長江崚行、沢村玲、釣本南インタビュー|SF時代活劇『虹色とうがらし』

©あだち充・小学館/SET

人気漫画家・あだち充の異色作を舞台化したSF時代活劇『虹色とうがらし』。時代考証口出し無用を掲げて描かれた原作の独特な世界観を、殺陣などのアクション、絶妙な人間ドラマで魅せていく。主人公・七味を演じる長江崚行、浮論を演じる沢村玲、省吾を演じる釣本南の3人に、作品の魅力などをたっぷりと語ってもらった。

 

――今、まさに稽古も終盤というタイミングでお邪魔していますが、手ごたえはいかがですか?

長江 本当に終盤で、立ち稽古を重ねていくたびに見えてくるものが増えてきていますね。このシーンはこうだったんだ!とか、家で考えたこととは違うことが見えてきて、役とリンクしたリアリティが生まれています。初日に向けて、みんなのテンションと、やる気がどんどん上がってきてて、そういうみんなの姿を見て本当に楽しいなと思いながら、自分も稽古をやっています。いい時間を過ごせていますね。

沢村 僕は舞台の経験が少ない中で、本当に周りのキャストの方に助けていただいていて、すごくいい経験をさせてもらっています。僕が演じる浮論という役が、剣とともに生きていて、この作品の中では陰を担う存在。そういう部分を淡々と深めていきながら、教えられながら――だんだんと落とし込めていって、楽しいなと感じられるようにもなってきました。正直、最初はもう何からやっていいのかもわからないくらいでしたから。殺陣に関しても釣本さんに、本当に手取り足取りで教えてもらって…。でも、殺陣をやるたびに、浮論という人がわかってきている感覚です。

釣本 カンパニーが一致団結していて、仲がいいですね。もう、ほぼほぼ最終稽古という段階なんですけど、ひとり一人が役を背負って、キャラクターを背負って、一段一段階段を上っているような印象が強くあります。通しをやる度に新しい発見があって、相手のセリフや表情から受け取れるものがどんどん多くなっているんです。本番に向けて、どんどんいい状態に仕上がってきているな、って感じです。

 

――今回は殺陣も見どころになっていますね。

長江 殺陣と聞くと、刀での演技を想像される方が多いと思うんですが、今回僕が使うものは鳶口といって昔の火消しの方が使っていた道具とかなんですよ。その他にも、棒や鎖分銅、手裏剣など、あんまり見たことのないような武器も出てきます。なので、お客さんから見ていて、こういう動きするんだ、と思うようなアクションが見られる。今まで見たことのない殺陣をお見せできるんじゃないかな。

釣本 特殊な武器も、キャラクターによって振り方ひとつ、動き方ひとつが全然違う。それこそ、玲が演じる浮論なんて、剣豪と呼ばれる役を背負っているからこその剣の振るい方、動きを朝から晩まで稽古しているところも僕たちは見ているんですよ。そういう部分は楽しみにしていただきたいですね。

沢村 そう言っていただけると嬉しいですね。僕がなぜ、ずっと殺陣の稽古をしているかというと、浮論が剣と触れ合っている時間が多いと思ったからなんです。剣を交えて楽しい、この時間が俺の生きがいだ、って思っているんです。なので、家で練習してきたことを実践して、その面白みをちょっとでも引き出したい。釣本さんとかには本当に付き合っていただいて申し訳ないんですけど、本当に楽しくやらせていただいていますし、その楽しさが、舞台上でちょっとでも伝わればと思っています。

 

――そういえば、長江さんと釣本さんは意外にも初共演なんですね。

釣本 そうなんです。崚行とはもともと友人ではあったんですけど、初共演。それで、後半に崚行とけっこう長い尺で殺陣をやる場面があるんですけど、セリフだけじゃなくて、剣を交えて2人でシーンを作っていく流れが…なんていうか、俺らちゃんと稽古してるな、って思う(笑)。日に日に変わっていっていて、良くなっているのを実感できるし、長江崚行という役者は本当に素晴らしいって思って…。

長江 何なの、自分(笑)。すげー恥ずかしいんすよ…やめてほしい。

釣本 いや、やめない(笑)。だって、本気で思ってるよ?本当に、俺らの剣を交えての会話を、みなさんにも見てもらえたら嬉しいです。

長江 (釣本は)僕が好きな作品や、僕の友人が出ている作品にいろいろ出ていた関係で知り合ったというか、お世話になっていたんですけど、今回役者として舞台上で対峙するのは、なんか嬉しさと気恥ずかしさとがあって。さらに、殺陣でも舞台上で会話できるなんて、その縁にありがたみを感じています。気心を知れている相手だからこそできる、近い距離でのアクションがあるんです。

 

――それは楽しみですね。役どころについてもお聞きしたいんですが、ご自身の役で好きな部分ってありますか?

