読売新聞創刊150周年記念 よみうり大手町ホール開場10周年記念舞台『罠』|上川隆也 取材会レポート @大阪

2024.08.02

新婚カップルの妻がバカンス先で行方不明となり、知らない女性が「あなたの妻だ」と現れる――。6人の男女の騙し合い、スリリングな展開や巧妙な伏線が見どころのロベール・トマによる名作『罠』。大阪公演は2024年11月2日(土)・11月3日(日・祝)に行われる。これまで二度『罠』を手がけたことがある深作健太が三度目の演出に挑み、上川隆也、藤原紀香、渡辺大、財木琢磨、藤本隆宏、凰稀かなめという実力派が集結。

公演に先駆け、行方不明事件の捜査を依頼されたカンタン警部を演じる上川隆也の取材会が大阪にて行われた。

過去に本作を観たことがなかったという上川は「新鮮な気持ちで脚本を読ませていただきました。出演させていただくにあたって物語の背景などを調べ、歴史や経緯に改めて驚いた次第です」と語る。

また、「邦題で『罠』としたセンスが見事だと思いました。最後まで通して読み、改めて冒頭に戻ると、幕が開いた瞬間からお客様に向かって罠が仕掛けられていることに気付く。60年以上にわたり上演され続けているのには、そういった理由もあると思います」と分析。「読んだだけで間違いなく面白いと思える作品を、カンパニーの皆さんと一緒に、お客様に楽しんでいただけるものに仕立てる過程から楽しみたいです」と意気込んだ。

演じる役柄については、「他の登場人物たちも様々にキャラクターを設定できるとは思いますが、カンタン警部は一番振り幅を設けやすい人物ではないかと感じました」と話し、「60年も上演され続けている物語ですが、初めてご覧になるお客様も少なくないと思います。きちんと“罠”を仕掛けられるかがこの物語の根幹でもあると思いますから、その一翼をしっかり担っていきたいと思っています」と気を引き締める。

「翻訳劇の経験は多くなく、身の引き締まる思いです」と話す上川。「翻訳劇の面白さについては「例えば、シェイクスピア作品を日本の装いで演じることも珍しくありません。今回で言えば、(『罠』の舞台となっている)1960年のフランス・シャモニーの文化を設定することもできるでしょうし、そこから離れて演じることも可能だと思います。深作さんと僕らがどんなディスカッションをして作っていくのか。そこが今回の醍醐味の一つだと思っています」と述べた。

顔合わせもまだという段階だそうだが、上川が深作の演出を受けるのは2013年に上演したテネシー・ウィリアムズ作の『渇いた太陽』以来2回目。「深作さんの携わり方は目の当たりにしていますから、何の心配もしておりません。『渇いた太陽』での役回りは、それまで僕が巡り合ってきた役柄とは随分趣が異なっていました。役に歩み寄るところから始めましたが、深作さんは僕の歩みをきちんと見極め、受け止めてサジェストしてくれたのが印象的でした」と振り返る。

「もちろんそれは相手役を務めてくださった浅丘ルリ子さんとの共同作業だったのも確かで、一人で作ったものではない。深作さんを含めた皆さんで作っていただいた役柄だという強い思い出があります。今回も一筋縄ではいかないと思いますが、深作さんの知見を十二分に頼りとし、一つひとつ構成・構築していきたいと思っています」と意欲を見せた。

共演者について聞かれると、「舞台でも映像でも常々思いますが、芝居は『闇鍋』なんです。具材は同じでも、脚本・演出というレシピが違えば煮上がるまで味はわからない。それが舞台やお芝居の底知れない面白さだと思います。だからこそ予想を立てずにいたいと思いますし、今回はどんな料理に仕上がるのか。演出・スタッフ・キャストと試行錯誤をしながら、1つの鍋を作っていきたいです」とユーモアを交えて語り、最後に「自分に何ができるか、座組一同で作品にどう向かっていくのかが全て。今回もみんなで膝を突き合わせ、深作さんの目指す方向に進んでいきたいです」と締め括った。

インタビュー・文/吉田 沙奈