インタビュー第2弾!清水宏×神田松之丞インタビュー|『松之丞&居島参戦!スタンダップコメディ年末決戦〜型破り五人男』

ステージにたった独りで立ち、ポリシーのある“忖度のない”笑いを追求するスタンダップコメディ。そんな笑いを広めるべく活動する日本スタンダップコメディ協会の公演『松之丞&居島参戦!スタンダップコメディ年末決戦〜型破り五人男』が紀伊國屋ホールにて上演される。協会から会長の清水宏、副会長のぜんじろう、そしてヒラ会員のラサール石井が登壇するほか、外部から講談師の神田松之丞、漫才コンビ米粒写経の居島一平が参戦する。会長の清水と若き講談師として人気を集めながら、あえてスタンダップコメディに挑む松之丞に話を聞いた。


――松之丞さんは清水さんとお会いするのは今回でまだ数回目とのことですが、お互いの印象はいかがですか?

松之丞「清水さんとはこの前お会いしたばかりですが、パワーがすごい。オファーをいただいてから、いろいろな動画などを拝見しているんですが、これだけパワフルに観客を沸かせるのは本当にすごいと思いました。僕は文楽の義太夫語りが好きなんですが、清水さんって義太夫語りみたいなんですよ。僕の師匠は75歳なんですが、75歳の語りなんですよ。でも義太夫語りの人は20代の全盛期の頃の音をずっと出そうとする。80代の爺さんが全力疾走するみたいな感じなんです。その一節に命を懸けている。その感じがあるんですよね」

清水「いやぁ、今日もスッと入ってきて、すぐそういう空気にしていくね(笑)。まだ会って3回目くらいだけど、緊張感があるんですよ。その理由のひとつは芸能に対してとてもピュアな方だから。大好きなんでしょうね、芸能が。だからすぐに出会えたんだと思います。落語のイベントで会ったんですが、その時、心に刃物を持っている人だと感じたんです。凄かった。本気なんですよね。それでいて、こんな不遜な方はいないな、と(笑)」

松之丞「(笑)」

清水「この入り方はね、飲んじゃうやり方なんだよ、場内を。高座と同じ、今この場も高座にしようとしているんだよね、彼は。すごいな、と思って(笑)」

松之丞「いや僕、まだほとんどしゃべってないですけど(笑)、これだけ言っていただけるとありがたいですね。清水さんは本当に気さくな方。後輩を後輩とあまり思わない人なのかな、と。同じ人類みたいな(笑)。そういう優しさを感じましたね。芸を見て、コイツ面白いことやってんな、と思っていただけたので、大先輩ですけどお近づきになれたのかな、と思っています」――今回はスタンダップコメディに挑戦されるわけですが、どのようなイメージをお持ちですか?

松之丞「僕にとっては、イコール清水さん。落語は笑点とか浮かんでくるんでしょうけど。僕の薄い知識だと、スタンダップコメディはレニー・ブルースのようなアメリカの古典的な人か、清水さんか、の2択な訳です(笑)。僕は講談の人間なので、言語の細かい、些細な笑いが好きなんですね。清水さんはパッションとおっしゃるかもしれませんが、海外でネイティブじゃない言葉でも大爆笑をかっさらっている姿はカッコいい。すごくいい距離感で、スタンダップコメディって面白そうかも、と思わせてくれたのが清水さんでした。僕は将来を考えちゃうんで、これから清水さんが20年とか続けていって日本にスタンダップコメディを根付かせたら、最高にカッコいいですよね」

清水「うれしいこと言ってくれるねぇ。僕は将来とかそこまでまったく考えてないけど(笑)。僕が彼を偉いな、と思うのはね、僕はあえて先陣や師匠がいない世界を選んでいて、師匠がいる松之丞くんとはその時点で違う。でも、それでいて松之丞くんは、スタンダップコメディの場に出てこようとしている。それってすごいことだよ。だから、この出会いを大事にしたいっていう気持ちにもなるよね」


