鈴木拡樹&阪本奨悟が作り上げる胸が苦しくなるほどの臨場感 舞台『マイホームヒーロー』稽古場レポート&ミニインタビュー

2023年にはTVアニメ化され、同年にはテレビドラマ版、2024年には劇場版が公開され、様々なメディアミックス展開する、ジェットコースター・クライム・サスペンス漫画『マイホームヒーロー』が演出・加古臨王の下、舞台化される。主人公の鳥栖哲雄を演じるのは、舞台『刀剣乱舞』シリーズなどに出演し、第一線で活躍する鈴木拡樹。半グレ実行部隊のリーダー格の青年・間島恭一役を舞台『鬼滅の刃』などで主演を務める阪本奨悟が務める。熱のこもった稽古を行う稽古の様子をレポートするとともに、鈴木と阪本に公演に向けた思いを聞いた。

稽古場レポート

11月初旬、初日を目前に控え、稽古場は熱気を増していた。この日は、まず始めに、これまでの稽古からの変更点の確認が行われた。スタッフから変更点が説明されると、キャストたちはその指示に従って演じて見せる。サスペンスという作品上、小道具も多く、どのように扱えば良いのか、どこに移動するのかなど、細かな決まり事を入念に確認していく姿が見られた。

さらに、アクションシーンの動きの確認が続く。ハードな場面が多い本作だが、麻取延人役の書川勇輝がムードメーカーとなり、笑いも起こる和やかな空気の中、稽古が行われていた。

その後、休憩を挟んで、台本の最初から最後までを本番と同様に初めて行う「荒通し」へ。演出の加古が「リラックスして臨んでください。ただ、この作品は俳優陣の熱量が大事な舞台なので、熱量を持って挑んで欲しいなと思います」とキャストたちに呼びかけ、荒通しがスタートした。

この作品は、円形のステージを囲むように客席が配置されるため、座る席によってさまざまな角度からキャストたちの芝居を楽しむことができる。稽古場ももちろん、円形状に印がつけられ、キャストたちはその中で芝居をするのだが、どの方向も「正面」となるため、動線も複雑だ。キャストたちの苦労は多いと思うが、観客にとってはそれだけ見どころも増えるということ。キャストの表情の見え方や動きが座席によって違って見えるため、ぜひ何度も、さまざまな座席から観ていただきたい。

また、主人公の哲雄の心の声を何人ものキャストがセリフで表現しているため、哲雄の心情が真っ直ぐに伝わり、感情移入をしやすいのも本作の魅力のひとつ。それゆえ、いやがおうにも観客の緊迫感が増し、胸が苦しくなるほどの臨場感を感じた。特に後半は、加速度を増して物語が展開し、息つく暇もない。この日の稽古でも、緊張で手にじんわりと汗をかいたほどだった。

衝撃的でホラーが苦手な人は目を背けたくなる展開もあるが、演劇的な手法で表現しているため、グロテスクなものが苦手な人にもとっつきやすい作品に仕上がっている。演劇としての面白さ、演劇だからこそできる表現が楽しめる演出になっているので、ぜひ身構えすぎずに劇場に足を運んでもらいたい。

鈴木が演じる哲雄は、喧嘩が弱いけれども、家族を心の底から愛する“普通のおじさん”だ。しかし、事件に巻き込まれていくうちに、その頭脳と営業職で培ったトークで道を切り拓いていく強さも秘めている。“普通”を演じるのは非常に難しいというが、鈴木が演じる哲雄には全く違和感がなく、まさに“普通”。どこにでもいるようなおじさんでありながら、家族への愛やそれゆえの強さをしっかりと感じられ、物語の主人公としての存在感を放っている。鈴木のその高い演技力が作品のリアリティをより高めているのだろう。

一方で、哲雄と敵対する恭一を演じる阪本は、凶暴でありながらも知的さも感じさせた。この作品では、哲雄と恭一の関係性がどのように変化していくのかが、物語の中でも大きな軸となっている。その関係性の変化とともに、少しずつ恭一の置かれた立場が変わっていく様子を阪本は繊細に表現していた。

麻取義辰を演じる久保田秀敏の演技も印象深い。低い声で落ち着いた話し方が、不気味さを際立たせ、この作品の「恐怖」として存在していた。対して、天華えまが演じる歌仙は、大変な状況にあっても場面を華やかにする明るさを強く持っている。こうしたさまざまな光と影が絶妙に混ざり合って、作品に彩りと深みを与えていた。ここから初日まで、きっとキャストたちの芝居はさらに深まっていくことだろう。どのような衝撃の物語を繰り広げるのか、期待して初日を待ちたい。

鈴木拡樹&阪本奨悟 稽古場ミニインタビュー

――(取材当時)公演まで10日ほどとなりました。お稽古の手応えはいかがですか?

