明治座『水谷千重子50周年記念公演』|水谷千重子、八公太郎インタビュー

子役から数え、芸能生活50周年を迎えた水谷千重子が、明治座で初の座長公演を敢行。完全書下ろしの「とんち尼将軍 一休ねえさん」をお送りするお芝居と千重子ファミリーをゲストに華やかにお届けする歌謡ショーの2ステージで、50年の集大成を彩り豊かに魅せる。
公演を目前に、水天宮での豆まきに参加した水谷千重子と八公太郎の2人に意気込みを聞いた。


――本日はイベントの忙しい合間にお時間をいただきありがとうございます。公演も近づいて参りましたが、現在の心境は?

水谷「そうですね。今、お稽古も始まって10日くらいになるのかしら。だいぶ形も見えてきて、みなさんの個性もすごくお芝居の中で活かされていて…日に日に楽しくなってきています。お稽古が楽しいっていうのは嬉しいですね」

「俺もよ、稽古場をちょっとだけ覗きに行ったらよ、面白かったよ~! コイツの顔がね!」

水谷「何よそれ! まぁバッファロー吾郎Aさんはお芝居に出るんだけどさ」

「いや、俺はその人のことは良く知らないなぁ」

水谷「アンタと同じで声のでっかい人だよ(笑)。Aちゃんはね、ほんと、しっかりやってくれてます」

「へぇ、そうかい。しかし、個性的でいいメンバーだねぇ」

水谷「ほんと、そうなんですよ。日に日に皆さん演技も変わってきていて、いろいろなものが盛りだくさんなので。どこか、必ず皆さんに笑っていただけるところがあると思いますね。全体的に、お芝居はわかりやすくしたいですし、お客様の集中が途切れないようにしたいですね。そこは毎回、考えているところでもあります」――水谷さんがお好きだという五社英雄監督のエッセンスもあるとか。

水谷「もちろん、五社監督の世界観をそのまま、というものではありませんが…遊郭の華やかな部分とか、見た目でお客さんが吸い込まれていくようなところはあるようにしたいですね。もちろん、そのパートでも楽しい雰囲気も大切にしたいですね」


――役どころについてもお聞かせください

水谷「一休ねえさんという坊主頭の尼さんです。ねえさんとは言っていますが、小坊主というかまだ若いので、ちょっとやんちゃな感じの千重子の演技ですね。でも夜は別の人格になって、その時は大人の女性っぽい感じで、声のトーンとかも変わってきます」

「これ、言っていいかどうかわかんねぇけどよ! 七変化みたいなのがあるじゃんかよ! あれ、稽古を見たときにすげぇな、と思って」

水谷「早着替えというか、あれ、いつの間に?というところはありますね」

「かっこいいよなー!歌舞伎とかの仕掛けみたいでよ!」

水谷「あとは、お芝居の中にもお歌が入っていたりするし、オープニングからショー的なものをしたいっていうのが千重子のこだわり。だから、お芝居から始まるのもいいんだけれども、幕が上がった時に…これは、実際に見てのお楽しみかな(笑)。明治座という場所なので、舞台が動いたりするところもあるじゃないですか。そういうところもどう見せていくか、というのは考えていますし、逆に今までの明治座さんではなかったかも?というものも考えています。あと、殺陣もあるんです。バッファロー吾郎Aちゃんはね、殺陣が上手なのよ。あの人、もともと吉本天然素材っていうグループにいてダンスなんかもやっていましたから、器用なんです」「千重子はずっとヨコ! 稽古でずっとヨコ向きだったからよ!」

水谷「タテとかヨコとかのタテじゃないんだよ。殺の陣って書いて殺陣ね。アンタはア〇メルツタテタテだよね?」

「そりゃア〇メルツヨコヨコだわ!」

水谷「もう、バカ言ってる(笑)」


――(笑)。バッファロー吾郎Aさんは和尚の役ですが、どんなところを期待していますか?

水谷「Aちゃんはね、飲み込みの早い人ですからね。自分なりの和尚が出来上がっているんですよ。あと、声がデカいですから。声のトーンの強弱で見えるものがあるんですよ」

「いや、もっとあると思うよ? 俺ぁこの人のこと良く知らねぇけどよ。声がでっかいだけじゃないと思うぜ? でも稽古を見てびっくりしたのがよ、田山涼成さんも声がでっけぇよな!」

