劇団スーパー・エキセントリック・シアター「ニッポン狂騒時代~令和JAPANはビックリギョーテン有頂天~」稽古場レポート到着!

2024.10.15

©︎劇団スーパー・エキセントリック・シアター

劇団スーパー・エキセントリック・シアター創立45周年記念・第62回本公演『ニッポン狂騒時代~令和JAPANはビックリギョーテン有頂天~』が、10月17日(木)~27日(日)東京・サンシャイン劇場にて上演される(11月に神戸公演あり)。

三宅裕司、小倉久寛らを中心に、解り易くて誰もが楽しめるサービス精神旺盛な芝居を目指して創立された劇団スーパー・エキセントリック・シアター(以下、SET)は、アクション、ダンス、歌、笑いをふんだんに取り入れた“ミュージカル・アクション・コメディー”を旗印に掲げ、かつ社会に対しての警鐘を提示し続ける作風で演劇界の第一線を走り続け、今年45周年を迎えた。節目の年に上演される本作は、安保闘争に揺れる1960年代の日本を舞台に、アメリカンポップスの魅力に取り憑かれた若者と学生運動に明け暮れる若者たちの、恋と挫折の青春ストーリーとなっている。本番迫る稽古場を取材した。

この日は通し稽古が行われた。稽古場は、談笑している者、身体を動かしてウォーミングアップをする者、セリフをつぶやきながら確認する者、一人静かに集中力を高めている者、とそれぞれの過ごし方で総勢40名のキャストが通し稽古の開始を待っていて、リラックスした雰囲気とピリッとした緊張感とが交錯する独特の空気感に包まれていた。

舞台は、現代の街角から物語が始まる。永田耕一がおでん屋台の店主、田上ひろしが屋台の常連客として登場し、1979年の劇団創立時からのメンバーである2人が、未来に希望を持てず無気力な青年(辻大樹)や、いかにも現代っ子という雰囲気の若者たち(宮下幸生、鶴田彩)といった若い世代と対峙するという構図が、幅広い年代の俳優が所属する劇団の歴史を感じさせる幕開けにもなっている。

場面が変わり、時代は一気に1960年へ。当時を彩ったヒット曲が流れ、SETの作品の大きな柱となっている力強く安定感のある歌とダンスに乗せて、舞台上は華やかな雰囲気へとガラリと変化する。

サンキューレコード社長・山南征志郎(小倉久寛)の息子の寛治(長谷川慎也)は、邸宅で行われているパーティーの最中に新入りメイドの直美(山城屋理紗)と話をする中で、彼女の率直な言葉からヒントを得て、アメリカンポップスを日本語で歌う「カヴァーポップス」を思いつき、そうして手掛けた曲が大ヒットする。

©︎劇団スーパー・エキセントリック・シアター

時を同じくして、学生寮の一室には拓真(栗原功平)をリーダーに、安保闘争に情熱を傾ける学生たちが集まり、デモの計画を立てていた。

出演者は多いが、人数の多いシーンと少ないシーンのメリハリがあり、あまり説明的にならずに自然と各キャラクターの人物像が伝わってくるような見せ方になっているので、ストーリーをすんなりと理解することができる。そしてとにかく、一人ひとりが芸達者で客への見せ方、アピールの仕方を熟知しているため、各々の魅力が存分に堪能できる。美しい歌声に酔いしれたり、華麗なダンスに見入ったり、力強いアクションで手に汗を握ったり、個性的なキャラに笑ったり、楽しめるポイントが盛りだくさんだ。

本作のテーマの一つ、アメリカンポップスがふんだんにちりばめられたシーンでは、エヴァーグリーンな名曲が当時を知る世代にとっては懐かしく、若い世代にとっては新鮮に感じられることだろう。歌自慢の劇団員たちが、60年代の日本のミュージックシーンを牽引した実在の歌手を見事な歌唱力で演じているのも舞台効果として大きい。ダイナミックなダンスが楽曲を華やかにバックアップしていて見ごたえも十分だ。

一方、もう一つのテーマである学生運動の若者たちのシーンではアクションがたっぷりと楽しめる。出演者の野添義弘が技斗(アクション振付)も担当していて、自らもその身体能力の高さを披露している。舞台上から飛び出さんばかりの迫力満点のアクションからは、全身全霊で相手にぶつかっていく学生たちの熱気がリアルに伝わってくる。

社長役の小倉久寛とその秘書役の三宅裕司の2人のシーンはアドリブも交えながらの軽快な掛け合いが見られ、SETファンならずとも「待ってました!」と声をかけたくなる。本番の舞台で観客を前に2人がどのようなやりとりを見せてくれるのか期待が高まる。

アメリカンポップスと学生運動という、戦後すぐの日本の若者を象徴する2つの要素が絶妙に交錯していく脚本の妙が光る。戦勝国アメリカの自由で明るい「陽」に憧れ取り入れようとした寛治と、敗戦国であるという「陰」の事実から目をそらさずに日本のプライドと意地を忘れてはならないと憤る拓真の対比が鮮やかで、その2人に挟まれながら自分らしく生きようとする直美の存在感がより際立つ。

過去の事実を受け入れ、でも「あの頃はよかった」という懐古主義には決して陥らず、現代の若者の感性や価値観を認めながら、未来の日本への希望をみんなで抱いていこうよ、という観客へのエールにも感じられる本作。劇団創立メンバーから近年入団した若手まで、幅広い年代の劇団員が入り乱れながら一つの作品を構築していく様にもメッセージ性がある。歌にダンスにアクションに笑いに、と目の前で繰り広げられるエンターテインメントを大いに楽しみながら、現代社会にも思いを馳せることのできる格別な時間をぜひ劇場で体感してほしい。

取材・文=久田絢子