長江 七味はとても兄弟想いで、人に対して優しい人間。僕も弟が2人いて、実際の弟と舞台上での弟がリンクするというか。年齢は下でも、兄弟だから対等。だから何か間違っていたり、違うんじゃないかと思うことを、ごまかさずにちゃんと伝えてあげられるんです。対等と思っているから、ぶつかっても大丈夫と思っている七味の真の強さややさしさは、尊敬していますね。兄弟だけじゃなくて、七味は身分や立場で人に上下をつけない。相手を理解はするけど、自分は違う、みたいに自分の意志をしっかり持ったうえで、相手の意見も受け入れることができるんです。ちゃんとバランスを取れる人で、芯がブレないところがカッコいいなと思います。

沢村 僕は浮論に対して、最初は何なんだろう?って掴めなかったんです。この人ヤバい、マジ怖いな、って(笑)。なんでこんなに斬ることを楽しんでいるんだろう、って思ったんですよ。でも、やっぱり妹の存在は大きいですね。陰から見守る妹は、もう殺しはしてほしくないと思っている。でも、妹自身の過ちがゆえに、浮論は剣の道に突き進んでしまっていて――その寡黙さやストイックさはすごいと思います。僕も妹が2人いて、妹を想っているという部分には共感もしました。どんな過去があっても兄妹愛は切れない、ということを浮論から感じることができたので、やればやるほど好きになる役ですね。

釣本 省吾という男はですね、本当に欲求に忠実な男です。欲しいものがあったら人から奪う、気に入らないやつは殺す、好きな女が現れたら連れていく…本当に欲求に素直。当たり前ですけど、世の中ではそういう振る舞いとかは抑圧されている中で、こんなに自由に振る舞うことができる人間って、果たしてこの世にいるのか(笑)。でもそんな中でも闇を抱えていて、そういう部分がすごく人間臭い。そういう人間臭い部分は好印象というか、好きな部分かな、と思います。父親との確執なんかもしっかりとセリフでも描かれていて…感情移入するとしたら七味とかだと思うんですけど、ちょっとした部分でも、共感してもらえたらいいな。

長江 いや、感情移入するところもあると思うよ。俺は省吾を見ていて、なるほどなぁ、って思ったことあるもん。

沢村 省吾と対峙しているときに、すごく父親への憎しみを感じたんですよ。そういう姿に、すごく人間味を感じたというか。浮論も省吾もお互いに闇を抱えているので、何かぶつかり合いを感じるんです。そういうところは、人間臭い部分が出ているんじゃないかな。

 

――人間臭さ、というのはストーリーの魅力にもつながるような気がします。物語の面白さは、どのようなところから感じますか?

長江 ストーリーの魅力で、僕が触れなきゃいけないと思っているのは、七味と菜種の関係性ですね。兄妹として出会って、でもどこかで気になっていて。でも妹だから、という気持ちもある。好きだけど、好きになってはいけない人、というムズムズ感ですよね。その繊細なものがしっかり表現できていたら、七味と菜種はうまく歩んでくれるんじゃないかな、と思っています。例えば、幼馴染とか、人の彼氏彼女とか、好きになっちゃいけない人、許されない相手っているじゃないですか。でも好きになってしまった。抑え込まなきゃいけないし、だからと言って連絡しないとか会わないようにする関係性でもない。兄妹だから。その絶妙な感じを、芝居を通して伝えたくて、四苦八苦しています。

釣本 僕はあだち充先生の世界観をどういうふうに表現されるか、楽しみにしていたファンのひとりでもあるんです。セリフ回しだったり、役者のアクション――手の一個一個の動きとか、そういう部分であの漫画のひとコマを表現できているんじゃないかと思っています。この間、菜種役の伊波杏樹さんとも稽古の合間にちょっと話をしたんですけど、崚行の横顔がまんま七味に見えた瞬間があったんですよ。それが伊波さん的にも、菜種として、ドキッとしたというか。

長江 勝った(笑)

釣本 そう、言ってたの(笑)。崚行が七味とリンクしていたり、玲が浮論とリンクしていたり、そういうのが随所随所にあって。そういうところがちりばめられているのがこの作品の魅力ですね。

沢村 僕は割と話題作しか読まないタイプで、あだち充先生だと、「タッチ」や「H2」とかしか知らなかったんです。「虹色とうがらし」は今回初めて知ったんですけど、こんなに建前と内に秘めているものがわかりやすく伝わってくる作品って、あまりないんじゃないかな。役作りでも、何回も読み返すとわかってくるというのがあると思うんですけど、この作品は1回読んだだけでも、ちゃんとわかる。そこがさっきの人間臭い部分じゃないですけど…やっぱり助けたいとか、本当は愛されたかったとか、本音の気持ちも見えてくるんです。それを役者のみなさんが、まるで漫画からテレポートしてきたみたいに表現していて……一番経験のない僕ですが、そこが本当に楽しいです。コミカルなように見えて、意外とアツい部分もあると思います。

 

――佐藤慎哉さんの演出はどんな印象ですか?

