四十七都道府県制覇へ、中村勘九郎が恒例の全国巡業公演『錦秋特別公演』について語る!

中村勘九郎、中村七之助兄弟が、中村屋一門を率いて行っている恒例の全国巡業公演『錦秋特別公演』が、今年も全国各地14カ所で行われる。2005年から15年にわたって続けてきたこの巡業公演、今回は兄弟中心になってからは行けていなかった三県(栃木、茨城、三重)でも開催することとなり、これで四十七都道府県制覇が叶うという記念すべき公演でもある。

構成としては、まず勘九郎と七之助が歌舞伎について語るだけではなく観客からの質問にも気さくに答えるトークショー形式の“芸談”から始まり、そのあとで上演するのは、いずれも常磐津の舞踊である三演目。『艶紅曙接拙(いろもみじつぎきのふつつか)』、通称『紅翫(べにかん)』は小間物屋・紅翫に中村いてうが扮するほか、門弟一同が出演。続く『三ツ面子守(みつめんこもり)』をひとりで舞うのは、勘九郎・七之助の弟分である中村鶴松。おかめ、えびす、ひょっとこのお面を使いながらむずかる子供をあやす子守の娘を、鶴松がいかに器用に可憐に表現するかが注目どころだ。そして最後に、世界文化遺産にも登録されている三保の松原に伝わる有名な“天女の羽衣伝説”から生まれた能の『羽衣』を基とした『松廻羽衣(まつのはごろも)』。漁師・伯竜に勘九郎、天女に七之助が扮して、優美な舞を披露する。

7月上旬、この『錦秋特別公演2019』の合同取材会が行われ、現在も大河ドラマ『いだてん』に出演中の中村勘九郎が登壇。ここでは、その会見の様子をレポートするとともに、その後に行った独占インタビューの模様をご紹介する。

まずは勘九郎がこの巡業公演への想い、今回の演目についてを語った。
「この巡業公演のそもそものきっかけは地方に住む若い歌舞伎ファンの方から、なかなか歌舞伎を観に行く機会がないというお手紙をいただいたことでした。それから15年、続けさせていただくことによって、僕らだけでなく中村屋の面々もみんな年を追うごとに力をつけてくれて。今回は彼らだけで『紅翫』、鶴松もひとりで『三ツ面子守』という、歌舞伎の中でも重要な大曲を踊れるようにまでなり、大きな戦力になってくれています。彼らとともに、中村屋としてみなさまの前にいけることが大変うれしく思います。

そしてうれしいことに今回、栃木、茨城、三重に伺ったら四十七都道府県制覇となります。こんなことなかなかできないとも思いますから、うれしいですね。まだまだ歌舞伎を観たことがない方は大変多いので、こうして新しい場所に行くことによって、ひとりでも多くの方に歌舞伎を観ていただきたい。この公演がいいきっかけになれるように、一生懸命踊りたいです。

内容としては、まず『芸談』とありますけれどもこれは15年、ずっとやっているものです。初めて歌舞伎をご覧になるお客様がこの公演の場合は特に多いので、いきなり非現実な世界をお見せするのもいいのですが少しとっつきにくいものもありますから、最初は素顔でみなさまの前に出て、わかりやすく言えばトークショーを行うということですね。歌舞伎のことはもちろんですがプライベートのことなども含めて、お客様と直接顔を合わせていろいろ話すことによって、舞台上と客席の壁がここで一気になくなりますので(笑)。そのあとの演目を観ていただくための準備運動も兼ねて、毎年やらせていただいています。土地柄もあって、面白いんですよ。質問のある方は手を挙げてくださいというと、シャイな人ばかりな土地もあれば、みんなが積極的に挙げてくださるところもありますしね。お客様とそうやって交流ができることも、楽しみのひとつです。

『紅翫』は、うちは中村屋ですけれども母方は成駒屋でございまして、成駒屋のうちにとって大事な踊りがこの『紅翫』なんです。今回は小間物屋の紅翫を、いてうが踊ります。ほかにも朝顔売りがいたりして、賑やかな江戸の風物詩になっています。

