バラバラだからできること。3人組コントユニット「破壊ありがとう」が歩む独自の道

演技力を武器にさまざまな仕掛けのコントを繰り広げる3人組コントユニット、破壊ありがとう。お笑いライブへの出演を重ねて注目を集め、3月の単独ライブは完売し追加公演も決定。平均年齢24歳ながらどこか成熟さえ感じさせるこのユニットについて、メンバー(田中机、木下もくめ、森もり)に話を聞いた。

サークルに中途入会の3人が偶然の出会いに導かれて

──まずは結成のきっかけから教えてください。
田中 早稲田大学のLUDOというお笑いサークルで知り合いました。普通1年から入会するんですが……。
木下 私と田中くんが2年生で入会して。
森もり 僕は4年生で入ったんですよ。今思えば、大半のみんなと学年が違うことで自然と集まったのかも。
田中 偶然のつながりもあって。僕は高校の演劇部で脚本・演出をやっていたんですね。東京芸術劇場での関東大会で僕の高校の作品を木下が偶然観ていたという。
木下 私も高校で演劇をやっていて、お客さんとしてたまたま観たんです。サークルに入ったばかりの頃、ネタ見せのときにそれが発覚して。「あの、星見る話!?」って。
田中 「あれ書いたの俺だよ」と。でも「面白かった」とは一言も言ってくれないんですよ!(笑)
木下 「印象深い」と(笑)。いや、面白かったから覚えてるんですよ。
森もり 僕にも一応当時の動画を共有してくれました。
田中 見もしないですね。で、僕はそれまで美少女ラーメンというコンビを組んでいたんですが。
木下 私は脱獄チェルシー。
森もり 僕はキュート盛り。
田中 ぜんぶ3ヶ月くらいでなくなりました。で、ピンでネタをやっていたとき、森が僕を誘ってくれたんです。

──なぜコンビではなく、木下さんを入れてトリオに?
木下 私もそれ知らない。
森もり 田中のピンネタが自分の好きな感じのお笑いだったので、「この人と一緒にやったら面白そうだな」と思って誘いました。でも2人だとちょっと華がないなと。
田中 2人だとなんか茶色いなと。そういえばサークルにカッコいい人がいたな、と思い出して。
森もり 木下とも話したことがあったので、いいなと。3人でもやってみたかったし。
田中 で、2020年12月に3人で初めて会いました。
森もり 初舞台が2021年2月。
木下 コロナで学内のライブが軒並みなくなっていたので、学外のライブが初舞台でした。
田中 僕ら世代の人たちは、自分たちでライブを見つけて出ている人がけっこういたんですよね。友田オレとか、惹女香花とか。
森もり 他の大学だと伝書鳩も同期です。そうやって、少しずつライブに出るようになっていきました。

──田中さんは、高校演劇でいいところまで行ったのに、演劇の道には行かなかったんですね。
田中 僕は大学1年のときに映画が撮りたくて映画サークルの新歓に行ったら、監督みたいな上級生が入ってきて「書きたいの? 出てもいいけどな」とこうやって(指で作ったファインダーを覗いて)言われて、もうここはダメだと思って(笑)。早稲田にただひたすらバンザイする「バンザイ同盟」というサークルがあるんですけど、そこに1年間使いました。でも1年バンザイを続けたらそれはそれで頭がおかしくなってきちゃって。そこで、浪人していた幼馴染が大学に入ってきて「お笑いやりたいんだよね」というので一緒にLUDOに入ったという流れです。

 

LINEをもらった瞬間、将来を話し合った

──そんな破壊ありがとうは、2023年8月にテアトロコントに初めて出演されたわけですが。
田中 テアトロコントには以前から出たいなと思っていて。
森もり 最初に3人で話した時から目標だったよね。
木下 覚えてる。私だけ唯一観に行ったことがあったので、その話を2人にしたんですよ。
森もり あと、もう一つの目標は「座・高円寺に立ちたい」。
田中 それもこの前、ダウ90000の『寄席0000』に呼んでもらって叶いました。
森もり そう。だからゴールです。あとは余生です。
木下 早熟だ(笑)。
田中 僕らいま全員大学院1年生なんですけど、4月から大学院に行くことが決まっていた2023年の3月にテアトロコントのオファーをいただいて、「これに出られるなら本気でやりたいな」ということで初めて将来について話し合ったんですよ。

