ソン・ジェジュンによる韓国の名作ミュージカル『RUN TO YOU』が、オール日本人キャストによる翻訳版で2024年8月31日より開幕する。
本作は、夢を追いかける若者たちの青春を、DJ DOCのHI PHOPナンバーに乗せて届けるミュージカル。ミュージカルや舞台で活躍する実力派キャストが顔を揃え、日本版の初演に挑む。ヒロイン・セヒを演じる遥海にインタビューを行った。
――今回のお話をいただいた時はどんなふうに感じましたか?
最初は迷いました。韓国ミュージカルに出演するのは初めてで、今回は日本人キャスト初演。ラップに不安もあったんですが、少し考えて、やる価値があると思いました。元々歌手なのでセリフに苦手意識もあったし、日本語ラップは難しいと思っていて。でも、ミュージカルが大好きだからこそ、その不安を抱えたままじゃもったいない。この機会に自分とも向き合おうと思いました。
――脚本を読んだ印象を教えてください。
アルバイトしながら夢に向かうのは24歳までの私にとっての現実だったので、表現できるかもと思いましたね。若者が抱える葛藤や大変さ、大人にあれこれ言われることなどがすごくリアルに見える作品だと感じました。
――今回演じるセヒはソロシンガーということでご自身と重なる部分も多いかと思います。役の印象、役作りにおけるこだわりはありますか?
自分一人じゃセヒが出来上がらないなと思っています。セヒは両親がいないので孤独なんだろうなとか、ジェミン役の越岡(裕貴)さん、スチャン役の寺西(拓人)さん、ジョンフン役の吉高(志音)さんとの距離感を考えて役作りをしています。私がこれまで演じた役は、一人の人のことだけを考えて愛していくキャラクターが多かったんです。複数の人との距離感を気にする役は初めてですし、兄弟や恋人の話がたっぷりあるので、ちょっと苦戦しています。
――原作者のソン・ジェジュンさんがミュージカル『RENT』をきっかけに若者に寄り添って書いた作品ということですが、歌ってみて感じる楽曲の魅力はいかがでしょう。
どの曲も耳に残るキャッチーさがあるなと思います。
今日とあるシーンで、「あ、この部分はRENTのここにインスパイアされてできあがっているのかも」と思いました。「ギクシャク」が「Seasons Of Love」に聞こえるんですよ。
(オリジナルの演出家は「ギクシャク」と「Street life」が本作の代表曲と言っているという説明を受けて)
私が初めて『RENT』に出演した時、「Seasons Of Love」にすごくハッピーなイメージを持っていたんです。でも、それだけではない。明確に「誰に捧げたいか」がある曲で、ただ楽しいだけの曲じゃないと言われたことを、今日の稽古ですごく思い出しました。
キャッチーではあるけど、音源のキラキラ感と一つひとつの言葉が真逆を向いている時があって、それが面白いなと。「この音を聞いたらこう歌いたくなるけど、そうじゃないんだ」みたいな、頭ではわかっているけど心の中では違うことを言っているみたいな感覚。それがすごく魅力的だと思います。
あと、20代の若者の葛藤が詰まっている。私も「若いんだからいいじゃん」って言われるのが嫌で、「若者もちゃんと葛藤に向き合っている」というストーリーが素敵だと思います。
――シンガーとしての遥海さんは、聴かせる曲やソウルフルな歌唱が多い印象があります。ラップに挑戦してみて感じる難しさや楽しさはありますか?
英語のラップをカバーしたことはありますが、日本語ラップはやったことがなかったので、新しい発見があって面白いです。自分がどれだけ自分の声で遊べるかがすごく楽しい。
でも、「セヒは本当に誰かのことを思って曲を書いてるんだな」「この人のために歌うんだ」って思う部分があって、ちょっと恥ずかしいです(笑)。女の子って感じで可愛いなと思うので、それを見ている皆さんにも感じてもらえように頑張らないと。
私もセヒという役に出会って間もないんですけど、いちいちキュンキュンする。本当に面白いので、見てもらったら伝わると思います。セヒが抜けて遥海が残って、「うわー!」ってなる時、ありますもん(笑)。それくらい、一緒にやっているテラちゃん(寺西)とこっしー(越岡)のお芝居がすごい。いいものを投げてくれるので、頑張って立ち向かおうと思います。
――今回の日本版キャストの魅力、見どころになりそうな部分、注目してほしい部分を教えてください。
いっぱいありますが、やっぱりスターになっていく姿、みんなが生きている様子です。『RUN TO YOU』ってお話としては舞台裏で、スポットライトを浴びていない時の私たちにスポットライトを当てている。普段見られないところを描いているのが見どころだと思います。
あと、ヒップホップがかっこいいです。見ているだけでテンションが上がります。 気持ちと気持ちのぶつかり合いがヒップホップだと私は思っていて、それがしっかりと曲ごとにある。個人的には「Run To You」がデビューの時を思い出して好きです。何に自信を持っているかわからないけど、うまくいくことだけは信じていたのを思い出しますね。
あとはジェミンの母親思いなところ、スチャンのセヒを守りたい思い、ジョンフンのまっすぐな愛、セヒの器の大きさも見どころ。ストリートライフのメンバーを演じる3人のファンの方はくらうと思います!