水谷「そう! 涼成ちゃんも声がおっきくて、ウワッと急に大声になるの。すると、笑っちゃうのよね(笑)」

「やっぱプロだから迫力がすごいよな!」

水谷「声のトーンだけで笑かすって、なかなかできない。ほんとコミカルでカッコいいのよ」


――そういう意味では、実力派の役者さんと、実力派の芸人が揃いましたね。

水谷「ほんと、素晴らしい座組だと思わない? キャスティングしたのは千重子なの。やっぱ千重子はなんだってそうなのよ、プロデュースしたい人だから。この人とこの人が合わさったら…とか、あの人の持っている空気感なら座組はこうだな、ってイメージするの。例えばあご(勇)ちゃんなんかはね、初代の付き人なんだけど、芸能界に籍を置いているんだけど、いろいろな仕事もしていて、でもお芝居も好きな子だからって思ってたの。テレビで密着されてるのを見てたのよ。それで、あっ、あごちゃんだ!ってね。インパクトもあるし、こういう役どころでお芝居をしてもらうと、また違うあごちゃんが見られそうじゃない?」

「ほんと、コミカルで、居るだけで楽しくなるよな」

水谷「なんたって、五社監督の『鬼龍院花子の生涯』に出てたんだから。チラシの顔だって凄いじゃん?」

「これ、歴代でもかなり上位の面白い顔してるよな(笑)」――歌のステージについてもお聞きします。日替わりで千重子ファミリーもゲストで登場しますは、期待されていることは?

水谷「期待っていうかさ、明治座の舞台を汚さないでほしいっていうのはあるよ。凄いんだから」

「汚すとしたらよ! そりゃ倉(たけし)か六条(たかや)だろうよ!」

水谷「いや、アンタか倉たけしなのよ」

「いや、俺ぁ汚したことなんて無ェからよ!」

水谷「んー…。自分じゃそう思っているのかもしれないけど、アンタたちが居なくなったあとって、すっごい空気になるの。それを千重子がちゃんときれいに浄化して…」

「人をバイキンみたいに言うんじゃないよ!」

水谷「そうなんだから仕方ないじゃないの。でも、賑やかしとして楽しくしてくれるからね、この八と倉は。そして春澪ちゃんはお歌がうまいから、お客さんに歌で感動を与えてくれる。アンタは六条を嫌いよね~」

「俺ぁ嫌いだよ、六条は! はっきり言うけどね、六条と倉の日はハズレ! 俺の日がアタリで、春澪の日は普通かな」

水谷「ほんと、言うよね。六条ちゃんは本当、2時間ドラマのお仕事で忙しいから今回は1日だけなんだけど。いい世界観でやってくれますから。奥さんとか息子とかを舞台に連れてきちゃうんですよ。今回がどうなるかはわかんないですけどね」

「ほんと、風上にも置けねぇ奴だよ! んで、倉は公演までに死んじゃうから、代役は俺で!」

水谷「そしたら、ゲストが八ちゃん八ちゃん八ちゃんで八ちゃんだらけね(笑)」


――やはり50周年記念というところで、おなじみの部分のほかにも見どころを作っていらっしゃると思うんですが、少しだけ教えていただけますか?

水谷「やっぱり50周年のお祝い事なので、生バンドでやりたくって。あと、着物も新調します」

「お。それでか! うちのカーテンが無くなったのは!」

水谷「アンタのところのカーテンは雑巾にもならないから。それに勝手にあんたの家にも入らないし」――(笑)。衣装にもしっかり注目しないとですね。この50年を振り返ってみて、芸能生活いかがでしたか。

水谷「やっぱり、無駄なことはひとつもなかったなと思いますよ。色々な経験をさせてもらって、お歌もたくさん歌わせていただいて。最近では、ポップスの方とかいろんな方とジョイントさせていただいて。やっぱり楽しいですよ。幅が広がりましたし、お客さんの前で何かする、というのは楽しい。今回だと16公演会って、プレッシャーもありますけど、お客さんに毎日喜んでもらいたい。そう思うと自分の中にもエネルギーがわいてきて、日に日に若返っていく感じがします」


――初の座長という立場になるとのことですが、意気込みはいかがですか?

水谷「あんまり考えすぎないでおこうと。座長だから、座長だから、って。メンバーも稽古場に入った時に皆さん穏やかで優しくって。こんな空気無いんじゃないか、っていうくらい。悩んでたことや緊張感もほぐれたというか。とはいえ、座長として引っ張らないといけないところはね、引っ張っていくという気持ちも持ちながらね。後は…食べてもらいたいお昼ごはんとかね。そういうのも考えちゃう。やっぱり、お腹が満たされると、心も満たされるでしょ?」

「おお、楽しみだなぁ! 食事が。正直舞台なんかどっちだっていいんだよ、食事が良けりゃ!」

水谷「そう、じゃあアンタには出さない!」

「カンベンしてくれよ~!」


――八さんから見て、今回の公演でどんな千重子さんが見たいですか?

