【連載:『コントと演劇のボーダー』を考える】 第4回 東京にこにこちゃん(萩田頌豊与×立川がじら×てっぺい右利き)

コント師と演劇人の競演とその化学反応により創出される新ジャンルへの野望。そんなコンセプトを掲げ、異色混合の定期公演としてスタートしてから早9年目、先見性を持つマッチングとバラエティに富んだ芸でますます注目を集めているのが渋谷コントセンターによるテアトロコントだ。
コント公演を打つ演劇人、演劇公演に出る芸人。今やそんな風景も珍しくないが、コントと演劇の境界がボーダーレスになっていくまでには数々のクロスポイントがあった。そんなテアトロコントが掲げる「コントと演劇のボーダー」をテーマに、様々な出演者や作り手に話をしてもらう連載企画。

 

連載第4回は、10月にテアトロコント初出演となる東京にこにこちゃんより主宰の萩田頌豊与とキャストの立川がじら、てっぺい右利きが登場。喜劇への類を見ぬこだわりと疲れ知らずのタフな笑いで演劇界を席巻する東京にこにこちゃんの考える演劇とコント、そして「笑い」とは?落語やお笑いの文脈、これまでの歩みも交えながら話を聞いた。

 

ツッコミなき笑い、大声×ボケの追求

 

――萩田さん、ついにテアトロコント初登場ですね。これまでの東京にこにこちゃん作品でも爆笑を巻き起こしてきたキャストのお二人とともにお話を伺えたら。がじらさんは落語家としてご活躍、てっぺいさんは実は元芸人さん。そんな文脈も踏まえて「笑い」について幅広くお話できたらと思います。

萩田「僕は昔からお笑いが大好きだったんですけど、芸人でなく演劇の道を選んだのは「笑い」では到底勝てないって気持ちがあったから。そもそも「笑い」ってツッコミがあるから成立するものだと思うのですが、にこにこちゃんの演劇はツッコミがほぼなく、ボケっぱなしなんですよ」

立川「今回の作品もものすごいボケ数ですね」

萩田「昔の作品にはツッコミがあったんですけど、研鑽されたボケに対してツッコミを書く技術が追いつかず、芸人さんと比べてどうしても見劣りすると痛感して。だったらいっそのことボケ倒した方が性に合うと思ったんです。今はその笑いが手に馴染んでいるかな。てっぺいくんは元芸人だからツッコミの感覚もしっかり持っているよね」

てっぺい「本当に感覚だけですけどね。「ここでツッコむだろうな」っていうのに気づけるくらい(笑)。でも、芸人時代の立ち位置はツッコミだったんです、にゅるっとツッコむ芸風で。僕はむしろ演劇でやっとボケられたって感じがあったかな」

萩田「最初に出てもらった時はてっぺいくんの魅力に気づくことができなくて、ボケもツッコミも削ぎ取ってしまって何も魅力が残らない状態で出てもらってしまって。ねえ、あの時のてっぺい、何もいいとこなかったよね?」

てっぺい「い、言い過ぎじゃない?」

立川「あはは!頌豊与さんが魅力を引き出せなかった、って話ですよね」

萩田「そう。打ち上げでしゃべった時にやっと「この人がボケたら超面白いんだ!」って発見して、その個性と魅力を作品で引き出せなくて本当に申し訳なかったなって」

立川「でも、そこからのてっぺいくんの活躍は本当にすごいですよ。今や数多の劇団で引っ張りだこ。にこにこちゃんが良さを引き出せなかったところを他劇団がしっかり引き出していった、っていう(笑)」

萩田「いや〜、本当にそう。コンプソンズに出ているのとか見て、「てっぺいくんの笑いはこうやって使うんだ!」って普通に感心しましたから」

てっぺい「で、強みを見つけてもらって良くなったところで再びにこにこちゃんに出るという」

萩田「俺、めっちゃだめじゃん!」

てっぺい「でも、僕の初舞台はにこにこちゃんですから。それはすごくいい思い出ですよ」

萩田「思い出にしないで!」

 

――みなさんの砕けたやりとりに歴史を感じます(笑)。てっぺいさんは芸人としての活動を経て初めて演劇の舞台に立った時、「笑い」においてどんな違いや共通点を感じましたか?

