舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場(いくさば)―|和田琢磨×君沢ユウキ 対談インタビュー

荒川弘が描くダークファンタジーコミックの金字塔「鋼の錬金術師」。初舞台化の第一弾公演は昨年3月に上演され、舞台効果と俳優の身体表現の限りを尽くした演出、原作から飛び出してきたようなリアルなキャラクタービジュアル、さらに物語を劇的にいざなう生バンドによる演奏が大きな話題を呼んだ。その続編となる待望の第二弾、舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場―が6月に東京・大阪で上演される。第一弾に引き続き出演する、ロイ・マスタング役の和田琢磨と、その部下ジャン・ハボック役の君沢ユウキが、舞台『ハガレン』への思いやお互いについて、第二弾の見どころなどを熱く語ってくれた。

――まずは、昨年3月に上演され好評を得た舞台『鋼の錬金術師』の続編、舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場―の公演が決まったことについて、心境をお聞かせいただけますか?

和田 第一弾のときから、公演がうまくいったら続編をやりましょうという流れがありましたからね。

君沢 そう。だから千秋楽も、「今回終わりだね、寂しいね」っていうよりは「きっとまた会おうね」って別れているので。このカンパニーで作ったとんでもないものを、またみんなで超えていきたいなっていう感じのすごく清々しい気持ちでしたね。

和田 無事に続編ができてよかったです。今回、新しく加わるキャストの方もたくさんいますけれども、そういう熱がある状態から第二弾を始められるというのは、非常に大きいことだなと思いますし。おそらく君沢さんを筆頭に、明るい稽古場に今回もなるなと思います。

君沢 いやいや(照れ)。

――君沢さんはムードメーカーなのですか?

和田 ムードメーカー以外、何かあるんですか?(笑)。

君沢 そうですよ(笑)。

和田 アハハハハハ!ムードメーカーのついでに役者をやってるんですよ(笑)。

君沢 そう、副業で役者やってるんですよ(笑)。

――こんなシュッとした方が。じゃあ、ムードメーカー同士じゃないですか?(笑)

和田 そうなんですよ。二人並んでいると、まぶしくて見られないって、みんな言うんですよ。太陽が二つあるって(笑)。

――お二人が、舞台『ハガレン』の太陽?

和田 はい(笑)。

君沢 そうだね、東と西の太陽(笑)。

――もう、息ピッタリですね(笑)。第一作を作り上げるのは、初の舞台化でご苦労もあったと思いますが、演じてみて思われた舞台『鋼の錬金術師』の魅力とは?

和田 一見すると派手で壮大な旅の物語ですけど、その根底に生々しさとか人間くささがあるのが魅力なんじゃないかなと思います。何のシリーズでも枠組みができていないから、立ち上げってすごく大変なんですよね。でも、その中で(脚本・演出の)石丸さち子さんが誰よりも原作漫画を読み込んでいて、彼女の「鋼の錬金術師」に対する愛情と理解が、骨組みとなってくれました。そこに僕らが肉付けしていけたのはすごく大きくて。作品と同じように、演じる我々も人と人との繋がりによってこの舞台を作り上げられたと思います。

君沢 2.5次元ではなかなかない年齢幅のある出演者で、とにかくキャストを見てびっくりしたんですけど。その本気さであったり、重厚さがすごく伝わってくる稽古場で。さち子さんを筆頭に主演のエドワード・エルリック(通称エド)役の一色洋平くんと廣野凌大くん、ぜんぜん違うタイプのWキャストの二人が一生懸命お互いを見ながら、さち子さんの横に陣取りながら、全力でやってくれるわけですね。だから、それに応えたいと思いますし、支えてあげたいと思いますし。稽古場を映しているだけでも絵になるんじゃないかな。

和田 そうだね、稽古を生配信したいくらい。

君沢 いや、ほんとに。けっこうドキュメンタリーですよ。

和田 できていく過程みたいなのがね、舞台『鋼の錬金術師』の作品にあっているし。

君沢 どの関係者の方も観た後に「面白い」って言ってくださって、2.5次元をやったことがない先輩の役者さんから「俺が出たい!」とも言っていただいたりして。2.5次元の垣根を越えてドラマが伝わっていくのを実感しました。それは、やっぱりスタッフさんやキャストさん含め、このチームだからできたことだなと思いますね。

――すごく熱い稽古場だというのが伝わりました。第一弾の稽古場や公演で特に印象に残っていることは?

