
ⒸATLUS. Ⓒ SEGA./PERSONA3 Lunation the Act 2025
アトラスの名作RPG『ペルソナ3』を原作とした舞台『PERSONA3 Lunation the Act』が7月6日(日)に開幕。『ペルソナ3』は過去に「Masquerade」シリーズとして歌唱シーンたっぷりにその世界観を表現する舞台版が上演されたが、本作はキャスト・構成を一新しての舞台化。原作愛たっぷりの座長・梅津瑞樹を筆頭に実力派キャストが揃い、東京ドームシティ シアターGロッソにて開幕した本作のゲネプロ及び開幕前コメントをお届けする。
スタイリッシュな演出と熱い殺陣が交差する、体感型アトラクション演劇
天井が高いシアターGロッソの特性を存分に活かした大胆なプロジェクションマッピングと原作音楽、そして高い解像度のもと演じられるキャラクターたちによって、誘われた先は物語の舞台となる私立月光館学園。ゲーム開始時の「NEW GAME」選択画面から始まる憎い演出にときめいたのもつかの間。舞う青い蝶に、アンニュイな表情でさながら『ペルソナ3リロード』のキービジュアルの主人公のようにたゆたう汐見彼方(梅津瑞樹)の登場……と、一気に『ペルソナ3』の世界へと引き込まれる。
本作は「主人公が月光館学園にやってきてから、約束の日まで」を数公演に分けて描いていくシリーズの第1弾であり、入口となる作品。月光館学園に転入した主人公・汐見がペルソナ能力を覚醒させ、0時に出現する「影時間」や、そこにはびこる怪物「シャドウ」と戦う「特別課外活動部(S.E.E.S.)」に加入し、仲間と戦っていく姿を描く。


ゲームで目にしてきたセリフやバトルの数々が目の前で生身の人間によって繰り広げられるという、ある種、2.5次元作品の醍醐味を真正面から浴びられる作品に仕上がっていたのが印象的。すでに高い評価を得ている原作の面白さに、芝居やダンス、マイム、殺陣の融合によって生み出される熱量が重なり、ゲームファンは舞台の面白さに目覚め、舞台や俳優ファンは原作ゲームに興味が出るという、理想的な相乗効果が生み出されていたように思う。
ゲネプロ前の開幕前コメントでも、「アトラクションのよう」という言葉が出ていたが、まさにこの言葉通り。客席通路での演技も多く、キャラクターたちの息遣いまで感じることができる。ストレートプレイをメインとしながらも、随所に取り入れられたダンスやマイムは、原作の持つスタイリッシュさを表現することに貢献。原作音楽による聴覚的な仕掛けや、照明や映像がもたらす視覚的な仕掛け、キャストから受け取る生の迫力が、『ペルソナ3』という作品の言葉にできない魅力までも具現化してくれていた。
そしてなんといっても、熱い戦闘シーンが見事。見応えのあるアクションシーンが想像以上に多く、以前インタビューで梅津が語っていた「めちゃくちゃ殺陣をやりたいです」の言葉が観劇中にふと頭をよぎったほどだ。そして本作といえばやはり銃型の召喚器で頭を撃ち抜くシーンは欠かせない。シーンやキャラクターによって様々な映像演出がつけられており、凶悪なシャドウとの戦闘中という高揚感も手伝って、かっこいいの一言。このシーンだけでも延々に観ていられると思うほど『ペルソナ3』らしさが凝縮されているので、とくに原作ファンは注目してみてほしい。
原作キャラが息づく舞台へ、個性と絆が交錯する若者たちの群像劇
稽古前のインタビューで、梅津はどういった主人公像にするのか悩んでいるところだと話してくれた。梅津自身は主人公の担当声優・石田彰の演技を聴いて「幼く無垢な印象」を受けたそうだが、その印象を役作りにも活かしたのだろうか。彼が演じる汐見からは、何色にも染まっていない無色透明な主人公像が感じられた。無垢で感情は見えにくいが、何事にも無関心というわけではなく、強い芯を感じさせる。瞳で語る役というのは、実に梅津にハマっていた。
大⻄桃香の演じる岳羽ゆかりは、はつらつとした可愛さと弓を武器に果敢に戦いに挑む姿のギャップが魅力的。ムードメーカーの伊織順平(武子直輝)は舞台になったことで動きの騒がしさが増し、日常シーンでのコメディリリーフとしても活躍。ニッコニコの伊織とスンとした汐見の温度差だけでクスッとできてしまうシーンもあった。