てっぺい「芸人時代は舞台上で大声を出したことがなかったんです。だから、大きな声を出すと、こんなにもお客さんが喜んでくれるんだって思って嬉しかったですね」

萩田「「コントと演劇のボーダーを考える」っていうインタビューで「大声を出せてとても嬉しかったです」ってこれはとんでもない記事になっちゃうぞ!」

てっぺい「ははは。でも、芸人の時は相方が変な感じでボケて、それに僕が静かにシュールにツッコむみたいな感じだったから自分の大声やボケに対する客席の反応の高さに驚いたんですよ。こんなに喜んでくれるなら大きな声は出した方がいい。そう思って大きな声で頑張っています」

萩田「大きな声の方がたくさん聞こえるしね。当たり前だけど。当たり前のことしか言ってないけど大丈夫かな?」

 

 

演劇ともコントとも違う落語で培った笑いのチューニング術

 

――もはやにこにこちゃん演劇の1シーンをインタビュー内で再現してもらったような気がします(笑)。がじらさんは落語家として活動しながら演劇に出演される中でどんなことを感じていらっしゃいますか?

 

立川「学生落語から立川志らくの弟子になった当初は演劇をする気は全然なかったんです。でも、その師匠こそが落語の傍ら劇団をやっている人だったのでその手伝いから始めて。そうして演劇が身近になったところで、当時学生落語界で有名だった“北海道の変なやつ”が東京で劇団を作ったっていう噂を聞いて観に行ったんですよ。それが面白くて彼と一緒に演劇をやることになって。それが劇団地蔵中毒の大谷皿屋敷くんとの出会いでした」

萩田「がじらさんは地蔵中毒には何回公演から出ているんでしたっけ?」

立川「僕は第2回から。大谷くんが最初に演劇をやったのが頌豊与さんのいた和光大学だったから、頌豊与さんともその時からの付き合いですね」

萩田「僕はここ2年ほどでようやく演劇っていうものがわかってきて手応えを感じ始めたのですが、がじらさんはそれ以前の暗かった時代のにこにこちゃん作品も評価してくれますよね」

立川「あれはあれで面白いじゃないですか。世界への恨み大全集みたいな、初期のダークなノリ。今でこそハッピーエンド演劇で人気を博していますけど、当時は暗かったんですよ。僕とてっぺいくんが初共演した『ヤンキー、海に帰る』って公演なんて恨みによってこの世のヤンキー全員を海に飛び込ませましたから」

萩田「それでヤンキーが滅亡するっていうね(笑)」

立川「でも、当時からチャレンジ精神は旺盛だった。悲劇と喜劇を同列に並べて、舞台を真ん中で割って同時平行でやるみたいな演劇的試みにもトライしていましたよね。悲劇と喜劇の扱いや時間の使い方が興味深かった。今とは雰囲気が違うけど、にこにこちゃんのブラックな笑いも僕は好きなんですよ」

萩田「確かに昔の方が演劇的構造を使っていたのかも。その時から笑いを重んじてはいたけど、物語のブラックな世界観と自分のやりたい笑いが合わなかったんでしょうね。だからやめたんですけど、がじらさんはそこを評価するのであんまり信用してないです!」

立川「え〜!でも、それがあっての今じゃないですか。笑いにも紆余曲折があるっていうね」

萩田「それはそう。自分の歩みを評価してくれる人がいるのは有難いですね」

 

――「笑い」の追求の歴史を感じるお話です。立川さんが感じる、落語の笑いと演劇の笑いの共通点や違いはどんなところでしょうか?

立川「落語は演劇っぽくやっちゃいけないんですよ。師匠からもまず「演じるな」と教わる。演じると重くなっちゃうから落語は軽やかに演じずにやれ、と。この話はコントにも通じていて、落語家も若手で新作落語を作ったりするんですけど、そこでも「コントみたいで落語っぽくない」って話になってくるんです。つまり、落語は演劇にもコントにもなってはいけないってことなんですよね」

てっぺい「面白い話ですね」

萩田「じゃあ、落語ならではの「笑い」ってどんなものなんですか?」

立川「メタレベルの扱い方に違いがある、とは常々思います。落語は1人で喋っているから今しゃべっているのが登場人物のキャラなのか、それとも落語家自身なのか、はたまたまた別の人物なのかっていう演出がトリック/テクニックとして常に使える。対して演劇やコントだと、そのスイッチングが落語ほどスムーズにはいかないとは思っていて……。まあ落語は個人芸ですから当然ではあるのですが、僕はそういった自分の出自を演劇でも活かしていきたいと思っています」

