました。
そして、ゴジゲン第14回公演「くれなずめ」無事に終幕しました。
公演に関することを書かねばと思いながらも、ついついかわいい後輩、東迎のことを書いてしまいました。
しかし、このコーナーで書いた彼の人生と「くれなずめ」で彼が演じた「ソース」という役はリンクしてて、作中でかつての仲間との距離感や自分のキャラを忘れていたところはまさにこの頃の彼そのものだったりします。
彼の人となりや歩んできた人生を知っていただくことで、もう一度「くれなずめ」を思い返していただけたら嬉しいです。
僕個人が「くれなずめ」で印象に残っていることといえば、松居くんのおじいちゃんのことです。
北九州公演に彼のおじいちゃんおばあちゃんが観に来てくれました。
テレビや映画で活躍する孫の作品をいざ目の当たりにして一体どんな感想が飛び出すのか。終演後、ロビーで待っていた孫に開口一番この一言。
「大ちゃん(松居)だけ、短パンだったね」
え~…ちなみに彼が衣裳で短パンを履いていたのはこの90分の作品で、最初の10分間ぐらい。
残りの80分間……。
このエピソードはほのぼのしてて一番心に残ってます。
どうしてもそれは言っておきたかったんでしょうね。
そういうのも含めてなんだか幸せな公演でした。
来年はゴジゲンの10周年です。
色々と催しもあるみたいです。
今後ともゴジゲンを、ボクチャイ(どうか続けたいです)を、よろしくお願いいたします。
【連載】ゴジゲン目次の ボクには下校のチャイムが聞こえない!
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