コント師と演劇人の競演とその化学反応により創出される新ジャンルへの野望。そんなコンセプトを掲げ、異色混合の定期公演としてスタートしてから早9年目、先見性を持つマッチングとバラエティに富んだ芸でますます注目を集めているのが渋谷コントセンターによるテアトロコントだ。
コント公演を打つ演劇人、演劇公演に出る芸人。今やそんな風景も珍しくないが、コントと演劇の境界がボーダーレスになっていくまでには数々のクロスポイントがあった。そんなテアトロコントが掲げる「コントと演劇のボーダー」をテーマに、様々な出演者や作り手に話をしてもらう連載企画。
連載第2回は、テアトロコントに何度も登場しているザ・ギース(尾関高文、高佐一慈)とラブレターズ(塚本直毅、溜口佑太朗)。同じ事務所の先輩後輩でもある2組のコント師に、演劇とコントのボーダーを探ってもらった。
芸人側として出るからには、とにかく一番ウケるネタを
――ザ・ギースとラブレターズの2組は、ともにテアトロコントにたびたび出演されていますよね。30分という持ち時間はふだんのお笑いライブと比較するとかなり長いと思いますし、「テアトロコント」という場自体、お笑いライブとは違う空気だと思いますが、出演されるときはどんなふうに30分間を組み立てていますか?
高佐「僕らは「ミニ単独」という感覚で、いつもの単独同様、3〜4本のコントをブルー転(青い照明)での着替えで繋いで30分をやっていきますね」
塚本「僕らもそんな感覚です。ふだんお笑いライブに出るときは十数組のうちの1組、持ち時間も5〜6分なので、30分ももらえるとなるとミニ単独感がどうしても出てきます」
溜口「単独以外ではなかなかできない長尺コントも、ここだとできるので重宝してますね」
――ネタ自体のセレクトはどんなふうに?
高佐「演劇を観に来られているお客さんも多いので、そういう方にもウケるようにというのは意識しますね」
尾関「とにかく一番ウケるものを選びます。笑いの量が演劇の方々よりも少ないと困っちゃうので……」
溜口「そうそう、看板が「お笑い芸人」になっちゃってるから」
塚本「スベるわけにいかない」
溜口「そこのチョイスも難しいですよね。演劇が好きなお客さんがどんなテンポのネタを好きかわからないし」
塚本「ボケてツッコんでの応酬をやりすぎたら「出ました、お笑いの方ですね」という感じで引いちゃうんじゃないか、とかね。何度か、コントの前に一言挨拶してから「スタート!」とかもやったりしたんですけど」
高佐「へー!」
尾関「トガってるな(笑)」
塚本「でも、そこでボケちゃうから、変な空気になったり……」
溜口「一度、僕1人だけ出て挨拶から始めたことがあったんですよ。そこで「相方が死にましたんで今日は僕一人でやります」とボケたら、マジで受け取られてしまって……」
尾関「ウケるわけない(笑)」
高佐「そういうこともいろいろ試させてもらえるのが、このテアトロコントという場(笑)」
塚本はダウ90000に入りたい
――2組は、芸人さんのなかでも演劇とゆかりが深いですよね。
高佐「僕らはそんなに言うほどではないですけど。それこそユニットで加藤啓さんや辻修さんとご一緒したりとか、ちょい役としてお芝居に参加させてもらったりが経験としてあるくらいで、演劇を語るみたいなことはできない」
尾関「単純に演劇は好きなので、ご一緒して作品を観られるのがうれしいですよね。演技も、作品の構成もめちゃくちゃ勉強になって楽しいし、人として交流できるのもうれしい」
高佐「テアトロコントに今泉力哉監督が出演されたとき(注:「市民プール」として出演)に一緒になって。裏で観ていたら面白くて、そこから今泉監督の作品を観に行くようになりましたよ」
塚本「そういう出会い、お客さんにも絶対ありますよね」
高佐「溜ちゃんは元々劇団出身(注:かつて劇団拙者ムニエルに所属)じゃない」
溜口「(気まずそうに)まあ……」
高佐「なんでそんな感じなの(笑)」
塚本「なんなら、この中でいちばん演劇とコントの間にいる人じゃん」
溜口「いや、やっぱり後ろめたさがあるんですよ。僕の場合は劇団をやめてお笑いをやっているから……」
尾関「後ろ足で砂かけてやめたもんな!」
溜口「砂かけてツバ吐いてやめたから……。いやいや、そんなことはない(笑)。演劇の方に対するリスペクトがありますから。僕は諦めちゃった人間だから、「演劇やってました」と胸張って言えないです。演劇をやっててコントがうまい人、テアトロコントに出てきて芸人さんと対等に笑いをとってる方たちは本当にすごいなと思いますよ」
