写真提供:東宝演劇部
朝夏まなと主演のブロードウェイミュージカル『モダン・ミリー』が7月10日に開幕する。
1920年代のニューヨークを舞台に、「大切なのはロマンスよりも理性!」がモットーの主人公ミリーが自らの足で人生を踏み出す姿を描く本作は、1967年公開の同名ミュージカル映画を原作に、映画とは楽曲をほぼ一新し製作されたブロードウェイミュージカル。日本では2020年に上演予定であったが新型コロナウィルスの影響で中止となり、2年後の2022年に上演され大好評を博した。演出・翻訳は2022年同様、小林香が手がける。
モダンガールに憧れて田舎町から出てきたミリーを続投で演じる朝夏まなと、ミリーに惹かれていくジミーを今回から演じる田代万里生、ミリーが就職した会社の社長グレイドンを続投で演じる廣瀬友祐に話を聞いた。
これほどのハッピーエンドはない
――ミュージカル『モダン・ミリー』は、2020年の公演中止を経て2022年に上演され、今回再びの上演となりますが、続投組の朝夏さんと廣瀬さんは前回公演を振り返ってどんな作品だと思われますか?
廣瀬 2020年にやる予定だった公演がコロナで中止になって、2022年にキャストもほとんど変わらずに上演して最後までやり切れたということで、とても記憶にも残っています。この作品自体が、演出家の(小林)香さんもおっしゃっていたことですが、とってもハッピーな明るいミュージカルで、コロナ禍においても日常が前向きになれるようなパワーを持っていたなと思いますし、僕自身もコロナ禍において救われた日々だったという印象が強いです。まぁちゃん(朝夏)を筆頭にしたこの明るいハッピーなエネルギーが、周りを幸せにしていたんじゃないかなと思っています。
朝夏 私自身は必死、がむしゃらという感じだったのですが、幕が開いて、「あ、こんなに笑ってくださるのね」と思ったのが一番印象的です。千穐楽に向けてお客様も増えていったし、愛される作品だったなと思います。だからまさか再演できるとは、っていう。私たちは集大成としてやっていたので。でもこの運びになったのも嬉しいことです。
――公式サイトでも、朝夏さんも廣瀬さんも「まさか再演されるとは」とコメントされていましたね。
廣瀬 再演するとは思っていませんでしたね。
朝夏 2022年の公演は、2020年にできなかったから上演したというような流れだったと思いますし。
廣瀬 だから正直、個人的には2022年のリベンジ公演でやり切った感みたいなものもあったんです。だけどお客様の反応も嬉しいことに良くて、こうやって再演できるというのは幸せなことだなと思います。
――やり切ったと思ってもまたやりたいと思える魅力があったのでしょうか。
廣瀬 はい。とにかくこんなハッピーエンドはないんですよね。僕自身、もとはどちらかというと暗いものや、重い、深いものが好みだったりするのですが、明るいものはやっぱり人を幸せにできるんだ、笑うって大切なんだ、ということに気付かせてくれた作品でもあるので。嬉しいです。
朝夏 再演すると前回気付かなかったことに気付くということが絶対にあるので、それはちょっと楽しみだなと思っています。今回キャストも半数くらい変わっているので、絶対に同じものにはならないですし、それこそまりまり(田代)がすでに新しい風を吹かせてくださっているので。
田代 (朝夏とは)コンサートではご一緒しているけど、ミュージカルでは初共演なんですよ。
朝夏 なのでめっちゃ楽しいです。こんなふうに前回と違う感覚でいられる作品に巡り合えたのも楽しいことだなと思っています。
――田代さんは新キャストとして参加されますが、今はどんな楽しみがありますか?
田代 先日、本読み(読み合わせ)の時に演出の小林香さんが、前回この作品を上演した時は日本の演劇界も世界的にもコロナで沈んでいる時期だったから、とにかくお客さんに笑ってもらうことをどん欲に志してたとおっしゃっていました。実際、僕も前回の舞台映像を拝見して、みんなの意地を感じました。お客さんを笑わせる!っていう。作品としては笑わせることが目的ではないんだけど、あの時期に演劇を観ることとは、みたいな部分での意地を感じたんです。劇場でもお客様から信じられないくらいドカンドカン笑いがあったと聞いて、みんなが辛いと思っていた時期の光のような存在の作品だったんだなと思いました。今は当時とは社会情勢も違いますが、僕にとってこんな底抜けに明るい作品は久しぶりなんです。近年はキャラの濃い役柄が多かったので、ジミーのような役は2013年の『エニシング・ゴーズ』で演じたビリー以来なんじゃないかと思います。
廣瀬 暗い役のほうが多いですか?
