本日開幕!舞台『鋼の錬金術師』稽古場レポート&稽古場風景を公開★ 

©荒川弘/ SQUARE ENIX ・舞台「鋼の錬金術師」製作委員会

本日、3月8日(水)に開幕する舞台『鋼の錬金術師』。その稽古場へ潜入したレポートが到着!!座組の熱量がダイレクトに伝わってくるレポートを観劇前にぜひ!

2月下旬、舞台『鋼の錬金術師』の稽古場。

稽古場に立て込まれた舞台セットの間で、筋トレに励む傷の男(スカー)役・星 智也。その後ろの休憩スペースではニーナ・タッカー役の小川向日葵と尻引結馨(Wキャスト)がリザ・ホークアイ役の佃井皆美と楽しげに話している。その側をアレキサンダー(!)にまたがったゾルフ・J・キンブリー役の鈴木勝吾が嬉しそうに通り過ぎた。キャストたちはリラックスした様子で稽古開始前の時間を過ごしている。

舞台『鋼の錬金術師』は、ストレートプレイにメインテーマをはじめとした数か所の歌唱シーン、そして全編にバンドによる生演奏の楽曲が流れる豪華な作りだ。

音楽監督・作曲に加えてBand Master&Key.を担当する森 大輔は、石丸と何度もタッグを組んでいる信頼のスタッフ。今作の稽古を見ながら作曲、調整という工程を重ねてなんと50曲以上の楽曲を作り上げた。

この日はバンド合わせ初日。稽古開始時間に合わせてバンドメンバーが紹介された後、脚本・演出の石丸さち子が「とうとうやってきました、バンド合わせ稽古!」と両腕を掲げてガッツポーズ。エドワード・エルリック役をWキャストで務める一色洋平と廣野凌大も同じく両腕を掲げ、稽古場にいた全員が大きな拍手でバンドを歓迎した。

「この公演で一番の贅沢、願いが叶った」と嬉しそうな石丸。「バンドとのセッションが本当に良いものになると思うので、楽しんでください。今日、自分の中で起こること、感覚を大切に過ごして」と皆に伝え、バンドメンバーを加えての稽古が始まった。

一幕一場から順次、演奏と芝居を合わせていく。すでに衣裳付き通し稽古を終えて稽古最終日まで残り数日……という段階。芝居とアクションはほぼ完成されており、バンドの演奏が入るタイミングを合わせていくことがメインだ。石丸が「芝居も音楽も一番良いところを探りたいと思います」と述べていた通り、「この台詞は4拍目で。その後にドラムが入って、タイトルコール」と細かい指示が飛ぶ。

廣野演じるエドが「錬金術師だ!」と決め台詞を放つと、ステージに殴り込むかのように演奏が始まった。その振動と迫力に稽古場が震える。一区切りが付くと自然に拍手が沸き起こり、バンドメンバーへの称賛が口々に上がった。

タイミングピッタリに台詞を言った廣野が「俺のことも褒めてよー!」と欲しがると、その様子を見守っていた一色が「そうだね」と優しく微笑む。この稽古冒頭のやり取りだけでも、石丸の熱さと一色&廣野が持つ個性が分かる。

バンドとのタイミングを調整後、同じ場面をもう一度。今度は一色がエドを演じる。この日はバンド合わせのため両者交互に演じていくスタイルだが、ここまでの稽古期間、エド役のふたりは自分たちで稽古に立つ方を決めていたという。Wキャストの稽古方法としては異例だが、一色と廣野の“絆”あってのものだろう。場面に立たない方も必ず相手を見つめて確認し合い、互いの精度を上げている。

再びエド役が廣野に戻り、オープニングを通すことに。開幕からド派手でアクロバティックなアクションが次々と繰り広げられ、舞台装置などのギミックも使用される。そこにステージ後方からバンドの生演奏が加わり、最高に格好良いシーンが仕上がった。

ステージを駆け回っていた廣野は、生演奏を間近に受けて「(テンションが)上がる~!」と嬉しそうに笑うが、同時に「上がるけど、上がると死ぬ!(笑)」と、主役のハードさをあらためて感じた模様。だがオープニングから「これが舞台『鋼の錬金術師』だ!!」と宣言するような力強いパッションが伝わってきた。

その後もバンド合わせは着々と進む。

森が石丸の表現を汲み取り、音量や演奏を止めるタイミングを調整。バンドの演奏によって、時間経過や各人物の心情も見えてくるようなドラマティックさが全体に響いていく。

ロイ・マスタング大佐が“綴命(ていめい)の錬金術師”ショウ・タッカーの存在をエルリック兄弟に教え、タッカー邸を訪問する場面ではWキャストの蒼木陣と和田琢磨の違いが出ており面白い。座り方ひとつとっても異なるため、大佐ファンの人は自分が抱いていたイメージとどちらが近いか確かめてみるのも楽しいだろう。

