ミュージカル『薄桜鬼 真改』藤堂平助 篇│樋口裕太 インタビュー

シリーズ最新作、ミュージカル『薄桜鬼 真改』藤堂平助 篇が6月に開幕。タイトルロール・藤堂平助を演じるのは、同役を演じて8年目となる樋口裕太だ。長く「薄ミュ」カンパニーを支えてきた樋口は、念願の「藤堂篇」を前にどんな思いを抱いているのか。稽古が佳境に差し掛かる中、「真改 藤堂篇」への思いをたっぷりと語ってもらった。

――先ほど「稽古はすごく順調」とお聞きしました。ご自身の手応えはいかがですか。

そうなんですよ! 怖いぐらい順調で、いつもは(稽古終盤の)この時期ってそんなに余裕がないんですが、今回はもう1幕も2幕も通せていて。余裕がある分、僕としては気を緩めないように自分を追い詰めるようにしています。
手応えでいうと、細かいところはもっと詰めなきゃいけないと思いますが、全体的に見るとかなりいいんじゃないかな。このカンパニーは各々が自分たちでできちゃうカンパニーなんですよね。なので、あとはもう仲間を信じて、僕は僕のやることをやろうかなと思っています。

――藤堂を演じて8年目になりますが、「真改 藤堂篇」での藤堂を実際に演じてみて、稽古前に想像していたものとの違いはありましたか?  新たに発見したことがあれば教えてください。

新たな発見ばっかりなんですよ。というのも、僕が長年演じてきた平助って、西田さん(前脚本・演出の西田大輔)が手掛けていたときの平助で。西田さんは平助の強い部分を引き出してくれていたんですよ。だけど、毛利さん(脚本・演出の毛利亘宏)は平助の弱い部分を引き出してくれる。だから、僕としてはこの作品で、強い部分も持っているし、弱い部分もある、完全体の藤堂平助が出せるんじゃないのかなと思っています。

――役作りでも、藤堂の弱さと強さの両方に向き合う、というアプローチだったのでしょうか。

どちらかというと、今回は平助の弱い部分が全面に出ていて、平助はすごく悩むんです。いつもだったら「千鶴を守りたい」と思うんですが、今回の平助は自分の道を進みたいという悩みがあって、千鶴を守っている余裕がないというか。逆に千鶴が平助を追いかけてくれるので、そんな中で2人の矢印がどういうきっかけで同じ方向を向くのか、というところを考えて演じています。

――以前の取材で、毛利さんとはお互いに持っている藤堂平助像が合致しているというお話をされていました。稽古場では毛利さんと役作りについてどんなお話をされていますか。

それがあんまり話してないんですよ(笑)。初めてのシーン稽古で僕が演じてみたら、毛利さんは「そのままでオッケー」ということが多くて、僕も本当にびっくりしています。その場で感じたままに演じても、毛利さんは何も言ってくれないから、「本当にこれでいいの!?」ってちょっと半信半疑ですよ(苦笑)。でも、毛利さんは千鶴とのやりとりがすごくキュンキュンするって言ってくれたので、毛利さんに刺さるお芝居はできているんだと思います。

――千鶴役の岡田真祐子さんについてお伺いします。稽古を通じてどんな印象を抱かれていますか。

自然に出るかわいさをすごく感じています。かわいさ以外にも、自然に出たものがすごくいいな、光っているなと思うことが多いです。あとは目ですね。まゆちゃん(岡田)がたまに見せる強い眼差しに、平助として心を動かされていて。僕としては、その眼差しを引き出せるようにお芝居をしていけたらなと思っています。

――岡田さんとお芝居について話し合うことはありますか。

僕は“感覚人間”なので、事前に決めておくのが好きじゃなくて。その瞬間の感情や生を大事にしたいので、まゆちゃんともその時々に生まれるやり取りを楽しみながらお芝居しています。僕だけじゃなくてこのカンパニーって感覚派が多いので、もしかしたら彼女は動揺しているかもしれませんが(苦笑)。でも、初めての「薄ミュ」だからこそ感じるものがあると思うので、それを吸収してのびのびと演じてもらえたらいいなと思っています。