鈴木 今日は作品の形が出来上がってきてからの荒通しになるので、前回よりはしっかりと形になっていると思います。ここからストーリーの流れが見えてきて、さらにステップを上げて、どういう見せ方をするのかという全員の共通の認識が生まれたらいいなと思っています。

阪本 これまではブロックごとに丁寧に綿密に確認していくという作業を行なってきたので、これからようやく流れを見ていく時間になりそうです。ここから気づくことがすごく多いと思うので、いろいろなことを収穫して持ち帰りたいです。今、ここのシーンはこうしたい、ああしたいということも見えてきたので、きっとまた新しい発見があると思います。


――お二人にとって、今回の役柄はこれまで演じたことがない役柄ではないかと思います。それぞれの役柄については、今、どのようなことを感じていますか?

鈴木 初日までに変わるかもしれませんが、僕が最初に感じた「鳥栖哲雄像」とはまた違う、舞台としての「鳥栖哲雄像」になっているのではないかと思います。それもまた、みんなで作り上げた今回の鳥栖哲雄なので、僕自身はそれもありかなと感じています。


――なるほど。舞台ならではの新たな要素の加わったキャラクターになる?

鈴木 そうかもしれません。2時間という時間に物語を凝縮する中で生まれる感情的な変化があると思うので。原作をご覧になった方に、どこまでこの舞台の鳥栖哲雄を応援していただけるのか、どう感じていただけるのかなと楽しみにしています。

阪本 僕も原作やアニメ、ドラマを拝見させていただきましたが、やっぱりこの舞台版はそのどれもとも違うものになりそうだなという感覚があります。拡樹さんがおっしゃったように、2時間に凝縮されることによって生まれる感情の変遷があると思います。今日の荒通しで新たなものを発見したいと思っていますが、それぞれのシーンの展開が早いので、観る方にとってもテンポよく、スピーディーに物事が進んでいく感覚があると思います。それと同時にキャラクターの感情が動いている様(さま)をしっかりと見せられたらいいなと思っています。

鈴木 恭一は、原作に比べてもかなり分かりやすいキャラクターになっているよね。きっと舞台の後半を観ていただくと応援したくなるし、好かれやすいキャラクターなのかなと思います。もちろん物語の最初は原作同様に怖いやつなんですが、段々と愛着が湧いてくる。それはきっと観ていただければ分かると思います。

阪本 そう言っていただけると嬉しいです!


――今回、ステージを囲むような形で客席が配置されています。円形ステージでのお芝居についてはいかがですか?

鈴木 臨場感が生まれるので、物語に巻き込むという意味では、円形ステージは向いていると思います。舞台の生の良さも感じていただけると思いますので、そうした力を借りて、どうにかこの強烈なエピソードを届けたいと思います。

阪本 僕は円形ステージでのお芝居は初めてなんですよ。なので、最初は戸惑いもありましたし、どう動けば良いのか分からなかったのですが、この1カ月の稽古でこの形ならではの楽しみもあるのだと気づけました。角度によって見える人物やトリック的なものが違って見えるので、そうした楽しみがより広がる気がして、すごく新鮮です。


――最後に公演を楽しみにされている読者にメッセージをお願いします。

阪本 原作が好きな方も、きっと舞台版『マイホールヒーロー』を新鮮な気持ちで受け取っていただけるのではないかと思います。その場で事件が起こり、それぞれの思惑が交錯していく様子がリアリティを持って感じていただけますし、今回、とても近い距離で観ていただけるので、より緊張感を味わっていただけると思います。稽古も大詰めですが、これからよりこの作品に最適な呼吸感やテンポ感を見つけていき、より楽しんでいただけるものを作っていけたらなと思っていますので、ぜひ期待していただけたらと思います。

鈴木 「舞台はみんなで作り上げていくものだ」という言葉がありますが、今回の円形ステージはそれをお客さんにも感じていただけるものになるのではないかと思います。客席を使った演出プランもありますので、よりこの物語の世界に入っているという感覚を体感していただけます。2時間、哲雄と一緒に疲れてくれたら嬉しいです。追加販売のチケットも販売しておりますので、ぜひローソンチケットさんで買っていただき、ご来場いただけたらと思います。お待ちしています。

 

インタビュー・取材・文/嶋田真己