田代 最近はそうでもないけどね。自分はクラシカルな歌唱ルーツ(オペラ)からきているから、最初の頃はどうしてもクラシカルな作品に出演することが多くて、そうなると比較的シリアスな役が多かった。その中で唯一違ったのが『エニシング・ゴーズ』だったので、あれからシリアスな役やキャラの濃い役も含め、いろんな役を経て、今こういう役を演じることは、チャレンジもしているし立ち戻っている感覚もあります。年齢設定に関しても、ジミーは20代で僕より若いんです。僕は40歳になりましたが、30歳をこえてからは背伸びをするというか、がんばって辿り着くような役が多かったけれども、だんだん逆行する役も出てきました。もちろん背伸びしなきゃいけない役もまだたくさんありますけどね。でも久しぶりにフレッシュな生き生きとした役柄なので。そこはドキドキしています。
脚本も変化しまた新しい『モダン・ミリー』に
――今回は、前回に続き一路真輝さんが演じられるミセス・ミアーズの設定が少し変わって、悪だくみの内容も変化しているそうですね。
廣瀬 はい、なので前回とは違う流れだったり台詞になっています。前回と変えていったほうがいいものと、変わらないでブラッシュアップしていく部分に、稽古の中で挑戦していきたいです。
朝夏 グレイドンはもう既にパワーアップしてますよ。
廣瀬 うそでしょう?(笑)
田代 前回と今回、なにが違う?
朝夏 より染み込んでる、グレイドンが。
廣瀬 稽古でいったら3回目(2020、2022、2024)だもんね。
朝夏 先日稽古でミリーとグレイドンが初めて会うシーンをやったんですけど、笑いをこらえて台詞が言えないっていうことがあった(笑)。ちょっと気をつけないと。
田代 (廣瀬は芝居を)毎回かえるしね。
朝夏 まりまりも本読みで笑いが起きてたよ。
田代 そんなところありましたっけ(笑)。
――笑いが起きていたことに気付いていなかったんですか?
田代 気付いてなかったです(笑)。もう必死すぎて。この作品は展開が早いし、ポンポンポンポンキャッチボールをするから、けっこういっぱいいっぱいです。
朝夏 そうは見えない!
田代 僕はジミーがチャーミングじゃないと成立しない作品だと思っているので、とにかくキュートでチャーミングでありたいなって。
朝夏 それはもう駄々洩れてます!
廣瀬 「キュートでチャーミング」は万里生くんの代名詞ですよ!
――朝夏さんは今回のミリーをどうしたいと考えていらっしゃいますか?
朝夏 今回は、前回よりさらに時代背景とかこの時代の女性の立場とか、そういうものにも重きを置いていきたいなと思っています。ミリーが田舎から出てきて、ニューヨークでいろんな困難に立ち向かっていくという最初のナンバーからちょっと歌い方も変えて、もっとガッツを持って、よりエネルギッシュにやっていくという方向で今、香さんとつくっています。だからより芝居重視になっている感じはあって、それは一回やったからこそそこにいけているのかなと思います。ミリーの設定年齢も2歳上がりましたしね。
田代 上がって22歳なんだ!
朝夏 そうだよ。だからあんまりめっちゃ若いって意識しなくていいよと演出家に言われましたし、ありのままでいこうと思います。
それぞれが感じるお互いの魅力とは
――田代さんと廣瀬さんから見た、朝夏さんのミリーの魅力を教えてください。
田代 ミリーとしてすごく前のめりなキラキラ感が魅力です。もともと大きいおめめがさらに輝いてこっちを見つめてくるので、なんか……自分の目ってすごくちっちゃいなって。
一同 (大笑い)
朝夏 かわいい目をしてるじゃないですか!
