甦夢 THEATRE「黄金仮面―masque doré―」│小越勇輝&井阪郁巳 インタビュー

写真左より 小越勇輝・井阪郁巳

江戸川乱歩の代表作のひとつでもある長編推理小説に、歌を織り交ぜて贈る舞台・甦夢 THEATRE「黄金仮面―masque doré―」が10月11日(金)より天王洲銀河劇場にて上演される。金色のマスクで顔を隠した怪盗・黄金仮面に立ち向かう探偵・明智小五郎を小越勇輝が演じ、事件の捜査にあたる波越警部には、井阪郁巳が扮する。果たして2人は、どのようにこの名作を令和に甦らせるのか。話を聞いた。


――「黄金仮面」への出演が決まって、作品の第一印象派いかがでしたか。

小越 僕はこれまで江戸川乱歩の作品に触れてこなかったのですが、明智小五郎役でオファーをいただき、自分に任せていただけることがすごく幸せに感じました。お話をいただいてから「黄金仮面」を読んだのですが、時代背景は今とは違っていても、全然色褪せないですよね。言葉遣いは古い言葉で難しくて、調べながら読みました。でも不思議と、調べるくらいなら読むのはやめよう、とはならないんですよね。どんどんページを進めてしまうほど没入できる面白さがありました。黄金仮面と明智との戦いというか、追いかけっこのような話なので、今の時代に自分たちが演じるとどうなるんだろう?とワクワクしています。

井阪 僕も江戸川乱歩は詳しくなかったのですが、調べてみると、このタイトルは知ってるな、とかはあったんですけど。僕は波越警部役ですが、警部ってミステリーにはつきものと言うか、欠かせない存在ですよね。言葉遣いも昔ながらですし、ベテラン警部っていう要素もあったので、役の第一印象はめっちゃ年上の人を想像してしまいました。自分が演じるとかは抜きにして、40代後半とか50代くらいのイメージでしたね。なので、自分が演じることに少しだけ不安もありました。でも、難しい言葉を調べながら読んで、少し賢くなったかも(笑)。難しいのに、スラスラと最後まで読んでしまう面白さがあったので、最終的には楽しみな気持ちが大きくなりました。

――台本をお読みになった印象は?

小越 原作をしっかりキュッと纏めていて、ちゃんと繋がりもあって、こんなふうにできるんだ!と驚きました。ただ、前半なんかは話が行ったり来たりするところもあるので、そこは僕らがちゃんとお客さんに楽しんでもらえるように伝えていきたいですね。とにかく、このアプローチ、このまとめ方は面白い、って思いました。

井阪 本当にそう!話の進め方や物語の展開はすごくわかりやすいものになっていて小説のように読める台本でした。長々としたセリフをすくい取っていくと難しくて大変ではあるんですけど(笑)。ひと言、ふた言で言えることを、5行くらい使って遠回しに言うみたいなことがたくさんあるので、それを全部一生懸命に言っちゃうときっとお客さんも疲れてしまうと思うんです。特に僕は、必死に全部を大事にと思って読んでしまうタイプなので、どこを伝えるべきなのかを明確にしていかなきゃな、と考えています。

小越 それはあるね。どこを抜いていくか、みたいな。明智も、推理してゴールだけズバッと突き刺してしまえばいいのに、そこに行くまでの過程を楽しんでいるようなところがあって、すごく変態だなって思う(笑)


――変態ですか(笑)

小越 ずっと調べてきて、自分の中に確信もあるから、相手がどういう反応するのかを見ているんですよ。それでも白状しないなら、次はこうしようか、とかの過程を楽しんでいる感じが変態です。でもその変態な感じ…遠回りするんだけど、そこをどう面白くできるのかを考えていますし、自分も楽しみたいですね。

井阪 そういうことなんだ!明智が推理し始めると波越は1歩下がってみている感じになるんですけど、そうやって問い詰めているときに明智がニヤッとすることがちょくちょくあるんですよ。それで、その追い詰めてる人物じゃなくて、1回波越を経由して話をしたりするんです。明智はそれを楽しんでたんだ…めっちゃ変態ですね(笑)。すごく納得した!