――伝統的な芸能を踏襲しながらも、新しい笑いにも挑戦するというのは確かにすごいことですよね

清水「講談の世界の後ろにいる人の代わりに出てきていますから、っていうスタンスですからね。講談を背負って出てきている。…こう話していると負けられない、って気持ちになってきた(笑)。ひとつは、講談っていう大事なものを持っているのに、スタンダップという最前線に出てきてくれる人を大事にしたい、という気持ち。でも、もうひとつは…講談の世界ではぺーぺーだけど、ほかのジャンルに出てきても負けないぞ、と思っている人には負けられない、という気持ちですね。今、話していて気付いた(笑)」

松之丞「スタンダップに出るのは、信頼している清水さんにお声かけいただいたから。やっぱり人なんですよね。講釈の時は前に台があって、右の手に扇子、左手に張り扇を持つわけですが、その型が崩れた瞬間にまぁしゃべりにくいんですよ。スタイルが決まっているんですね。僕はトークイベントとかも出るので慣れているほうだとは思うんですけど、それでもスタイルが変わると違うんです。大学などでお話することもあるんですが、同じ話をしてもホワイトボードを使っているときはそんなに聞いてくれないのに、釈台を置いて喋ると聞いてくれる。そこであのスタイルが人の話を聞かせるには効果的なんだと気付きました。スタイルが変わるって非常に繊細なものなんだな、と。スタンダップは初心者ですが、清水さんの顔を潰さないように、それだけですね。それで、願わくば一番ウケたいと(笑)」


――やっぱりそこはそうなんですね(笑)

松之丞「やっぱりその欲が無いと清水さんに失礼ですから。もちろん清水さんは大ベテランですから、全然かなわないですよ。千代の富士が思いっきりキレイに寺尾を叩きつけたように、あれを清水さんにしていただこうかと(笑)」

清水「スゴイでしょ、この謙虚さと不遜さ(笑)。なんだかわからないけど、ゾクゾクさせられる。プロだよね。僕はずっと寺尾みたいな位置でいたのに、こういう言い方で来ちゃうんだから。義太夫語りに例えるにしてもね。何か大きな世界を語る人は、話の構造も面白いんだよ。講談もひとりで語るスタイルだけど、今こうやって話しているとちゃんと話のキャッチボールもある。そこがすごいんですよ、この人は。うちの嫁も松之丞くんのラジオを面白い、面白い、って聞いていて、僕は複雑な気持ちになるわけです(笑)」


――清水さんが、松之丞さんにスタンダップコメディのステージに立ってほしいとオファーした決め手はなんでしたか?

清水「そこはもう、好きだから、ですね。軽々しく言う好き、じゃなくて、緊張感のある、好き。この人と舞台に立ちたいと思っていたし、その機会を僕が作れたというのは、嬉しいね。松之丞くんが講談、僕はスタンダップという形でもやってみたいと思うけど、それがフェアなことかもしれないけれど、今はスタンダップをやってみてほしかった。もうワクワクしちゃってるんですよ」

松之丞「例えばですけど、仕事のジャンルの違う人が別のジャンルの仕事をし始めるとちょっとモヤモヤするとか、そういう感覚の人っているじゃないですか。宣伝になるからいいけど、ずっと別ジャンルのことをされるとモヤモヤしちゃう、みたいな。僕みたいな講談の人間が、スタンダップをやって、そういうモヤモヤした感じにはならないんですか?」

清水「全然ないね。面白い人にどんどんやってもらいたい。松之丞くんは、講談を大事にして、講談とともに生きていく人だけど、スタンダップもまたやってほしいね」松之丞「実は今、心のどこかに年末にスタンダップをやらなきゃいけない、っていうストレスがあるんですよ(笑)。どっかの脳の片隅にね。期待に応えなきゃ、ってね。本当はもう少し小さな舞台で一度やってみてから、というお話も合ったんです。でもどうしてもスケジュールが合わなくて、紀伊國屋ホールという大舞台にいきなり立つことになって。でもそれがいいな、と思いました。小さなとこで経験積むよりも」

清水「小さいところなら、もしスベっても口止めして、なんなら川に浮かべればいいわけですが(笑)、大舞台となるとそうはいかない。そこに結果出てくることになっちゃうのも、この男なのかな、と思うね」

松之丞「お客さんもそのほうが面白いですよね、きっと。それがいいんですよ」


――松之丞さんから清水さんに聞いておきたいことはありますか?

