2018年1月に上演される、少年社中×東映 舞台プロジェクト『ピカレスク◆セブン』を前に、演出・脚本家の毛利亘宏にロングインタビュー。
ミュージカル『薄桜鬼』、ミュージカル「黒執事」、「Messiah メサイア」シリーズなどの人気舞台作品や、特撮作品でも定評のある毛利。
インタビュー後編では、脚本を担当した特撮作品の裏話を交えつつ、東映とコラボレーションするとなった経緯、そして自身が主宰する劇団・少年社中20周年を迎えての想いを聞いた。
―― 東映でお仕事をされるようになったキッカケは?
毛利「唐橋充(俳優・イラストレーター。『仮面ライダー555』、『侍戦隊シンケンジャー』等に出演)ですね。劇研の後輩にあたるんですよ。それで少年社中の『ネバーランド』に脚本家の小林靖子さんを呼んでくれたんです。それで、靖子さんが絶賛してくださって。「私以外の作品で、こんなに面白いのは初めてです」っておっしゃって頂いてうれしかったです(笑)。そこから、靖子さんがメインライターとして描かれていた『仮面ライダーオーズ/OOO』のサブライターとしてデビューさせていただきました。」
―― 特撮作品の脚本をやりたいとは?
毛利「もちろん思っていました。実はヒーローショーの脚本はやらせていただいていたので、その延長というか、TV本編の方も描かせていただける、ということが嬉しかったです。」
―― ヒーローショーも同じ繋がりで?
毛利「ヒーローショーの方は、東映さんの事業部内に少年社中の作品をずっと観ていた、という方がいてくださったことが縁ですね。」
―― 様々な繋がりが1本になった感じがしますね。デビュー作である『仮面ライダーオーズ/OOO』を振り返ってみて、いかがですか?
毛利「意外と攻め込んだテーマをやらせていただいたんですよね。ファンの方々に印象深い話しになったみたいで良かったです。まさか「キタムランド」が残るとは思わなかったですけれども(笑)。」
―― 33話・34話の登場人物をキッカケに生まれた言葉ですね(笑)。これだけ長い歴史のあるシリーズの中で、爪痕というかインパクトを残したというのはスゴイことだと思います。
毛利「良いデビューをさせていただきましたね(笑)。それから着実に何本かやらせていただき、『仮面ライダー鎧武/ガイム』で虚淵玄さんとご一緒させていただいたのも勉強になりました。その辺りから、自分でいうのもなんですが、ちょっと大変なお話しをやらせていただくようになりまして。『烈車戦隊トッキュウジャーVS仮面ライダー鎧武 春休み合体スペシャル』ですとか、キカイダーとかJリーグとのコラボとか……。」
―― ムチャぶり担当(笑)。
毛利「「Jリーグとのコラボってなんだ!?」と思ったんですけど(笑)。『仮面ライダー4号』の時も「仮面ライダーマッハを殺しちゃったんですけど、生き返らせてください」っていうリクエストがあったりとか(苦笑)。そういう経験を重ねていったので、僕はずっとこういう回のスペシャリストとして生きていくんだと思っていました。」
―― ではメインライターのお話が来た時は……。
毛利「驚きましたね。でもとても有り難いお話でした。企画のお話を聴いた段階でとても面白そうだなと思いましたし。「9人?多くない!?」とはなりましたけど(笑)。日頃は舞台をやっている分、12人くらいを捌いたりキャラを濃くすることはやっていましたから。舞台だと2時間くらいで登場人物を違う人間にしなくてはいけないことを考えると、1年間通して描ける多人数戦隊というのは良いところをいただいたなと。他の脚本家とは違うところを見せられる仕事をいただいたな、ということも思いました。」
―― 劇団を続けてこられたからこそ、ですね。
毛利「そうですね。完全につながっていると思います。」
―― そして舞台でも東映とコラボレーションするとなった経緯をお伺いできますか?
毛利「『仮面ライダー鎧武/ガイム』でファイナルステージの脚本と演出をやらせていただきまして。その時に東映のプロデューサーの中村さんから「少年社中さんと一緒になにかできないですかね?」と。でも冗談だと思っていました。この手の話って、沸いては消えるんですよ(笑)。世の中に溢れかえっていますし、僕も味わっているので(苦笑)。東映さんくらいの大きな会社が、まさか自分の劇団となんて、まぁ、無いだろうと思っていたら、意外と本気だった!それが2016年の少年社中×東映 舞台プロジェクト『パラノイア☆サーカス』ですね。小劇場の劇団ってどうしてもクローズドな世界なので、よっぽど懐の広い人じゃないと一緒に組めないんですよ。これは東映さん、中村さんの懐の広さのおかげで実現したものです。」
―― 一緒に組むことが難しいだろうと思われていた理由は?
