
鈴木勝吾&平野良がW主演を務める「ミュージカル『憂国のモリアーティ』」(以下モリミュ)が再始動。2020年に上演された「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.2 -大英帝国の醜聞-」を、W主演はそのままに新たなキャストとともに「ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Reprise(リプリーズ)」として再構成し、2025年5月に上演する。
今作から出演となる佐々木崇はセバスチャン・モランを、横山賀三はフレッド・ポーロックを演じる。「試行錯誤の毎日」と語る稽古中の2人に、モリミュへの思いや役作りのこだわり、モリアーティ陣営の稽古場での雰囲気などをたっぷり語ってもらった。
――まずはモリミュへの出演が決まった際の心境、そして作品への印象を教えてください。
横山 めちゃくちゃ嬉しかったです! 同時に、長年愛されてきた作品でもあるので、プレッシャーももちろんありましたが、新たに生まれるモリミュに携われることへのワクワク感がすごく大きかったです。出演のお話をいただいてから原作漫画を読んで、公演映像を拝見したんですが、「わっ! めっちゃミュージカルだ!」って思いました(笑)。
佐々木 アハハ。わかるよその気持ち。
横山 原作から舞台を想像すると、こんなに歌で表現するとは思っていなくて。しかも曲調が、ミュージカル作品であまり触れたことのない雰囲気で。「これは役者が歌うのがめちゃくちゃ大変なやつだ!」と思いながら観ていました(笑)。すごく印象的だったのが、見終わったあとに、曲が頭から離れないんですよね。西森さん(演出・脚本の西森英行)が稽古開始時に「2.5次元というジャンルとも、グランドミュージカルという枠とも違う、新しいものを創りたい」とお話されていて。それを聞いたときに、初めて観たときの感覚がすごく腑に落ちたんです。新しいエンタメを届けるという意気込みに触れて、僕自身もすごくワクワクしながら稽古に臨んでいます。
佐々木 僕は作品を初めて知ったのが、SNSで流れてきたダイジェスト映像で。どこをとってもレベルが高い作品であることに衝撃を受けたんです。なので、出演が決まったときはすごく嬉しかった。反面、再構成という形なので、自分たちなりのものを作りたいと思いつつも、長く愛されてきた作品ならではのプレッシャーもすごく感じました。
――「歌うのが大変そう」という言葉もありましたが、そのあたりは実際に稽古をしてみてどう感じていますか。
佐々木 シャーロックとウィリアムの、普通の人間を凌駕した存在感が楽曲にも示されていて、それを僕たちが歌いこなさなくちゃいけないという部分は大変だなと。でも、お芝居に寄ってくださっている楽曲が多いので、歌の中でストーリーが心地いいテンポ感で進んでいく。そこが観ていて楽しいと思います。まあ、これを演じるとなるとなかなか大変なんですが(苦笑)。歌唱指導の(水野)里香さんからも言われるんです。「歌っているだけだとダメ、伝わらない」と。
横山 歌詞が喋り言葉とは違って、詩的な表現のものも多くて。そういったものを生かすためにも、本当に技量が必要なんですよね。
佐々木 僕たちからすると、曲を読み解くことが謎解きみたいになってるよね。
横山 本当にそうです!
佐々木 みんなで顔を突き合わせて「よく考えてみよう、ここにヒントがあるよ」みたいな(笑)。まだ謎解きの段階ではあるんですが、そういう作業をして歌詞が腑に落ちたとき、“伝える歌”になるんですよ。そういう瞬間が、最近は稽古場でも度々生まれていて、やっと理想形が見えてきたかなと感じていますね。

――稽古も佳境です。それぞれどんなモラン、フレッドが生まれつつありますか?
横山 フレッドの印象として、感情がわかりやすく顔や行動に出ないのが特徴かなと思っていて。でも、内に秘めた「弱い人を助けたい」っていう思いは、モリアーティ家の皆さんにも、誰にも負けないぐらい強いものがあると思うんです。それを持ったまま“静”でいる、というのを演じたいなと思っているんですが、難しいですね。舞台上の表現として、フレッドの静かな熱い気持ちを届けるにはどうしたらいいか、試行錯誤しているところです。
佐々木 セバスチャン・モランは素直に話すタイプではないんですが、モリアーティチームの中でも年上で、軍人時代は隊長をやっていた経験もあるので、意外と周りを見ている人だなと感じています。なので、チーム内でもダントツで若い賀三が自分なりに悩んでいるときに、僕はどういう手助けができるのかなと。僕ら自身の関係って芝居に出ると思うし、むしろこの作品はそれを出せる作品だと思うので、僕自身として、そしてモランとして、周りとの接し方を考えているところです。あと、モランはとにかくかっこいい!
横山 たしかに!
