鞘師里保がらんぼうものの少年役に!?加藤拓也初参加のキッズ・プログラム始動!
KAAT神奈川芸術劇場が2011年から続けている夏の恒例企画、“こどももおとなも楽しめる”KAATキッズ・プログラム。2024年は“劇団た組”主宰で、演劇だけでなく映像作品でも監督・脚本を手がけるなどジャンルを越え幅広く活躍中の加藤拓也が初参加し、書き下ろし新作を自ら演出する『らんぼうものめ』を上演する。都会から田舎に引っ越してきた“らんぼうもの”の少年が、たくさんの神さまたちと出会い、ちょっと怖くて不思議な冒険に出かけるというこの物語、主人公の薫平を演じるのは鞘師里保だ。近年は歌手活動のほか、テレビドラマで主演を務めるなど俳優活動も顕著な鞘師。この舞台で加藤作品に初挑戦すること、それも少年を演じるというのは大いに注目を集めそうだ。キャストはほかに、安藤聖、金子岳憲、近藤隼、秋元龍太朗、中山求一郎、高田静流といった個性派が顔を揃える。本格的な稽古開始にはまだ少し間がある5月初旬、加藤と鞘師に作品への想いを語ってもらった。
――KAATのキッズ・プログラムには初参加となりますが、加藤さんはオファーが来た時、まずどう思われましたか
加藤 子どもに向けた作品を作るということを考えたこともなく、いつも作っている作品も特定の年齢層だけに向けている意識もしたことはないのですが、でもそういった機会をいただいたことでいつもとはまた違うことを意識して作れるんじゃないかと思い、「やらせてください」と言いました。
――そこから新作を考えるにあたり、こういう物語にしようと思われたきっかけというと?
加藤 今回はいつものように戯曲を考えるわけではなく、設定、展開のスピード、セリフは子どもを意識しています。かといって子どもが相手だから「大人の考える子ども向け」みたいなことを意識して作るとそっぽを向かれるという気持ちがありました。偶然にも、フランスに行っていた期間に現地の子ども向けのプロジェクトを拝見する機会があり、ある種のグロテスクさを兼ね備えた作品でしたが、子ども達の反応は自分の思ったことと大きく違っていて、わかりきってはいたものの、子どもの許容範囲を大人が勝手に判断するべきではないなと改めて思いました。矛盾するようですが、勿論子どもに見てもらう上での配慮はしたうえでのことです。設定だけの話をするとファンタジーです。
――主人公の少年役で、鞘師さんをキャスティングした狙いとは
加藤 10代の女性が80代のおじいちゃんを演じられたり、80代のおばあちゃんが10代の少年を演じられたりする、演劇にあるひとつの側面を利用しようと思いました。物語の設定上、乱暴に関するシーンが出てくるので、そこにフィクション性を加えることで子ども達を保護する観点でもあります。まだあまり演劇に触れる機会が多くないと思いますから、まずはその側面だったり、非日常性を体験してもらうのもいいのではないかなというため、主人公の少年のキャスティングもそのようにしています。
――鞘師さんは、この企画のお話が来て、まずどう思われたんでしょうか
鞘師 私、加藤さんと直接お話をさせていただく機会はこれまでほとんどなかったのですが、ここ数年、作品は拝見しておりまして。ですから、観る立場としてはずっと関わってきたつもりだったんですが、今回は初めて演じる立場としてお声がけいただけたことに驚きました。
――加藤さんは、鞘師さんが観に来られていることはご存知だったんですか?
加藤 劇場で挨拶したことありましたね。
鞘師 はい、少しの時間だけでしたけど。
――鞘師さんは、ご自分が少年役、しかもらんぼうもののキャラクターを演じることに関してはどう思われましたか
鞘師 正直、「今回、自分はどうすべきなんだろう?」と、今も思っています(笑)。ただ、脚本を読ませていただいて自分の中で「こういうことを伝えられるといいな」と思ったり、心に残る言葉もたくさんありましたので、それを実際に作品として形にするにあたってちゃんと私が8歳の役を演じられるのか、20代の女性としてできることというのはどういうことかを相談させていただきながらこの役を全うしたい、と考えています。今のところは、まだ「どうなるんだろう?」と、未知の世界にいるような気持ちです。
――鞘師さんがこのオファーをお引き受けするにあたっての、一番魅力に感じたポイントはどういうところでしたか
鞘師 率直に言ってしまうと、加藤さんの作品だと聞いた時点ですぐにOKしていました(笑)。瞬発的な感情ではそういうことになるんですけど、でも私自身も演劇に触れる機会って子どもの頃にはほとんどなくて。いまだにちょっと敷居が高く感じることもあるし、芸術を理解する視点がなければ観に行く資格がないのかもしれない、なんて思った経験もあったりするので。今回はキッズ・プログラムという企画ですから、せっかくなら観に来てくれたお子さんが、演劇はこういう面白い体験ができるんだとか、他の遊びともまた違う楽しさがあることを見つけてほしいし、その素敵な機会を一緒に盛り上げたいなと思ったという気持ちもありました。
――カンパニーの全体的な顔ぶれについては、どういう座組になりそうだなと思われていますか
加藤 何度も仕事をしている俳優とスタッフが集まってくれていますから、その上であえて意識をしていつもとちょっと違うことがやれたら、ということもありますけど、でもやっぱりとにかく楽しくできればいいかな、と思います。
――鞘師さんは、今回の共演者の顔ぶれについてはいかがですか
鞘師 みなさん、初めてご一緒する方ばかりです。でも、それこそいつも加藤さんの舞台で拝見している方々だったりするので、その点からも一緒にお芝居できることが楽しみだなと思っています。
――では最後に、お客さまに向けてお誘いのメッセージをいただけますか
加藤 子どもと大人、一緒になって楽しんでもらえるように、ちょっと怖いけど楽しかったと思える演劇になるように準備しています。ぜひ遊びにきてください。
鞘師 今回は、KAATのほかにも福島や長野をまわらせていただくことになっています。夏休みですし、内容としても、この物語を直接体験して帰ってもらえるような感じになっていると思いますので、ぜひ劇場まで気軽に遊びに来ていただけたら嬉しいです。
インタビュー・文/田中里津子