舞台『MY ROOM IS MINE!!』稽古場レポート

2024.08.20

”メタバース”を取り入れた、”超主張シンクロナイズドコメディ”とは…

9月4日(水)より、東京・下北沢の小劇場B1にて開幕する舞台『MY ROOM IS MINE!!』の稽古が、8月上旬にスタートした。

制作会社・ミックスゾーンが主催し、作・演出には、演劇ユニット「ストスパ」の主宰・白鳥雄介を迎えた本作。稽古場には、白鳥のほかに、出演者である松本旭平、辻凌志朗、秦健豪、阿久津京介、小槙まこが集まった。(*この日は不在であったが、本作には俳優・武藤友祈子も出演する)

ミックスゾーンは、演劇公演のほかに、ラジオ番組や映像の製作など、多ジャンルのエンターテインメントに携わる。ストスパは、困難な状況と軽やかな笑いを1つの舞台に巧みに交える作風が特徴的。その2団体がタッグを組み今回上演するのは、「”メタバース”を取り入れた、”超主張シンクロナイズドコメディ”」。

松本旭平

”同期する”という意味をもつ”シンクロ”。作中では人間がシンクロする姿を目撃できるようだが、もちろんスポーツ競技のことではない。なぜ、どのようにシンクロするのか気になるのはもちろんのこと、そもそも、”超主張”しているならばシンクロなぞ難しいのではないかという疑問すら生まれる。さらに作品には”メタバース”という仮想空間が加わるというから、非日常的な要素がたっぷりと詰まっているのだ。これらはどのように積み重なり、ひとつの舞台作品になっていくのだろうか。

簡単な自己紹介を行ったあと、さっそく本読み(台本を読む作業)を開始。どうやら、シンクロするのは、松本・辻・秦の3名のようだ。シーンの冒頭から同じ台詞を話す瞬間が多発する。3人が演じるキャラクターは、それぞれの言葉で考えを主張しようと試みるが、自身の意思に反してシンクロされてしまう。それはコメディとして描かれるので、稽古場は度々、笑いに包まれた。

辻凌志朗

思いがけないシンクロ現象がつづくなか、徐々にメタバースの要素が姿を現す。その場に、リアルに存在する人間がシンクロを起こしているのに、気がついたら作中の世界には、インターネット上につくられた3次元の仮想空間が顔を覗かせていた。自分(観客)の広げていた視野が大きく揺さぶられ、まるで井の中の蛙になっていたような感覚。それに気がつきハッとして、後のストーリーに、どんと引き込まれていった。

稽古初日であったものの、俳優たちのチームワークはとても良く、本読みは最後までスムーズに進んだ。

シンクロシーンでは、松本はやや高く、辻は少し低く、そして秦はゆったりとした声で台詞を発するので、合奏のように、3人の声が美しく調和していた。また松本は、それぞれの俳優の姿に目を配りながら、相手が発する台詞にうまくリアクションしようと心がけている姿があり、辻は、明るい声でコメディなシーンを楽しく盛り上げていた。秦は、落ち着いて空間全体を見つめている様子で、シーンの少し先を見据えながら物語の展開に馴染む芝居をしようとする姿が印象的だった。

秦健豪

阿久津と小槙と武藤は、このシンクロ現象に、各々の立場から深く関わる重要人物を演じている。その日稽古場にいたのは阿久津と小槙。

阿久津が演じる役は、シンクロ現象をかなり俯瞰的に捉えている。阿久津自身もその雰囲気に沿うように、台詞を淡々と発していた。小槙が演じる役は、阿久津と同様にシンクロ現象自体は落ち着いて見ているが、シンクロする彼らに対して、ある強い想いを抱いている。複雑に入り混じるその感情を、小槙は芯をもった声で演じていた。

2人のこの佇まいは、作品のもうひとつの要素であるメタバースを組み込んだ展開へと、シーンを見事につないでいた。

本読みを終え、白鳥が本作の上演へ込める想いについて語る。

「情報社会の現代において、目の前には興味のある情報しか流れてこない。生きるうえで必要な情報に追いつけず、気がつかぬ間に目の前の社会が大きく変わってしまうのではないかという恐怖がある。”超主張シンクロナイズドコメディ”の笑いで、オブラートに包みながらも、メタバースを要素に入れた展開を通じて、この時代の課題にカウンターパンチを仕掛けるような作品にしたい。観劇したお客さまが、『こういう芝居を観たんだけどね』なんて、観劇後に家族と会話して考えを巡らせてくれたらうれしい。」と話した。

白鳥雄介

俳優たちはその想いに共感するように深く頷き、真っ直ぐ凛とした表情からは、これから本格化していく稽古への、明るい未来を感じさせた。最後に白鳥より、共に製作を手がけるミックスゾーンのスタッフへの感謝も述べられ、その日の稽古は終了した。

本作は、演劇公演における新しい試みとして、「連動スペシャルイベント」を企画している。

9月6日(金)の回には、怪談師の村上ロック氏により、公演内容に類似した怪談話が披露される。一方、9月7日(土)の回では、落語家の林家きよ彦氏による落語会を開催。

白鳥が書き下ろした新作落語も披露される。

さらに、本公演と絡めた若手支援の企画実施のために、クラウドファンディングも実行中だ。

https://camp-fire.jp/projects/766661/view

コメディタッチなシンクロ話と、観客の視野を揺さぶるメタバース的展開が融合する本作が描く主張は、”劇場”という、クリエイターも観客も同じ空間で物語を共有できる場所で上演されるからこそ、その想いが最大化されて伝わるのではないかと思う。

取材・文/臼田菜南
写真/松尾祥磨