11月8日(金)に初日を迎える舞台『アオペラ』は、青春とアカペラを存分に浴びることができる青春群像劇。初の舞台化となる本作では、原作である音楽原作プロジェクト「アオペラ -aoppella!?-」のドラマCDのストーリーに沿って物語が展開。鈴宮 壱がアカペラに出会い、アカペラ部設立を目指して動き始めるところから描かれていく。
壱が結成するアカペラグループ・リルハピのキャストには、鈴宮 壱 役の長江崚行のほか、手島章斗、宮島優心(ORβIT)、畠山理温、磯野 亨が名を連ね、さらに舞台オリジナルキャラクターとして、彼らが通う都立音和高校の生徒会書記・辻堂 颯太 役に眞嶋秀斗が出演。
壱の幼馴染である是沢舞斗がリーダーを務めるアカペラグループFYA’M’(フェイム)の面々には、是沢舞斗 役の佐奈宏紀を筆頭に星元裕月、桑原 柊、内田将綺、坂田隆一郎、常盤みつるといった、2.5次元舞台の経験豊富なキャストからフレッシュなキャストまで揃う。
さらに、ビートボックスのRyoTracks、シンセサイザー&マニピュレーターのTaisei Todaが加わり、リルハピとFYA’M’が生み出すアカペラに音の層を生み出していく。
キャスト陣は年明けからアカペラ練習を開始。約9ヶ月の練習を経て、公演期間を迎えることになる。歌唱力を高く評価されて抜てきされたキャストたちが、これだけの準備期間をかけて練習しているアカペラが、舞台作品としてどう表現されているのか。本番まで1ヶ月を切ったこの日、都内某所で行われている芝居稽古を取材した。
取材時、稽古していたのは物語序盤。アカペラ部を設立したばかりの鈴宮 壱(長江崚行)が、部員たちを連れて向かった先は私立奏ヶ坂中学高等学校。是沢舞斗(佐奈宏紀)らFYA’M’(フェイム)のメンバーが通う同校アカペラ部との合同練習をおこなおうというシーンだ。
全員の立ち位置や動きを見ながら、脚本・演出・作詞の元吉庸泰がセット転換のタイミングなどを朗らかに指示していく。アカペラが真ん中にある物語。それを表現するかのように、この作品では、シーン転換時やキャラクターたちの会話も自然と音楽になっていく。元吉の隣の机では、音楽を手掛ける桑原まこがシーンに合わせて最適な曲の入りタイミングを探り、さらにその隣ではアカペラ監修のとおるすがリズムを刻みながら“生徒”たちの歌声をチェックする。複数の顧問の先生に見守られている生徒たち、そんな微笑ましい構図の中、返し稽古自体も談笑混じりに和やかに進んでいった。
このあと、その少し前のシーンから通すということで休憩時間に入る。休憩時間に入っても歌声は鳴り止まない。あちこちから聞こえてくる歌声に、放課後の校舎に響く吹奏楽部の自主練習の音色が連想された。FYA’M’は小さな輪となって、ハーモニーを一つずつ確認していく。
一方で、“顧問の先生たち”の周りにはリルハピのメンバーが集まってくる。最初にやってきた雁屋園道貴 役の宮島優心は、どうやら自己紹介も兼ねているソロパートについて確認したいことがあるよう。キーボードの伴奏に合わせて何度も歌い、納得がいくと笑顔で去っていった。すると、今度は四方ルカ 役の畠山理温がやってきて……といった具合に、芝居稽古の休憩時間は、そのまま歌唱稽古の時間となっていた。
彼らが「もっともっと」と音を追求する姿は、まさにやりたいことを前にした若者たちの青春のエネルギーそのもの。この時点でまだ芝居はほとんど観ていないにも関わらず、不思議とこの作品からキラキラとした青春を浴びることができるに違いないという確信めいたものを感じた。それほど、稽古場には“部活味”を帯びた熱量が立ち込めていた。
休憩、もとい歌唱稽古の10分を終え、壱がアカペラ部設立を目指して奮闘するシーンから、彼らが奏ヶ坂に合同練習をしに行くシーンを通していくことに。壱が部員を勧誘するシーンや、部活設立に関して辻堂 颯太(眞嶋秀斗)から助言をもらうといったシーンが、軽やかに進んでいく。
印象的なのは、やはりアカペラ。例えば、壱と辻堂との会話のシーンでは、セリフの掛け合いに加えて、コーラスとの掛け合いも生まれるのだ。また他のシーンでは、さらにビートボックスのリズムも加わってくる。ミュージカルともまた違う、“歌とともにある芝居”が生まれつつあるようだった。
裏を返せば、シーンが次々とリズムに乗って動いていく分、役者もテンポよく適切な芝居を引き出していかなければならない。当然、アカペラを歌いながら。そう考えると、役者にとっても大きな挑戦となる作品なのだろう。
FYA’M’が登場し、両グループが初めて全員で顔を合わせたところまで通し終わると、元吉と音楽チームが顔を合わせ「FYA’M’いけますね」とニヤリ。それを受けた長江が「僕たちは何が違うって言うんだよぉぉ!」とシャウト、稽古場が笑いに包まれる。明るい雰囲気を作りながら、リルハピの士気も上げていく。さすが、経験豊富な座長といったところだ。
芝居中、キャストはもちろん制作サイドの机からも自然と拍手や歓声が上がり、全員がこの作品を楽しみながら作っていることが伝わってきた。
部活のような雰囲気はありつつも、ここはプロの現場。もちろん、楽しいだけでは終わらない。演出の元吉は、芝居に関しても妥協なく組み上げていく。とくに、“バイアス”=思い込みについて細かく説明していた姿が印象的だった。「このシーンのこの時点では、この人物にはこういうバイアスがかかっている、だからもっとこうしてみようか」と、登場人物一人ひとりの心情を際立たせていった。
SNSで投稿されている歌唱動画を見るだけでも、相当クオリティの高いアカペラが聴けることは分かるが、これを生で浴びる感動はまったくの別物と言っていいだろう。短い取材時間とあって限られたシーンしか観ることができなかったが、十分にアカペラの魅力も『アオペラ』の魅力も伝わってきた。11月、この青春の物語と音色にどっぷりと浸かれる日が待ち遠しい。
取材・撮影/双海しお