た組『ドードーが落下する』│加藤拓也 インタビュー

「ほとんど新作です」。
加藤拓也作・演出『ドードーが落下する』再演

加藤拓也が作・演出を務め、2022年に初演、第67回岸田國士戯曲賞を受賞した『ドードーが落下する』が、2025年に再演が決まった。劇団で再演を手掛けるのは本作が初めてとなる。長い時間をかけてひとつの作品に向き合うことになった加藤は再演のために「7割くらい脚本を書き直した」という。

「2022年の初演は、芸人である主人公の夏目と、その周りの人びとの両方からの視点で『夏目という人間』を描いていましたが、今回再演する改訂版では夏目の視点のみでシーンを再構築しています。改訂にあたり、再度『夏目から見える社会』を考える作業から始めて、前作では名前しか出てこなかったキャラクターを登場させました。同時に前作とは違う役割になったキャラクターもいます。大幅にカットするシーンもあった一方で、新しいシーンもかなり増えました。僕の体感だと、だいたい7割くらいを書き直したので、厳密に再演かと言われるとそうとはいえないかもしれません。でも、今回のように視点を変えて書くことで、より『ドードーが落下する』のテーマを深く掘る作業ができたと思っています」

初演から3年弱の時を経ての再演。加藤がこの作品を通して伝えたいことはどんなことなのか。

「『ドードーが落下する』は、職業が持つ秘匿性がひとつのテーマになっています。夏目の様子のおかしさや生きづらさを、はじめは周りの人たちも受け入れて、むしろそれを面白いと思っていたけれど、それが解けたときに、夏目は一気に社会の隅に追いやられてしまう。『君なら笑いに変えられる』、「お笑い芸人なんだから」と言われて、本人も周りも夏目の特徴を職業によって、透明化していた。問題を抱えている人は自分の周りにいない=社会にもそういう人はいない、と自分が見えていないものは社会に存在しないと思ってしまうように、本来見えているはずの問題も、職業の秘匿性によって見えていないかのように透明化されてしまう。今回の書き直しは、劇中で夏目の視点を多く描いているので、それが作品のひとつの大きなテーマになっています」

最後に読者の方へのメッセージをもらった。

「『書き直してよかった』と感じられる台本ができたと思っています。配役や美術も変わって、気持ちとしてはほとんど新作のつもりです。ぜひ楽しんでもらいたいです」

インタビュー・文/野口理恵
撮影/浦田大作

※構成/月刊ローチケ編集部 11月15日号より転載

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【プロフィール】

加藤拓也
■カトウ タクヤ
劇作家、演出家、映像作家として幅広く活動し、舞台、映画、テレビドラマなど数多くの作品を手がける。