『三ツ面子守』も、実は常磐津の大曲中の大曲でございまして。子守の踊りはたくさんございますけれども、これは名前の通り三つのお面をつけて、しかも子守として踊り分けなければいけないという、とても技術のいる踊りなんです。鶴松も24歳になり、昨今とても真面目に修業をしておりますので今回も稽古を重ねてしっかりと踊ってくれると思います。

そして最後は『松廻羽衣』。これは能の『羽衣』を題材とした格式高い踊りでございますが、天女と、その天女の羽衣を拾った漁師との伝説はとても有名ですからね。七之助が天女を、私が漁師を、やらせていただきます。ここのところ大河ドラマに出演している関係で歌舞伎からしばらく離れており、こうして二人でがっつり踊れるのは1年半ぶりくらいですから、私自身もとても楽しみにしております。

今回の演目は、すべて常磐津の舞踊でございます。最近は長唄の舞踊を披露させていただくことが多かったんですけれども、歌舞伎の踊りもジャンルがいろいろとあるんだということを、ぜひ全国のみなさまに知っていただきたいというのが、今回のコンセプトでもあります。常磐津の舞踊というのは、つまり浄瑠璃になるわけなので役者の心情や台詞を唄ったりしますから、どちらかというとオペラやミュージカルを観る感覚に近くなるかもしれませんね。そういう意味では台詞だけ、踊りだけではわかりにくいものも、それが混ざることによってすんなりお客様の心に届くこともあるのではないかなと思っています。

みんなで一生懸命体調管理をしながら、全国のみなさまにより良いものをお届けできたらなと考えています。どうぞ、よろしくお願いいたします。」

続いて行われた質疑応答では、栃木、茨城、三重に行けることの楽しみ(たとえば宇都宮では餃子を食べたいとか、そうやって各地で公演のあとにお店に寄ったりしていたら、この15年でお馴染みの店も増えてきた)や、巡業の最終日は熊本なので、この1年半演じてきた金栗四三のお墓参りをしたり、娘さんたちにお会いしてお礼を伝えることができるかもしれないのでうれしく思っているということ、初めて歌舞伎を観るお客さんへの想い(最初は何事も大事。観たものがつまらなかったらもういいやという気持ちになってしまうので、緊張感は常にある)、などが語られた。

そして会見の最後にはお客様へのメッセージとして「15年という節目でもありますし、私たち兄弟、そして中村屋にとってもとても大事な公演です。今は家から出ないでも何でもできる時代だというのに、わざわざ安くはないチケット代を払って会場まで足を運んでいただくからには、本当にいいものをやらなければいけないという想いでいっぱいです。もちろん、歌舞伎を何回も見たことある方にも、初めて観ようと思って来てくださる方にも、ひとりひとりの心に届くような舞台を務めたいと思います。難しいもの、自分にはわからないんじゃないかという先入観があるかもしれませんが、それでも観てよかったと思わせるのが役者の責任ですので、ぜひとも観たことを後悔させない公演にしたいと思っています」と、力強くコメントした。

この直後、ローソンチケットでは短い時間ながらも独占インタビューを敢行! 会見を無事に終えた勘九郎に、リラックスした雰囲気の中で現在もまだ撮影が続く大河ドラマ『いだてん』のこと、改めてこの巡業公演のことについて聞いた。

――NHK大河ドラマ『いだてん』は、まだ撮影が続いているとのことですが。

「だいぶ分量的には落ち着いてきました。ですが、金栗はずっと走っている人なので、ロケが多くてどうしても時間がかかるんですよね(笑)。もう食事制限はそれほどしなくなったものの、まだトレーニングは続けていて、今日もこの会見の前に海でひと走りしてきたところなんですよ。」


――こうして長い期間、映像の作品に関わって、歌舞伎から長く離れているというのももしかしたら生まれて初めての経験なのでは?

「そうですねえ。いや、前回出た大河ドラマの『新選組!』(2004年)以来、ですかね。あの時演じていた藤堂平助も、最後のほうまでずっと生きていたので。」


――でも今回は主人公ですし。

「まあ、確かに分量的には比べ物にはならないですね。」


――この新鮮な経験は、いずれ歌舞伎にフィードバックできそうですか?

