にっかり青江を演じられる時間を大切にしたい
2015年のトライアル公演以来、絶大な人気を誇るミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ。その“刀ミュ”に登場する刀剣男士・にっかり青江が、2021年春から日本全国を巡る旅に出た。「47都道府県、全ての地で公演をおこなうことが目標」だと語るのは、にっかり青江を演じる荒木宏文。
荒木「今、演劇を見ることを我慢している方々がいるならば、自分たちが少人数でその人たちの住んでいるところに赴いて公演しようと思いました。それが何か救いであったり、役立つこともあったりするのではないかなと。人気シリーズである『刀ミュ』だから実現できたことでしょうね。現実的な面を考えると、やはり相当な挑戦だったと思いますし(笑)。それでも大変な状況を乗り越えるブリッジとしての意味はあるのではないかと思います」
名だたる刀剣が戦士の姿となった“刀剣男士”。にっかり青江は「幽霊すら斬る」と伝説が残る名刀。本作は、彼の根幹となる“ものがたり”をじっくりと堪能できる単騎出陣である。
荒木「刀剣男士は何百年という刀剣としての歴史を背負っているので、一朝一夕でやれるものではないと思っています。自分が手に入れた役を深く突き詰めていく作業は、役者にとって魅力的で面白いもので、刀剣男士という役柄は特に突き詰め甲斐がある。若い役者の子たちもそれに気付けるような環境を作るべきだと思っていたので、その思いを感じてもらえる単騎出陣を作れたらいいなという気持ちはありました。でもこの状況下になって分かったのは、それぞれの“エンタメ”の形があるのだということ。今後、刀剣男士を演じる各々が極めたいエンターテインメントの形で“単騎出陣”を発信していけたら、それが役者本人の個性にも、キャラクターの個性にもできるかもしれないと個人的には考えています。実際に各地を巡る中で、自分が考えていた以上の可能性を感じました。47都道府県で単騎“同時”出陣とか!……というのは極端ですけど(笑)。アナログでも全世界に届けていけるようなコンテンツに、さらになっていけばいいなと思います」
この春に1道11県を巡り終えた荒木だが、「どの作品においても同じで、全公演を終えるまでは気持ちを途切れさせずにいます」「公演数としては少ないので、もっとやりたいですね」と、探究し続ける姿勢を崩さない。
荒木「同じことをひたすらやり続ける作業って、とても重要だと思っているんです。例えるならば素振りと一緒。“変化”は分かりやすいけれど、大事なのは“進化”なのかなと僕は考えていて。ご覧になった方から“同じことを繰り返しているのに、凄い”と思っていただけるような深みが必要だと感じています」
最後に「荒木さんにとって、にっかり青江とは?」と尋ねた。
荒木「僕にとってはすごく大切な役で手放したくないという気持ちが大前提ですが、にっかり青江を演じられるフィジカルが失われたと自分自身が感じた時には、自ら退いてお別れする役だと思っています。僕がすがって、にっかり青江の魅力がなくなるくらいなら、より良く表現してくれる役者に渡さなければと思うので。でも自分が演じている間は最大限、にっかり青江の魅力を見せたいなと思っています!“にっかり青江がこの世に出てきたら、こうあってほしい”という理想を体現するために、今も準備して必死にやっているところです。有限だからこそ大切にしたいですね。出し惜しみせず、いけるところまで精一杯表現していきます」
インタビュー・文/片桐ユウ
※構成/月刊ローチケ編集部 9月15日号より転載
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
荒木宏文
■アラキ ヒロフミ ’83年生まれ。ミュージカル『刀剣乱舞』、『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stageなどに出演。