田代 (笑)。こんなキラキラしてる人がいるんだ!って思います。誰とでもコミュニケーションを明るくまんべんなく取って、とても自然にみんなを幸せにしているので、ミリーにぴったりだなと思っています。
廣瀬 まぁちゃんとは前回の『モダン・ミリー』の後、『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』でもご一緒させていただいて、もちろん明るい印象はあるんですけど、ちゃんと弱さがある強さを持っている方で、とっても魅力的だなと思います。まぁちゃんの強さというものにみんながついて行っている感じはどの作品でも感じます。
――朝夏さんから見た田代さんと廣瀬さんの役としての魅力をお聞かせください。
朝夏 まりまりは想像以上にぴったりなジミーでした。本読みした段階でもそうですし、前半の遊び人……
田代 台本を読むとちゃんと書いてあった、「遊び人風」って(笑)。
朝夏 そう、そのはずしが絶妙で。後半の(変化したジミーの)説得力はもう、すごいじゃないですか。
廣瀬 ふふふ!
朝夏 もともと持ってらっしゃる品の良さが役から溢れていて、最初ミリーはジミーにわりと冷たくあしらわれるんですけど、そこにもやっぱり根底のジミーのやさしさとかが垣間見えるんですよね。そういうところがすごく魅力的だなと思っています。
田代 ありがとうございます。
朝夏 廣瀬さんは前回にも増して……身体のしなりがすごい(笑)。
田代・廣瀬 あはは!
田代 キレもいいしね。
朝夏 そう、キレとしなりが(笑)。前半にミリーがグレイドンに対して、「私、これだけできるんです」とアピールするようなシーンがあるんですけど、そこでもうこの人のおかしみとメリハリのすごさが……でもやっぱ黙って立っていたらハンサムだからね。
廣瀬 台詞がね。
朝夏 台詞がじゃない。ハンサムだから。爆発力で溢れています。
田代 声もバリトンの太めの高い声だから、目立つんですよね。
朝夏 どこから出てくるんだろう、みたいな。
田代 一声で存在感が出るからね。
朝夏 レンジ(音域)もすごいよね。
田代 バリトンの声の時と抜いた時の緩急が。
朝夏 そう。高い声で笑かされるっていう。ほんとに油断できない相手です。前回、この役で第30回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞してますからね。
田代 そうそう。
朝夏 ご期待ください。って私が言ってるけど(笑)。
――しなりとかキレの良さみたいなのはご自身の中で増しているんですか?
廣瀬 ……いゃうん。
田代 (笑)。染みついてるんだよ、役が。本読みから迷いがない。
朝夏 なのに同じことを2回しないから。
――2回しないってすごいです。
廣瀬 でも稽古場ではみなさんそうですよ。稽古で試していって「ノー」と言われることは本番やらないというだけです。
――田代さんから廣瀬さんの印象もうかがえたので、廣瀬さんから田代さんの印象もうかがいたいです。
田代 でも今「染みついてる」とか言ったけど、本読みの時に隣に座っていて、グレイドンがおもしろいことをドーンとやった後、ふと見たら耳が真っ赤だったので。
朝夏・廣瀬 (笑)
田代 染みついてるけどすげーがんばってるんだな、一緒だなって思いました(笑)。なのに前から見るとめっちゃかっこいい。そのギャップもかわいい……と言うのもなんですけど。でも攻めてる姿勢が耳に出てます!
廣瀬 田代さんの魅力……「田代さん」って馴染まないな。
田代 呼ばれたことない(笑)。
廣瀬 (しばらく考えて)この表現しかできないのがあれですけど、とにかくやさしい印象が最初からあります。万里生くんしか生み出せない、纏えない空気感がある。僕は役者として個性がある人が好きなのですが、そういう部分がちゃんと万里生くんの個性になって、板の上でも普段でも周りを温かくしてくれます。あと、目が好きです。
田代 ふふふ。
朝夏 そう、さっき私に「キラキラしてる」って言ってくださったけど、まりまりは目がきゅるきゅるしてる。
廣瀬 それわかる。万里生くんとは『エリザベート』や『グレート・ギャツビー』で共演もしているのですが、『エニシング・ゴーズ』とか『スリル・ミー』みたいな、共演はしていなくても同じ作品に出演することも多くて。過去に万里生くんが出演した作品に僕が出る時にはすぐに情報を送ってくれたりするんです。そういうことも含めてやさしいなと思います。人に対してそういうことするってとてもエネルギーを使うことだから、それができるという時点でも、僕はもうただただ尊敬します。
――新たな『モダン・ミリー』、楽しみにしています。
朝夏 香さんも「再演じゃない」って何回もおっしゃっているので。初演のような勢いも感じられるものになっていると思います!
取材・文:中川實穂