萩田「スイッチングと聞いて納得。というのも、僕はがじらさんの芝居に“その場”への感度の高さを痛感するんですよ。客席の笑いの状態を一番敏感に感じ取っているし、それを受けて間を変えたりする。そういった笑いのチューニング技術には毎回驚かされます。「確かにこっちの間の方が今日はウケたな」という気づきにも助けられています。それも落語の感覚が研ぎ澄まされているからなんでしょうね。まあ、結果スベることもありますけどね!」

立川「全然ありますね!(笑)」

萩田「でも、スベるのを怖がっていたら何も生まれないから。その生成の過程も含めて「笑い」だと思います」

 

「誰も行かないところまで行く」というタフさ

 

――いち観客としても、タフな笑いに魅力を感じています。「ここで笑いがひと段落するだろう」と思っているところでひと段落しない。一つのボケで予想以上に引っ張るのですが、それが本当に想像以上なのでまた新たに笑ってしまう。恐れ知らずというか疲れ知らずというか。

萩田「たしかに、大抵の人が止めるところで止めないのがにこにこちゃんの笑いなのかも。「みんながやっていないことを」っていうのを常に心がけていて、その一つに「みんながこれ以上はいかないってところまでいく」っていうのがあって……。ただ、「みんながやらないこと」っていうのは「みんなが捨てたもの」とイコールでもあって、失敗する時も多々あります。でも、その中に宝が見つかることもある。そういうことを考えながらやっています」

 

――「笑い」と「物語」の配分みたいなものは最初から考えて書かれている?

萩田「ボケてボケまくって、「やばい、ボケすぎた!」と思った時にストーリーを入れるのですが、ストーリーを入れたら今度は不安になっちゃってまたボケて……って繰り返した結果、8割ぐらいが「笑い」になります。特に今回のテアトロコントは30分なので「いつもより急いでたくさんボケなきゃ!」ってなってボケまみれの作品ができつつありますね」

てっぺい「尺が短くなったのに、ボケを減らすんじゃなくてむしろ増やすっていうのがにこにこちゃんらしい」

萩田「発想がアホなので、狂った配分に(笑)。でも、めちゃくちゃ面白いものができていると思っています。オール面子大好きな役者さんたちに右往左往してもらって。昨日の稽古場でもここ4、5年で一番笑ったなあ。まあ俺だけしか笑ってなかったけど」

てっぺい「役者はみんな、ただ一生懸命やっているだけですから。そしたらものすごい高笑いが稽古場に響き渡って……」

立川「椅子から転げ落ちていましたもんね」

萩田「僕が笑えば笑うほど、なぜか役者さんはみんな不安になって下を向くんです。あれはなんで?」

てっぺい「だんだん笑い声が「ファンファン」って聞こえてきて、頭の中が「ファンファンファンファン」って音でいっぱいになって怖くなってくるんですよ。けど、嬉しいです。ここまで稽古で笑ってくれる主宰もいないですから」

立川「嬉しいですね。同時に「身内の笑いが最も怖い」って感覚もありませんか?稽古場でウケてる時ほど「麻痺してないか」って危うさを抱く。何週もかけていろんなことをやって爆笑になっていくわけですけど、お客さんは初見ですから、何周もした「笑い」をいきなりやられても反応できなかったりもして。そこは7、8年やってようやく気づきましたね」

萩田「笑いの生成過程は客席とは共有できないですもんね。僕もやっとそのことに気づいて「劇場ではウケないかも」ってところは削るようになりました。実際取捨選択するようになってからの方が反応もいい。特ににこにこちゃんの笑いはツッコミがない分ダダ流しなので「お客さんがついていけるのかな」とは考えますね。かつ、笑いの量は減らさず攻めの姿勢でやりたいっていうのもあって、常に葛藤しています」

立川「今回の本、めちゃくちゃ面白いと思いますよ」

萩田「よかった!テアトロコントだからといって、「笑い」の比重を意識したというわけではなく、いつも通りではあると思いますね。「僕は絶対物語をやらなきゃいけない」って気持ちも強くあるので」

てっぺい「今半分くらいだけど、いつも通りのにこにこちゃんの魅力が詰まっていると思います」

萩田「特にこの2人は笑いが渋滞した先のちょっと一息置いた所で笑わせてくれるので、テンポ感も含めてすごく助かっています」

 

