ミュージカル『町田くんの世界』|川崎皇輝&ウォーリー木下 インタビュー

安藤ゆきによる漫画を原作としたミュージカル『町田くんの世界』、待望の再演が2026年7月に行われる。人が大好きで物静かな高校生・町田くんを中心とした優しい世界を繊細に描く青春群像劇だ。

再度、町田くんを演じるのは、初演でもその透明感ある芝居が高く評価された川崎皇輝。演出は再びウォーリー木下が手がける。約2年ぶりの再演に向けて、どんな思いを抱いているのか。主演の川崎、そして演出のウォーリーに初演の思い出を振り返ってもらいながら、再び町田くんと過ごす日々への思いを聞いた。

――まずは初演を振り返って、印象深いこと、思い出深いことから教えてください

川崎 とにかく、すっごく楽しくて大好きな期間だったなと、振り返ると思うんですよね。みんなの息が合わないと成立しない作品だったのは間違いなくて、だからこそ一体感があった。本当に楽しい、いい期間でしたね。

ウォーリー 最初にお話をいただいた時に、漫画を読んで「これを(ミュージカルに)できるのかな」って思ったんですよ(苦笑)。そこから1年以上考えて、キャストとスタッフのみんなと出会って、集団創作をしてできたのがこの作品です。こういう原作やテーマでミュージカルを作れるんだと、ひとつできることが増えたのが、僕にとっては大きな収穫です。

――「集団創作」されたとのこと。具体的にはどういったことをされたんでしょうか?

ウォーリー ワークショップは何度もしましたね。みんなで漫画を読んで、それを即興でやってみたりとか。

川崎 そうだ! やりましたね! キャストが何組かに分かれて、漫画をぱーっとめくって、たまたま開いたエピソードを即興で作るっていうのをやったんですよ。

ウォーリー 『町田くんの世界』って、なんとも掴みどころのない世界観で。それが魅力なんですが、いざ役者がセリフを口に出した時に、ちょっと照れくさく感じてしまうこともあるかなと。だから、ワークショップを通して、こうやったら演劇としてセリフを体現できるんだと、役者さんの能力とセンスを重ね合わせて、原作を大事にしながら立体的にしていきたかったんです。あとは、みんな捌けることなくずっと舞台上にいて、セットを回しながらいろんな役をやって、という作りだったので、お互いの動きを感知しあいながらやる、そういった能力を鍛えるためにも全員でいろんな稽古をしましたね。でも、この人、一回捌けるタイミングがあったらしくて(笑)。

川崎 そうなんです(笑)。衣裳の関係でどうしても一回捌けなきゃいけなくって。

ウォーリー それに気づいていなくて、さっき聞いて驚きました(笑)。

――川さんは町田くんを演じてみて、どんなところにやりがいを感じましたか?

川崎 町田くんは自分で感情を作っていくというよりかは、まっさらな「周りの人が好き」というところに、猪原さんをはじめ周りの人と関わっていくことで進んでいくという感覚が大きくて。稽古のグループワークで、みんなでホワイトボードを囲んで、誰がいつ町田くんと出会って、どういうことがあったのか、と整理する時間があったんです。それを町田くんの視点で見たときに、みんなに影響を与えているっていう自覚がなくて。裏を返すと、町田くんはそこからいろんなことを学んでいて、書き出して整理したくなるくらいいろんな関係性の中にいるというのが彼の特徴なのかなと。それが演じていても不思議だし、楽しいという感覚でした。

――町田くんは受けの芝居がとくに多い役ですが、苦労することなどはありましたか?

川崎 これがあんまりなくて。ウォーリーさんからも、町田に対する細かい指導をいただいていない気がするんですよ。

ウォーリー たしかに全然記憶にないね(笑)。町田くんは多面的な人物なので、理屈でやりきれない役で。皇輝が稽古序盤から、理屈じゃないところの佇まいをやってくれていたので、演出家が余計なことを言ってそれを崩してしまうことの方が怖かったので黙っていました。

川崎 そうだったんですね(笑)。

ウォーリー そもそも僕の中で、町田くんっていう人物がどういう人かっていう答えがなくて。一番は町田くんを演じている皇輝が、どこに重心を置いて、どこに安心して、どこに不安を持っているのか。そして、どんな変化を感じながら演じているのかっていうことの方が大事で。僕が思う町田くんをやってもらうなんてことは全く大事じゃないんですよね。この作品に関しては、そういう風に捉えていました。

――川さんはウォーリーさんからの指導がないことをどう捉えていましたか?