――塚本さんも、とくにここ最近、東葛スポーツやシベリア少女鉄道など、たくさんの演劇作品に参加されていますよね。
塚本「そうですね。シベリア少女鉄道も名前が一番に書かれていましたから、主演……ですかねえ。東葛スポーツのときもあれは……主演かな?」
高佐「肘ついてしゃべるのやめろよ(笑)」
溜口「演劇のイメージ悪くなるわ(笑)」
塚本「いやいや、ただ「テアトロコント」を通して演劇というものに馴染んだ感じはあります。玉田企画の玉ちゃん(玉田真也)とかと仲良くなってユニットでライブをやったりもしましたし。演劇ってパッと見、入口が分かりにくい文化だったりするじゃないですか。でも中の人を知っていくうちに「誘われたら出てみようかな」という気持ちになれたから、すごくいい場ですよね」
――最近、コントと演劇の両方をまたぐ存在として、テアトロコントにも出演しているダウ90000が注目されていると思います。ラブレターズのお二人は特に交流がありますよね。
溜口「お世話になってます。憧れの目で見てますよ。ダウ90000を観て「あれがやりたかったんだよ」と思う人が演劇にもお笑いにもたくさんいますよね。それをちゃんと具現化したのが蓮見(翔)だと思う。あと、「演劇なんでしょ」と思って見たらお笑いど真ん中で、力技で笑いをとるネタもあるのがすごい。先輩ヅラしようと思った瞬間にもう首根っこ掴まれてる感じがありました」
尾関「すぐ軍門に下ってたもんね(笑)」
溜口「いや、本当にそうですね」
塚本「お笑いでも演劇でも、ここからますますすごいことになる人たちじゃないですか。だから、お笑いで変な目に遭ったり悔しい思いをしても、先輩として「全く気にしなくていいよ」と言えるくらいの才能の持ち主だと思ってます。もうそういうの全部関係ない、蓮見くんもダウも、全くブレずにやっていいよと心から言えますね」
高佐「心酔しきってるなあ」
溜口「憧れてるから(笑)」
塚本「ダウに入りたい……」
溜口「絶対だめです、あの中に坊主のおっさんが入るのは」
塚本「それぐらい、ほんとにすごいなと思っちゃってますね」
「溜口スーパーディナーショー」こそ演劇とコントの間?
――塚本さんやギースのお二人も参加したことのある「溜口スーパーディナーショー」はどうですか? 溜口さんが構成、演出、出演を全て担って、歌やコントなどを披露していき、必ず最後はお芝居で締めるあのライブは、他のどこでも見たことがないジャンルのものですよね。
溜口「あまりないですよね。最後に大衆演劇があるというのは」
塚本「もしかして、あれこそ本当に「演劇とコントの間」をやってるんじゃないの?」
溜口「そうかもしれないですね」
高佐「確かになあ!」
溜口「実はあれが正解なのかもしれない(笑)。でも固有名詞がいっぱい出てくるので、あれを演劇と呼んでいいのかどうか……。明治座とかコマ劇場とかで行われるような構成のライブはあまり誰もやってないのは事実ですよね。水谷千重子さんがいますけど」
高佐「ああ、あの系譜ではあるね」
溜口「僕はどっちかというと、そういう大劇場よりも十条(注:篠原演芸場で行われる大衆演劇)とかのイメージで。旅一座の方への憧れが強いんですよね。尾関さんには今年初めて出てもらいましたけど」
尾関「確かに、なんだったんだろうあれは。楽しいんですけど、こんなにお客さんに甘えていいんだっていう……」
全員「(笑)」
尾関「あの潔さがすごいなと思います。普通、あそこまで観客にダイブできないんですよ、申し訳ないと思っちゃうから。でも「溜口スーパーディナーショー」はガンガン観客に甘える。それがすごいなと思って」
溜口「そうですね……。でも「溜口スーパーディナーショー」と名前でもう言っちゃってるから、あとはチケットを買った人の責任だと思っちゃってて(笑)」
尾関「まあ実際そうだよね。だからお客さんも喜んでいると思うし、ステージと客席が一体感を生んでる。それがすばらしいです」
高佐「回を重ねるごとにお客さんが増えてきてるよね。てことは、あれは正解なんじゃない?」
溜口「ありがたいですね。何度か出てもらっている高佐さんのおかげでもあります」
高佐「いや、僕はね、もうただ台本通りハープと散歩してるだけなんですけど。ハープで戦ったり」
溜口「あれこそエンタメですね(笑)」
――高佐さんは、ザ・ギースのコントの中でもハープを演奏しています。ということは「コントと音楽の間」をやっている……?
