前列左より 石丸さち子、一色洋平、廣野凌大 、眞嶋秀斗 、後列左より、 岡部 麟、蒼木 陣、和田琢磨、 桜田航成(スーツアクター)
シリーズ累計8,000万部を突破した人気コミック「鋼の錬金術師」が2023年3月に初めて舞台化される。錬金術が存在する世界で禁忌を冒した兄弟の旅路を描いていく本作。主人公となるエドワード・エルリックを一色洋平と廣野凌大をWキャストで演じるほか、アルフォンス・エルリックを眞嶋秀斗、ウィンリィ・ロックベルを岡部麟(AKB48)、ロイ・マスタングを蒼木陣と和田琢磨のWキャストで演じることが発表された。また、アルフォンスのスーツアクターは桜田航成が務める。先日行われた制作発表会にキャストらが登壇し、意気込みを語った。
エド役を射止めた一色は、役が決まった知らせを受けた時のことを「最寄駅からノンストップで家までダッシュするくらい、心にあふれるものがありました。そんなことは初めての経験で、忘れられない夜の街の光景でしたね」と振り返る。廣野も「自分にとっては、一番考えたオーディションで、言葉で言い表せないような体験をさせていただきました。決まったと報告を受けたときは、腰が砕けましたね」と語った。
脚本・演出の石丸は、2人の起用理由について「私は、表現のエネルギーって愛と怒りだと思っているんですね。廣野くんからはものすごく怒りを、一色くんは愛を表現することに迷いがなかったんです。怒りを表現できる人は愛を持っているし、愛を持っている人は必ず怒りも持っている。この2人を“錬成”すれば、エドが出来上がると思ったんです」と理由を明かす。そして「企画を受けたときは、2.5次元作品を演出したことがなく、私が適任かどうか分からなかった。でも、漫画を全巻一気読みして、アニメも一気に観て、その時にはもう、私が適任だと思っていました。この冒険をぜひとも私に作らせてください、と私のほうがお願いしました」と、演出への意気込みを語った。
また、発表会では主題歌が一色と廣野による歌唱で生披露された。会見でそれぞれの熱い思いを語った直後だったこともあり、歌披露の前は「なんだか感動する。走り出す感じ」と溢れ出る想いのままに廣野がつぶやき、一色も廣野と心を重ねるように視線を合わせて「そうだね」と頷く。わずかな静寂のあと、胸を躍らせるようなメロディが始まり、2人のパワフルでリミットレスな歌声が会場に響いた。
本作は、生バンドによる音楽も見どころのひとつとなる。石丸によると、本作の依頼を受けた2年前はすでにコロナ禍であったが、幕が開くころには「二次元にあるものが立ち上がる時に五感で感じられるすべてのものをライブでお届けできるようになると信じ、それを享受できるようになると思っていた。俳優の肉体、演奏される音楽がダイレクトにお客さんに伝えられるのはとてもすてきなことじゃないかと思うんです」と、願うような想いで当初から生バンドの構想をしていたという。
そして「私たちの愛するものが、すてきな形で始められるのはワクワクします。その裏側には恐怖もありますが、それをバネに素晴らしい舞台を作り上げたいと思います」と石丸が語り、素晴らしい作品にしていくことを約束した。
舞台「鋼の錬金術師」は2023年3月8日~3月12日まで大阪・新歌舞伎座、3月17日~26日まで東京・日本青年館ホールで上演される。
会見での各々のコメントは下記の通り。
■一色洋平(エドワード・エルリック/Wキャスト)
役が決まったと報告をいただいたときは、人生で初めて最寄駅から家までノンストップでダッシュしました。そのくらい湧き上がるものがあって、忘れられない夜の街の光景でしたね。オーディションも、オーディションというより稽古。シーンをこのメンバーで作るぞ、という感じで、みんなの汗で床が滑るくらいでしたね。みんな本気で、すごく健全に俳優が戦った。だから、オーディションのみんなのエドも結構乗っかっていると思うんです。それも背負って頑張りたいです。
小学生の時は、錬金術の派手な技に注目していましたが、大人になって読み返すと、1巻の1ページ目からもうくらってしまいました。「痛みを伴わない教訓には意義はない 人は何かの犠牲なしには何も得ることができない」、これを読んだときに、ダークファンタジーといわれる所以は1ページ目からあったのか、と思いました。そのほかにも刺さったセリフをいっぱい書き留めています。エドは十代半ばから物語が始まるんですが、時折、苦労した成人男性にしか出ないようなシワが寄ったりするんですね。そういうところもしっかりやれたらと思います。人間がやる意味、実写化されるうえで一番大切な愛の部分を、温かく立ち上げられたらと思います。
■廣野凌大(エドワード・エルリック/Wキャスト)
オーディションでは言葉で言い表せれないような体験をさせていただきました。やり切った想いはありましたが、役が決まったと連絡をいただいたときは、よろよろと腰がくだけましたね。家族や周りの人たちに感謝をして、改めてやるぞ!という気持ちが込み上げてきて、今会見をしています。見てますかみなさん!僕はみんなの思いを背負って頑張りますから‼
改めて「鋼の錬金術師」という作品と向き合ったときに、小さいころに抱いた印象とは全く違うものを感じています。すべてがきらめいて、羨ましかったですね。困難に向き合ったとき、うまく逃げたり、向き合っているふりをしたり、そういう選択を現実ではついしてしまうことってあると思うんです。でも、エドたちはその困難にまっすぐ向かっていて、それが簡単なことではないんですね。そこに憧れがあるし共鳴しているんだと思います。そういう憧れ、羨ましい気持ちを理解したうえで、重大な責任感を感じています。作中の言葉を使わせていただくと、命と等価交換する気持ちで行けたらと思います。