――「笑い」ってスピードやテンポも大事だと思うんですけど、お二人が起こす笑いのすごいところは「スローでも沸かせられる」ってところなんじゃないかなって個人的には感じていて。ゆっくり動いたり、長々しゃべっているのに笑いが持続するのがすごいなっていつも感じています。

てっぺい「その点で意識していることがあるとしたら、音なのかも。みんなが思ってもいない音を出したいなって。それは考えているかもしれません」

萩田「そうだね、二人の笑いの肝は音。他の役者さんじゃ出せない音を叩き出すからたまらない。同じセリフでもその場の空気を読み取って、読み方や間をガラッと変えるので、毎回すごいところから殴られているような感じ」

立川「てっぺいくんの器用さというか、俳優としての力量を僕は本当にすごいと思っているんです。「あとは演劇界が見つけるだけ」っていつもみんなで言ってる」

てっぺい「それがなかなか見つかんないんです。もうすぐ見つかるよ、きっと売れるよ、あとちょっとだよとか色んな人が言ってくれて嬉しいんですけど、まだまだ見つかってない感はありますね」

萩田「なんでだろう、ちゃんと日頃から見つかりそうな動きしてる?」

てっぺい「もっと見つかりやすそうな建物とかウロウロした方がいいのかな」

立川「偉い人がいるビルとかに行った方がいいんじゃない?」

 

――偉い人がいるビル(笑)。確かに、役者さん一人一人が必ず起こす爆発的な笑いもにこにこちゃんの強みですよね。

萩田「てっぺいくんの起こす笑いって、悲哀もキーだと思うんです。哀愁が漂う人ってやっぱり面白い。『ラストダンスが悲しいのはイヤッッ』という過去作品で、メタルバンドのドラマーだけどドラムができないから木魚を叩いているっていう役をやってもらったんですけど、その時の悲しい顔も絶妙に面白かった」

立川「ペーソスね。うちの師匠も言っていました。喜劇役者はペーソスがないとダメ、哀愁がある人が面白いって」

てっぺい「ペーソス……。(神妙な面持ちで)そうですね。常々意識してます、ペーソス。哀愁ね」

萩田「え、本当に?」

てっぺい「う、うん。棘が少ない方がお客さんが入り込みやすいかなって」

立川「じゃあ、やっぱりもう見つかるね、演劇界にその哀愁の才能が」

萩田「計算してる風に言われた途端恥ずかしくなってきちゃった。どうしよう、てっぺいの哀愁を見る目が変わっちゃう(笑)。でも、にこにこちゃんに出て下さる役者さんってみんな哀愁あるんですよ。背中あたりにそこはかとない寂しさ、侘しさが。がじらさんもある」

立川「(神妙な面持ちで)よく言われるね、哀愁あるって。というか、にこにこちゃんの座組で哀愁ないのって頌豊与さんだけじゃない?」

萩田「哀愁、絶対出せないね。多分死ぬ瞬間も大笑いしてる気がする」

 

――笑いに溢れた稽古場の雰囲気が伝わってきますね。お二人は他劇団にも出演されていますが、東京にこにこちゃんならでは演劇の魅力ってどんなところだと思いますか?

立川「やはり当て書きでしょうか。頌豊与さんは「この役者にこれ言わせるぞ」っていうのをかなり狙ってる。例えば、髙畑遊さんが大声で「死ねぇっ!」って言ったら絶対面白くなるんですけど、それを1公演で何回使うんだっくらい使う。「ちょっと頼りすぎじゃないか」と思うくらい。髙畑さんに球投げさせすぎだろって」

萩田「褒めてくれると思ったのに、またそんな身も蓋もないことを!」

立川「いや、それがいいなあって。俳優の使い方が上手っていう話ですよ」

萩田「確かに、役者さんが休みで別の方に代役で入ってもらう時、みんな嫌がりますよね。「俺じゃねえな」「私じゃない」感というか」

立川「その人仕様に本が完成されているからね」

てっぺい「それはやっぱり魅力ですよね。僕はよくあてがきされるタイプの役者なのですが、やっぱり嬉しいです。にこにこちゃんのあてがきはキャラが立って絶対に作品が面白くなるし。どの作品からも「お笑いがすごく好きなんだな」っていうのは感じます。笑いへの愛が台本に滲み出ているし、物語は物語で成立しているんだけど、そことは別に笑いへのこだわりもガチガチにあるなって。今回ももちろん大きな声を出します」

萩田「まだ半分の段階だけど、すでに「うわあー!」って大声のセリフが4回ありますね」

てっぺい「要所要所でしっかり面白いボケもあるし、初めてのお客さんもきっと楽しめるはず!」

 

テアトロコントという夢舞台、焼き増しは封印?!