松之丞「そうだなぁ。清水さんにライバルっているんですか?」

清水「新しくスタンダップを始める人はみんなライバル。でも、ぜんじろうくんはひとつ大きなライバルかも知れないね。まったくやり方も違うし、いいと思っているものも違うからね。そうウケるのか、と思うこともあって忸怩たる思いをすることもあるけど。日本スタンダップコメディ協会のことを始めてから、僕自身が海外でやることはお休みしている状態なんだけど、彼が着々と海外で活躍しているのを見るとクソっと思うことはあるね。多分、彼も僕にそう思っている部分はあって、僕と違うところを埋めてくるんだよね」

松之丞「新しい人を入れて、いろんなものを混ぜていって盛り上がらせるのって本当にいいですよね。異種格闘技戦みたいな。僕は講談っていうものを流行らせようと生意気にも思った時には、落語の世界に入って落語家に勝とうと思ったんですよね。勝てないですよ、本質的には。でも異種格闘技でどんどん勝ち残っていくことなんですよ。攻めないと守れない。講談ってつまらないと思っている人に、落語の場に出て行って落語を食うことをしていって“講談も面白いじゃん”ってなる。他流試合をしていかないと、増えていかない、広まっていかないんですよね。で、清水さんが僕をパーッとねじ伏せて、どんどんスタンダップが広まっていく、と(笑)」

清水「ね、面白いでしょ、この人(笑)。常に講談を背負っているんだよね。その精神は今のスタンダップコメディと重なる部分もある。自然と僕も今、聴き側に回っちゃっているんだよね。これが講談のパワー、話法ですよ」――年末、スタンダップコメディのステージに松之丞さんが立つのが楽しみですね

清水「スベるのを期待したって、そんなことは起こらないからね。下っ腹からグッと寄せてくる」

松之丞「いやぁ、清水さんもグッと寄せていくじゃないですか」

清水「僕は胸なんだよね。なんか松之丞くんは下っ腹って感じがする。僕とはちょっと違う、何ていうかドスなんだよね(笑)。悔しいけど、これが本来の引き寄せ方な気がしていて…気をつけなきゃいけないのは、負けても悔しくない感じになっていること(笑)。自分が呼んだ人でも、自分より面白かったら悔しいもの。でも、今そんなに悔しくないかも、ってなってきてる。ただただ、見てほしいんだな、この人を。こんな贅沢なことないですよ、日本のスタンダップコメディの黎明期に神田松之丞が出てくれるってことはね」

松之丞「いやいや…。でもこういう熱量の人が引っ張ってくれるから、黎明期って面白いんですよね。異種格闘技のようにいろんな人が出ることで、どんどん面白くなっていくんだろうと思います。講談って、冗長なネタを上の世代が一生懸命に書き直してくれて、それをもらえるわけです。先人たちの頑張りを感じるんですよね。そこが伝統芸能の面白いところでもあるんですが、ある種、その初代にあたる人ですから清水さんは。地獄ですよ、初代は地獄(笑)」

清水「楽しみですよ、楽しみ(笑)。でもね、こうやっていつの間にかスタンダップから講談の話をしているんです。激しいジェラシーですよ(笑)。スタンダップコメディのことを忘れなくさせたい。余計なものに関わったけど、今後もやらないとな…っていうふうにさせたいですね」

松之丞「すごく楽しみにしていますよ。空気も楽屋の感じとかも違うだろうし、着物も着ていないから心のON、OFFも変わるのかな、と。僕はバランスを取る人間なので、いろんなパターンがある中で全体が良くなるように違うパターンを探して自分のキャラを落とし込むことがあるんです。でもね、清水さんはそれを望んでいないと思うんですよ。撃ち合いですよね?(笑)。もし負けても、まぁすぐ年も明けちゃうんで、切り替えができる(笑)。年末にいいお祭り騒ぎができればと思います」

 

取材・文/宮崎新之インタビュー第1弾!清水宏×居島一平『松之丞&居島参戦!スタンダップコメディ年末決戦〜型破り五人男』