佐々木 生死をくぐり抜けてきた人間だからこその雰囲気や言葉を出せるようになるっていうところを、ゴールにしたいなと思っています。
――お互いの芝居を見ていて、好きだなと思うところはどんなところでしょうか。
横山 僕はお芝居中に困ったときは、モランさんを見るようにしています(笑)。
佐々木 おお、いいぜ。頼りな!
横山 佐々木さんのお人柄もあって、目が合うと落ち着く安心感があるんですよね。フレッドとしては、モリアーティチームのなかで一番心を許している存在がモランさんなのかなと思っていて。僕はウィリアムさんがそうなるように仕組んだのかなって思うんです。フレッドの人柄とモランの人柄を見たうえで、ウィリアムさんが2人で一緒にいるように仕向けてくれているってことは、やっぱりフレッドにとってモランは気が許せる相手なんだろうと。だから、一緒にいて落ち着けるし、言葉がなくても通じあえるものがあるのかなって思うし、そういうところをこれからの稽古でもっと見つけていきたいなと思っています。
佐々木 僕が最初に思ったのは、この難しいといわれる楽曲を、最初に一緒に歌う時点で完璧に歌っていてすごいなと。かなり難しいパートを任されているんですけど、それもしっかり準備して稽古に持ってきていて、そういうところはまず役者として尊敬しています。
横山 ありがとうございます(照)。
佐々木 今、いくつだっけ?
横山 22歳です。
佐々木 22歳ですよ! 僕がその年の頃は、まだ俳優でもない普通の大学生でしたからね。当時の僕が彼のようにできるかといったら、すごく難しいと思います。賀三はさっき悩んでいると言っていましたが、そうやって全力で向き合って稽古場に自分なりの答えを持ってくるところがすごいし、好きなところです。モランとフレッドって、ウィリアムからの仕事がないときは屋敷の掃除とかをしなくちゃいけない。原作でも意外とざっくばらんな関係性なんですよね。だから、「僕がふざけるから年齢差とか気にしないでツッコんでいいんだよ」と言ったら、ちゃんと「モランさん、ちゃんとしてください」って言ってくれて(笑)。これからそういう関係値を作っていけるのが楽しみですね。
――すでにすごくいい雰囲気で稽古進んでいることが伝わってきます。モリアーティチームの雰囲気はいかがですか。
横山 やっぱり中心にウィリアムさんがいてくれて。お芝居がちょっと硬くなっちゃっているときとか、自然と勝吾くん(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役の鈴木勝吾)が柔らかいお芝居を持ってきて一気に空気を変えてくれるんです。それを受け取らなきゃと思わせてくれるので、本当にウィリアムさんが背中で語って引っ張ってくれている。そこについていこうという熱意が全員すごく高いので、これを積み重ねていったら、一体感のある新しいモリアーティチームが生まれるんじゃないかなという予感がしています。
佐々木 作品の核となるシャーロックとウィリアムの芝居が確立していて、2人がすでにそこに“生きている”。だからこそ、僕たちも「じゃあこうしよう」と試せることが多くてありがたいです。チームとしては、智紀(アルバート・ジェームズ・モリアーティ役の廣瀬智紀)は天然なんですよ。
横山 おもしろい方ですよね。
佐々木 そうそう。ヒロキ(ルイス・ジェームズ・モリアーティ役の百名ヒロキ)も一見するとクールでいい声で喋るんだけど、たまに「(高音で)あ~~~」みたいな、不思議な声をポンと出すし(笑)。
横山 「いまの誰の声!?」みたいな(笑)。
佐々木 もともとの資質が合うメンバーが揃っているので、一緒にやっていて楽しいですね。

――チームの中心となっている鈴木さんとのやりとりで印象的だったことはありますか。
横山 いままでがこうだったからという考えではなく、僕たちから生まれるものを大切にしようと考えてくれているのをすごく感じています。だからこそ、自分だから表現できるものを、もっともっと出さなきゃいけないなと、いい意味の緊張感も感じています。
佐々木 勝吾はモリミュの前の作品で共演していて、そこでも話していたのですが、信念として「全てのキャストは平等である」という思いが強い。それは良さん(シャーロック・ホームズ役の平野良)を見ていても感じますし、続投キャストである2人がこの座組でのベストを目指して新しいものを生んでいく姿に、刺激をもらっています。
――そんなチームのなかで、お二人の関係性はいかがですか。
佐々木 賀三は稽古場で台本と向き合って真面目に考えている時間が多いから、喋りかけて邪魔しちゃ悪いかなと思うことが多いですね。ちょっと話しかけにくい(笑)。
横山 ええ!? そんなぁ。話しかけてくださいよ(笑)。
佐々木 そう? この前もずっと台本とにらめっこしてたじゃない。あれは何を考えていたの?
