舞台は“劇場”! たった二人で繰り広げる恐怖劇に、舞台では初共演の向井理と勝村政信が挑む!
スーザン・ヒルの同名小説をもとにイギリスで舞台化、あまりの怖さに大評判となったゴシック・ホラー演劇の傑作『ウーマン・イン・ブラック』。1987年の初演以降、12の言語に翻訳され世界40余国で上演を重ね続けている。PARCO劇場ではこれが8度目の上演となる今回は、本家のオリジナル演出家でもあるロビン・ハーフォードと俳優、演出家として活躍するアントニー・イーデンが共同で演出を手がけ、向井理と勝村政信が舞台初顔合わせで挑むこととなった。その向井と勝村に、本格的な稽古を直前に控えた現在の想いや意気込みなどを語ってもらった。
――向井さんはこの作品に初参加となりますが、まず脚本を読まれてみてのご感想はいかがでしたか。
向井 ずっと不穏な空気が漂っているものの、なかなかそれがハッキリとは見えてこないまま、どうオチがくるのかなと思って最後まで行くと、ものすごくゾッとするようなお話で。簡単にネタがバレないように、うまくできているなとも思いました。演じる側としては、大変だな……と思いますけど。どれだけお客さんにその世界観に没頭していただけるかで、面白みの度合いもかなり変わってきそうですよね。
――その作品を、勝村さんは9年前に初体験されたわけですが。
勝村 本当によくできた作品なんですよ。基本的な演出はもちろん決まっていますので、だから今回も僕も含めてみなさんもきっと演出家の魔法にかかってしまうはずです。安心して、怖がってください。
――観客のみなさんにとっては、たとえばどういうところが魅力になりそうだと思われますか。
勝村 物語の展開はもちろんですが、それぞれの役者が何役もやるところや、あとはやっぱり想像力でしょうね。お客さんたち自身も、今回で言えば理ちゃんの役が物語を再現して演じ、僕が説明している場面で自分の想像力を使って一緒に体験している感覚になれたらとても楽しいだろうし、本当にだんだん怖くなっていくので。それがこの作品の一番の魅力ではないでしょうか。ちなみに前回は、せっかく僕がやらせていただくので少し笑いを多めにしようかなと思って取り組みました。だから今回もおそらく怖い怖いと言いながらも、かなり面白い話にもなるはずです。つまり、ただ怖いだけではなくて振り幅が非常に大きい作品だと言えますね。
向井 僕は、まだ台本を読んだだけなので、実際に体験してみないとわからないところもありますけど。台本を読んだ限りでは、やはり体験型の作品になるんじゃないかなと思います。たとえば二人の会話の中でも「この劇場で~」という言葉が出て来ますし、実際に劇場の中で話をしている設定になっているので、僕らからは見えていない存在ではあるけれども、まさにお客さんも同じようにその劇場の客席に座っている出演者のひとりでもあるというような構図になっているんです。だからこそ、余計に没入できる体験型の舞台になるのかなと思いますね。
――向井さんがこの作品のオファーを引き受けた、一番のポイントになった魅力はどんなことでしたか。
向井 それはやっぱり、勝村さんと一緒に芝居ができるってことが一番でしょう。
勝村 えっ、向井さ~ん、真実のコメントをお願いしますよ(笑)。
向井 スミマセン、嘘です……って、いやいや決して嘘ではないんですけど(笑)。だけど、勝村さんとお芝居したことって、これまで一度くらいしかないんですよね。でも最近立て続けに(映像の仕事で)ご一緒できる機会があったりもしたので、縁があるんだなとも思いました。あとは、舞台の仕事自体はコンスタントにやらないといけないと僕は思っていまして。そんな舞台作品の中でも、二人芝居は今まで経験がないですし、これまでやってきたものと比べてもこれはなかなかハードルが高い作品だとも思いましたし。せっかくやるからには、簡単だったなとか単に楽しかったなというものよりは、なにかしら挑戦しがいのあるものをやりたいと常々思っているので。個人的に、初めて挑戦する壁になる作品になりそうだと思って、とてもやりがいを感じています。
――勝村さんは、向井さんがこの作品に参加すると聞いた時はどう思われましたか。
勝村 ビックリしたし、なんだか少し意外な気がしました。
――どうして意外だと?