――演出の田尾下さんからのディレクションで印象的だったことはありますか?
哲さんは思ったことをみんなでやっていこうと言ってくれる印象があって素敵です。ミュージカル経験が少ない人間からすると、一緒に作っていこうと言ってくれるのもオープンな感じもありがたいです。私は困った時はすぐに頼っちゃう(笑)。それを受け入れてくれて、私の考えに共感してアドバイスをくれて、迷子になっても道に戻してくれる。すごく安心できます。
――稽古場で印象的なエピソード、特にお気に入りのキャラクターがいたら教えてください。
ジェミンがたまに見せる笑顔が素敵だしみんな楽しそうです。現時点では皆さんの笑顔が印象的ですね。
キャラクターとしてはテウクが好きです。冷たそうだけど実はすごく人のことを考えているところが素敵で、出る言葉も自然と笑える。お兄ちゃん的な存在で、ストリートライフの三人にチャンスをくれたすごい人。人生の中でこういう人と出会えたら救われるなって感じる役で、すごくお気に入りです。
――若者たちの夢を描く青春ストーリーですが、遥海さんが「青春」という言葉から連想するものはなんでしょう。
たくさんありますが、私にとっては幼少期を過ごしたフィリピンが大きいかもしれません。向こうにいた頃に、歌も好きだったけど、陸上をやっていて、日本でいう関東大会みたいなものがあったんです。いろいろなところから集まった小学6年生が学校で1~2ヶ月一緒に生活する。方言も違う人たちと一緒にご飯を食べてトレーニングして、夜はみんなで恋バナするっていうのがすごく青春だったなと思います。
――様々なチャレンジがある作品とのことですが、成長を感じたことや今後チャレンジしたいことはありますか?
成長したのはラップかなあ。「あ、できるかも!」って(笑)。今後のアーティスト活動でも入れてみようかなと思いました。新たなものを獲得できた感覚があり、本当に声って面白いなと思います。
今まで自分の武器だと思っていたのは歌。でも、歌がない状態で勝負するストレートプレイなどにいつか出てみたいです。そのためにも頑張って苦手意識をなくしていけたら。言葉のみで人を動かすってすごく難しいですが、そこで勝負できるような人になりたいです。
――シンガーとしても俳優としても活躍されている遥海さんが考える生のステージの魅力とは。
1回やったものは2度とできないところです。私は舞台を見るのもすごく好きで、最近は『ピーターパン』を見て「こんなに面白いの!?」と思いました。 今回の公演なら、今日はジェミンで、今日はセヒで見てみるとか、立場を変えるだけで見えるものが変わるのが良さなのかな。その時だけの感覚やキャッチボールがクセになります。
――今回は名古屋でスタートし、大阪、東京での公演です。各地での公演で楽しみなことがあったら教えてください。
慣れない場所でスタートするので、まずはちょっと不安です。でも、名古屋に行ってスタートだからこそみんなの絆も深まると思うし、ご飯も楽しみ(笑)。最終的に東京に帰ってきて大千穐楽を迎えられるのも個人的に初めてなので楽しみです。誰も欠けることなく無事に走り抜けたられたらと思っています。緊張しますが、各県で反応が全然違うのでそれも楽しみです。
――アフタートークショーもありますね。
キャストの皆さんが本当に面白いので、普段の様子や一人ひとりのキャラを見てもらえるのがすごく楽しみです。パンフレットに書かれてないこととか、みんなの役への向き合い方の話、本番後だから出てくるものもあるでしょうから、私も楽しみです。
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
夢を持っている人、持ったことがある人、夢が叶った人、誰もが共感できる物語ですし、夢に向かって頑張る人を支える人にも響く作品だと思っています。
私が初めてミュージカルを見に行った時は、「難しい話だとわからないかも」「なにかを見逃しちゃうかも」という不安があった。でも、この作品は歌と演技の切り替えがしっかりしているので、ミュージカルが初めての人でもすごく見やすいと思います。
あと、舞台上で演技をしている人だけじゃ成り立たないショーなんです。お客さんとのやりとりが大事なので、かしこまらなくて大丈夫です!
懐かしさもあるし、2024年の今やる意味もある作品なので、ぜひ来て欲しいです。公演期間は短いので、迷っている場合じゃないよという感じです。
取材・文:吉田沙奈