川崎 そこに対しての不安とかはなかったですね。初日手前くらいに、「あれ? そういえば町田くんなにも言われてないな」って思ったくらいで(笑)。町田くんのお芝居としては、皆さんの変化に合わせる部分が大きいですよね。なので、例えば猪原さんがウォーリーさんから演出を受けていたら、僕もそれを聞いて一緒に演出を受けている気分でした。

――お互いに、役者として演出家として、どんな魅力を感じているか教えてください

川崎 キャストの空気を汲み取ってくださる演出が多いように感じていました。キャストの「こう動きたい」を、届きやすい形に整頓してくださるので、限られた稽古期間のなかでスムーズに本番というゴールに導いていただいたなという感覚です。あと、自分自身がライブを作る立場から考えると、やっぱり照明とかって気になっちゃうんですけど(笑)、ウォーリーさんの音とか照明って絶妙で。作品の持つ柔らかさを表現したり、町田くんの心情にあわせて明暗が変わっていったり。そういった演出は観ていて楽しいし、演じていても心地良いですね。

ウォーリー 本当に器用だなと思いましたよ。ただ、彼自身はその器用さを、そんなに良しとは思っていないんだろうなと。器用だから自分のお芝居で処理しちゃうこともできるし、それが求められる現場もあると思うんだけど、そうじゃなくて。ここは『町田くんの世界』なんだから、自分が周りの彩りを変えて、自分も変わっていって、という相互作用がないとお客さんは面白くないだろうなっていうことが最初にわかっていたと思います。だからこそ、自分自身の器用さをあまり信用せずに、舞台上にいる人たちとの相思相愛を作ることを土台にしてやってくれたのがとてもありがたかったし、それができることがすごいなと思いました。

――初演から2年経ったからこそ新たに見えてきたものや、この作品に影響を受けたことがあれば教えてください

ウォーリー この作品の稽古期間中って、人に席を譲る回数が増えるんですよ(笑)。それは確実にこの作品の影響ですね。余裕を持って周りを見ることって日々の生活の中で忘れがちなんですが、あれ以来、余裕がなくなると町田くんのことを思い出します。それくらい格別にいい雰囲気でしたね。

川崎 本当にすっごく仲いいんですよね。全員が揃ってやっと完成する作品だったし、それをみんなも感じていたし。あのワンチームな空気感は独特だったなと思います。

――川さんも初演以降、町田くんがご自身の中に根付いているような感覚はあったのでしょうか?

川崎 ありましたね。やっぱり町田くんほど、疲れた心にすっと入ってくるものってなくて。もちろん作品として届けたい思いや、観た人に考えていただける内容ではあると思うんですが、それ以上に、2時間通して全部すんなり入ってくる魅力があって、これだけまっすぐ届けたいし、届いてほしいと思える作品に出会えたことが嬉しいです。23歳になった今、2年前とは多少の捉え方の変化はあるだろうなと思うので、これから皆さんと稽古をしながら感じいけたらなと思っています。

――再演に向けて、注目ポイントとともに意気込みをお聞かせください

ウォーリー こんなことを歌にするんだっていう、ミュージカルとしてはかなり独特な作品だと思います。僕らは“にじみ歌”と呼んでいるんですが、町田くんが気づく何かとか、登場人物が心の中でモヤっと思ったことが、歌声を重ねることでふわふわっとにじんでいく。それが一つの特徴なので、劇場で感じ取って楽しんでもらえるといいなと思っています。初演の良さは残しつつ、とはいえ今思えば「もっとこうした方が良かったな」という部分もあると思うので、そこは変えていきたいですね。2年経ってみんなの経験値も上がって、全体のクオリティは上がっていくと思うので、再演の方が良かったと思ってもらえるような作品にしたいなと思っています。

川崎 たくさんの応援の声があっての再演だからこそプレッシャーは感じています。それに、この2年間でいろいろ経験をしてきた分、僕個人としては成長を見せたい気持ちがある。ただ、2年前に魅力的だなと思っていただいた町田くんの良さは変えたくないというジレンマみたいなものもあります(苦笑)。といっても、2年も空いているので、まずは当時の感覚を取り戻していきたいなと思います。観ていただきたい点は、やっぱり演出の妙ですね。自分たちでセットを動かす演出は、シアタークリエという劇場の距離感にドンピシャなんです。ありがたいことに公演数もたくさんあるので、多くの方に観て感じていただきたいです。

取材・文・撮影/双海しお

川崎皇輝
ヘアメイク/服部幸雄 メーキャップルームプラス
スタイリング/柴田拡美(Creative GUILD)
衣装/FRAPBOIS(03-5728-5120)、ELCHELE(https://elchele.co.jp/)、SPINNS(0120-011-984)

※川崎皇輝の「崎」は「たつさき」が正式表記

原作マンガ「町田くんの世界」は集英社マーガレットコミックスDIGITALより全7巻好評発売中。