「それは、どうでしょうね。だけどやっぱり、なんといっても全国区でしたから。『いだてん』で初めて僕のことを知った方の中には、歌舞伎役者だということを知らなかったとおっしゃる方も多いんですよ。そういう、歌舞伎をこれまで一切観たことがない方たちも、どんななんだろうと巡業公演を観に来てくださるかもしれませんし。そういう意味では、宝物のような経験ができたといえそうです。」


――そして今回の巡業公演では、常磐津の舞踊を中心とした構成にするとのことですが。たとえば歌舞伎の舞踊を観慣れない場合は、どういう心構えで観たらより楽しめると思われますか?

「やはり太夫さんが唄い、語ることを初めてですべて理解するのはなかなか難しいだろうと思います。ただ、『紅翫』も『三ツ面子守』も江戸の風物詩が盛りだくさんの、洒落っ気のある踊りですから。どちらも常磐津の魅力が全開ですし気軽に楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。ビジュアル的にも『紅翫』にはいろいろな物売りが出て来てとても賑やかですし、『三ツ面子守』も三つのお面を使って楽しく踊りますしね。それにしても、こんなに芸達者なベビーシッターがいたら誰もが雇いたくなるでしょうね(笑)。」

――確かに(笑)。そういう視点で楽しめたら、世界に入りやすいかもしれませんね。

「あとは、歌舞伎独特の魅力を楽しんでいただけたらと思います。普通は演目や役柄で観るものでしょうけど、歌舞伎の場合は役者を観に来るというのも、観方としてひとつありますから。だって、役を演じている最中に「中村屋!」とか「成駒屋!」と、屋号で呼ばれるんですよ。よく考えると、なかなかカオスの世界ですよね(笑)。だって、その役になりきっている本番中なのに。」


――本名を呼ばれて我に返るような?(笑)

「そうそう(笑)。そんな面白さも含めて、楽しんでいただければと思います。」


――やはり地方公演でも、そういう大向こうはかかるんですか。

「やはり、なかなかいないので、芸談の時に「チャレンジしてみてください」と言っているんです。そうすると、楽しんでやってくれますよ。芝居小屋の時はもちろん、今回のようなホール公演でも勇気のあるお客さんはいますから。だけど本当に、歌舞伎って不思議な演劇ですよね。」


――お客さんが舞台に向かって声をかけるなんて、他にあまりないかもしれません

「アイドルのコールみたいなものですね(笑)。」


――今回もありそうですか? 舞踊だとかけづらいような気もしますが

「その点は芸談の時に、声をかけるタイミングをちゃんと説明するので大丈夫です。」

――『羽衣』については、どこにポイントを置いて観てほしいと思われていますか?

「これは男女のストーリーとはいえ、ちょっと変わっていて、天女と、その羽衣を拾った漁師とのお話です。この羽衣伝説自体は、若い方はみなさんご存知かどうかわからないですけど。」


――でも、とても有名なお話ですよね。三保の松原は世界遺産になった場所でもありますし。

「そうですよね。そんなお馴染みのお話が、常磐津の舞踊になるとこういう風に見えるんだというところを、楽しんでいただければいいなと思いますね。」


――この上なく美しい舞が観られそうで、とても楽しみです。

「そこを、ぜひ目指したいです(笑)。」


――この忙しい日程の中で、公演中の楽しみというと?

「日程的にあまりゆっくりはできないですけどね。でも、やはり芸談の時にその土地の方たちとじかに触れあえるというのが、なかなかできないことなので楽しみです。質問コーナーでは美味しいお店を教えてもらったりもできますしね(笑)。」

――特に、印象に残っている質問ってありますか?

「最近だと一番多いのは「七之助さんはいつ結婚するんですか?」という質問ですね(笑)。どこにいっても、70%くらいの確率で質問されます。」


――七之助さんは、そのたびにお答えになるんですか?

「「いつもこの質問をされます」って、言って笑っていますよ。でももう36歳ですから、そろそろみなさんも「この人はもう結婚しない人なのかも」とあきらめの時期に入るかもしれませんね(笑)。」


――では最後に、ローソンチケットのお客様に向けてメッセージをいただけますか?

「なんといってもローソンさんは、僕の大好きな欅坂46とコラボしてキャンペーンをしていますからね! 特に、僕が坂道グループ推しだとご存知の方はぜひともローソンでチケットをお求めください!!(笑)」

 

取材・文/田中里津子