小越 待って、そう言われるとなんかやりにくくなる(笑)


――(笑)。明智は変態的、と分析されていますが、その他にも明智をどのような人物と捉えていらっしゃいますか。

小越 原作を読んだ時は、明智はもっと年上のような感じがしましたし、一般的なイメージより自分は若いかなと思ったんですけど、やらせていただけるのであれば、その若さもビジュアルとしてひとつの武器になるかもしれないし、自分がやる面白さを出したいと思いました。明智は天才ですけど、その裏に努力もすごくあるんです。犯人を問い詰めて捕縛していくために、準備をすごくする人なので。努力家でもあるし、天才でもある。それで天才と変態も紙一重で、やっぱり変わり者でもあるので、そういうところで遊んでいけたら良いな。周りを巻き込みながらやれることが演劇の面白さでもあると思うので、しっかりと動いて空間をたくさん使いながら演じたいです。


――波越警部はいかがですか?

井阪 明智くんと正反対とは言わないけど、波越警部は少しでも手掛かりが見つかったらすぐ行動して、突っ走るタイプ。明確な犯人の証拠とかが無くても、行って問い詰めたりしちゃう。ちょっとズレているとこもあると思うんですけど、真っすぐで、解決に向けて一生懸命に進んでいるのだけは確か。すごく愛されるキャラなので、周りを信じて突き進むことを大事にしています。部下役の人もたくさん出てくるので、そこを信用しきって、止めてもらったり、感じ取ってもらったりしようと思います。突っ走っても最後には、明智くんがいますしね。

小越 その真っすぐさというか、100%で行く感じは、いくみん(井阪)と波越警部がリンクしている感じがしますね。

井阪 何かかみ砕いたりするよりも行っちゃえ、ってね(笑)


――本作では音楽を油井誠志さん、作詞を三ツ矢雄二さんが手掛けられますが、楽曲についての魅力を教えてください。

小越 歌があることですごく華やかになるし、見やすくなると思います。歌があるシーンの厚みも増すと思うので、そこは楽しんでほしいですね。楽曲がストレートな感じじゃないんですよ。ストーリーのイメージとは違うテイストの楽曲が来たりして「ここ、こんな曲調なんだ!」って驚くことがめちゃくちゃありました。このちょっとした違和感というか絶妙な歪みが、黄金仮面の世界観にマッチしているのかもしれません。

井阪 本当に、予想を裏切ってくる曲調なんですよ。ステージングやダンスもそう。その裏切ってくる感じが、見ていてとても楽しいんです。これを自分たち役者の声で、歌で届けるんだと思うと、どんなふうに伝わるのか楽しみですね。すごく好きなシーンがあって、明智くんがちゃんと説明する場面で、大サビみたいな感じのところで明智くんが登場するんです。もう「うわ、名探偵きた!」っていう盛り上がりが、すごく好きなんですよね。めちゃくちゃテンション上がります。


――今、まさに稽古を進めているところだと思いますが、山崎彬さんの演出はどのような感じですか。

小越 すごく役者に任せてくださるんですよ。もちろん決まり事や、こう動いてほしいみたいなことはあるんですけど、基本的には役者の好きに演じさせてくれます。その上で、もっとここを大事にしてほしいとか、こういう方向性もあるよね、って出してきてくれる。長めのセリフも、つらっと言っちゃうこともできるんですけど、緩急をつけるところとか、大事にしたい部分、もっと芯を食った感じのアプローチとか、いろいろ方向性を出してきてくれますね。そこは自分自身でも大事にしたいところだったので、そういう細かなハンドリングで調整してくださるような印象です。やっぱりご本人も役者をやっていらっしゃるので、そういう部分でも役者がやりやすいように演出してくださっているんだと思います。面白いことはちゃんと笑ってくれるし、面白かったけど今回はやめておこうか、とか、そのあたりはハッキリと言ってくれるので。

井阪 本当に、やりたいことはやらせてくれるし、その中で大事なことをしっかりと言ってくださるので、本当にやりやすい環境です。例えばあるシーンで登場するにしても、こっちから入ってみよう、いやこっちの説もあるな、とちゃんと役者に体験させたうえで、どっちが良かったかも聞いてくださる。すごく役者を信頼してくださっていると感じますし、だからこそ、こちらも「こういうパターンもありますよ」って言いたくなる。俳優としてモチベーションがめちゃくちゃ上がります。これでいい、と決めつけずに、まだ可能性があると常に探し続けてくださっています。実は山崎さんとは奈良県で同郷なんですよ。そういう部分でもシンパシーを感じていますし、お客様にお見せするものとしていい舞台にしたいという気持ちとともに、山崎さんに笑ってほしいっていう気持ちもあります。