■眞嶋秀斗(アルフォンス・エルリック)
オーディションの4か月、本当に楽しくて、審査が終わるたびにマネージャーさんに「今日も1日楽しかったです。次も頑張ります」って連絡していたんですよ。こんな経験は今までなかったんです。熱を注ぎ込んでやるので、声もカスカスになったりしたんですが、そんなことがどうでもよくなるくらい、絶対出てやるぞ、という気持ちでしたね。芝居って楽しい、ということをすごく感じていたので、決まった時はうれしかったです。
アルは優しさがやっぱり魅力じゃないかな。そして、オーディションでスーツアクターの方の動きに合わせて声をあてることを初めてやったとき、鎧の姿であることへの思いや、元の体に戻りたいというセリフがあるんですけど、それをどんな感情で言ったのかとか、そこに奥深さがあると思いました。まだ答えがあるわけではないですが、しっかりと向き合ってアルに魂を込めて丁寧に演じていきたいと思います。
■岡部麟(ウィンリィ・ロックベル)
お話をいただいて、最初は演出家さんと面談します、と聞いていたんですけど、行ってみたらオーディションみたいな状況で。石丸さんがいらっしゃって、カメラが回っていて…という状況だったので、瞬発力というか、いろんな舞台で培ってきたパワーをこの一瞬で出し切らなくちゃ、という思いでやらせていただきました。その短時間でも得られるものがたくさんあったので、これからの期間でたくさんのものを吸収したいです。偏見かもしれませんが、こういう作品をアイドルという肩書の人がやると「できんのか?」という目で見られてしまうこともあるんです。それを跳ねのけるくらい、パワーでみなさんに負けないように演じたいと思います。
ウィンリィは、おばあちゃんに育てられていますが、男たちの中だけで育ったような強さを持っています。エドたちにとっても親のような存在でもあるし、精神的なところでもオートメイル技師としても大切な支え役です。それでも、強さの中に見えるやさしさや、ほんのちょっと見えるかわいらしさがウィンリィのいいところなんじゃないかと思います。
■蒼木陣(ロイ・マスタング/Wキャスト)
ありがたいことに役のお話を頂戴して、演出が石丸さち子さんということで、絶対にやりたいです、という気持ちにすぐになりました。ご一緒したことはなかったんですが、数年前に1週間ほどのワークショップをやっていただいたことがあって、本当に鍛えていただいた。いつかこの方と作品をやりたいとずっと思っていたんです。ようやく、作品で交わることができます。多くの人に愛されている役でプレッシャーもあり、不安で眠れない夜もあるんですが、この旅を通して大きく成長できる機会になればと思います。
小学生の時に読んでいた時のロイはかっこいいお兄さん。気づけば僕もロイと同い年くらいになってしまいました。大人の余裕とか、隠しきれないやさしさとか、たくさん魅力が詰まった役ですね。常に心の中で炎が燃えている、それが見え隠れするような役だと思います。精一杯向き合って頑張ります。
■和田琢磨(ロイ・マスタング/Wキャスト)
「鋼の錬金術師」はいつ舞台化されるんだろう?とずっと気にしていました。こういう形でお話をいただいて、とてもありがたいです。主人公のエド、そして僕らロイがWキャストということで、4人で2つの役を作り上げていくような気持ちで、すごく高揚感にあふれています。みなさんの期待値も高いと思いますので、それを乗り越えて、期待以上のものをお届けできるメンバーが揃ったと思っています。一丸となって、作品を盛り上げていけたらいいなと思います。
ロイはいろんな意味で圧倒的な役。圧倒的って、どんなものかを考えてみたら、手を伸ばしても届かないような高い存在か、どこまでも底が見えないような深い存在だと思って、ロイは深い人間だと思いました。深い愛情、深い信念、そういう深さを表現できたらと思います。
■石丸さち子(脚本・演出)
企画を受けたときは2.5次元を演出したことがなく、私が適任なのかどうか和kらないと思いました。ですが、漫画を一気に読み、アニメを全話一気に観た後には、私が一番適任だと思っていました。少年たちの心の旅があまりにも独創的に描かれていながら、ものすごく自然で。誰かに教わるでも、常識にとらわれるでもなく、11歳という年齢で禁忌を冒し、その罪を背負いながら自分を見つけていく――ひいては命の意味を見出していく。この冒険をぜひ私に作らせてくださいと、私のほうからお願いしました。この労作に失礼の無いよう、作品を愛することがすべてだと思っています。一生の記憶に残るような作品にしたいと思います。
エドとアルの配役については、表現する者のエネルギーって、愛と怒りだといつも思っていて、廣野くんにあった時、ものすごく怒りを強く感じました。一色くんは、愛を表現することに迷いがなかったんです。怒りを強く出せる人は必ず愛も持っているし、愛を表現するのがうまい人は必ず怒りも持っている。2人を錬成すれば、エドができるとおもったんです。2人の振り幅がすごくて、とにかく人間力のある人を選びました。
アルフォンス役には心と声が近い人を選びたくて、眞嶋くんは心が動いたとき、それがそのまま声になるんですね。何かを作って届けよう、じゃない。そして、弟として兄を見る目、兄を愛する準備を一番感じました。この人だ、と、迷いなくいきましたね。
こうやって、偶然集まった人たちが1つ1つ生み出していって、それをいずれお届けできる、私たちの愛することが新しく始められると思うとワクワクします。ワクワクの裏には恐怖がありますが、それをバネにして素晴らしい舞台を作り上げたいと思います。どうぞご期待ください。
取材・文/宮崎 新之
©荒川弘/SQUARE ENIX・舞台「鋼の錬金術師」製作委員会