君沢 エドとマスタングがWキャストなので、通し稽古が4パターンあって。マスタングは、けっこう組み替えていたんだよね。

和田 そう。一幕は僕がやって2幕を(蒼木)陣くんみたいなやり方もしていたかな。

君沢 野球のリリーフみたいなね。主演の二人も途中登板あったっけ?

和田 あったよ。シーン6から代わるみたいな。

君沢 (廣野)凌大が言ってたんですけど、(Wキャストの)お互いの演技を観ることでどんどんよくなっていって、ライバルというよりもリスペクトしあいながら重ねて上げていけると。初日に、エド同士がハグしている姿も印象的でしたね。

和田 そうだね。印象に残っていること……。君ちゃんと稽古場でも席が隣だったのに、本番の楽屋でも隣だったんですよ。ずっと横にいるから(笑)。

君沢 アハハハハハ!

和田 僕は、第一弾のとき、大阪公演は不参加で東京公演からの参加で。ひとり乗り遅れている感が自分の中ではあったんですけど、君ちゃんが隣にいてくれたおかげで、スッと入れましたね。

君沢 うんうん(笑)。僕らは歳も近いしね。

――和田さん演じるロイ・マスタングと君沢さん演じるジャン・ハボック。お互いから見た魅力はどんなところですか? また、第二弾でブラッシュアップされたいことは?

和田 今回、ハボックの名シーンがあるんですよ。

君沢 ハボックとマスタング大佐のね。

和田 原作ファンでしたら、ハボックの名シーンっていったらあそこってすぐわかるくらい。

君沢 そのシーンではやっぱり琢磨にぶつけられるっていうのが、嬉しいですね。

和田 第一弾は、お互いわりと飄々としている感じで、こういうエモーショナルなシーンはなかったので。

君沢 うん、そうですね、確かに。

――上官と部下という関係性ですけど、お互いに感情をぶつけ合うようなシーンがあるんですか?

和田 あります。

君沢 そのシーンではマスタングや軍部の面々のいいところが見えるというか。マスタングってビシッと決めるときもありながら、まるで友達みたいな瞬間もあって。大佐面してない大佐だからこそ感情をぶつけられるんですよ。マスタングは理想の上司だと思いますね。

和田 なんで理想の上司にランクインしないんだろうって、いっつも思う(笑)。

君沢 アハハハハハ!

――和田さんが演じるマスタングの魅力は?

君沢 やっぱりメリハリですね。和田琢磨という男がもっているパキッとしている部分とチャーミングさという二面が、そのまま和田マスタングになっているので。和田マスタングは軍部のメンバーを引っ張ってくれるイメージで、(蒼木)陣くんのマスタングは一緒に駆け上がっていく感じがありました。

――君沢さんが演じるハボックの魅力は?

和田 ハボックには軽やかさが絶対に必要なんですけども、軽やかさって、やっぱりご本人がもっていないと表現するのが難しいんですよね。あのたくさんのお客様の前で「こいつほんと何も考えてないの?」って思わせるくらい飄々とした演技って、その人の自力がないとできないことですから。

君沢 ハハハ。

和田 それをいやらしくなくできるので、それは君さんの素敵なところであり。で、そういう一面しかないのかっていうとそうでもない。人間らしさや人間くささも持ち合わせ、厳しい面ももっているっていうところは、ハボックとマスタングって、ちょっと似ているのかもしれないですよね。

君沢 そうかもしれないよね。

和田 それが、キャラクター同士で共鳴しあっている理由なのかもしれないです。

君沢 うん、確かに。だからマスタングとハボックの関係性においてはそんなに意識せず。

和田 うん、何でも大丈夫。どう動くとかここで何をするとか、作戦会議無しでぜんぜん大丈夫です。

君沢 そうですね。僕はめちゃめちゃ信頼しているんで。

和田 フフフフ。

――お二人はいつから、そんなに親しくなったんですか?

和田 共演は2022年の舞台「薔薇王の葬列」が初めてだったんですけど、以前から、君沢ユウキっていう似たようなやつがいるからって、周りからよく言われていて。

君沢 そう、僕もすごく言われてたんいですよ。「和田琢磨って知ってる?」って。絶対楽しいし気が合うよって聞いて。ほんまかいなって思っていたんですけど。

和田 「薔薇王」で会って、もうすぐに仲良くなりました。

君沢 もう、なんかすぐでした(笑)。

――出会ってすぐに意気投合?

