舞台『弱虫ペダル』新インターハイ篇~箱根学園王者復格(ザ・キングダム)~稽古場リポート

舞台『弱虫ペダル』新インターハイ篇~箱根学園王者復格(ザ・キングダム)~より稽古場リポートが到着!

人気舞台シリーズ、舞台『弱虫ペダル』の第12作目となる、舞台『弱虫ペダル』新インターハイ篇~箱根学園王者復格(ザ・キングダム)~。主人公の総北高校(以下、総北)・小野田坂道(醍醐虎汰朗)が2度目となるインターハイに出場する今回は、強力なライバル校である箱根学園(以下、ハコガク)チームが1日目に大勝を収め、絶対的王者として君臨。西の怪物・御堂筋翔(林野健志)らを擁する京都伏見高校(以下、京伏)も全力で追い上げてきており、3校が熱く火花を散らす2日目の戦いが描かれる。

同公演のハイライトとなる、全キャストが集うエンディングシーンの稽古が行われる日に稽古場にお邪魔した。この日は総北の主将・手嶋純太を演じる鯨井康介、今泉俊輔を演じる猪野広樹が残念ながら欠席。稽古スタートから約2週間が経ち、総北・鏑木一差役の原嶋元久、ハコガク・黒田雪成役の伊藤澄也、真波山岳役の杉山真宏ら、新キャストもそれぞれのチームになじんできた様子だ。

 

全体稽古の合間に、各キャストが自主的にセリフや動きを合わせているシーンを何度も見かけた。例えばストーリー前半にはインターハイ1日目の総北の宿泊先に坂道の母が押し掛けるくだりがあるが、かなりコミカルなこのシーンでは鳴子章吉役の百瀬朔がリードしつつ、醍醐らとセリフを合わせていた。空気をまったく読まない母に翻弄される総北の面々に対し、演出・脚本の西田シャトナー氏からは「動きはもっと大きいほうがいいなあ」とアドバイスが。醍醐は休憩中にもわずかな時間を見つけては、ハコガク・新開悠人役の飯山裕太とともに、山岳ステージでの勝負のシーンのセリフや動きを確認している。デビューからのキャリアはまだ浅い醍醐だが、周囲のキャストたちから貪欲に学び、まっすぐに作品作りに集中する姿勢には、一途に目標に向かって走る坂道に通じるものを感じた。

3チームのキャストが入り乱れる稽古場。この日のムードメーカー役を果たしていたのが百瀬や飯山だ。役を彷彿とさせる関西弁でとあるシーンのダンスをテンポよく解説する百瀬に、ダンスボーカルグループ・B2takes!で活躍する飯山が「難しい!」とボヤきつつも短時間で振り付けをマスター。途中から加わってきたハコガク・泉田塔一郎役の河原田巧也の動きに「全っ然なってない!」とツッコむ2人に周囲から笑いが起こっていた。

とはいえ、ここはシビアな作品作りの現場。たとえば、インターハイ1日目の疲労が重なり他のメンバーと千切れて(遅れて)しまった総北の1年生エース・鏑木を、3年生の青八木一(八島諒)が連れに戻るシーン。ここでは同作のフックとなる「恋のヒメヒメぺったんこ」の歌詞が記された“神様のビンセン”を手渡され困惑する鏑木に対し、青八木はこの歌を大声で歌うことが勝機を呼ぶのだと力説し、先輩の田所 迅とのやり取りを回想する。舞台では音がまったくない状態から徐々に音楽がフェードインしていくのだが、ここでの役者たちの動きと音楽が上手くかみ合わず、シャトナー氏から何度も待った!がかかる。役者たちの動きに合わせて音楽が後付けされる映画やドラマと、役者が音楽に合わせて動く舞台には明確な違いがある。「舞台で音楽を生かせるかどうかは役者にかかっているのだから、よく考えて」とシャトナー氏は時間をかけて説明しながらも、そのタイミングは決め込まずに役者に判断を委ね、何度も試行錯誤を繰り返していた。

稽古の合間にシャトナー氏に今回のカンパニーについて質問したところ、「この作品は芝居自体が毎回未知の世界なので、続投の人たちを含めて慣れるということはないのではないか。もちろんキャスト同志は仲良くやっていると思うが、どうやったら芝居が出来上がるのか、絶えず緊張しながらやっていると思う」とのこと。この日は1つ1つのシーンにおいて、原作が持つ魅力を損なわないよう細心の注意を払いつつ、緻密に芝居を作りこんでいく様子を目の当たりにした。

先ほどのシーンの合間に、リズムを取りながらハンドルを持って考えている原嶋に御堂筋役の林野が声をかけ、何やらアドバイスをしている様子。京伏というチームに身を置きつつも一匹狼キャラの御堂筋を演じる林野は、193cmという長身もさることながら、そのたたずまいに圧倒的な存在感がある。林野をはじめ、このカンパニーでは一番の古株となる河原田や総北・古賀公貴役の本川翔太ら、各チームの主将や先輩役などキャリアの長いキャストをお手本にして、新キャストはハンドルさばきなどを覚えていく。河原田が稽古場の鏡を見ながら、泉田の特徴あるセリフや動きを“自主練”するたびに、自然に後輩キャストたちの視線が集まる。その様子はある意味、リアルな部活のようでもある。