横山 あのときは、佐々木さんから役作りのヒントをたくさんもらったので、そのことを考えていました。僕は悩むと視野が狭くなっちゃうんです。そういうとき、佐々木さんが「フレッドはどういう気持ちでここにいると思う?」とか、新しい視点をくれるので、ちゃんと考えようと思って。
佐々木 じゃああのときは話しかけなくて正解だったね。自分で整理して考える、というのは役者にとって大事な時間だから。でも、もう少ししたら、いろいろ遊びも入れていきたいよね。モランとフレッドの掛け合いとか。
横山 そうですね。でもすでにちょっとやってますよね。はじっこの方でフレッドのことを「俺の弟子」って女の子に紹介したり(笑)。おもしろくて笑いそうになること、けっこうあります。
佐々木 あったね。「こいつ口下手なんで話してやってよ」って(笑)。そういうシーンはあまり多くは入れられないと思うんですが、原作を読んでいても彼らの日常が垣間見えるような瞬間も描かれているので、そういったやりとりも入れられたらおもしろいのかなって思っています。
――音楽の力も非常に大きな作品です。お気に入りの楽曲を教えてください。
横山 新曲が何曲かあるんですが、そのなかでもフレッドとモランとルイスの3人の新曲がお気に入りです。でも僕としてはこの曲が一番難しくて…。1人じゃなくて3人で歌うからこその熱量やハーモニーを出さなきゃいけない。情熱的に歌ったり、繊細に歌ったりと試行錯誤したあとに、いったん全部忘れて自分なりの感情で歌ったときに、めちゃくちゃしっくりきたんですよ!
佐々木 あれよかったよね。
横山 「ああこれか」という感覚があって。そういう瞬間を残りの稽古期間で積み重ねていきたいなと思っています。
佐々木 僕は最初に世界観を提示するテーマ曲がお気に入りです。かっこいいですしね。あと、音楽でいうと生演奏というのが大きい。(音楽の)ただすけさんも「演奏がこうくるから歌う」じゃなくて、自分から「こう歌いたい」というのを持ってきてと何度もおっしゃっていて。歌い手に任されている部分が大きいのがこの作品の特徴だなと感じています。あと、中盤にある列車の曲が好きすぎて。
横山 わかります! めちゃくちゃいいですよね。
佐々木 聴いているだけで楽しくて。そういう楽曲があるのもミュージカル作品として大きな魅力だなと思います。
――作品の全体像も見えつつあるかと思います。モリミュという作品はお二人にとってどんな作品になりそうですか。
佐々木 枠にあてはまらない作品を目指すという自由がある。だからこそ責任があるというか。どこまでもおもしろくもできるし、僕らが「これくらいだよね」と思ってしまったらそこで止まってしまう。そんななかで上を目指しながら1シーンずつ作り込んでいっているので、この作品でしか味わえない経験が、役者としても今後の糧になるんだろうなと感じています。
横山 楽しいとか悲しいとか一つの言葉で言い表せない、深くて折り重なった感情が、フレッドはすごく多いんです。だからこそ、繊細に丁寧に向き合わないと表現できない。それはお芝居でもそうですし、歌でも表現できないといけない。そういう役に出会えたことが大きな財産ですし、今後の役者人生を考えたときに、モリミュはすでに大事な存在になっています。

――では最後に、ファンへのメッセージをお願いします。
横山 作品に触れて、「正義の正解ってなんだろう」ってすごく考えさせられました。例えばフレッドは、きっと多少の罪悪感を抱えながらも、悪を滅ぼす悪になるという強い正義を持って戦っている。それも一つの正解だし、きっと作品を観る人がそれぞれに自分なりの正義を考えるきっかけになるんじゃないかと思うんです。自分が作品に触れて感じたものを観る人にも感じてもらえたら、きっとモリミュの世界が伝わったということだと思うので、しっかり届けられるように情熱を持って演じていきたいです。ぜひ楽しみにしていてください!
佐々木 それぞれが自分の正義に向かっていく姿というものが至るところで描かれる作品です。そこも見どころですし、楽曲も聴いたことのないようなハーモニーを楽しんでもらえると思います。それにダークヒーローとしてのかっこよさもある。僕たちが自分たちの大義に向かっていく様が、何かしら皆さまにエネルギーとして届けられたらと思っています。疲れた人も、楽しみたい人も、なにかに悩んでいる人も、皆さんに観ていただきたい作品になっていますので、ぜひよろしくお願いいたします。
取材・撮影/双海しお
【プロフィール】
佐々木崇
■ササキ タカシ
ミュージカルを中心に活躍。主な出演作に、ミュージカル『エリザベート』、ミュージカル『新テニスの王子様』シリーズや舞台『刀剣乱舞』など。
横山賀三
■ヨコヤマ カザン
舞台、ミュージカルを中心に活躍。主な出演作に、ミュージカル『ライオンキング』、ミュージカル『ニュージーズ』、舞台『川越ボーイズ・シング』、ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズンなど。