「ゆうめい」の池田亮が脚本・演出・美術を手がける舞台『球体の球体』が、この9月に東京・シアタートラムにて上演される。これが初主演舞台となる新原泰佑に話を聞いた。
本作は、脚本家・演出家・俳優・造形作家など多方面で活躍し、先日第68回岸田國士戯曲賞を受賞した池田亮の最新作。池田自身がアート作品として発表したこともあるカプセルトイの「ガチャガチャ」から着想を得て、「親ガチャ・子ガチャ」といった要素を取り入れ、生まれたものが「選べない状況」と「環境」、「優生学」と「独裁者」についての寓話が描かれる。
主演は本年2月の『インヘリタンスー継承ー』では二人の性格の異なる役柄を見事に演じ分け、最近ではドラマ『25時、赤坂で』にて初W主演を務めた新原泰佑、出演は世界的ダンスパフォーマンスグループ「s**t kingz」のメンバーで、ダンサー・振付師としての活躍に加え、最近では映像やストレートプレイで俳優としても実力を発揮する小栗基裕、てんやわんやの状況で右往左往するキャラクターや、複雑な気持ちを隠しもつ難解なキャラクターをチャーミングに演じ分け、多くの演出家や監督から信頼を寄せられている前原瑞樹、盟友三谷幸喜からも絶大な信頼を寄せられている確かな演技力で、舞台や映像でも長きにわたり活躍する相島一之という四人芝居となる。
当て書きだからこそつくりあげていかなければいけないものがある
――現段階では、シノプシス(あらすじのようなもの)があるそうですが、読んでみていかがでしたか?
「すごく好きな作品です。ガチャガチャをテーマに、それを“親”であったり“子”であったりが選べない状況と結び付けている。そういうことってきっと誰もが一度くらいは考えたことがあるのではと思うのですが、それをこんなふうなカタチにすることも、そのカタチにされ方も、おもしろかったです。ファンタジーであり現実味も帯びている。そのリアリティと寓話的なものの“乖離性”と“紙一重”はこの作品の目玉だと思います。それと、シノプシスには美術プランなども書かれていたのですが、それを読んで、池田さんはきっとお客様がシアタートラムに入った瞬間から『球体の球体』の世界に閉じ込めたいんだと感じました」
――登場人物にはどう思われましたか?
「当て書きなこともあり、僕たち4人が動いて話している画が既に想像できました。そこにびっくりしました。みなさん役にぴったりすぎます(笑)」
――新原さんが演じる本島幸司という役は、演じるという視点ではどう感じましたか?
「当て書きだからこその難しさはあると思います。自分に近いものを書いてくださっているからこそ、“新原泰佑”であってはいけないと思うので。池田さんは、僕と地続きで本島を演じてほしいとおっしゃっていたので、僕の中身からどんどん本島のエッセンスをつくりあげていかないといけないなという気持ちです」
――池田さんとは初タッグですが、脚本のために取材をされたりしたのでしょうか?
「(取材みたいに)たくさん自分のことを話したわけではないんですけど、池田さんが、僕が出演した『Amuse Presents SUPER HANDSOME LIVE 2024 “WE AHHHHH!”(以下、ハンサムライブ)』を観に来てくださったりもして。そういうところで知っていただけたかなと思います」
――ダンスシーンがあるらしい、と聞きました
「そうらしいです。ハンサムライブを観てくださった後、会場で池田さんとお会いしたら『ダンスを入れてもいいですか!?』とおっしゃって。ほんとに『池田さんありがとうございます』『ダンス入れてもいいですか!?』っていう勢いで言ってくださったんですよ(笑)。僕にとってダンスは20年位やっているもので、だから踊っている時はいい意味でなにも考えてないんです。無になってただ空間と共存しているだけ。それをもしかしたら見抜いてくれたのかなと思っています」
――お芝居の中のダンスはどんなものになりそうですか?
「好きに踊っている時間、一人で踊っている時間は、僕にとって“なににも邪魔されない時間”なのですが、今回のお芝居の中でもそういう心持ちをつくっていけるんじゃないかなと思っています。それこそ、僕であり僕でない瞬間を僕自身が生み出せるのかもしれないと少し思っています」
課題を持ち続けること。それが今の目標
――四人芝居での主演となりますが、どう感じていらっしゃいますか?
「少人数の芝居はKAATの大スタジオで上演された『ラビット・ホール』(’22年)の五人芝居以来で、しかも『ラビット・ホール』は僕にとって人生初のストレートプレイだったので、ゲネプロ(本番リハーサル)の時、足はガクガク、手もブルブルでした。なのに今度はシアタートラムで、さらに少ない四人芝居の主演をやらせていただくんだなって思います。ご一緒するのは大先輩のみなさんですが、池田さんにうかがったところ、セッションをしたり試行錯誤しながらつくっていくようなお稽古になりそうです」
――新原さんは稽古場などでセッションを積極的にするタイプですか?
「ずっとがむしゃらでできませんでしたが、舞台は『インヘリタンスー継承ー』くらいから、映像は『25時、赤坂で』から、そういうことができるようになってきました。だんだんと、解釈について相談したり、『こういう見せ方したいのですが、どうでしょうか?』と提案してみたりするようになってきたところです。そこに飛び込めるようになったのかなと思っています」
――お芝居にまつわることで、今すごく楽しい瞬間ってどんなことですか?
「稽古中に演出家さんに『こうしたい』と言われた時、『なんでだろう?』と思うことがあるんです。例えば右に行ったほうが絶対にスムーズなところで『左に行ってほしい』とか。だけど実際にやってみると、左に行くことでお客様におもしろい見え方になるとか、そうする理由が理解できたりする。そういう、自分にはない視点から何かと何かの繋がりが見える瞬間があるとすっごく楽しいです。新たな知識と視点をもらえた感じがします」
――知れることがおもしろいのですね
「はい。ただ、“わからないこと”は急いで解決しようとしない、ということも『インヘリタンスー継承ー』で演出・熊林(弘高)さんから教わりました。『今あなたが悩んでいることは多分公演中には解決しません』と言われたことがあって。『そういうのは終わった次の日くらいに解決するんだよ』って。その場から離れた瞬間に俯瞰して見えてくることもある。熊林さんは『そこで見えたものを次の現場で生かすことができれば、それはあなたの成長になる』とおっしゃっていました。だからきっと今回も、現場で生まれてくる課題があると思うんですけど、それを(急いで解決しようとするのではなく)持ち続けること。それは今の目標です」
――いろんなものをご自身の中で広げていってるところなんだなと感じました
「そうですね。引き出しや知識の枝みたいなものを広げている最中だと思います」
――ちなみにお芝居は楽しいですか?
「楽しいです。すっごい楽しいです。めちゃくちゃ好きです。芝居をしていなかったら何をしていたんだろうと思うんですよ。たまに母とも『ダンスもお芝居もやってなかったら僕はどんな人間だったんだろうね』とか話しています(笑)。『ただの喋りまくる人になってたかもしれないよね。そしたら会社勤めとかできないね』って(笑)。だからこの世界に入れてくれた親にも感謝しています。多分僕は、自分の持っている何かを人に伝えるのが好きなんです。今回は当て書きでもありますから、伝えられるものは多いんじゃないかなと思っています」
取材・文/中川實穗
撮影/山崎信康
衣裳/土田寛也 ヘアメイク/国府田圭