――見どころは多数あると思いますが、その中でも樋口さんのお気に入りのシーン、ぜひ注目してほしいポイントを教えてください。

やっぱり山南さん(輝馬演じる山南敬助)とのシーンですかね。以前の取材でも「山南篇」と「藤堂篇」は表裏一体という話をさせていただいたのですが、きっと本作を観る前に「山南篇」を観るという方も多いと思います。そんな方はぜひ、2人が対峙して戦うシーンに注目してほしいですね。具体的にはぜひ劇場で観ていただきたいのですが、2人の殺陣の中で「山南篇」からの伏線が回収される“ある形”があって。僕としては、山南さんと平助の関係性のフィナーレにも感じているシーンで、ここはぜひ観てもらいたい!
輝馬くんとの殺陣はお互いにガチで斬りあっています。音楽も流れて手が決まってはいるんですが、お互いに本気なのであえてタイミングをズラして斬りかかることもあって、アドリブかのような戦いを楽しんでもらえると思います。あとは、輝馬くんが山南さんを今までとは全く違う演じ方をしているんですよ。殺気立っていて本当に怖いんですが、そこもぜひ注目してもらいたいです。

――以前、座長ということを意識せずいつも通りに稽古できたらとおっしゃっていました。実際に稽古が始まってみていかがですか。

いつも通りにしているつもりですが、やっぱり自分の千鶴がいるっていうのは緊張しますね。しかも、川上将大(原田左之助役)っていう邪魔する人がいるんですよ(笑)! 千鶴との恋愛的なシーンになると、わざわざ演出卓の後ろに立って、腕組みしながら観てくるんです。もうそれが本当にやりづらくて、いつも邪魔だなって思っています。僕もこれまで将大くんと同じ邪魔する側だったので、反省しました(苦笑)。

――おなじみの顔ぶれが揃うカンパニーということで、仲の良さもばっちりですね。ほかに稽古でおもしろいエピソード、印象的な出来事があれば教えてください。

印象的というと、くぼひでさん(土方歳三役の久保田秀敏)と輝馬くんがいることですね。2人とも過去に座長を経験して、“誠”を背負い終わっているので、どこか解放された気持ちがあるんでしょうね。ずっとニコニコしていて、「お前に託したぞ、頑張ってくれよ」みたいな顔を向けてくるんですよ。それを見て、僕もはやくライブ(2025年冬に開催予定の「薄ミュ」ライブ第4弾)やりたいなって思いました(笑)。
でも、あの2人がどれだけのものを背負って、どんな思いをこの作品にぶつけてきたのかっていうのは、今回座長になってみてひしひしと感じています。改めて、「薄ミュ」の座長ってすごいなって思いますね。

――やはり座長として見る景色は違っていますか?

後ろを向いたときに、みんながいるわけじゃないですか。その瞬間、責任感の大きさを感じます。ここにいるみんなを引っ張る座長って、相当な力がないと無理なんだなって思いましたね。でも、僕はとにかくみんなに助けられています。稽古中もそうですし、しんどいときもみんなが士気高く引っ張り上げてくれる。だから僕はそれに負けないように、そして僕が先陣を切ることでみんなに着いてきてもらえるように、ただただ全力でやっています。

――長年出演してきたシリーズです。改めてこの「真改 藤堂篇」をひとことで表すと?

“絆”ですね。結局、平助は1人じゃ生きていけないんです。迷いもするし、自分1人で頑張ろうとするけど、みんながいないと平助はダメなんですよ。それは新選組だけに限らず、鬼もそうで、全部が絆でつながっていたからこそ、最後に山南さんのもとにたどり着ける。もちろん、山南さんとの間にも絆があって、この絆がすごく重要だなと思っています。

――では、役者・樋口裕太にとって、このタイミングで「真改 藤堂篇」を演じることの意味をどう捉えていますか。

なんだろうなぁ。でも、今でよかったなって思っています。これが23、24歳のときだったら、若さと勢いで乗り切って「俺、かっけぇ!」となっていただけかもしれません(笑)。
いろんな場所で刺激をもらって、周りへの感謝を知っている今だからこそ、「自分が」ではなく「みんなで」この作品をやりきりたい。「みんなで笑顔で終わらせようぜ」って思えるのは、このタイミングだからでしょうね。ただ、年齢面でいえば、体力的には本当にギリだったと思います(笑)。平助は本当に動きが多いし速いので。
でも、今の稽古は全然疲れてないんですよ。演じていて、こんなに楽しいことないなって思えるので。本番を迎えるのが待ち遠しいです。

――最後に意気込み、ファンへのメッセージをお願いします。

今回は4月ではなく6月の上演で、劇場の外に桜は咲いていませんが、ミュージカル『薄桜鬼』でもう一度春を感じてもらえたらと思います。僕たちのすべてを掛けて挑む「真改 藤堂篇」、ぜひ僕たちの熱量や仲間との絆を劇場に観にきてください!

取材・文/双海しお