──もしテアトロコントの話がなければ大学の時点で活動が終わっていたかもしれない?
木下 そうですね。
森もり オファーの前に、ダウ90000の吉原(怜那)さんから、「テアトロコントのプロデューサーさんが、破壊ありがとうが今どういう状況なのか気にしてるよ」というLINEをもらったんです。「卒業したらどうするの? プロになるの?」みたいな。
田中 その瞬間に「マジでどうする?」とみんなで相談して。僕はプロになるつもりだったんですよ。でも「たぶん2人はそんな気がないだろうから、僕は新しい企画を立ち上げようかなと思ってるんだよね」と話したら……。
木下 「それは違うじゃーん」って。
森もり 僕も実はプロになるつもりだったから、水くさいな、って。

──でもそんな話はしていなかった。
森もり はい、なんとなく。
木下 私は元々人を楽しませることが好きなので、ずっと芸事は続けようと思っていました。演劇やミュージカルのオーディションを受けようかと悩んでいた時にお笑いを始めて、お笑いは自分とは異なる人になりきることや、元々絵を描くことが好きだったのでフライヤー作成など、自分の好きなことをたくさん活かしていけるやりがいのある場所だなと。

田中 お笑いはお客さんが集まるし、動きやすいよね。演劇は用意に時間もお金も必要だから……。
木下 そう。もちろん演劇も好きなんですけどね。そもそも、自分がお笑いをできるとは思っていなかったので、実はLUDOの前に別のお笑いサークルにも入ろうとしたんですけど、そのときはスタッフ志望で。
田中 そうだったんだ。
木下 私なんかがおこがましい、と思っていて。
田中 じゃあ本当にLUDOに入ってくれてよかった。ラッキー。
森もり 僕は休学1年半、留年半年を含めて大学に6年間いたんですよ。だから2人に追いつかれて今大学院の同級生なんですけど……。
田中 その話をなんでそんな笑顔で話せるんですか。
森もり 本当に楽しかったから。4年でサークルに入った時点でもうひととおり大学生活一周していて。
田中 過去の写真を見ると本当にいけすかない感じだったから、1周まわって落ち着いてから出会えて本当によかった。
木下 ちょっと前に出会ってたらたぶん交わってなかったよね。
森もり サングラスかけてたり。6年あったんで。サーフィンしてみたり、大学生としてさまざまなことをしました、本当に。
田中 僕が「こういうことがあって」とか話すと、いろいろ経験してるから「あー、その時期ね」とか言われて、腹立つんですよ(笑)。

 

バラバラの3人だから出る持ち味

──破壊ありがとうのコントは、面白さの種類もいろいろですし、時間も長いものから短いものまでありますよね。ほとんどの芸人さんは、まずは賞レースやライブの時間に合わせて4〜5分ほどのネタから作りはじめることが多いと思うのですが。
田中 僕ら、たぶん運がよくて。結成した頃はコロナ禍で、学生が出るようなお笑いの大会が全部なかったんです。だから最初にけっこう話し合う時間があって、時間関係なく好きなことをやっていこうと。で、お金を払って出るアマチュアライブに、「4分の尺を1000円で買う」ものがあったんですね。
森もり そのライブは、2枠分買えば8分できるという画期的なシステムだったんです。楽しいペチカさん主催の「みんなのペチカ」というライブなんですけど。
田中 あれ、みんなのペチカさん主催の「楽しいペチカ」……?
森もり どっちだっけ。とにかくそういうライブがありまして。
田中 そこで8分のネタをやってみたときにかなり楽しくて、反響ももらえて。だから去年の単独ライブでも長いコントをやってみようと思えたんですよ。森も演劇を少しかじっていたこともあったし。
森もり それこそ大学一周したので、友達にオーディションに誘われて、客演として一度舞台に出たことがあったんです。

