こまつ座第152回公演『太鼓たたいて笛ふいて』|「若い世代にも観てほしい」大竹しのぶがそう願う理由とは

『放浪記』や『浮雲』など庶民の目線で名作を残し、2023年には生誕120年を迎えた林芙美子。井上ひさし作の『太鼓たたいて笛ふいて』は、戦中は従軍記者として活躍し、戦後は一転、反戦小説を書くようになった芙美子を中心に、戦中・戦後の日本を描いた物語で、栗山民也の演出のもと、初演の2002年に第10回読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞した。芙美子を演じるのは、同じく第10回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞した大竹しのぶ。初演以降、再演を重ねてきた本作。10年ぶりの再演となる今年は新たなキャストを迎えて上演する。大竹が取材会に応じ、作品にかける思いを語った。

「初演の時は毎晩、眠る前に“この芝居に出会わせてくれて、ありがとう”と夜空に向かって言っていました。井上ひさしさんが書いた言葉を、私たちの肉体を通して伝えていくのが役者の仕事であるということを深く理解できた戯曲でした。」と振り返る大竹。

こんなエピソードも明かした。「戦死したと思われていた夫が帰ってくる場面で、芙美子が『おかえりなさい』と夫に言うのですが、戯曲にはト書きで『全世界の愛を込めて』と書いてあるんです。その表現ができているか、いないかは別としても、兵隊さんが戦地でどんなにつらい思いをしてきたか、そんなことを思いながら、深い意味の『おかえりなさい』を言えるという、役者としての喜びも感じていました。」

そして、井上作品の魅力を次のように語った。「笑いと涙と、音楽、歌で物語が進むのですが、歌が本当に素晴らしくて。音楽とともにストーリーの中に入っていけるところが、この作品のすごいところだなと思います。」

上演を重ねるなかで、忘れられないカーテンコールがあった。「私たちがお客様に頭を下げていたら、一番前に座っていた高齢の男性が私たちに向かって深々とお辞儀をしてくださったので、私たちももう一回、その方に向かってお辞儀をしました。こんなふうに芝居を受け止めてくださるのかと、これが井上さんの芝居の力なんだと思いました。」

若い世代にも本作を見てほしいと切に願う。「日本がどういう歴史をたどって来たのか、知っておかなくてはいけないことを学べるというか。こう言うとすごく堅苦しいように思われるかもしれませんが、『知らなくちゃいけないことを知ろうぜ、みんな!』という気持ちです。知らなくてはいけないことの一つが、戦争だと思います。」

思わず口ずさみたくなる音楽に乗せて描かれる物語は、決して難しいものではないとも。「再演のとき、(出演していた)山崎 一さんのお子さんが小学校のお友達と4人ぐらいで観に来ていて。楽屋で井上さんが子どもたちに向かって『これは過去の話じゃないからね。10年後の日本の話だし、君たちの未来の話だから』と熱弁をふるっていて、子どもたちも熱心に聞いていたんですね。その後、井上先生はお亡くなりになったのですが、再再演で高校生になったその子たちが同じメンバーでまた観に来てくれて。『あの時、井上さんがおっしゃっていたことの意味がちょっとだけわかったような気がする』と言っていました。みんなで帰りに喫茶店に寄って、いろんな話をしたとも聞いて、すごく素敵だなと思いました。」

初演から22年の時が過ぎ、世界を取り巻く状況は大きく変わった。「だからこそ、この作品を上演したいと思いました。井上さんが命を削って作り出した作品のひとつなので、心を込めて演じたいです。」

新歌舞伎座は初登場となる大竹、次のように意欲を示した。「初めて新歌舞伎座の舞台に立つので、すごく楽しみにしています。大阪のお客様は『笑ってやるぞ』みたいな意気込みで客席に座ってくれるので、役者にとっては嬉しい地です。思いっきり笑って、思いっきり泣いてもらえる熱い芝居をしたいと思います。」

インタビュー・文/岩本 和子
撮影/高村 直希
※「高」の字は正しくは「はしご高」