和田 そうなんです。

君沢 人間としてのスペックが本当に高いんですよ。僕は、人のいいところを見つける天才だと自認しているんですけども、琢磨は探さなくても溢れ出している。役者じゃなくても、どの世界に行っても上り詰める能力があるし、頭がいいし、パワーがあるし、面白いし、チャーミングだし、仕事に真面目だし、フィジカルも意外とすごいし(笑)。

和田 ハハハハ。

君沢 友達に、「すごい男がいてさ~」って、紹介したくなるような人です。

――すごく褒められていますが(笑)?

和田 はい。

君沢 だから勝手にミスター・パーフェクトって、呼んでいるんですよね。

和田 承認してます(笑)。

君沢 アハハハハハ!

――和田さんが思う君沢さんの魅力は?ムードメーカーなところですか?

和田 だって楽しくないですか?この雰囲気。その場を楽しくさせるっていうのは、やっぱり才能ですよね。

君沢 ハハハハ。

和田 第一弾のときはコロナ禍で、ごはんにも行けなくて。キャスト同士お互いの人となりがわからないまんま進んで行くなかで、この方の持っている人間力というのが、周りにだんだん電線していって。食事会とかしなくても仲良くなれたことには、すっごく貢献してくれていたと思います。

君沢 いえいえ。

――第二弾では、食事会ができそうですね?

君沢 そうですね。でも、「ハガレン」の稽古場は、マジでむき出しなので(笑)、稽古場で十分かも。パーソナリティも知れるようなワークショップみたいな感覚もあって、それをみんなで見守りながらやるので。だから、ご飯にいかなくても、お互いを知れるといいますか。

和田 石丸道場なんで。

君沢 ほんとに愛をもって言ってくれるからね。

和田 石丸さんは、根底に相手をリスペクトする愛があるから、我々がついていけるんですよ。「琢磨、やるよ!」って言って、ぐわっと引っ張ってくれる。

君沢 芝居に命かけているのが、わかりますもん。「ハガレン」といえば等価交換ですが、さち子さんは自分の人生を演劇にベットしているのが伝わってくるので。

和田 それに、応えたいと思いますよね。

君沢 応えたいです。

――舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場―では、リン・ヤオ一行など新たなキャラクターが登場したり、ホムンクルス(人造人間)との戦いも激しいものになりそうですが。見どころを教えていただけますでしょうか?

和田 副題のとおり、本当にいろいろな場面が同時進行していく話なので、今回はあまりエドたちとは一緒のシーンがないくらい目まぐるしいんですけど。その目まぐるしさに説得力を持たせられれば、すごく喜んでもらえるんじゃないかと思います。

君沢 さち子さんは、必ず第一弾を観ていない方もついていけるように面白くしてくれます。中には原作を知らないとちょっとわかりづらい2.5次元舞台もあると思うんですが、それすらもう関係ない。知っていても面白いけど、知らなくてもそこに「ハガレン」の世界があるから、言葉がわからない外国の方が観ても面白い自信があります。リン・ヤオ一行は動けるキャストが演じるので、それも楽しみにしていてほしいです。

和田 うん。リン・ヤオ役の本田礼生はバリバリ動けるし、フー役の新田健太くんは第一弾でもスタッフとして関わってくれた殺陣師だしね。

君沢 ランファン役の星波ちゃんもバック転とかバンバンできるので。今回は、我々も戦闘シーンがけっこうあります。さち子さんは、ドンパチの中にも絶対に人間ドラマを入れてくるので、そこは大事に演じたいです。

――最後に、公演を楽しみにされている方へ、意気込みとメッセージをお願いいたします。

君沢 今回も稽古場から真剣勝負が間違いなく繰り広げられると思います。舞台『鋼の錬金術師』は本気で演劇をやっていいと許された場所なので、1か月半みっちり稽古をして皆様にお届けします。絶対の自信をもってみんな輝いているので、劇場に受け取りに来てください。

和田 言いたいことはだいたい君さんが言ってくれました(笑)。

君沢 ハハハハ。

和田 本当に稽古場から観に来てほしいくらい、僕らはこの作品に自信と愛情をもって向き合っているので、僕らの作品にかける熱量がお客様に伝わる舞台になるのは間違いないです。この僕らの体と心のシンクロを、ぜひ生で受け取ってほしいですね。あとは、2.5次元作品の中で、生バンドを入れて音を出す座組ってすごく少ないのでとっても貴重。生音との呼吸感みたいなものもいいグルーブになって伝わると思います。ぜひ劇場で体感していただきたいです。

取材・文/井ノ口裕子
撮影/篠塚ようこ

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