シリーズ累計100万本を超える大人気ゲーム『薄桜鬼』を原作とした、ミュージカル『薄桜鬼』は2022年にシリーズ10周年を迎えた。4月8日(土)からは16作目となるミュージカル『薄桜鬼 真改』山南敬助 篇が上演される。2015年のミュージカル『薄桜鬼』黎明録から山南敬助役を務める輝馬を中心に、熱気あふれる稽古場の模様をレポートする。
この日は物語が新選組の悲劇へと展開していく2幕の音楽やつなぎも含めた確認を行う通し稽古が行われていた。広い稽古場の中央には、本番と同サイズの仮セットが組まれている。
「薄ミュ」ならではの歌いながらの舞うような殺陣は、美しいけれど悲しさが伝わってくる。役者たちの迫真の殺陣と歌と芝居に思わず息をのむ。殺陣シーンに対して、今作の演出・脚本・作詞を担当する西田大輔氏から「斬るときは2回か3回斬ったほうがいい」などの指示があり、それを受けて殺陣担当の六本木康弘氏からも、さらに細かい指示が入る。
休憩明けに始まったのは、新選組局長・近藤勇(井俣太良)が新政府に捕縛される場面。
死にゆく前の近藤の心情などを丁寧に説明し、重要な場面の芝居を慎重につけていく西田氏。その言葉一言一言を真剣に受け止める役者たち。
張り詰める空気のなかで、初期から10年間近藤役を演じる井俣の胸を打つ姿、そして久保田秀敏演じる土方歳三の泣き崩れる姿に、思わず涙があふれそうになった。
歌についても、「千鶴は少しゆっくりにしたいんだよね、雨を見てから歌に入りたい」など、ミュージカルならではの演出のこだわりの修正が次々に入る。
しかし、厳しさの中に愛のある西田演出。稽古場では時折笑い声も起きて、緩急のあるいい雰囲気のカンパニーであることがうかがえた。
密着して1時間後、今作の主演・山南敬助と藤堂平助が対峙するヒリヒリするような殺気漂う殺陣シーンが始まる。歌×殺陣=これぞ「薄ミュ」の真骨頂だ。クールで感情を抑えた輝馬の演じる山南と真っすぐで熱い藤堂平助役の樋口裕太。演出がアンサンブルに指示をしている間にも、2人は常に殺陣を確認していた。2018年の「志譚 土方歳三 篇」に樋口が加わってから、山南と平助として「薄ミュ」の舞台で生きてきた2人が、一対一の殺陣をおもいきり楽しんでいるようにも見えた。本番でさらに緊張感が加わったこの場面が観るのが楽しみだ。
雪村千鶴役の青木志穏の可憐な歌声と凛とした美しさにも注目したい。稽古中には歌のメロディをハミングして、演出の西田氏を笑顔にする一幕もあり。愛らしいヒロインは稽古場の癒しでもあるようだ。
また、久しぶりの登場となる南雲薫も今回の見どころのひとつ。星元裕月が美しくも怪しく演じていて魅力的だ。
続くシーンも通しで行う。「全員、お芝居を大事にやりましょう」と西田氏から声がかかると、稽古場の熱量がグンと上がり、役者たちの気迫も一段上がった。出番ではない役者も全員が真剣に通し稽古を見守る。
通し終了後、千鶴役の青木に西田氏から「ミュージカルだから歌が大切。でも歌自体も大切だけど“思い”が観客に届けばいい」とのアドバイスが。歌詞のひとつひとつにも台詞同様、登場人物たちの思いが込められているのだ。
休憩中も役者同士で芝居、台詞、殺陣などを確認し合う。続く思いを通わせ合う山南と千鶴のシーンにうっとり。
クライマックスまで、シーンごとに、よりテンポよく無駄な動きのない芝居の完成度を上げていく。西田氏もキャストも作品を深く愛していて一切妥協がないからこそ、ミュージカル『薄桜鬼』は常に胸熱な舞台を観せてくれるのだと実感する稽古場だった。
ミュージカル『薄桜鬼』は、原作を知らなくても、2.5次元舞台の初心者でも、楽しめる舞台。一度見たら、熱く泣ける「薄ミュ」ワールドにきっとハマるはず。
取材・文/井ノ口裕子
撮影/ローチケ演劇部(ツ)