特殊ミステリー歌劇「心霊探偵八雲」-呪いの解法-|ゲネプロ&囲み会見レポート

©神永 学・講談社/歌劇「心霊探偵八雲」製作委員会

神永 学の代表作である小説「心霊探偵八雲」と、小説「確率捜査官 御子柴岳人」の2人の主人公がタッグを組むファン待望のシリーズ第2弾、特殊ミステリー歌劇「心霊探偵八雲」-呪いの解法-が2月21日(水)に開幕。

原作小説の持つ霊視×数学×ミステリーのおもしろさに加え、歌とダンス、そして舞台ならではのセットや小道具のギミックをふんだんに駆使。初演からさらにパワーアップした本作のゲネプロの様子や、ゲネプロを前に実施された囲み会見の様子をお届けする。

写真左から)神永 学、永田聖一朗、後藤 大、笹森裕貴、田中涼星

囲み会見には、W主演を務める斉藤八雲役の後藤 大、御子柴岳人役の笹森裕貴のほか、前作に続き登場する矢口皇聖役の永田聖一朗、本作初登場の舞台オリジナルキャラクター・前山田一歩役の田中涼星、そして原作者の神永 学が登壇。

後藤の「緊張という言葉を使うとバイアスがかかってしまうので、全力で一瞬一瞬を楽しみたい」という前向きな意気込みを皮切りに始まった囲み会見は、彼の言葉通り緊張よりも楽しさが伝わってくる時間となった。笹森が「今はワクワクした気持ち」というフレーズを3度繰り返し、永田は公演ではなく囲み会見への意気込みを語って笑いを誘う。

初参加となる田中は「1人1人がパズルのピースを持っているような感覚」だと語り、見どころとして個性光る楽曲や劇場を使っての演出を挙げていた。

原作の神永は、脚本・演出の三浦 香に「三浦さんの描く八雲を自由に表現してください」とオーダーしたことを明かし、そのうえで出来上がった本作には、いい意味で「やりやがったな」と嫉妬を覚えたそう。言葉の端々から、神永とカンパニーの信頼関係が感じられ、続くゲネプロへの期待値が上がったのは言うまでもない。「オリジナルキャラクターを原作に逆輸入するかもしれません!」という言葉も飛び出したので、原作シリーズの今後の展開にも注目だ。

「カンパニー一丸となって手を繋いで千秋楽まで駆け抜けたい」という後藤のコメントで会見は締めくくられ、いよいよゲネプロがスタート。

舞台は八雲が通う明政大学。ステージでは、ミュージカルサークルが学園祭での上演に向けてリハーサルを進めていく。今回はこのサークル内で起きるとある事件が物語の核になるのだが、ミュージカルサークルと歌劇の相性は想像通り抜群。実力者ぞろいのサークルメンバーが演じる劇中劇によって、序盤から一気に作品の世界へと誘われる。

文化祭の本番を目前に控え、準備に追われるサークルの面々のところにやってきたのは、“赤い左眼で死者の魂を見ることができる”斉藤八雲(後藤)。前回の事件解決を受けて、“天才数学者であり大学准教授”御子柴岳人(笹森)が、八雲は心霊事件を解決できると宣伝したのだ。そのせいで、八雲はサークルのとある演目にまつわる呪いの噂と、実際に姿を消してしまった主演俳優の謎の解明について依頼を受けることになって――。

後藤は相変わらず膨大なセリフ量をこなしながら、他者と一線引いた絶妙な距離感で心の内を見せたがらない八雲を好演。後藤自身の持つ多才な一面が、人とは違う力を持つ八雲のあり方にうまく調和していた。

そんな八雲と幽霊の検証に取り組む御子柴は、会見で「演劇のあるべき形を改めて感じた」と語った笹森が熱演。御子柴は言動自体は常人には理解できない部分が多いものの、笹森が愛嬌ある愛せるキャラクターへと落とし込んでいる点が見どころだろう。

シリーズ2作目とあって、2人のやり取りの相性はばっちり。そこに御子柴と同じように変わり者の矢口皇聖(永田)も加われば、2人の間に挟まれる八雲が思わず不憫になってしまうほど、ハイテンションの磁場ができあがる。

今回はそこにかなり“濃い”キャラの前山田一歩(田中)や七目秀樹(鎌苅健太)も加わる。作中でも「混ぜるな危険」と揶揄される2人のコミカルなシーン、そしてそこから一転して心に染みる渋い芝居で魅せてくれるその手腕にもぜひ注目を。

歌劇として歌・ダンスといったパフォーマンスで余すところなく楽しませてくれるうえ、演出・三浦 香の柔軟な発想力に唸らされるこの劇場ならではのセットや小道具、通路の使い方も刺激に満ちている。

そして会見で原作者の神永が「八雲シリーズの深いところにある心情の部分をしっかり突いている」と語ったように、“呪い”を解くなかで浮かび上がる死者と生者の狭間にある人間ドラマは、日々を懸命に生きる我々に大切なものを気づかせてくれるだろう。“舞台を観る”というバイアスを捨て、まっさらな心でこの2時間30分という時間に浸ってみてほしい。

取材・撮影/双海しお