高佐「確かに! いや、そんなこと言ったら音楽家の方に申し訳ないですけども(笑)」
コントの中の登場人物につける「役名」
――これだけ境目がなくなっている時代ではありますが、あえて皆さんに「演劇とコントのボーダー」はどこにあるかを考えてみていただきたいのですが。
溜口「もちろん正解なんて全然わからないですけど、ちょっと思うのが、演者さんの「欲」かなって。役者さんって役に殉じることができるじゃないですか。でも芸人はやっぱり自分自身も見てほしいところがあると思うんですよ」
塚本「役者さんならではの、プロフェッショナルな感じはあるよね」
尾関「でもさ、ムロツヨシさんみたいな役者さんもいるじゃん。役が憑依してるけど自分も出てるという」
溜口「ああ、全部「ムロツヨシ」な感じの」
尾関「俺はそうは言ってないけど(笑)」
高佐「要はスターってことだよね? ね?」
尾関「なんか俺がムロさんにケチつけたみたいになってるけど! そうじゃなくて!(笑)」
――(笑)。「役に入る」「役に殉じる」ということでいうと、2組とも基本的にコントの中の登場人物に役名がついていますよね? 芸人さんの中には、そのまま本人の名前でコントをやる方もいると思いますが、なぜ役名をつけるんですか?
尾関「僕らはシンプルに違う人になりたいから、ですかね。「尾関」「高佐」でコントをやってしまうと、何%かでも自分を引きずってしまうから」
高佐「シティボーイズさんもそうやっていたから自然に、というのもありますね。「尾関」「高佐」でやると恥ずかしい」
塚本「等身大に近い設定だったらまだいいんですけど、そうじゃない役柄であればやっぱり別人になりたいし、同じ名前を引きずると変な感じになるし」
溜口「あと、スベった時に、「溜口じゃなくて役がスベったんだ」と思える」
塚本「いまは自分じゃなくてたとえば「田中」がスベったんだ、ってね(笑)」
溜口「ギースさんは、役名はどう決めてるんですか?」
尾関「僕が書く時は昔のカープの選手の名前を使ったりする。堂園とか」
溜口「堂園って逆にノイズになりませんか(笑)」
高佐「「この役柄、小学校の同級生のあの子の感じに似てるな」とかあったらその子の名前にしたり。あとは設定に準じた名前をつけたりする。時間を戻すコントなら「時田」とかね」
溜口「カッコいい」
塚本「僕、すぐ「たける」を使っちゃうんですよ。無意識にそういう名前に憧れてるのかな」
溜口「塚本、昔は女性役に彼女の名前をつけたりしてたよね」
尾関「うわー」
高佐「マジ?」
塚本「ああ、元カノね!」
高佐「それ逆に避けない? ちらついちゃうから」
塚本「いや、でもやっぱ体重が乗っかるじゃないですか」
全員「(笑)」
高佐「すごいなあ」
塚本「最初の頃ですし、元カノですし。大切な思い出の人です」
溜口「最初の頃と言っても、何回かテレビでやってるネタで使ってたよ」
高佐「まあ、いろいろんなアプローチがあるってことだね」
コントにおける「演出」
――演劇にもコントにも演出があると思うのですが、2組のコントの演出はどのように?