太田夢莉演じる桐条美鶴は凛とした美しさが際立ち、前川優希演じる真田明彦は仕事人風な雰囲気とは裏腹に脳筋なところがたまらない。山岸風花役の船戸ゆり絵は本作のドラマ的な要素を担い、自分と向き合う山岸の強さを表現。また、S.E.E.S.顧問で学園理事長・幾月修司(瀬戸祐介)は渾身のオヤジギャグで客席を温め、謎の少年・ファルロス(中⻄智也)は意味深な言動で次回作への期待を高めてくれた。
物語はまだ序盤ということで、彼らの戦いの全貌は見えない。彼らが抱えているものが明らかになるのもこれからだ。だが、次作への期待を高めるには十分すぎるほど、エンタメ性あふれる作品に仕上がっていた。このシリーズ第1弾で“セーブ”された物語が、次回作で“リロード”されて再び動き始める日が、いまから待ち遠しい。
座長・梅津瑞樹が語る『ペルソナ3』愛と「引き継ぐ」覚悟
ゲネプロを前に実施された囲み会見には、梅津、武子、太田、前川、船戸、瀬戸、中西が登壇。本番に向けての意気込みが語られた。
トップバッターは謎めいた役どころに挑む中西。「こういった役柄は初挑戦です。ファルロスにはシーンの雰囲気を変える役割があるのかなと思うので、そこを表現できるよう精いっぱい演じたいです」と真摯な意欲を見せた。瀬戸は「過去に舞台化された際に担当されていたキムラさんが今作でも演出を担当されるということで、全幅の信頼をおいて稽古できた」と述べ、「『ペルソナ3』はまだまだホコリを被っていない作品だと思っているので、僕らキャストの力でそれを示せたら」と、新しいスタートに自信を示す。
ゲームが好きで『ペルソナ3 リロード』もプレイしたという船戸は、「大好きな作品に出演できて本当に嬉しいです。風花の気弱だけど芯のあるところをしっかり演じられるよう頑張ります」と語り、役への強い思いを明かした。続く前川は、「カンパニー一同、さまざまな準備と意気込みを持ってこの場に立っていると思います。皆さまの心をひとつ震わせられるような作品に仕上げていきたい」と本番を前にした意気込みを、静かに熱く語る。「劇場のよさを存分に活かした、“観るというよりアトラクションに近い”舞台です」と語るのは太田。「劇場全体を楽しめる舞台にしたい」と、劇場を見渡しながらコメント。


「高校生の頃にこのゲームをしていました」と語る武子は、「再びの舞台化ということで大きなプレッシャーもありますが、現代の技術と一新されたキャスト陣で、素晴らしい景色が本番で見られると思います」と、自信と原作愛をのぞかせる。大西は「座組のみなさまが温かくて稽古も毎日楽しくて……千秋楽を思うといまから寂しいくらい毎日が楽しかった」と振り返りつつ、「最後まで怪我なく、120%を皆さまに届けられるよう頑張りたい」と力強く宣言。
そして座長の梅津は、ゲネプロ当日が“予言の日”に重なることについて、「奇しくも世間では予言の日と呼ばれていますが(笑)、そんなオカルトめいた日がゲネプロということで、すごくアトラス作品らしい初日が迎えられるのでは」とユーモアを交えながらコメント。さらに「家には所狭しとアトラスさんのゲーム初回限定盤の箱が並んでいる」と、並々ならぬアトラス作品への愛が溢れ出す一幕も。梅津は最後に、「『ペルソナ3』をプレイしたことがない人でも、アトラクション性やダンス、殺陣でワクワクドキドキできる作品です。前回舞台化された際のみなさんの気持ちも引き継ぐような気概でまいりたいと思っております」と決意を語り、力強く締めくくった。



『PERSONA3 Lunation the Act』は7月6日(日)から7月13日(日)まで、東京ドームシティ シアターGロッソにて上演。原作の興奮と舞台ならではの迫力を味わえるこの機会をお見逃しなく。
取材・文・撮影:双海しお