そして、今回の見どころの一つといえるのが、数多くの登場キャラクターの中でも筆頭格といえる筋肉美を誇る泉田と、美しい筋肉に目がない京伏・岸神小鞠(天羽尚吾)という超個性派キャラ同士の一騎打ちのシーン。この日の2人はセリフや動きを軽く合わせる程度だったが、パワーとスピード感が宿る河原田のハンドルさばきはやはり絵になる。対する天羽も変幻自在なターンなど一つ一つの動きが美しく、ダンサーらしい身体能力の高さがうかがえた。泉田が「僕は…最速の槍になる!」という印象的なセリフを繰り出しゴールに向かって疾走するのだが、このシーンを“人力で”どのように表現するのか注目してほしい。

 

さて、稽古は今回のハイライトとなるエンディングシーンへと突入。原作の複数のシーンをコラージュしたこのシーンには、エンディング時点での第二集団である京伏、ハコガクの面々にくらいつく総北・鳴子、そこから遅れてはいるが鳴子以外の5人がそろった総北の面々、手に汗を握りつつ応援する総北・古賀などキャスト全員が登場する。ここが散漫な印象にならないよう、シャトナー氏がセットのミニチュアを使って説明しながら、複雑なフォーメーションを組んでいく。シーン中には鳴子、ハコガク・真波、応援に回る総北・古賀らの複数のセリフが入るため、各チームの主将役がリードする形で、チーム全体の動きやセリフが入るタイミングを確認していた。

このインターハイに賭けるさまざまな思いが交錯する大事なシーンなだけに、各キャストのセリフの一言一言に尋常ではない熱がこもる。さらにゴールを目指しひた走る気持ちを全員で表現する群唱や、情熱的なテーマ曲「Over the sweat and tears」によって、原作の持つダイナミズムが舞台でしか表現できないものへと昇華されていくのだ。この日の時点で出来上がっているのは「全体の骨組み程度」(シャトナー氏)とのことだったが、このシーンだけでも、熱気に満ち溢れた本番のステージが目に見えるようだった。

 

チームごとの闘いはもちろん、因縁のある選手同士の闘い、ときには自分自身と闘わなければならないキャラクターもいて、一瞬たりとも目が離せないスピード感あふれる構成になりそうな本公演。息をもつかせぬデッドヒートをお楽しみに!

 

≪小野田坂道役:醍醐虎汰朗 コメント≫
前作もそうだったんですが、今作も最初からインターハイのくだりを追っていくので、キャスト全体で回すシーンがとても多いんです。なのでより、熱量を感じさせる内容になるんじゃないかと。5か月ぶりの“ペダステ”ですが、このカンパニーの人たちに会うと、自然に家に帰ってきたような気分になれますね。いつでもこの作品の中の関係性で、すっと受け入れてくれるというか…。新キャストの人たちも入ってきましたがすぐに仲良くなれましたし、みなさんもいいカンパニーだと口をそろえて言ってくれるんです。僕もその通りだなと思いますし。もちろん座長なので僕が引っ張っていかなければいけない部分もありますが、みなさん自主的に動いてくれたり、僕のことも助けてくれるので、本当にありがたいです。どのチームのキャストも、稽古のあと自主的に残って練習していたり、一人一人が意識を高く持ってやっているカンパニーです。ぜひ本番の仕上がり具合も楽しみにしていただきたいです。

 

≪泉田塔一郎役:河原田巧也 コメント≫
原作はもちろんですが“ペダステ”ならではのチームカラーがあると思うんです。僕がいる箱根学園の今回のメンバーは、チーム一丸となって目標を目指すような、すごく“ハコガクっぽい”メンバーがそろったなという印象です。総北なら手嶋役の鯨井さんを筆頭に、アドリブでいろんなことができる天才肌な役者がそろっていたりするので、そんなチームカラーにも注目していただきたいです。泉田の役作りに関しては、今年が2年目のインターハイになるわけじゃないですか。自分の役が2年に進級してキャプテンに代わった公演で、がむしゃらだった1年目とはいろいろ変化をつけていかないといけないと思って、そこからある意味、自分の素に近い部分も出していくようにしたんですね。公演のストーリーに応じてライバルチームを煽りまくるような悪役っぽさを出すこともありましたが、今回はキャプテンになった当初の、自分の素に近いところもある役作りに戻っていくのかなと思います。今回の泉田は過去のチームメイトへの感謝の気持ちを胸に秘めて走ることになるので、レースのシーンは熱い中にも温かい気持ちを感じてもらえるようなものにしたいですね。