舞台「モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う」|ゲネプロレポート

岡崎マサムネによるライトノベルを原作とした舞台『モブ同然の悪役令嬢は男装して攻略対象の座を狙う』が、11月20日(木)に東京・CBGKシブゲキ!!にて開幕した。

中性的なビジュアルを活かして役者・コスプレイヤーとして活躍中のびぃと。が主演を務めるほか、鈴木祐大新井雄也一之瀬優てん(Poltergeist)らが出演する。初日を前に実施されたゲネプロの様子をお届けする。

物語は乙女ゲームの世界。バッドエンド確定のモブ悪役令嬢に転生したエリザベス・バートンは、この不公平な結末を覆すべく一念発起する。彼女がひらめいたのは、自分自身がノーブル&ファビュラスなイケメンになって、ヒロインの恋人候補に名乗りを上げようという奇想天外な作戦だった。ヒロインと出会う17歳の春までに、誰もを魅了するイケメンに成長しようと、エリザベスの奮闘が始まる。

まだ見ぬゲームのヒロインのため、“いい男”度を上げるべく奔走するエリザベスの姿に思わず笑顔になってしまうドタバタ学園ラブコメディに仕上がっていた。日替わりゲストのエピソードトーク&胸キュン即興劇や、客席全体を巻き込んでの“訓練”シーンなど、予想のつかない展開も多く、作品全体が、まるで次に何をしでかすか分からないエリザベスの破天荒さをそのまま映し出しているかのようだった。

主人公、エリザベス・バートン役を演じるびぃと。は約1年前、同じくCBGKシブゲキ!!にて上演された、舞台「バッドエンド目前のヒロインに転生した私、今世では恋愛するつもりがチートな兄が離してくれません!?」で完全無欠の男性役を好演した。そんなびぃと。が今作で挑むのは、男装する悪役令嬢という役どころ。男装コスプレイヤーとして高い人気を誇るびぃと。に、これ以上ないほどのハマり役となっている。

びぃと。の演じるエリザベスは、どの瞬間を切り取っても男前。舎弟たちに“隊長”として慕われる姿や、学園で男女問わずファンクラブができるほどの人気ぶりに説得力を持たせる。本来はモブ悪役令嬢として登場するのみだった乙女ゲームの世界で、次々と自分らしさを獲得して輝いていく姿は痛快。気づけば周りの男子たちを圧倒する“モテ力”を身につけた彼女は、果たしてどこまで上り詰めるのだろうかと、観ている側も自然と成長を追いたくなる主人公像を生み出していた。

ゲームの攻略対象キャラクターとして登場するのが、王太子であるエドワード役の鈴木祐大、宰相の息子であるアイザック役の新井雄也、第二王子でエリザベスの婚約者であるロベルト役の一之瀬優、エリザベスの義弟となるクリストファー役のてん(Poltergeist)。

鈴木はちょっぴりお茶目で掴みどころのない、どこか軽やかな雰囲気のエドワード像を立ち上げ、新井は高い身体能力を活かして全身でアイザックの融通の効かない生真面目さを表現する。一之瀬の演じるロベルトは、エリザベスを剣の隊長として慕う忠犬のような愛らしさが魅力的。舞台オリジナルキャラクターとしてロベルトと行動を共にするティモシー役の設楽銀河とともに、物語に軽やかなテンポを作り出す。

本作が舞台初出演となるてんは、バートン兄弟3人でのシーンが印象的。びぃと。と、エリザベスの兄であるフレデリック役の中三川歳輝との掛け合いは、コミカルな作品の中に温かな兄弟愛を漂わせる。特に中三川は、豊富な舞台経験に裏打ちされた芝居で2人をときに支え、ときに引っ張り、関係性に厚みをもたらしていた。

ダンスパーティーのシーンでは、原作通り、攻略キャラクター4人の女装姿も。4人のアドリブ力が試されるような演出も取り入れられており、見どころの一つとなっている。4人が千秋楽に向けてこのシーンをどう料理していくのかも楽しみだ。

エリザベスの父・バートン公爵役の成松慶彦、グリード教官役の横山真史、モーリス教官役の上杉輝TOKYO流星群)といった大人組も、成熟した芝居でシーンを引き締めていた。彼らがキャスト陣に向ける温かな視線もまた、本作のアットホームで朗らかな雰囲気に一役買っているのだろう。

ゲネプロでは初日公演にゲスト出演する凰紫丈源(風男塾)が登場。アドリブ要素たっぷりの日替わりゲストシーンのほか、スペシャルカーテンコールにも登場し、作品を盛り上げる。凰紫のほか、英城凛空(風男塾)、縣豪紀、みら(Poltergeist)、早川維織が日替わりで登場するので、こちらもお見逃しなく。

エリザベスの破天荒な行動力と、個性豊かな仲間たちのやり取りが心地よい本作。にぎやかで勢いのある学園コメディとして、観客を素直に楽しませてくれる仕上がりだった。難しいことは抜きに、北風が吹き始める11月に、ふと心を温めに立ち寄りたくなる一作だ。

取材・文 双海しお

舞台写真