――稽古場での休憩中などは、どのように過ごしていらっしゃいますか。オフの時のお互いを見ていて気になったことなどはありますか。

井阪 勇輝くんは、もうずっとセリフを唱えています。それも1カ所にいるんじゃなくて、いろんなところをうろちょろしながら、延々と唱えています。セリフ唱えているところに申し訳ないな…と思いながら「おはようございます」って挨拶すると、一旦セリフを止めて「おはよう」って返してくれるんですけど、またすぐ唱えてますね。休憩中もずっとですし、終わってからも唱えてます。

小越 僕、もう入っちゃったらずっとそうなんですよね。うろちょろするのも、舞台上とかでこう動けるものなのか、とか、確認じゃないですけど動きながらやることで降りてきたりするんですよね。

井阪 セリフ、めちゃくちゃ入っているのにやるのはスゴイですね。

小越 今回は特に怖いですもん。似たような言葉もたくさん出てくるので、本当にしゃべれるのかな?って不安になる。同じものを指すのにも、盗賊と黄金仮面、宝と美術品みたいに場面で使い分けられているし、大使、伯爵、侯爵とかも間違えそうだし。

井阪 ちょっと申し訳なかったんですけど、僕のセリフにも、同じくだりで仮面とマスクが両方出てくる場面があったんですよ。同じシーンなので、全部仮面で統一して言ってみたんですけど、(演出の)山崎さんに「さっきの仮面とマスク、ちゃんと台本通りで」って言われたので、変えちゃダメみたいです(笑)


――ちゃんとその言い回しに意味があるんですね。小越さんは井阪さんの稽古場での様子で気になることはありますか?

小越 変な時間にご飯を食べてるよね(笑)。食べるの忘れてたとか、時間が無かったとかで、稽古終わってから買ってきたものを食べているのをよく見ます。

井阪 タイミングが難しいんですよ。休憩中とかに食べちゃうと、もうセリフが出てこなくなるんじゃないかとか思ったりして。安心して食べたいので、稽古が終わってからになっちゃうんですけど、もうみんなは帰るじゃないですか。スタッフさんも帰りたそうだし、フタは空けちゃったけど、そっと閉めて持ち帰ったりもしてます。

小越 そうだったんだ。あと、すごく麺類を食べているイメージですね。蕎麦とかラーメンとか。カップ麺もよく食べてるよね。

井阪 家ではあんまり食べないんですけど、カップ麺は稽古場で食べるとめちゃくちゃウマいんですよ! 特にこの作品はめちゃくちゃ集中しているので、めちゃくちゃお腹も空くんです。あ、そういえばこの現場、めちゃくちゃ差し入れが豪華なんですよ。だいたい岡さんなんですけど。

小越 シャインマスカットの差し入れをしてくださって、すごいなぁ、って思ってたら、また別日にシャインマスカットと生ハムを差し入れてくださって。岡さんが「稽古場じゃ”泡”は飲めないけどな」っておっしゃってたんですけど、そこでいくみんが「”泡”ってなんですか?」って聞いてて、めちゃくちゃ可愛かった(笑)


――(笑)。本番が終わったら、打ち上げで”泡”をみなさんでいっちゃってください! 最後に、公演を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします!

井阪 本当にラクな気持ちで楽しんでいただきたいです。もしかしたら、ちょっと難しそうかも?と思っている人もいるかもしれませんが、やっぱりミステリーって面白いんですよ。江戸川乱歩って、黄金仮面って面白いんだよ、と胸を張れるものを、最高の準備をして待っているので、劇場で僕らを体感していただきたいです。ぜひ、会いに来てください!

小越 黄金仮面と言う作品そのものが持つおもしろさはもちろん、歌をはじめ演劇として、みんながいろんな役を演じ分けてその空間を作っていくので、きっと見ていて飽きないと思います。少年たち(石田 隼、川崎優作、吉澤 翼、納谷 健、福島海太、増本 尚、平松來馬)も、すごくたくさんいろんな役をやるんですよ。演劇って、黄金仮面の世界ってこんなふうに作れるんだということを、きっと感じてもらえるはず。来てくださる皆さんの記憶や胸に、少しでも残る作品になればいいなと思っていますので、ぜひ観に来ていただけたら嬉しいです!

 

取材・文:宮崎新之