エルリック兄弟の回想シーンでは、バンドに対して石丸から「子どもたちの感情を受け取るように盛り上げて欲しい」とリクエストが。続いて兄弟が母を失う場面では「厳然と葬儀は執り行われる、という感じで。今だと寄り添っている感じがするのだけど、ここは厳しい現実を分からせて」と細やかに伝える。

もちろん主演のふたりも個性が出ている。一色と廣野も“エド”に違いないのだが、それぞれ違った感触がある。表現の一例に過ぎないが、一色は「怒りの中に哀しみ」があり、廣野は「哀しみの中に怒り」を感じるという印象。Wキャストは“違い”こそが醍醐味であり役者の魅力。各々の魅力をぜひ劇場で味わって欲しい。

アルフォンス・エルリック役の眞嶋秀斗は、スーツアクター・桜田航成が演じる鎧姿のアルと一定の距離を保って台詞を発する。眞嶋は次の場面でやることを見据えて、誰に指示されるより前にセットをセッティングしていた。さり気なく気が回るところがなんともアルらしい。本番は鎧を纏うとはいえ、覆われてもなお身のこなしからほとばしるであろう桜田の感情表現にもグッとくるものがある。

一人ひとりがキャラクターと、そしてこの作品と真剣に向き合っていることが細部からもにじみ出ている。

断片的ながら稽古を見て驚かされるのが、場面がスムーズに紡がれていくことである。上演時間に収めるためには、当然原作の流れそのままとはいかず省略するやり取りが生じるが、ツギハギにされた印象が全くない。“錬金術”を始めとして説明を必要とする部分も膨大だがストレスなく、原作を知らない人が見ても置いていかれることなく楽しめるだろう。

もちろん原作ファンにとって「ここぞ!」という台詞や場面は、ステージで堪能出来るに違いない。『鋼の錬金術師』の名台詞のひとつ、大石継太演じるタッカーの「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」には、生身の叫びがある。

アクションシーンのバンド合わせでは、衣裳付き通し稽古とのタイミングのズレを石丸が指摘。すると廣野が「(衣裳付き通し稽古をした)俺の足が遅くて、洋平さんは足が速いから」と発言。「足の遅い俺に合わせていただいて……」と続けると、横にいた鈴木が「速い方に合わせなよ!」とツッコミを入れ、笑いが起こった。

この場面では動きに悩む桜田に鈴木がアドバイスする姿も。そのシーンには出番のないキャストたちも稽古を楽しそうに見守っており、カンパニーの団結力が感じられた。

エドとアルが傷の男(スカー)と遭遇する場面。タッカー邸の“静”から一気に“動”に切り替わり、物語もスピード感を増していく。

続々と登場する「ハガレン」のキャラクターたち。軍部のメンバーは身体能力を誇るキャスト揃いだ。佃井演じるリザ・ホークアイは厳しくも優しく大佐をサポートし、アレックス・ルイ・アームストロング役の吉田メタルは鍛え上げられた筋肉も相まって圧倒的な存在感と説得力。切れ味鋭いツッコミをこなすジャン・ハボック役の君沢ユウキは、声を演じる66のシーンでガラッと異なる空気を醸し出す。重々しいシーンに飄々と登場して場の空気を変えてみせるマース・ヒューズ役の岡本悠紀、絶妙な掛け合いを繰り広げるデニー・ブロッシュ役の原嶋元久とマリア・ロス役の瑞生桜子もなくてはならない存在だ。

本読みの時点から「そのまんま!」と絶賛されていたホムンクルスたちも雰囲気たっぷり。ラスト役の沙央くらまは劇中歌唱シーンにも期待。エンヴィー役の平松來馬は軽やかな身のこなしで見る者の目を奪い、草野大成は不気味さの中にどこか愛嬌も感じられるグラトニーを見事に体現している。

ティム・マルコー役の阿部 裕、イズミ・カーティス役の小野妃香里、グレイシア・ヒューズ役の斉藤瑞季もそれぞれ劇中複数の役柄を演じている。役柄によって全く異なる印象を感じられるのも舞台ならではの面白さだ。ピナコ・ロックベル役の久下恵美とウィンリィ・ロックベル役の岡部 麟(AKB48)が作る温かい空気、和気あいあいとした掛け合いは微笑ましく、エルリック兄弟が心の拠り所とするのも頷ける。そしてキング・ブラッドレイを演じる辰巳琢郎。登場するだけで場の空気が引き締まり、さらなる物語の深さを予感させた。

キャラクター全員、登場シーンから見逃せない。

生身だからこそ、演劇ならではの表現を楽しみに開幕をお待ちいただきたい。

文/片桐ユウ

※辰巳琢郎の「琢」は旧字体が正式表記