 

――萩田さんはインタビュー前に「芸人でない自分が笑いを語るのが怖い」と仰っていましたが、芸人さんをやられていたてっぺいさんは演劇の人が「笑い」をやることにはどんな印象をお持ちですか?

てっぺい「イラッとは全然しないですけど、「笑いがやりたいのに、なんでこっち(お笑い)のフィールドに来ないのかな」と当時は思ってはいましたね。でも、実際演劇に出てみたら、演劇には演劇ならではの笑いや面白さがあった。だから僕はどっちの世界も知ることができてよかったと思っています」

萩田「これは僕が勝手に思っている印象ですけど、芸人さんって、芸人じゃない人がお笑いの方に一歩踏み入れると厳しくなるような印象があって……。「そこに踏み入ったってことは、ここからは笑いで勝負するつもりなんだな?」って覚悟を問われているような感覚になるんです。同時にそのことを当然だなとも思っていて」

てっぺい「言わんとしていることはわかる気もしますね」

萩田「向こうが笑い一本勝負でいるところに、いろんなジャンルができる演劇の枠組みで掛け持つように踏み込むわけですから。僕は「コント」ってやはりお笑い芸人さんの言葉としてあるものだと思っているんですよね。毎日劇場に立って練習を重ねて一番いい笑いを追求されている。そんな中で何ヶ月かに1回しかやらない演劇公演で「コント」って名乗っちゃうことには申し訳なさも正直あるし、ビビってもいます。だからこそ「こちらには物語がある」ということを忘れずにやんなきゃなって。特に今回は強く思っています。と言いつつも、出るからには笑いでも負けたくない気持ちもあるんですけど」

 

――「テアトロコント」という舞台は一つの大きな挑戦でもあるわけですね。

萩田「ほぼ夢舞台ですから、怖いけど嬉しかったですね。包み隠さず話すと、4.5年前にテアトロコントの小西さんがちょうど観にきて下さった時の公演で失敗しているんですよ。ちゃんと「笑い」で失敗して、数年経てようやくその舞台に立てる権利を得られたのかなっていう気持ちもあって。だから絶対成功させたい」

立川「ああ、『さよならbye-bye、バイプレーヤー』ね。確かにあれはあんまりよくなかった!」

てっぺい「うん、あれはよくなかった!」

萩田「え、こんなに直球に本人目の前にして「よくなかった」って言われることあります?」

立川「でも、そこからの快進撃が素晴らしいじゃないですか!」

萩田「がじらさんって基本的に僕の作る作品をなんでも褒めてくれるんですよ。でもこの作品の話になると、「よくなかった!」ってはっきり言い切るからよっぽどなんだなあって。僕は好きですけど……」

立川「役者さんは全員すごく良かったですけどね」

萩田「じゃあもうダメなの俺だけじゃん(笑)」

てっぺい「5年越しくらいにインタビューで「よくなかった」ってめっちゃ言われてる……」

萩田「みんな気持ちいいくらいサラッと「失敗した公演」って言うんですよ。でも、それはやっちゃいけないことをたくさんやったんだなって思うし、学んで活かしたこともあるはずだから」

てっぺい「そうだね。僕も出たけど、よくわからなかったしなあ」

萩田「まだ言う?!」

立川・てっぺい「あははは!」

てっぺい「僕の役がね、最後に光に照らされて浄化されるんですけど、本当に意味わからなかったなあ」

萩田「もうみんなの記憶から1回消えればいいなあ。それこそ浄化されてほしい」

立川「光に照らされてね」

萩田「でも、あの作品でウケなかった要素を分析したし、その後の『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』からは手応えある作品ができたので」

立川「そう、そこからにこにこちゃん快進撃は始まったんですよ」

萩田「だからある意味大切にしている作品なんです。素敵な役者さんにも出会えたし。あと、それをしっかり観ないと、自分の作品や笑いの何がダメだったか分からないから」

立川「タイトルのエモーショナルな切り口、人の優しさや愛おしさ、そして最後にみんなが立ち上がって一つのことに向かっていく。そんな作家としての個性が出来上がりつつあるのもすごく良いですよ。そういういいところや持ち味をどんどん焼き増ししてね、こうした快進撃が続いてるわけだから!」