塚本「僕はネタを書いている時点ですでに溜口さんにこう動いてもらいたい、こういうしゃべり方をしてほしいというイメージがあるので、それを共有する感じです。演出というよりもすり合わせですね」
高佐「僕らも実際にやりながらお互い「こうじゃない?」とか。作家さんからも意見をもらったりして」
塚本「以前、GAGの福井(俊太郎)さんのコント公演(ひくねとコントサークル主宰『雪見だいふくの第一印象は固い』)に演出だけで入ったことがありましたけど、そこで伝えたのは単純に「今は前を向いていたほうが」とか、演者の位置関係とかくらいで。10年以上芸人をやっていたらなんとなく共通で「このほうがいい」というものはみんな持っていると思うので」
尾関「たくさんコントをやっているとちょっとしたパターンもあって、「ここはもっと強くしたほうが」とか、そういう感じだよね」
溜口「単独ライブの演出だと、ギースさんは幕間の生着替えが定着してますよね」
高佐「こんなおじさんの体見せてていいのかなと思ってちょっと恥ずかしいけど」
塚本「動きがきれいだから見てられるよね」
溜口「ギースさんだから見られるんですよね。なんかわかんないけど身体仕上がってるし」
高佐「尾関はずっと鍛えてるし、俺も一応見せられる体にしないとと思って水泳とか始めたから……」
溜口「すごいよなあ。この人たちはネタ以外の努力をしてるんだ、というところが面白いですよね」
――ラブレターズの単独ライブは毎回違う趣向ですね。
溜口「その時その時のタイムリーなことを詰め込んでいますね。この前なら塚本さんに赤ちゃんが生まれたので、それをメインにやってみたり。一度、アイドルのライブで見たかっこいい演出をやりたいと塚本さんに無茶振りしてやったことがありますね。アイドルが曲の合間を休まず、MCも一切挟まず、ダンスでつなぐという」
塚本「だから僕らも幕間を1人コントでつないで」
溜口「一人が出たら着替え終わったやつと絡んで、次のコントに繋がっていく。出ずっぱりでしんどかったけど楽しかった」
塚本「あれはあれでよかったね」
溜口「なにかあれば塚本さんが形にしてくれるから、すごくありがたいです」
「シティボーイズと同じことをしても面白くない」
高佐「お互い、単独ライブの幕間を工夫するようになったのは、前の社長から「映像で幕間をつなぐのは禁止」と言われたのがきっかけで」
溜口「「よそと同じことやっても面白くない」というので」
高佐「そもそも、コントとコントの間を映像でつなぐのは、シティボーイズが発明したことだから、と」
――そうなんですね! 2組はシティボーイズの事務所の後輩で直系なのに、その手法が禁止されたわけですね。
塚本「直系だからこそ、ですね。「いつまで同じことをやっているんだ」と」
溜口「あ、「演劇とコントのボーダー」って、お客さんとの距離もあるんじゃないですか。それこそシティボーイズさんだと、大竹(まこと)さんは公演中、たまに役を降りて素でしゃべることがあるじゃないですか」
尾関「あれ、「本当はあまりやらないでほしい」と言われてたよ(笑)」
溜口「きたろうさん、あんまり好きじゃないみたいですよね(笑)。でも、そうやって公演中に役を外れることができるというるのは……」
塚本「あれはたしかに芸人っぽいよね」
溜口「ぽい。一度役を降りて、すっとまたコントの世界に戻れたりもする。お客さんもそれを容認する感じ」
高佐「大竹さんは自分を「芸人」と言っていて、きたろうさんと斉木しげるさんは「役者」と言ってるもんね」
溜口「そうなんですね。その違いはあるかもしれない。お客さんの様子をうかがってくだりを増やしたり、役を外れたりするのは、演劇とコントの違いかもしれないですね」
高佐「それもあるかも。あと、役者さんはやっぱり役をどれだけ突き詰められるか、どれだけクオリティ高く演じられるかを目指していて、芸人さんはあくまでも笑いを目的としているという違いはたまに言われたりしますよね」
尾関「コントは目的が本当に笑いを取ることだけだもんね」
塚本「そうですよね。笑いをとる目的のものがコントで、ストーリーを伝える目的のものが演劇、かなあ。あ、シンプルにツッコむかどうかじゃだめですか?」
溜口「つっこまないコントもあるからねえ」
塚本「ツッコむ演劇ってあるのかな?」
尾関「あるよ。あると思う」
溜口「ムロさんはツッコむよ?」
塚本「あれはツッコミというか、「ムロさん」だからなあ」
高佐「すぐムロさんの話になるなあ(笑)」
溜口「そういうクイズ大会やりたいね。脚本を集めてやってみて、「演劇でしょうかコントでしょうか」」
塚本「正解は誰が決めるのよ」
溜口「作者が。それによって、なにか答えが出てきそうです」
塚本「これは本当に、いろんな方の考えを聞いてみたいなあ」
取材・文:釣木文恵