※この取材は2月上旬に行われたものです
舞台化不可能と言われていた自転車競技を「ハンドルと役者のマイム」で再現させた革命的手法と、演技の先を行くレースシーンでの「本気の走り」で熱狂的な支持を得ている舞台『弱虫ペダル』(通称:ペダステ)。10周年を迎えた2022年から、それまでのシリーズで手嶋純太を演じていた鯨井康介が演出を務め、新キャストによる舞台『弱虫ペダル』The Cadence!で新たなスタートを切った。2023年8月にはインターハイ1日目を描いた舞台『弱虫ペダル』THE DAY 1を上演。そして3月1日(金)から、インターハイ2日目の激闘を描く舞台『弱虫ペダル』THE DAY 2が上演中だ。ローチケ演劇部は、稽古場に潜入し、アスリートのトレーニングのような稽古の様子をレポートでお届けする!
都内の稽古場に伺うと、エントランスでは演出の鯨井さんとキャストたちが談笑していてすごくいい雰囲気。この日は、前日に行われた通し稽古の修正点を見直す、返し稽古が行われる。
午後1時、稽古がスタート。少し張り詰めた空気の中、演出の鯨井さんが本日の稽古の流れを説明。シーンの流れを少し変更するようだ。
本番の舞台では立体的なスロープをパズルライダーが人力で動かして、ロードレースの迫力を演出するのがペダステの魅力だが、稽古場が狭いためコの字型に組んだ棒を代用して動かして行う。
最初は、総北高校の小野田坂道(島村龍乃介)、鳴子章吉(北乃颯希)、巻島裕介(山本涼介)3人のシーン。縦列になったり円になったり位置を変えながら走る。スローモーションのような動きと激しい動きの緩急、息遣いや目線でロードレースのリアリティを表現していく。思わず引き込まれる。
ここで鯨井さんから台詞に関する修正が入り、真剣な眼差しで聞く3人。熱い台詞は「今の劇的な感じがあったらもっといい」など、自ら台詞を言って強弱も丁寧に指示していく。
そして、すぐに同じシーンをリプレイ。熱さが増したように感じる。先頭を走る巻島役の山本さんの強い声が稽古場に響く。さらに、3人の顔の向きや手の向きを修正するなど妥協はない。
続いて、総北の今泉俊輔(砂川脩弥)と金城真護(川崎優作)、箱根学園の福富寿一(高崎俊吾)、荒北靖友(相澤莉多)、東堂尽八(フクシノブキ)、新開隼人(百成瑛)、泉田塔一郎(青柳塁斗)、真波山岳(当時アンダースタディ:岩澤健三郎)、京都伏見高校の御堂筋翔(新井將)6人によるシーン。縦列になったり円になったりしながら稽古場内を大きく走り回る集団での走りは大迫力だ。ポジションをひとつひとつ確認しながら時間をかけて動きを決めていく。
ここでも「距離感をとっていいから」「出た瞬間めっちゃ(スピードを)上げるとキマる」など、役者ひとりひとりに動きや台詞を丁寧につけていく鯨井さん。
稽古が始まって1時間が過ぎたところで15分程の休憩に。
しかし休憩中も、先程のシーンを演じていたメンバーはお互いの間隔を確認するなど自主練。今作から初参加する京都伏見の水田信行役・田口司さんには、鯨井さんがマンツーマンで走り方を指導していた。足をアイシングするキャストもいたりして、舞台の稽古というよりアスリートのトレーニングのようだ。
稽古再開――。
インターハイ1日目終了後に体調を崩し、2日目で後方に沈んだ副主将の田所迅(滝川広大)が独白するシーンからスタート。胸に迫りくる台詞…。そこから、田所を連れ戻すため自ら順位を落とした坂道との熱い掛け合いのシーン。続いて、鳴子と巻島が走り、1日目で走りに自信喪失してしまった今泉と主将の金城との緊迫したシーンと一気に続ける。総北の6人が作り出すレースにグイグイ引き込まれる。
演出助手から「今泉と金城のくだりもう1回返します」と声がかかる。
シリアスに見つめ合う今泉と金城のシーンなのだが、思わず微笑み合ってしまう今泉役の砂川さんと金城役の川崎さん。見ているこちらもつい微笑んでしまった。
次は、箱根学園の6人と京都伏見の御堂筋のシーン。トリッキーな御堂筋の表情や動きを新井さんが見事に再現。泉田役の青柳さんもハマっている。
新開vs御堂筋のスプリント勝負のシーンでは、鯨井さんが新開の走りの模範を見せる。さすがの表現力。「ヤバい!のリアクションを入れながら走ることが必要」「ドラマを一個一個作る気づき合い」…。演劇的な動きでエネルギーの爆発を見せていく鯨井さんの演出は熱い。全身で芝居をつける鯨井さんの傍らには、常にノートPCで台本を開いた演出助手が帯同。スタッフも息ピッタリだ。
約2時間半、運動量の多さを考えると、ほとんど息があがっていない俳優たちのフィジカルはすごい。全力で走るシーンでも体力を使い切らない、体力作りをしているキャストたちの努力を見せてもらった。残りの公演も熱い鬼漕ぎに期待したい。
※高崎俊吾の「高」の字は(ハシゴダカ)・「崎」の字は(タツサキ)が正式表記
※川崎優作の「崎」の字は(タツサキ)が正式表記
取材・文/井ノ口裕子
撮影/ローチケ演劇部(つ)