──それで、長尺に抵抗がなかったわけですね。せっかくなので、皆さんが影響を受けた人や作品を教えてください。
森もり 僕は小説が好きで。大学を一周している間に「ここは僕の居場所じゃないかも」という時期があって、「みんなに認められたい」とインターネット大喜利に参加し始めたんです。大喜利では文字を大事にしていて、言い回しを凝ったりする方なんですけど、それは完全に町田康さんの影響です。ずっと面白い文体で書き続けるところとか、生き方自体にも憧れます。
田中 僕はミステリーが好きで、たくさん読んでいて。叙述トリックを使った小説を初めて読んだとき、その仕掛けにわくわくして、「こんな面白がらせ方があるんだ」と思ったんですよ。いろんな種類の笑わせ方を考えるようになったのは、あらゆる角度の面白さを追求するミステリーがきっかけかもしれません。
木下 私はミュージカルが好きで。普通の人が抱えている生きづらさや社会問題的な部分を描くなかで、鬱屈としていても「でもこれを抱えて生きていく」と歌い上げる、ポジティブともまた違う、複雑さを持ったまま歩いていくようなマインドが好きで。それと、笑わせる、楽しませることに重きを置いている役者さんが多いので、コメディをやるうえでの演じ方はすごく観ています。
田中 こんな感じでなにしろバラバラな3人なので、ネタ作りはけっこうたいへんで。ネタは僕が書いてもっていきますけど、「これは二人は好きじゃないだろう」と削って削って、みたいなこともあります。セリフ大喜利が得意な森と、キャラクターの感情をしっかり考えることが好きな木下と話し合うと、「こういうこともできる」「それは面白そう」となる面もあって、二人の意見が入ってないネタはほとんどないと思います。

──ルーツが違うからこその面白みもありますよね。
田中 演じ方も違って、森はキャラっぽい演技が得意、僕は普通の人を演じる映画っぽい演技がたぶん得意で、木下は舞台的な演技。そのちぐはぐさが僕らの持ち味になっているかも、とは思います。

 

かが屋の恐ろしさ、阿佐ヶ谷姉妹のすごさ

──テアトロコントをきっかけに、破壊ありがとうはよりさまざまなライブに出演するようになったと思います。ライブで一緒になって、すごいと思う芸人さんはいますか?
田中 いやもう、思ってばかりです。
木下 ボディさんという漫談家の方がいらして、その方がとにかく好きです。
森もり もともと「キックの鬼」という名前で早稲田の寄席研究会にいた方。
木下 人を超えてる人、表現で人の形を留めなくなってしまっている人なんですよ。
森もり 木下はそれずっと言ってるよね。
木下 あと私、もともとコントを好きになったきっかけがかが屋さんを見たことで。テアトロコントでこんなに早く共演できること自体すごい経験だったんですが、この時初めて舞台袖から見たかが屋さんがもうとんでもないウケ量だったんです。客席から観ていたときには気づかなかったけど、間近で見たらもう本当にコントの化け物に見えて、心が震えました。
森もり 化け物と対峙したその日から、木下がちょっと荒々しくなりましたもん(笑)。
木下 自分を産んだ親鳥が翼を広げるのを見て、強くならないと! と思って周りにファイティングポーズをとりはじめてしまって。
森もり それを「だいじょうぶだよー」となだめて。僕は、阿佐ヶ谷姉妹さんかな。
田中 すごいよな、ほんとに。
森もり 袖から見る阿佐ヶ谷姉妹さんが、本当にお客さんと一体となって爆発したみたいだった。
木下 お客さんとの対話がすごいよね。
森もり お互いとも、お客さんとも対話して、全員が一緒のピンク色の玉になったから、びっくり。
田中 抽象的なたとえだな(笑)。
森もり で楽屋に戻ってきたらその時のテンションのまま「みんなぶどう食べる〜?」って。以前ご一緒したときはブドウで、この前会った時はでっかいイチゴで。
木下 それがまた甘くて。大きいと大味になるはずなのに(笑)。
田中 めちゃくちゃ甘かったなあ。

森もり あと、虹の黄昏さん。
田中 ああ、わかる。
森もり いつも全身全霊じゃないですか。この前、お酒を飲んでいいライブの時に、舞台袖においてあったワインをかまぼこ体育館さんがぐいっと煽って飛び出していった姿がめちゃくちゃかっこよかったです。
田中 僕は、この前初めてお会いしたダウ90000の蓮見さんかな。ほぼ同世代で、お笑いサークル出身でコントをやって、テアトロコントをきっかけに知ってくれる人が増えて、という共通点がある中で、ちょっと話しただけでも「この人こんなにいろんなことを考えてるんだ」と。ダウ90000が切り開いてくれた道があるなと思いつつ、だからこそ、この人たちとは違うものを作ろうと強く思えました。
森もり そもそも恋愛コントはやらないチームではあったけど、それがしっかり固まっていったよね。
田中 僕ら男2人、女1人で、この構成だと恋愛コントをやることが多いものなんですよ。でも、僕らは基本的にやらない方針なんです。ダウ90000さんを見て、恋愛コントとか、若者たちの話は僕らはやらない、僕らはそっちじゃないんだと改めて思いました。