毛利「劇団が組む相手方が、そのカラーを尊重してくれるかどうかなんですよね。僕たちの場合は、東映さんが“少年社中っぽさ”を全力で尊重してくれて、そうじゃないものはやらないという前提で進めてくださった。これって他ではあんまり聞かない話なんです。大抵は「俺たちが売ってやるよ」ってスタンスで某社が入ってきて劇団側が崩壊していく。そんな話を片手では収まらないくらいには知っていますから。でも東映さんは、あくまでも一緒に“モノづくり”をしたいというスタンスで向かってきてくれて、モノづくりの方向性を合わせて取り組んでくれている。宣伝面やキャスティング、事業そのものにがっぷり四つで取り組みながらも作品性はあくまで僕たち少年社中に任せてくださるという。もう、IT企業で言うところの“エンジェル”が現れた思いでした。」
―― 少年社中の歴史と、毛利さんの特撮作品で積み上げてきたものがあったからこそのことだと思います。
毛利「奇跡がいくつか重なったのかなと。劇団員の井俣太良が『仮面ライダードライブ』でレギュラーをしていたという偶然も大きいですね。」
―― 偶然だったんですか!?
毛利「『仮面ライダードライブ』のプロデューサーさんが少年社中の作品を観に来てくださっていたというのはあるんですけど、プロジェクトと絡んで決まったとかでは全く無いんですよ。もちろん僕が勧めたということもないです。本当に偶然でした。」
―― それぞれが結び付けた繋がりが結果としてこの舞台プロジェクトになったんですね。
毛利「このプロジェクトのキーマンである唐橋充も両方に出ていますからね。やっぱり20年もやっていると、良縁だけが前に進めてくれるんだなと思います。ひとりでは何も出来なかったというか、タイミング良く人と出会って、それがつながってどんどん大きくなってきたというのが続けられた大きな理由だなと。20年って現状維持だけではムリだったと思うんですよね。規模が大きくなっていくことも必要なことだったと思いますし、大きくならないとできないことも正直ありますし。東映さんと組ませていただくことなくやっていたら、しんどいところもあったと思います。本当に「ココ!」というタイミングで助けてくれる人が現れてきた。」
―― 20年の中で、投げ出したくなった時はありませんでしたか?
毛利「それはもう、何度も何度も。数え切れないくらいほどありました。今でも辛いことは辛い。そういう前提の元のことだと思っているので。でも、終わらないマラソンみたいなものだから、走っていれば意外と周りが落ちていくんですよ(笑)。」
―― スタートの人数こそ集団だけれど、という。
毛利「20歳くらいがスタートだとしたら、才能あるヤツは本当にいっぱいいるんです。でもつまらない理由で辞めていくんですよね。だから足は遅くても、走るのを止めなかったことが今に繋がっている。自分のことは、大して才能は無い方だと思っているんです。特別な「何か」や「売り」があるわけではないと思っていて。でもわりと、人を結び付けたり人に力を借りる能力は高い(笑)。そういう集まりで成り立っていったんだと思います。そして、やめたいと思った時に必ず「やめない」という選択肢を選んでき続けてきたことで今があると思っています。」
―― その選択肢を選び続けられた理由は?
毛利「もしやめる選択肢をしたら、今まで助けてくれた方が悲しむだろうなとか(笑)。苦しいところから逃げたいという今の苦しさの大きさと、やめる苦しさの大きさを天秤にかけて、やめないことを選び続けてきたんだと思います。」
―― とすると、この20周年はゴールではなく。
毛利「そうですね。今回の20周年記念という興行は、おめでたいことだからみんなで祝っておこうという感じです。誕生日は自分のためにあるものではなく、みんなで祝ってこそ…だと思うので。20周年では年を跨いで興行していくのですが、この「ピカレスク◆セブン」からはじまり、2019年のよきところまで、色々やらせていただこうと考えています。」
―― お誕生日会のような。いろんなところでケーキを用意して、いろんな方とお祝いして……という感じですね。
毛利「そうそう(笑)。みんなで楽しめればいいなと思いますし、ひとつひとつの公演を笑って終えたいという気持ちです。」
―― それがまた次からのご縁や活力に繋がっていくと。
毛利「そうですね。良い仕事を続ければ、また何かが生まれるので。」
―― 今後どうなっていきたいという展望はありますか?
毛利「変わらないでいたいというのが大きいですかね。規模が大きくなったとしても、スピリットは変わらないでいたい。ずっと真面目に演劇を作り続けたいと思っています。そのためにはみんなで変わり続けなければならない。毎回新しい試みを入れて、変わらないために変わり続けるというのを大事にしていきたいです。」
―― ありがとうございました!
取材・文/片桐ユウ
【公演概要】
©少年社中・東映
少年社中20周年記念第一弾
少年社中×東映 舞台プロジェクト 「ピカレスク◆セブン」
日程・会場:
2018/1/6(土)~15(月) 東京・サンシャイン劇場
2018/1/20(土)・21(日) 大阪・サンケイホールブリーゼ
2018/1/27(土) 愛知・岡崎市民会館 あおいホール
脚本・演出:毛利亘宏
出演:
井俣太良 大竹えり 岩田有民 堀池直毅 加藤良子 廿浦裕介
長谷川太郎 杉山未央 山川ありそ 内山智絵 竹内尚文 川本裕之
鈴木勝吾 宮崎秋人/椎名鯛造 佃井皆美 相馬圭祐 丸山敦史
唐橋充 松本寛也 細貝圭/大高洋夫