主宰・喰始が率いるワハハ本舗が今年40周年を迎えるにあたり、9月から12月にかけて全国ツアーを敢行! 「WAHAHA本舗40歳記念全体公演 シン・シンワハハ」を全国各地で上演する。大きな節目となるアニバーサリー公演を前に、どのような心境でいるのか。主宰の喰始、座長の大久保ノブオ、創立メンバーの一人である久本雅美の3人に、意気込みなど話を聞いた。
――ワハハ本舗40周年を記念する全体公演が開催されることになりました! みなさんはどんな公演にしたいと考えていらっしゃいますか。
喰 いろんなことがあって、ここ何年かはお客さんと一緒になってやるようなものはできない部分がいっぱいありました。それで、欲求不満だったんですけど、やっと解消されそうなので、きっと役者も今まで以上に客席に降りていくし、お客さんを客席から引っ張りあげたりもするし、みんなが一緒になってやるという部分を多くしたいですね。やっぱりワハハ本舗の公演に来たらストレス発散していただきたいですし、僕らも発散したいですから(笑)
大久保 ワハハ本舗の全体公演というものは、喰さんの思い描いたものを形にしていきます。一応、僕は座長をやらせていただいているんですけども、僕の役目というのは、今回初めて参加するような年下や若手の子たちを、閉じ込めないようにすることだと思っています。若い子はきっとドキドキしていると思うんですよ。ワハハ本舗は、ワーッとどんどん自分を開いていくことができる場だと思うので、後輩たちが開放できるような役割を自分がやっていきたいですね。
久本 創立メンバーも60代半ばになりました。40周年を迎えて、改めてお客さまに感謝しています。そして、またここから体の動く限り、頭の続く限りやりますよ!という腹に込めた魂のようなものを、みなさんに感じてもらいたい。そしたらきっと明日への、次への活力になって、元気になってもらえるんじゃないかな。この年になっても、くだらないことがほとんどですけど(笑)、お客さまが喜んでくださるし、お客さまに「そんなことまでやってくれるの?」って言っていただけるようなことを私はできたらいいな。
喰 今までだとキモとなる演目が20くらいあって、実はその半分くらいに久本は出てるんですよ。全編じゃないけど、ちょっと出るみたいなのが。今回はそれをもっともっと増やすつもりです。
久本 そんな感じで、今回は何カ所かでチョコチョコと出させてもらえるみたいなので、まだちゃんとしたアイデアは無いんだけど、その度に毎回違うキャラでやっていくのは面白いんじゃないかなと考えています。フレディ・マーキュリーみたいなことをやってみたり、ちょっと乙女チックなことをしたり、ラップなんかもやったり? そういう感じでどんどん笑いを取っていきたいと思うので、いろんな私を見ていただけると嬉しいです。
――ここ何回かの全体公演では「ラスト」を冠したものが多かったですが、ここにきて「やり続ける」覚悟のようなものも伝わってくる気がします。
久本 なぜ「ラスト」だったかと言うと、本当にいつ死ぬか分からないじゃないですか。後やり残していることって何だろう?って考えちゃうんですよね。そうなった時に、おっしゃっていただいたように「やってやろうじゃないか」って言う気持ちになっちゃう。やってるときは、なぜこんなに体に悪いことやってんだろうとか、アイデアが浮かばなくてもう力が無いのかなと思ってしまったりとかするんですけど、人生のゴールが見えてきて、体や頭がキレキレって訳にはいかなくなる。もちろん味も出てくるだろうけど、それでもやり残したことが無いように…続けたいですね。
喰 ありがたいことに、久本も柴田もワハハ以外の仕事をたくさんやらせてもらっているけど、ワハハみたいに何をやらされるか分からない仕事って少ないんじゃないかな。
久本 ないない! ワハハ以外にはありません(笑)
喰 でしょ(笑)。劇団が続く限りはやり残しの無いように、いつも新しいものをあれこれ考えているから。だから「次も必ずやります」とは言えないんだよね。これが最期かもしれない、はいつも思っていることではある。
久本 他のお仕事では頂いた台本ありきで、どう膨らませていこうか、それとも削って面白くするのか、そういうことに頭を悩ませていきますけど、ゼロから作るとなると、自分の殻を破らないとできないんです。自分の器が問われちゃう。スリリングだし、苦しいこともたくさんあるけど、公演が終わったら確実に自分の引き出しが増えているんですよね。
大久保 久本さんが今、言ったように、出番が多くない若手でもそれは一緒で、全然ごまかしが効かないんです。稽古が始まると、一人一人の姿勢とか、それまでどんなことをやってきたのかとか、わかっちゃうんですよね。だから、全体公演をやっていない間に何をしてきたのかもすごく大事。よその大きな舞台に出ている先輩を後輩が見たときに「先輩やっぱりすげえ」って思えるように、ワハハ以外の場所で得てきたものが無いと、バレちゃうんです。頑張らなきゃいけないし、嘘はつけないなって思いますね。
――やはり大久保さんは座長として、他の団員よりも少し先のビジョンを見据えていないといけない立場ですし、より試されますよね。
大久保 …すみません、全く見据えていないんですけど(笑)。僕はほんとに、行こうぜ!っていう空気を作っていくだけなので。喰さんがラストなんて言い出した時も、冗談じゃないよ、やりてえんだよ、って言い続けましたし、先輩方の”絶対にやり続けるんだ”っていうガッツを見ているので、それについて行くしかないですよね。そのパワーがあれば、劇団はずっと続いていくと思っています。
喰 正直に言うと、僕も70歳を超えてきて本気で次やれるかどうかというのを思うわけです。個人的にね。だから次のことなんて考えていないんです。この今を全力投球するだけなのは、前と変わっていないですね。
久本 ネタを考えていても、これをやろうかな、でも今は早いかな、次回かな…なんて思ったとしても、その次回なんて無い!って思っちゃうんです。全体公演が終わるたびに、もうこれ以上面白いことなんて考えられない、やり尽くした、って感じるんですけど、みんなに会うと触発されて、何かしらできちゃう。そうやって全力でできることが喜びでもあります。
――今回、公演概要の記者発表を「マチャミ&シバタの爆笑筋肉大賞」という某仮装大賞のような”力み”イベントで告知されました。投票では、現場とオンラインで結構な得票差があったそうですが、これもワハハには「現場でしか感じられないもの」があるからですよね。
久本 やっぱり配信で見ると、こんなふうに見えちゃうのか、って感じることもあるんですよ。ライブの方が面白いのに、っていうことも少なからずあります。熱量の感じ方も変わってきちゃうのかもしれないですね。
――大久保さんの力みネタは、会場ではスベってたと喰さんに言われちゃってましたが…(笑)
大久保 ちょっと、やめてくださいよ(笑)。あれは、事前に喰さんから電話が来て「お前とりあえずトップバッターやって、プロレスで」って言われてたんですよ。
喰 でもね、あれオンラインでの票は結構よかったんだよ。
久本 ネタがちゃんとしてたからね。ライブだと力んでない感じだったけど、ネタとしてオチもあるから、観ている人は力みじゃなくて、そこが面白いか面白くないかの判断になっちゃう。
――トップバッターとして、”力みネタ”がどういうものかピンと来ていない人に「こういうことか!」と理解させるパワーもあったように思います。オンライン配信も含めて、華々しく告知された40周年記念公演ですが、節目となるアニバーサリーな公演として、どんなことをやるご予定ですか?