長江 細かいところですけど、裏回り(舞台から退場したあとに再登場する際、裏を回って退場した方とは逆の側から出てくること)をよく使われる方だな、と思いました。場面が変わった、場所が変わった、というのを裏回りですごく上手に見せているんです。裏を走るので、役者は大変なんですけど(笑)、こういう絵を見せたいとか、この関係性を見せたいという意図がわかって、なるほど!って思いましたね。

沢村 セリフ回しが独特なんですけど、すごくやり取りの部分を大切に作っていらっしゃると思いました。原作に忠実に、というのはもちろんありつつ、その場その場で生まれてくる感情を大切にしているというか。当たり前のことかもしれませんが、それはすごく感じますね。

釣本 慎哉さんは、演出家としての目だけじゃなく、すごく客観視して僕ら役者のことを見てくださる方。通しが終わって、単純に「面白かった!」みたいな一言があったり、「すごくゾクゾクした」だったり、思っていることが全部口から出ている。「あっ、間違えた!」とかもね(笑)。だから、すごく素直な方で、僕らのことを2つの目線で見てくれているのが、すごく嬉しいし、楽しい。僕らの意見をすごく聞こうとしてくれるし、会話してコミュニケーションを取ってシーンを作っていこうとしてくださるので、稽古場にアイデアを持ち込みやすい環境でした。

 

――稽古で毎日大変かと思いますが、コレがあるから頑張れる!というものはありますか?

長江 僕、本当に仕事人間なんですよ…。プライベートがない方がいい。

釣本 そうだねぇ…(笑)

長江 (笑)。だから家で台本を読んで、明日はちょっとこんな感じをちょっと出してみよう、そしたら相手役はどんな表情をするかな?とかを考えて、翌日の稽古場でそれを実践するんです。それで、何その表情、見たことないんだけど!っていう顔が見れた時が、僕が一番幸せな時です。今回の舞台で、すごい大立ち回りがあるんですけど、めっちゃしんどいんです。息も吸えないくらいになって、このシーン早く終われ!って思うくらいなんです。でもそれって、満身創痍で立てなくなって、でも菜種を助けに行きたいと思う七味のリアル。目的があるけど体がもう動かない、みたいな体のSOSと気持ちの反発の瞬間、役のリアルを感じられて、今日はいい通しだった、って実感できました。そういうことを繰り返すのが、僕の楽しみです。

釣本 僕はどっちかというと、お芝居が好きで好きでたまらなくてここにいるんです。でも、最近は中止になってしまった公演もあって、ちょっと消化不良なところもあって…。それでも次の作品に参加できて、もうすぐ初日を迎えられる。そのことが本当に幸せ。座長が芝居をやっているときも、殺陣をやっているときも、まっすぐ僕を見てくれる。あぁ、今自分は芝居ができているんだ、と実感できる瞬間が、たまらなく幸せです。そして、お客さんと空間を共有できることが、楽しみで仕方がないですね。あとは…酒と女?

長江 書けるかーい!!

 

――真面目な雰囲気に耐えられなくなりましたね(笑)。沢村さんはいかがですか?

長江 車でしょ?

沢村 そうですね(笑)。新型「フェアレディZ」の発売に、最近は一番グッと来ました!

一同爆笑

沢村 って、お2人が真面目に素晴らしいことを言ってるのに、これで終われないですよ!

長江 えー、別にいいのに(笑)

沢村 (笑)。でも正直に思ったのは、僕は多趣味で、音楽もやっていたりとか、いろいろやることはあって…正直、最初は殺陣に焦っていました。やらなきゃいけないっていう気持ちが強かったんです。でも、人と会話して、それを繰り返して、できることが増えれば増えるほど、やりたくなるし試したくなる。浮論ってきっと、こう思っていたんだなって、役作りの面でも思ったし、人と関わっていくことって大事なんだなと思いました。誰かからヒントを得るじゃないですけど、割と一人でいることが多いんですが、人といる楽しさ、コミュニケーションの楽しさを改めて今回の現場で学びましたね。

 

――みなさん本当にストイックなんですね。どんな公演になるか楽しみです。

沢村 本当に稽古の中で、熱い部分がどんどん出てきています。そんな熱いものを全部、お客さんに届けたい。いろいろなキャストが出ているので、その一人一人の魅力を味わってほしいなと思います。

釣本 僕ら自身も、すごく楽しみながら台本と、芝居と向き合って作った作品です。大人数の人々が、バカやって、マジメにやって、本気で汗をかいて――そういう部分を劇場で伝えて、なんか笑えたり、なんか幸せだったり、なんか楽しい気持ちになって劇場を後にしていただけたら。幸せになるために人は生きていると思うので、その何か1つになればと思っています。

長江 なんかもう、「面白かった!」って思っていただければ、僕らは満足。それで幸せかな、って思います。舞台ならではの臨場感とか、人が一生懸命に生き死にのやりとりをしているところって、絶対に何か伝わるものがあると思うんですよ。絶対に伝わるものがある。あのシーンが好き、あのシーン悲しいね、いろいろ出てくると思うんですけど、最後に「あー面白かった、おやすみなさい」って布団に飛び込むみたいな。それくらいハッピーなものになればいいな。笑いアリ、涙アリ、剣劇アリの、いろいろアリなお芝居ですが、フラットな状態でお越しいただければと思います。僕たち、精一杯頑張りますので是非楽しみにしてください!

 

ライター:宮崎新之