オペラ初挑戦!柏木ひなたが『蝶々夫人』でみせる新境地
プッチーニ没後100年を記念し、リーディング・オペラ《op.2》『蝶々夫人』の上演が決定。長崎を舞台に没落藩士令嬢の蝶々さんとアメリカ海軍士官ピンカートンの悲恋を描いた名作で、今回はオペラ初心者にもわかりやすく楽しめるよう朗読形式で上演を行う。音楽は原作の楽曲に加え、本公演のためにアレンジ。箏(日本)、二胡(中国)、アコーディオン(西洋)を舞台上で生演奏し、多国文化が交わる明治時代の長崎を情緒豊かに再現していく。
ヒロインの蝶々夫人役を演じるのは、歌手で女優の柏木ひなた。「私立恵比寿中学」のメンバー時代に“令和のアイドルで厳選!スゴいボーカリスト10人”に選出され、グループ卒業後には「千鳥の鬼レンチャン」で鬼レンチャンを達成するなど圧倒的な歌唱力で知られる彼女が、初めてオペラに挑む。
ピンカートン役には『レ・ミゼラブル』など日本のミュージカル作品には欠かせない実力派でありテノール/バリトンの声楽家としても活躍する上原理生、長崎に住むアメリカ人を世話する領事シャープレス役にはヴォーカルグループ「LE VELVETS」(ル・ヴェルヴェッツ)の宮原浩暢が、そして蝶々夫人を支える女中のスズキ役には歌舞伎俳優の市川笑三郎が出演。
演出は声楽家であり『題名のない音楽会』等テレビでもお馴染みの彌勒忠史が手がけるなど、強力な布陣でプッチーニの普及の名作を今に甦らせる。
公演は2025年3月4日〜、東京、横須賀、大阪の3都市12公演を予定。開幕を前に、主演を務める柏木ひなたにインタビュー。本作への想いと現在の心境を聞いた。
――オペラ初挑戦ですね。出演が決まった今の心境をお聞かせください
オペラはこれまできちんと聴いたこともなければ歌ったこともなかったので、最初は正直どうしようって思いましたね。まずyouTubeに上がっている映像を見たんですけど、それが本格オペラ作品で、うわ、私がこれをやるんだ、これはヤバイ!という気持ちでした(笑)。
でも演出の彌勒さんに「不安しかなくて」と相談したら、「オペラではあるけれど、柏木さんのいつもの歌声は消したくない。柏木ひなたが演じる蝶々夫人をお客さまに見せられたらいいね」と言ってくださって、すごくほっとしました。オペラに寄り添いつつ、柏木ひなたが歌う蝶々夫人を作り上げられたらと思っています。
――台本を読んで、蝶々夫人というキャラクターにどんな印象を持ちましたか?
意思の強い女性だなっていうのはすごく感じました。彼女はまだ15歳だけど、いろいろきちんと考えているし、中身はすごく大人ですよね。あの歳で人をあれだけ好きになって、結婚をして、子どもまで産んで。自分とはちょっとかけ離れた人生だなって思います。ただ彼女は自分にすごく正直で、そこは私自身と通ずるところかもしれません。私も誰かを好きになるともう一切目移りしないし、とことん一途になっちゃうタイプなので。
――実際にオペラの楽曲を歌ってみて、手応えはいかがですか?
実は私は楽譜が読めなくて、そこでまず苦戦しました。楽譜と曲と歌詞を渡されたものの、歌詞が楽譜のどこにあたるのかよくわからなくて。これまでもミュージカルだったり歌のお仕事は多かったけれど、いつも音源を聴いて、覚えて、その音で歌ってきました。いわゆる耳コピです。絶対音感があるわけではないけれど、昔からよく地獄耳とは言われますね(笑)。
今回は音楽家の方が歌ってくださった曲を録音させてもらって、聴き込むところから始めました。まず音楽を頭にきちんと落とそうと思って、何回も聴き込んでいるけれど、自分が今まで歌ってきた音楽とは全く違って、やっぱりオペラは難しいですね。聴き込んで、ちょっと軽く歌ってみて、やっぱりきちんと歌えてないなと思ってまた聴き込んで。その繰り返しです。
一番難しいのはリズムの取り方。普段歌っている音楽はリズムがあったらそこにジャストに歌を乗せていくけれど、オペラの場合はリズムにジャストで合わせるよりも多少遅れた方がより楽曲の抑揚に乗っかれるところがあって。それに私自身、リズムに対してジャストで歌うより、気持ち遅めに取る方がちょっとグループ感が生まれる気がして好き。せっかくの機会なので、今回はオペラの歌い方にトライしてみようと思っています。
――楽曲に合わせて柔軟に歌い方を変えられるとは、さすがですね!
歌に関しては自信があるわけではないけれど、器用な方ではあると思っています。コントロールする力がついたのは、15歳のとき、難聴になったのがきっかけでした。ライブのときって両耳にインイヤーモニターをつけて歌うけど、片耳が聞こえにくくなってしまったので、もう一方の耳だけイヤモニを付けて歌うようにしていたんです。でもそうするとイヤモニをつけてない方の耳がいらない雑音を拾ってしまう。最初はすごく嫌だったけれど、次第に自分の中でスイッチの切り替えができるようになってきて。いらない音を頭の中でカットすることができたりと、流れてくる音を自分で操れるようになったんです。レーベルの人にも「そんなことできる人なんていないよ!」って驚かれましたけど(笑)。音楽をやっている身としては、難聴ってすごく辛いことだし、もちろん悔しい思いもいっぱいしたけど、そういう力が身に付いたということは、この音楽人生の中でとても大切な経験だったなって思います。
――公演は年明け2025年3月にスタート。柏木さんにとってはデビュー15周年の節目でもあります
2010年の2月にデビューしたので、ちょうど15年です。本当にありがたいですね。グループも卒業して、ソロにもなったし、15周年に何か自分にとって記念になることができないかなって考えていたところでした。長くお仕事をしていると新鮮な気持ちになることが少なくなってくるけれど、こうして初めてのことが目の前にあると、いろいろ勉強もしたくなるし、ちゃんとそれに向き合いたいなって思えてくる。今までやってきたことも大事だけど、新しいことに挑戦したいと考えていたところだったので、こうやって自分がやったことのない世界に足を踏み入れることができるのはうれしいし、すごく貴重な経験をさせていただけているなって思っています。
――ファンにとっても新鮮な姿が見られますね
そうですね。まずこの作品が決まったとき、「ひなたがオペラ!?」なんてファンのみんなもかなりざわついていて(笑)。私もソロになって2年目になりましたけど、グループのころからずっと応援してくださっているファンの方もいれば、新たな挑戦をすることでまたファンになってくださった方もたくさんいる。そして私自身の挑戦を自分以上に喜んでくださっている方もいると思うので、このリーティングオペラでまた新たな私を見て欲しいし、みなさんに楽しんでもらえたらとてもうれしいですね。