舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』囲み取材&ゲネプロレポート

舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』が1/11(金)、東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて開幕した。
原作はシリーズ累計580万部を突破した香月日輪よる児童文学。2011年には漫画家・深山和香によってコミック化、2017年にはアニメ版が放送され、魅力あるキャラクターと人情味あふれるストーリー展開で、今なお新たなファンを増やし続けている。舞台版の脚本には、脚本家・演出家として注目が集まる気鋭の谷碧仁。演出を、劇団「エムキチビート」を主宰する期待の若手演出家・元吉庸泰が務める。

初日前日、前山剛久、小松準弥、佐伯亮、谷佳樹の4名が登壇して意気込みを語った囲み取材と、ゲネプロの模様をレポートする。

――この作品の見どころを教えてください。

前山「小説・漫画・アニメと展開されている作品ですが、舞台版では内面を深く掘り下げています。登場人物の関係性や考えていることが丁寧に描かれているのでそこにぜひ注目していただきたいです」

 

――前山さんが座長として意識したことはありますか。

前山「座長だといつも引っ張らないといけないと思っていましたが、今回はみんなに支えてもらったという印象の方が強いです。夕士と同じようにみんなに導いてもらいました」

――長谷は原作とは異なる登場の仕方をしていますが、他の登場人物との関係性はいかがですか。

小松「物語は手紙のやりとりを元に稲葉の過去を一緒に観ていく形で進んでいきます。そのため、みんなからは僕が演じる長谷は見えていないが、長谷には見えている状態。稲葉が成長していく中で、稲葉は誰から何を受け取って、どう感じているのかを特に意識して稽古をしてきました。稲葉を中心に見つつ、いろんな人の話や思っていることをどれだけ受け取れるかをしっかりと考えながら演じたいです」

――龍さんは人間だけでなく妖怪からも一目置かれる存在ですが、演じるにあたって難しかった点や意識した点はありますか。

佐伯「龍さんと僕が似ているところが非常に少なかったので、どのように演じればよいか悩みました。夕士が現状に満足しておらず、自分の居場所もないという悩みが分かっていて、こうしたほうがいいんじゃない?という選択肢を与える役どころ。夕士を導くための道筋を作っていくのがすごく大変でしたが、龍さんの厳しさの中にある優しさや、信じて見守ってあげる優しさを演じながら感じることができました」

――黎明は夕士にとって妖怪アパートの中で頼りになる先輩的存在ですが、お2人の関係はいかがですか。

「前ちゃんとは今回が2年ぶりの共演になります。最初は久しぶりすぎて探り合っている感もありましたが、稽古が進むにつれて感覚が戻ってきて、お互いにやりたいことをやってから調整していくというのを日々繰り返していました。この前、みんなでごはん行った時、2人でボソッと『お互いちょっとずつ成長してるね』と言い合ってました(笑)」

前山「ありがとうございます!佳樹もいろんな作品を経験する中で成長しているのを感じましたし、今回さらに距離感が近くなったので、その関係性が芝居にも出ていると思います」

――稽古場の雰囲気はいかがでしたか。

全員「最高ですね!」

前山「毎日ワークショップで絵を描いて、お題を表現するゲームをしていました。気負いせず、のびのびと自分がやりたい芝居を出していって、そこから取捨選択していくという現場でした」

 

――最後にお客様へのメッセージをお願いします。

前山「この作品を観て一番考えるのは『普通とは何か』。僕にとっての普通とみなさんにとっての普通は絶対違いますし、それぞれに答えが違うというのを理解するのは難しい。その中で、自分と相手それぞれが持つ“普通”の境界線を踏み越えていく勇気をもらえる作品だと思います。ぜひこの作品を通して『普通とは何か』考えてみてください」

 

【ゲネプロレポート】
物語は、稲葉夕士(前山剛久)と親友の長谷泉貴(小松準弥)が河川敷で喧嘩するシーンから始まる。
三年前に両親が他界し、伯父の家に引き取られた夕士は、高校からは寮に入り自立する予定だったが、寮が火事で焼けてしまう。
伯父の家には自分の居場所がないと感じた夕士が探し出したのは、家賃2万5千円(!)という破格物件。しかしそこは、画家、除霊師、霊能力者という個性豊かなメンバーに加え、幽霊や妖怪も一緒に生活する“妖怪アパート”「寿荘」だった。そこで出会った詩人であり童話作家の一色黎明(谷佳樹)は常に優しい笑顔で夕士を見守る。物腰柔らかく接するが、的を得た発言をすることも多く、谷の表情と声色の変化にはぜひ注目していただきたい。

「寿荘」には、幽霊でありながら普通のサラリーマンとして働く佐藤さん(相川春樹)、迷い込んできた悪霊を退治した元気はつらつな女の子、除霊師の久賀秋音(中村裕香里)、喧嘩とお酒が大好きな深瀬明(佐々木崇)、謎なものを売りつけてくる胡散臭さ満点の骨董屋(細見大輔)ほか、個性豊かなメンバーが住まう。自分が考える“普通”とはかけ離れた事態が次々と起こり、その一つ一つに驚愕し、困惑する夕士。
そこに現れたのが、霊能力者・龍さん(佐伯亮)。妖怪アパートのみんなが一目置く存在だけあり、登場した瞬間、舞台上の空気がガラリと変わる。囲み取材で佐伯が語っていたように「龍さんの厳しさの中にある優しさや、信じて見守ってあげる優しさ」が言葉の端々から伝わってくる。
妖怪アパートでのほのぼのとした生活の中で、夕士は自分が無くしていたものに気づき、徐々に取り戻していく。住人同士の会話には、夕士だけでなく我々の胸にも刺さる言葉が数多く散りばめられている。

そんな夕士の姿を手紙を通して、見ているのが親友の長谷。ほとんどの場面で舞台上にいながらも、夕士以外と会話をすることはない。夕士の心情の変化をどのように捉え、どのような言葉を発するのか、小松の演技からも目が離せない。
舞台上で繰り広げられる心温まる日常のエピソードとは対照的に、子供の幽霊クリ(荒井悠/猪股怜生[Wキャスト] ※ゲネプロは猪股が演じる)と母親のシーンは思わず息をのむ。クリが幽霊となった背景と死してボロボロの姿となってなおクリを追い続ける母親、そしてクリの母親に向かって叫ぶ夕士の姿には心が締め付けられる。

やがて寮が再建され、「立派な大人として生きていくんだ!」と意気揚々と寿荘を出る夕士だったが、そこで待ち受けていたのは、事務的な食堂の兄ちゃん、会話をしない部屋の同居人、困っている1年生を見向きもせずに歩いていく姿。それは夕士が思い描いていた日常とはかけ離れたものだった。その後、夕士は寿荘へ向かうが、声をかけても住民たちからの返事はなく――。

自分にとって何が“普通”で、何が“日常”なのか。
ぜひ劇場でこの作品を観て、自分にとっての“普通”について考えていただきたい。

1/27(日)まで東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAにて上演。チケットは好評発売中。

取材・文・写真/ローソンチケット