「そりゃよ、普段着の千重子でいいんだよ。いや、普段着ってもよ、ノーブラで片チチ出してる千重子じゃなくて、いつものステージの千重子ってことな!」

水谷「そんな普段着なんか着てないわよ!出してるわけないじゃない」

「言っていいかどうかわかんないけどさ…座長だなんだって肩ひじ張らずにさ、いつも通りやりゃあ大丈夫だよ!」――いや、それは言って全然OKだと思います(笑)

水谷「そうだよ!アンタなんか、もっと言っちゃいけないこといっぱいあるんだから! ゆりあん(レトリィバァ)ちゃんも誠子ちゃん(尼神インター)もかわいい子たちなのにさ…」

「いや、俺ぁ好きだよ!好きだけど、へちゃむくれだから良いんじゃん!」

水谷「女の子はへちゃむくれなんて言われたくないの。それに最近へちゃむくれなんて表現しないしね」

「へちゃむくれだから、面白いんじゃん!ハリセンボンだってへちゃむくれだろ! ずんの2人だってさ、俺は大好きだよ!けど、ただのおじさんだろ!」

水谷「ただのおじさんじゃない、ちゃんとお笑いのセンスがあるんだから。ちゃんと皆さんのこと勉強してね(笑)」


――今日は水天宮で豆まきされましたが、千重子さんにとって“呼び込みたい福”と“追い出したい鬼”はなんでしょうか

水谷「そうですね~、フクと言えば…もういっぱい欲しいですし、ドレスも着物も欲しい、ワンピースだって…」

「おい、周りの皆さんの顔見てみなよ! 豆まきの話から洋服のこと聞くわけないだろうよ!」

水谷「あら、そうなの? 幸せのほうの福ね。やっぱり、幸せな人って表情に出るじゃないですか。そういう人たちとちゃんと向き合って仕事をしたり、お客さんとして来てくれたりすると、自然とこちらも幸せになれそうな気がします。観に来てくださっているみなさんのエネルギーを頂戴したいし、千重子の福もお渡ししたいし。こういうの、何て言うの? 回りまわるものよね。順繰りに。逆にもう、出ていけ~!っていうのは八と倉!」

「バカヤロー! のし付けて返すよその言葉! 俺ぁよ、鬼ババアが常に横にいるんだから!」

水谷「何言ってんのよ、鬼ジジイが!」

「鬼ジジイってなんだよ!」


――やりとりを聞いていると、本当に楽しいステージになりそうな予感がしますね(笑)。ところで今回はグッズにもこだわりがあるそうですね。

水谷「グッズも今までのコンサートにはなかったものを用意しているんです。千重子が一番推したいのは、エンディングノート」

「なんだい、それは?」

水谷「終活って言うのかしら、遺された人に、お葬式はこうしてくれとか、遺影はこれにしてとか、家族とかに向けたものなんだけど。千重子はエンディングノートって言わずに、ありがとうノートって言ってるんだけど。暗い気持ちにならずに、楽しく書けるオリジナルのノートになっています」――それは確かに今までにないグッズですね

水谷「千重子の希望で作ったんだけどね。終活とかがテレビで特集されていたりで知っていたし、お友達のね、友近ちゃんのお父様が亡くなった時に、エンディングノートがすごい役に立ったんですって。中にはね、好きな映画とか、好きな俳優さんとか、好きな言葉とか、知らなかったことがいっぱいで。好きな映画は『007は二度死ぬ』と『マッドマックス』ですって。なんかもう、笑っちゃって(笑)。家族で楽しかったこととかを、生きているうちに相談しながら書けるのが楽しいな、と思ったの。だから、エンディングノートにこんな項目はないだろ、っていうのも入っているのよ」

「楽しくさ、好きな人への想いを書くのはいいことだよな!」


――50周年を超えて、この先の千重子さんについてもお聞かせください

水谷「本当に今回の公演はものすごく楽しいものになりそうで。ここだけで終わらせたくないんですね。まずは明治座さんの公演を成功させて、全国の方に観てもらいたいので、地方も回りたい。あとは海外ね。ほら、私たちアメリカンなところもあるじゃない?」

「イェース!」

水谷「ディス イズ ア ペン!」

「荒井注さんじゃねーか(笑)。まぁ、ブロードウェイとかな!」

水谷「ハリウッドとかね。日本の伝統とか面白さみたいなものを伝えていけたらと思います」


――本日はありがとうございました!

 

取材・文/宮崎新之
撮影/高橋良美

 

水谷千重子と八公太郎が水天宮の豆まきに登場!2月3日の節分の日、水谷千重子と八公太郎の2人が東京・水天宮にて行われた節分祭の豆まきに参加。2人は「鬼は外、福は内」と威勢のよい声をあげながら豆やお菓子などを投げ、「明治座で座長をできるなんて夢のよう。本当に感謝です」と公演をPRした。豆まきを終えて、水谷は「意外と遠くに飛ばないのね。手前に戻ってきちゃって(水谷)」「割とテクニックがいる。風を読まないとな! 向こうのちびっ子にもあげたかったんだけど(八)」と、少々苦戦したと感想を語っていた。