喰 僕はある程度、浮かんでいるんですけど…言えないです(笑)。お客さんから見ていて、面白い!ってなるアイデアは浮かんでいますよ、とだけ。
大久保 喰さんて、ツアーの最終日とかに特別なことをやるじゃないですか。花火が上がったり。今回は最終が大阪ですけど、大阪ファイナルでは何かが起こるような予感がしています。
久本 12月だし、今年を締めくくる意味でも絶対になんかあるね(笑)。私もまだ何にも浮かんでいないけど、喰さんの言葉を期待して、楽しみに頑張ろうと思います。
――40年前の笑いと今の笑いって、いろいろ変わってきたと思うんですが、みなさんはどのように感じていますか?
久本 ワハハに関して言えば、そんなに感じていないんですよね、変化って。好き嫌いの激しい劇団なので、苦手な方は全く受け付けないんですけど(笑)、ハマった方はもうたくさん来てくださる。「これを求めていた!」っていう感じなんです。
大久保 今、来てくださっているお客さんに「配信やってるんで、配信でどうぞ」って言っても、きっと観ないと思うんですよ。ワハハに関しては、そうじゃない。ライブならではの、変わっていないものがあると思います。
――囲み取材でも少しお話されていましたが、ワハハのその本質的な部分って「品性とオシャレさ」じゃないかと思うんですが、いかがですか。
喰 一番分かりやすいところで言うと、女性は裸に見えるけれど裸スーツを着ていて、男性は裸になることはあるけれど、大事な部分は絶対に見せない。例えば稽古とかで、笑いをとるためにワザと見せようなんてしようものなら、僕はこっぴどく怒りますから。見えるか見えないかのギリギリを攻めるから面白い、っていうディテールはすごくこだわっています。意外とメッセージはこっそりと入っていて、それが伝わるからお客さんはエンディング音楽の選曲だけでも泣けてくることがあるんです。
久本 下ネタや過激なことも確かにありました。でも私たち自身もハートフルなものも求めるようになってきて、グッと胸を打つようなパフォーマンスもあるんです。シュールなものから、コンテンポラリーみたいなオシャレなこともやってるんです。バカバカしいイメージだけで観ないというのではなくて、観て好きか嫌いか決めてほしいですね。
喰 我々はパロディが多いんだけど、コンテンポラリーやジャズのプロダンサーから「こう来ると思わなかった、やってみたい」って言っていただくようなものもあったんです。「どうやって考えたの?」ってね。
大久保 僕はずっとバンドをやっていて、ワハハを見て好きになって入りました。入ってから過去の作品とかも映像で見たんですけど、赤塚合唱団っていうギャグの合唱とか、ミュージカルの難しい奴に言葉を乗せたり、音楽をやってきた側からすると、凝り固まった音楽の考え方じゃ到底思い浮かばないようなネタを考えついてる。本当にすごいことをやってるんですよね。「そんなのできっこない」とは思わないんです。
――そうやって40年、常に新しいものを作り続けてきたのがワハハ本舗なんですね。最後に、公演を楽しみにしているみなさんに一言ずつメッセージをお願いします。
大久保 僕はワハハ本舗を見て人生が変わった人間です。ワハハ本舗を見る人生と見ない人生、きっと違うと思います。とにかく、生で観てください!
久本 本当にくだらないネタからシュールなネタ、オシャレなネタまで、おもちゃ箱をひっくり返したようなパフォーマンスが次から次へと出てきます。全力でお客さまに喜んでいただけるように、笑いのためなら何でもする!という魂をもってやっていきます。その精神は60を過ぎてもまだまだエネルギーに溢れていますので、ぜひそれを共有して素敵な1日が作れたらいいなと思っています!
喰 よく「今からじゃ遅いでしょ」って言われるんですけど、まったくそんなことないです。東京は小劇場なので、あの頃の熱気も感じられると思います。ソールドアウトになる前に、ぜひチケットをご予約くださいね。
取材・文:宮﨑新之
取材・文:宮﨑新之
TOP使用画像・撮影:篠塚ようこ