写真左から)平野良、鎌苅健太
“モリミュ”の略称で多くのファンに愛されているミュージカル『憂国のモリアーティ』の待望の第4弾、ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.4 -犯人は二人-が1月27日(金)より大阪・新歌舞伎座にて上演される。原作は「ジャンプSQ.」(集英社刊)で2016年から連載され、コミックス最新18巻の発行部数累計660万部を突破の人気漫画『憂国のモリアーティ』(構成/竹内良輔、漫画/三好 輝)。コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」を原案に、ホームズ最大の宿敵であるモリアーティ教授視点で再構築された物語で、上流階級の人間達に支配され差別が蔓延している19世紀末の「大英帝国」を舞台に、階級制度による悪を取り除き、理想の国を作ろうとするウィリアム・ジェームズ・モリアーティと、宿敵シャーロック・ホームズの戦いを中心に描かれる。初日を目前に控えた稽古場の模様をレポートする。
都内稽古場。この日は物語後半クライマックスの稽古が行われていた。
今作の大きな魅力でもあるピアノとヴァイオリンの生演奏が響くなか漂う、いい緊張感を感じる。稽古場には本番と同サイズで2階建ての骨組みのセットが組まれており、キャスト、スタッフ全員がマスク着用で稽古に臨んでいる。
シャーロック・ホームズ役の平野良、その相棒ジョン・H・ワトソン役の鎌苅健太、ホームズとワトソンが住む部屋の家主ミス・ハドソン役の七木奏音、3人の芝居からシャーロックとジョンの歌につながるシーンが行われる。Op.1から出演している平野と鎌苅の息の合った見事な歌声と、生演奏での美しいメロディに引き込まれる。
ここで、平野と歌唱指導のスタッフが、脚本・演出の西森英行に歌い方を修正したいと提案。鎌苅も加わり4人でしばらく話し合う。半音の上げ下げなど細かく調整しながら、ピアノとヴァイオリンの伴奏で歌ってみて確認。シャーロックとワトソンのデュエット曲について、「半音下げたままで終わるとちょっと曇天になっちゃうね」と西森が指摘。物語の展開に合わせてさらに調整していく。主要キャスト、音楽、歌唱指導が1作目から変わっていないからこそ、このような微調整が可能なのだ。
2.5次元舞台をけん引してきた実力派俳優が顔を揃えている今作。休憩中も各々が歌や台詞、動きを黙々と確認するなど、稽古場は終始落ち着いた雰囲気。
夜になり、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役の鈴木勝吾が稽古に合流。平野と軽く会話を交わす。
稽古が再会。緊迫したヴァイオリンのメロディが流れるなか、シャーロックとジョン二人のシリアスなシーンが展開。平野と鎌苅の強い眼差しの芝居にさらに緊張感が増したところに、ウィリアムとシャーロックに立ちはだかる脅迫王ミルヴァートン役の藤田玲が登場。
演出の西森から「シャーロックとミルヴァートン二人の温度感が上がったほうがいい」など細かく指示が入る。そして「次のシーンに行きましょう」という西森の声で、藤田、平野、鈴木、3人が演じる緊迫したシーンの稽古がスタート。冷酷なミルヴァートンを表現した藤田の迫力のある歌声が稽古場を支配する。その後に続く平野、藤田、鈴木の実力派3人の歌い合い、そこにアンサンブルにコーラスが加わるドラマチックな演出は、まさにミュージカルの醍醐味だ。
演出の西森から、鈴木、平野、藤田に対して「すごく締まった感じがする」と声がかかる。
アンサンブルのコーラスには「地の底から這ってくるような感じを共通イメージにしたい」という指示も。「アンサンブルの人達がグイグイくるミュージカル」だと、鈴木と平野もコメントしているように、メインもアンサンブルもちゃんと立っているところが“モリミュ”の魅力なのだ。
再度、クライマックスの見せ場である、ウィリアム(鈴木)、シャーロック(平野)、ミルヴァートン(藤田)が対峙するシーン。役者の一挙手一投足を見つめる演出の西森。「歌の盛り上がり方、どう?」と藤田が尋ねると、「温度が上がっている感じが伝わってきた」と答えた。鈴木は休憩中にタブレットでピアノの音を出して音程を何度も確認したり、平野もアカペラ部分の歌い方を修正したり。キャスト、スタッフ、カンパニー全体から作品への情熱が伝わってくる。
最後にもう一度、クライマックスからエンディングの部分までを一気に通して、この日の芝居の稽古は終了。芝居、歌、踊り、すべてが渾然一体となってよりブラッシュアップされた“モリミュ”の本番が待ち遠しい。
なお、本作は1月29日(日)までの大阪公演の後、2月2日(木)~2月12日(日)東京・天王洲 銀河劇場でも上演が決定している。
取材・文/井ノ口裕子