木下 そうだね。
田中 映画とか演劇の世界って、わからないけど、いざ中に入るとつらいことも多い気がするんですよ。でも、芸人さんは中に入って話せば話すほどどんどん好きになっていくんです。
森もり ライブで会った芸人さんのYouTubeとかめっちゃ見るようになりますよ(笑)。
田中 わかる。
森もり みんな天使みたいです。人前に立つ仕事でありながら、純粋さも保ってる。
木下 本当に。
田中 でもしっかり人を見る目を持っている、そのバランスがあって。そんな芸人さんの集まるお笑いライブは素敵な場所だなって思います。

 

「破壊ありがとう」の名を墓に

──今後の活動についてはどう考えていますか?
田中 単独ライブだけで生活を成り立たせるのは難しいとは思うんですが、目の前のお客さんを笑わせることはもちろん、幅広い世代やお笑いをあまり観ていない人がたとえば動画で、落ち着いて観ても面白いものを作りたいですね。配信でも楽しめるものにすることが、この仕事だけで食っていくことに繋がるのかなとも思うので。
森もり できればこの仕事だけで食べていきたいみたいなのは3人の共通目標で。
田中 できればじゃないでしょ! その発言はザコすぎるよ!!!
木下 落ち着いて、人前なんだから……。びっくりしちゃうよ。
森もり 怖いから。
田中 これよくあるんですよ。俺が強めの言葉を言って、二人が引いちゃうの(笑)。
森もり 彼はギラギラしているんですよね。まあいいところでもあるんですが。
田中 あ、褒めてもくれるんだ。
森もり もちろん賞レースも出ますし、勝ちたいですし。
田中 ネタを見に来てくれる人を増やしたいですね。
木下 いろんな方向性のコントをやりたいですね。
森もり いろんなことをやったほうが楽しいので。
田中 毎回違う味のコントをやると、「破壊ありがとうっぽさ」は消えていくのかもしれないけど、いろんな楽しませ方を試したいなという気持ちがあって。仕掛けに頼らず、いろんなコントをやっているのが「破壊ありがとうっぽさ」になっていけばいいなと思います。

──そういえば、「破壊ありがとう」はかなりインパクトのある名前ですよね。
田中 最初に、以前僕が組んでいたコンビが好きな言葉を言い合って作った「美少女ラーメン」で。
木下 あなたは「美少女」のほうを言ったんだよね?
田中 違う! ラーメンのほう! で、同じやり方で2人に好きな言葉を聞いたら……。
森もり 僕が「破壊」と言って、それを打ち消すように木下が「ありがとう」と。
田中 改めてやばすぎるよな。
木下 これでもよくなったほうで、最初は「ありがとう破壊」だったから。でも絶対に覚えてもらえるし、ほめてくださる方も多いんですよ。でも、テアトロコントのアンケートで「コント面白かったです! でもユニット名だけ変えたほうがいいと思います」と言われたりもします(笑)。
田中 この名前のわりにコントがふわふわしているから、そのギャップはいいのかもしれないけど……。
森もり 田中は変えたがってるんですよ。
田中 でも圧倒的に変えたがらない二人がいるから、俺の意見が通らない。でも通らなくて安心している俺もいるんだよな。
森もり 破壊ありがとうの名前といっしょに死んでいきます。
木下 墓に刻む?
森もり 石に刻むには画数が多すぎるからなあ。
田中 でも、おじいちゃんおばあちゃんになるまで破壊ありがとうをやっていこうと思っていることが今聞けてよかったよ。
木下 早く歳をとりたい。私は年をとっている方が似合うだろうと思うので。
田中 歳をとればとるほどよくなっていく3人のような気はするよね。
木下 この前もライブでグループのアピールポイントを書かなきゃいけなかったとき「精神年齢が高い」って書きました。
森もり でもときおり子供のように笑う(笑)。

──それが「破壊ありがとう」の魅力ですね。3月の単独ライブも楽しみにしています。

田中 はい。3月のライブでは「破壊ありがとうはこうなんだ」いうものが詰まったライブにできたらと思っています。

 

 

取材・文/釣木文恵

写真/明田川志保