てっぺい「焼き増し……」

萩田「「焼き増し」はよくないんじゃない?(笑)」

立川「いや、いいところの焼き増しは大事!」

萩田「でもこれは冗談ではなく、稽古場でもすごく嬉しいのが役者さんたちがこんな風に「面白い」だけでなく、「ここは面白くない」ってちゃんと伝えてくれるんですよね。そういうフラットな対話って貴重だと思うし、すごく助かっています」

てっぺい「やっぱり提案はしたいですよね。作品がどんどん面白くなるように」

 

――焼き増しかどうかはさておき、お家芸みたいなものは大事だとも思います。この劇団を観に行ったらこういう感じの笑いで1回は笑いたいとか、こういうシーンを見ておきたいみたいなのがやっぱりあって、そういう意味では同じ手法を使うことはカラーの構築にも繋がるのかなと。

立川「それが言いたかった!一つ一つの作品で形を変えながら持ち味を見事に使い切っているのは劇団のカラーとしていいことですよ。水戸黄門の決め台詞じゃないですけど」

萩田「同じことをやろうと思っているというよりは、色を作っていかないとダメだなとは思っていますね。劇団が星の数ほどある中で「他がやってないことをやらなきゃ」って基本的な考えにも何度も立ち返るし、それは1本だけでやったってしょうがなくて。僕は何回もやって自分の色にしている途中なんだと思う。すごく悪い言い方をすると「焼き増し」だけど、その焼き増しの中でも都度濃く色をつけながら毎回変えて新しいものにする、っていうのは心がけています」

立川「そうですよ。焼き増していきましょう」

萩田「もう!焼き増しって言わないで!」

てっぺい「いや、頌豊与さんは、にこにこちゃんは本当にタフですよ。強いなあって思います」

萩田「失敗しても、滑り続けてもやるんだっていうタフさだけはありますよね。なんせ1時間半滑り続けたことあるから。あの時、室外機の音がずっと聞こえてたなあ。滑りすぎて頭がおかしくなって、「滑ってこその笑いだ!」とか訳わからないこと言い出してわざと滑らせたり。そんな時期を何周もして、「メタが一番面白いんだ!」ってようやく気づけた今です。このタフさは確かに強みかも(笑)」

立川「それに加えて物語のテーマ性が唯一無二なところも見どころですよ。生死というテーマも扱いながら、その全てを笑いが包んでくれる作品群。笑うことで悲しみに立ち向かうみたいなね。そういう昇華があるから客席で観る時もやっぱり心が動く」

萩田「それはみんな言ってくれますよね。「なんで泣いちゃうんだろう」って。どういう力が働いているんだろうって僕自身も思います」

てっぺい「役者はめちゃくちゃふざけまくっているから、そのテンションにならないというか、なっているのかも自覚的にはわからないんだけど、みんなが感動してくれて毎回新たな発見がありますよ」

萩田「そう。役者さんは一生懸命やっているだけなんだけど、その一生懸命さがやがて涙に繋がる。そこを客観視するのはちょっと難しいですよね。僕は毎公演泣いて笑ってすごく幸せですけどね!」

 

――今回は30分の尺での新作。このサイズ感はどうでしょう?やはり難しいですか?

立川「初期は短編集もやっていたよね。でも30分って尺ではないのか」

萩田「ちょうど感動しなかったらどうしようって思うよね。「あと5分あったら感動できたのに」ってならないようにしないと(笑)」

立川「でも、今作は長編をギュッと凝縮したような感じで本当に素晴らしいんですよ。だからね、ほら、また次の公演で焼き増して引き伸ばして使えば……」

萩田「もう!また焼き増し!でも言われて気づいたけど、人気を博した『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』も元々は30分の短編だったんですよね。だから、苦手というわけではないのかな。「テアトロでやろうかな」ってにこにこちゃんに伴走してくれているローチケ白川さんにボソッと言ってみたら、「新作やって下さい!」って言われて。それで生まれたのが今回の新作です」

立川「そうそう!焼き増しはせずにね!」

てっぺい「どうやってもこのインタビュー焼き増しに戻ってきちゃう……」

萩田「もう、よくないよっ!でも、今回のキャストも本当に自慢の布陣ですし、初登場して下さる西出結さんも本当に素晴らしいです。焼き増しなしで頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」

 

取材・文:丘田ミイ子

撮影:明田川志保