不条理から爆笑を引き寄せる、新鋭劇団の最新作
岸田戯曲賞最終候補に選ばれた劇団の新作公演!
昨年9月に上演された『地上の骨』の戯曲が第68回岸田國士戯曲賞の最終候補作品に選ばれ、松尾スズキや城山羊の会・山内ケンジなどの目の肥えた演劇人からも注目を集める演劇団体「劇団アンパサンド」。新感覚で笑えるコント的会話劇とパニックムービー的不条理展開からなるアンパサンド・ショーを一度目撃すれば、きっと誰もが心酔してしまう。
「笑いに関して言うと、旗揚げ当初は最初から最後までしんとしたまま終わることも多かったので、今はお客さんが一緒に盛り上げようとして笑ってくれている部分もあると思います。お笑いの要素を入れようと思ってセリフを書いてるわけではないので、笑わなくてもいいですし。こう言うとちょっと偉そうですね…(笑)」
アンパサンドの演劇は誇張ではなく10秒に一度は大爆笑に包まれるので、この回答は意外だ。ただ、狙ったお笑いではないからこそ、安藤奎の素の(ちょっと変わった)言葉選びが観客に刺さってしまうのかもしれない。笑ってもらえる感覚は病みつきにならないのだろうか。
「あんまり自分が笑いに特化した人間ではないので、お客さんの反応に合わせて作品の内容を変えようとは思わないですね。でも、笑ってもらえるのは嬉しいです」
そんなアンパサンドが、8月に新宿シアタートップスで初めて公演を打つ。
「自分は本当にビビりなので、まずトップスに人が入るのかなって不安で。30人とかのキャパだったら自分の友だちとか知り合いの範囲で計算できるんですけど、友だち以外のところから来てくれるのかっていう恐怖とずっと戦っています」
アンパサンドならば、赤の他人である観客が途切れずやってくるだろう。新作『歩かなくても棒に当たる』のあらすじには短くこう書かれている。〈暑すぎる毎日への苛立ちから扇風機に指を突っ込み指が飛ばされるという妄想をしているところに、東京からやってきた女が突然妄想に入り込み、一緒に指を飛ばし始める…〉。過去には人を喰うドアの話や喉に魚の骨がつっかえて魚化してしまう人たちの話が描かれたこともあったが、今回も発想からしてとんでもない。
「舞台上でドアが閉まったら面白いかもなとか、人が魚に進化したら面白いなとか、そんなことをいつも考えてます。今回はまだ脚本を書く前にこのあらすじを書いたので、もしかしたら変わってしまうかもしれませんが…(苦笑)。詐欺にならない程度でこの要素を入れるとは思うんですけど」
なんとも自由。いやはや、今回は川上友里や鄭亜美といった客演の豪華さにも注目だ。
「まさにオールスターというか、“破壊力のある女性”ばかりで構成されていまして。芝居の強弱でいう“強”の方もいれば、“弱”の方向で破壊力のある方もいる。どちらにしても、存在感があり、一瞬で場の空気を壊す要素がある俳優さんはすごく魅力的だなと思います。ぜひ見てほしいです」
初めてアンパサンドに足を運ぶ人にはどういう点がおすすめだろうか。
「短いから見やすいっていうのはありますね。つまんないなーと思っても、1時間くらい我慢すれば外に出られます!」
最後まで安藤らしい回答。1時間強の公演時間でも、観終わったあとの充足感は何ものにも代え難いはずだ。
インタビュー&文/原航平
Photo/江森康之
※構成/月刊ローチケ編集部 6月15日号より転載
※写真は誌面と異なります
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
安藤奎
■アンドウ ケイ
劇作家、演出家、俳優。’16年「劇団アンパサンド」を旗揚げ。舞台のみならずドラマなどの脚本も手掛ける。