勝村 理ちゃんと舞台って、僕の中ではあまり結びついていなかったんです。だけど、よくよく聞いてみるとこれまでに結構な数、舞台に立たれていたのでまたビックリして。本当にスミマセン!(笑) そう、だからこの僕の驚きは間違っていたんです。
――ちなみに、お二人が共演した映像作品というのは……
向井 ドラマでは『リーガルⅤ~元弁護士・小鳥遊翔子~』(2018年)という作品で、そのほかにバラエティ番組でも何度かご一緒していますよね。騙されてサッカーをやらされたり、なぜかしいたけを食べさせられたり。
勝村 ああ、あったあった(笑)。
――それぞれの役どころについても伺いたいのですが、現時点ではどういう人物として捉えていらっしゃいますか。
向井 僕は、劇中でキップスを演じてはいますけど、一応パーソナリティとしては俳優であって。冒頭では、お芝居を教える側と教わる側の関係性がわかりやすくなっているので、そこの関係性からまずは作っていこうかなと思っているところです。そういう意味では、年下だけど教える側なのでわりと上からものを言うし、生意気だったりプライドが高かったりする面があるように思っています。だから、ちょっとイラっとさせるような役でも最初はいいのかな、と思っていて。そのあとでキップスを演じることで誠実な面を出したりもするので、さまざまなキャラクターが見えてくる人でもあります。だから、あまりこういう人だと固めずに、演じてみようかと今は思っています。
勝村 僕は、過去に本当に怖ろしい思いをして傷つき、いまだにそれがトラウマになっている人で。それをどうにか払拭したいと自分なりに考えて、もう一度同じ体験をすることで葬り去ろうとしている。この想いを葬って、自分の中からなくなってくれればと願っている人だから、とにかく向井くんに縋る思いで頼み込んでいる人、という感じでしょうか。
――前回の経験を振り返っていただくと、どんな稽古場でしたか。もし今回、変えたい部分や、逆にここは変えたくないと思うところなどがあれば。
勝村 演出のロビン・ハーフォードさんというのが、この作品をこれまで何パターンもいろんな方たちとやってきているオリジナルの舞台の演出家だったんです。それで、前回は僕と岡田将生くんという顔合わせだったんですが「とにかくこの二人で演じていただければ、それが今回のキップスと役者になりますから」と言ってくださって。さらに「芝居の性質上、決め事はどうしてもありますけど、それ以外はもう自由にやってください」ともおっしゃっていましたね。あの時に一度経験して、いまだに自分の中で残っているものもありますから、そこに近いものになっていくとは思いますが、でも今回は向井くんとのコラボになるわけですから。そこから何か新しいものが生まれたら、それはもう今回の舞台でしかできないことだし、たぶんそれこそが一緒に舞台をやる楽しみにもなるんじゃないかと思いますね。
――先ほど、勝村さんのキップスは笑いを多めに入れたとおっしゃっていましたが、それも勝村さんならではの味だとすると、演出家の意図でもあるということですか。
勝村 そうですね、だってとても楽しんでくれていましたから(笑)。あまり、指示をたくさん出して演出する方ではないんですが、いつの間にかそうなっていくという感覚でした。ロビンはとてもジェントルマンで優しくて、笑顔を絶やさない方なんですよ。
――向井さんはキップスを演じる場面では、勝村さんのパーソナリティを意識しながら演じることになったりもするのでしょうか。
向井 現時点では、まだ何も決めていません。稽古をやっていく中で勝村さんのお芝居を拝見させていただいて、何か見えてくるものもあると思いますしね。今、決めるというよりは、1ヶ月ほど時間をかけて稽古を重ねていきますから、そこから自然と出てくるものもあるのではないかと思っています。僕としては最終的に怖い思いをする役ではありますけど、そうなるまではわからずに普通に生活をしているキップスじゃないですか。だからその怖ろしい体験をするまでは、何も考えていないというか、ただ弁護士として日々の仕事をしていくキップスを演じるだけですから、今のところはそれほど作為的に演じようとは思っていないです。
――では最後に、今作を楽しみにされているお客様に向けてメッセージを一言ずついただけますか。
勝村 向井くんとこうして舞台でしっかり共演させていただくというのは、今回が初めてなので。自分でもどうなるかは想像できていませんが、この二人が作り上げる雰囲気みたいなものが今から自分でも楽しみですし、お客様にも楽しんでいただけたらいいなと思っております。
向井 正直に言うと、今の段階では膨大なセリフ量に、オファーを受けたことを少々後悔してはいますけど(笑)。だけど稽古でそれらのセリフが馴染んできたら、きっとすごく楽しめる作品になると思うんです。たぶん勝村さんもそうでしょうけど、僕もやっぱりお客様を楽しませたいという気持ちが強めの人間なんですね。その、楽しませるというのは驚かせるということもそうですし、笑わせるというのもそうですし。すべてを含めたエンターテインメントとして楽しんでいただくためにはどうしようかというアイデアも、これからの稽古でたくさん出てくるでしょうし。ですから、みなさんは身を委ねて客席に座っていていただければ、あまりこれまで観たことがない世界を体験していただけるのではないかと思っています。
インタビュー&文/田中里津子