ウーピー・ゴールドバーグ主演のコメディ映画『天使にラブ・ソングを…(原題:Sister Act)』を原作に、ウーピー・ゴールドバーグ自身がプロデュースしたブロードウェイ・ミュージカル『天使にラブ・ソングを…(シスター・アクト)』。2009年の初演は大ヒットとなり、翌年にはローレンス・オリヴィエ賞4部門にノミネート。世界7言語で上演され、600万人を超える観客を動員している。
日本においても2015年の初来日公演、2017年の再来日公演が大成功を収めた。2024年、7年ぶりの来日公演では、新演出と新たな舞台美術でさらなる進化を遂げた『天使にラブ・ソングを…(シスター・アクト)』が上演される。
日本版公演で2014年から主演・デロリスを演じ続けてきた森公美子に、作品の魅力やBW版との違いを聞いた。
――まずは日本版との違い、来日公演の魅力を教えてください。
私は日本版を2014年からずっとやらせていただいています。最初はわからないことも多かったけど、練習していく中で「これは化けるな」と確信しました。というのも、お稽古中にカーティス役の吉原光夫さんやシスター役のみんなが泣いていたりしたんです。
日本公演を演じた私たちにとっては、シスターという人たちが遠かった。そこで、修道院にお邪魔してシスターの生活について学びました。作中で食事の後に踊るシーンがあり、テーブルに座る演出に対して、初演の時は修道院の皆さんから「シスターはそんなことしない、机にお尻をつけない!」と猛反対を受けました。私がLAで見たナショナルツアーではかなり楽しんでお片付けしているような印象があった。「でも机には座っていなかったでしょう?」と言われて、演出を変更したんです。
LAで見た公演では、後半、神父がお金儲けのために色っぽくなるのが面白かった。そこで会場も沸いていましたね。あと、最初のコーラスがとにかく下手だった(笑)。好きな音で歌っていて曲になっていなかったのを日本公演では引き継いでいましたが、今回の公演映像を拝見したらかなりお上手でした。ちょっと洗練されたシスターたちになっているのかな。
また、シスター・メアリー・ロバートが本国の方ではないですし、以前は人種問題の話だったけど、時代に合わせていろいろな国の方が登場している。肌の色や人種に関係なく、その人間の性格による衝突、反発が提示されているんです。行儀の悪さとか言葉を知らない部分が見えるような感じ。時代に寄り添ってお芝居も変わってきていると感じます。私たちも再々演までは見た目も違っていましたが、今はそうじゃなくなっている。「デロリスの本質はそこじゃない」と提示されたような気がしました。
――見ている側からするととにかくパワフルでハッピーな作品ですが、演じる上では大変な部分も多いと思います。
(日本版は)ラインダンスなどもありますし、「サンデイ・モーニング・フィーヴァー」なんかは、私と春風(ひとみ)さんは「もう無理」と言いながらやっていました(笑)。
――同じ役を演じている森さんから、ここは見逃さないでほしいというポイントがあったら教えてください。
映画や日本版の『シスター・アクト』を見た人ならみんな行ってほしいくらい、作品本来の良さが詰まっています。日本版は音楽とストーリーを使って日本のスタッフで作り上げたものです。そういう意味では、初めて本物の『シスター・アクト』に触れるチャンス。本物に触れてから、いつかやるかもしれない日本版にも触れていただきたいと思います。よりわかりやすく、何の違和感もなく入り込めると思う。
そして、今回はなんといってもステージのセットが豪華。警察の場面では1つの部屋を持ってきますから。それがなくなるとギャングの部屋がきて、エディの部屋も警察署も立派でびっくりしました。教会で上の方に1つ窓があるんだけど、その下に院長室があり、そこで院長が「デロリスだけは許せない」と歌います。そういった部分もブラッシュアップされて、より大きな劇場用になっているなと。シアターオーブやオリックス劇場といった大きな劇場じゃないと上演できない作りになっています。シスターがよく踊るし、衣裳が素敵。着替えも多いですよね。
――デロリスを演じて学んだことはありますか?
デロリスもそうだし、修道院長や周りの修道女も変わっていくんです。彼女たちの気持ちの変化に伴って世界も広がっていく。それがこの物語の根幹にある。今までの自分から何か脱ぎ捨てたり、目指すものがあったり。その素敵さをより感じてほしいなと思っています。デロリスもそうだけど、修道院長も神父様もエディもステップアップしていく。神様が本当にいるのかもという気持ちにさせてくれます。
私たちは修道院に行って讃美歌の意味を聞きましたが、その修道院は35歳までじゃないと入れない。35歳までに規律を立てないといけないんです。修道女の方々のエネルギーは素晴らしいなと思うんですよね。「レイズ・ユア・ヴォイス」という歌があるんですが、ボイストレーニングの中で一人ひとりが変わっていく。一幕の最後になると歌声がガッとくる。初めから上手じゃないところがすごく素敵。心の成長を見るストーリーだと思っています。
本作は、2024年7月3日(水)~21日(日)まで東京・東急シアターオーブ、7月24日(水)~28日(日)まで大阪・オリックス劇場で上演される。
取材・文:吉田沙奈
撮影:源賀津己