「梅棒」の最新作 20th Breakdown『FINAL JACKET』稽古場レポート

撮影/角田大樹

この記事は公演に関するネタバレを含みます。ご注意ください。

ダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 20th Breakdown『FINAL JACKET』が東京・愛知・大阪の3都市で上演される。

劇場での主催公演を中心に、様々なアーティストのLIVEや映像メディア、舞台、そして今年は「EXPO2025 大阪・関西万博」での振付・演出など、多方面で活躍する梅棒。前回公演『クリス、いってきマス!!!』に出演したSuGuRuが新メンバーとして加わって初めて迎える主催公演となる。

出演者は梅棒メンバー11人に加え、日替わりゲストを迎えて、伝説のジャケット《ファイナルジャケット》を巡る壮大な冒険譚が繰り広げられる。本番迫る稽古場にて通し稽古を取材した。また、忙しい稽古の合間を縫って、今回主役のマグナスを演じる櫻井竜彦と、梅棒新メンバーのSuGuRuに話を聞いた。

──櫻井さんから公演への意気込みと、どんな役になりそうかを教えてください

櫻井 今回、相当久しぶりの主演になります。以前と比べて僕自身も少し変わっているのかもしれませんが、主演だからどう、という意識は全くないし、主演だから、という意気込みも特にありません。今回は日替わりゲスト以外は梅棒のメンバーだけで、今までにないテイストというか、非常に男臭く泥臭い作品になっています。しかも、衣裳なども相まって、もしかしたら僕が一番男臭いかもしれません。いつもと少し違う題材で、規模感も異なる作品だからこそ、それらをうまく活かして、すべてのお客様を魅了できたらと思っています。

──SuGuRuさんは前回公演では客演として参加して、今回は梅棒加入後初の公演となります

SuGuRu こんなに早く加入できるとは思ってもいなかったので、嬉しいです。前回は客演という立場で楽しさを堪能しましたが、今回は「作る」というところを堪能しています。これまで梅棒がやってきた方法に入って作っていくという、そういう経験自体が初めてだったので、わからないことだらけで勝手にパンクしている自分がいましたが、これに早く馴染んでいきたいですし、馴染んだ未来を想像するとすごくワクワクします。稽古も終盤に差し掛かり、置いていかれるような不安な気持ちになることもありますが、やるべきこと、やれるべきことをやろうという方に視点を変えて、とにかく食らいついていこうという気持ちで取り込んでいます。まだうまく頭が追い付いていないですが(笑)、気合は十分あります!

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その後、通し稽古が始まった。
物語の舞台は、かつて人々の心をひとつに束ねることができる“伝説のジャケット”が存在したという、いつなのかどこなのか、時代も国も限定されていない架空の世界。《ファイナルジャケット》と呼ばれたそれには、文明すらも崩壊させる計り知れない力が秘められており、5つのパーツに引き裂かれて世界各地に散った後、その存在は忘れ去られようとしていた。

しかし、とある軍を治めるギデオン(遠山晶司)がファイナルジャケットを探し始めたことで、伝説の力を手に入れたいと願う人々が動き出す。アウトローな用心棒・マグナス(櫻井竜彦)はレオン(鶴野輝一)と共にジャケットのパーツを探し、蛮族の長・バルザック(伊藤今人)は監獄から何かを企んでいる。様々な欲望が渦巻く中、ファイナルジャケットを手にするのは誰なのか?

これから始まる冒険譚のワクワクが伝わってくるオープニングは、力強さと激しさが前面に押し出された躍動感あふれるダンスに彩られ、作品のスタートを表現すると同時に、新メンバーが加わった梅棒としての新たな旅立ちも示唆され、作品への期待感がより高まる。

物語の一つの軸となるのは、マグナスとギデオンの関係性だ。実は因縁の関係にある2人のキャラクターの違いが序盤でくっきりと浮かぶ。熱い心を持ちながらも自由に世を渡り歩く気楽さが軽妙な動きや表情ににじみ出るマグナスと、野心に燃えながらも冷静さと威厳を保つ為政者のギデオンが、ふと見せる互いを気にする様子は序盤から物語の含みを感じさせる。また、マグナスに憧れて付きまとうレオンはクルクル変わる表情の豊かさが印象的で、マグナスとの関係性に揺れ動く心を繊細に表現しており、ギデオンの部下カリム(多和田任益)の自信過剰で腹黒ながらもお調子者で抜けている様子はどこか憎めず、この2人の起こすアクションにより物語は大きく動いていく。

マグナスとギデオンは競い合うようにジャケットのパーツを探すのだが、その過程で出会う個性的な人々のキャラクターが楽しい。武道家の王八宝(SuGuRu)のコミカルながらもキレのあるダンスはエンターテインメント性が高く、八宝の弟子バオズ(野田裕貴)の純粋さには自然とほほが緩んでしまう。バルザックの子分・チャド(梅澤裕介)は表情まで踊っているような表現力の高さに目を奪われ、監獄の所長・ルシャール(塩野拓矢)は牢屋の鉄格子のごとく強固でタフな存在感を放っている。宣教師ピエール(天野一輝)は教祖というよりはアイドルのような立ち振る舞いで信者たちを魅了し、サーカスの団長アロン(楢木和也)はセクシーなビジュアルが強烈なインパクトで他を圧倒する迫力がある。伊藤今人が演じるバルザックはこの日代役だったが、凶悪で戦闘力が高い様子が伝わって来た。本番でどんなバルザックが見られるのか期待が高まる。

今回もオリジナル曲から超有名ナンバーまで様々な楽曲にのせて「ダンス×演劇」が次々に繰り広げられる。梅棒の魅力の一つは、踊りや演技も音楽の一部であると感じさせるところだ。彼らの身体は音を奏でる楽器のようにしなやかに弾けて楽曲と融合していく。明るい表情はメジャーコード、寂しい表情はマイナーコードを響かせて、衣裳や照明たちが奥行きや広がりを加える。そこには「ダンス」も「演劇」も「音楽」も超越した一つの複合的アート表現が立ち上がり、これが唯一無二の“梅棒ワールド”だと輝きを放つ。

一瞬の表情やしぐさで物語を見せるところも、梅棒の技術の高さをうかがわせる。セリフがない分、説明的な動きも必要になってくるが、どこに視線を送るかという選択一つで心の動きが伝わる構造を生み出せるのは、これまでの彼らの経験値に因るところも大きいのだろう。説明的になりすぎず、かといって難解には決してしない。その絶妙なバランスが、心地よく作品世界に没入させてくれる。

各キャラクター設定がしっかりしており、物語も一本線が通っているので演劇作品としても十分に楽しめる。終盤には「なるほど、そういうことか!」と思わず膝を打ちたくなるような展開を迎え、見終えたときには非常にスッキリとした気持ちになった。稽古前に櫻井が語ったように、男臭く泥臭く硬派な冒険譚がどのような終着点を迎えるのか、自分も一人の冒険者になった気分で『FINAL JACKET』という“梅棒ワールド”を大いに旅してもらいたい。観客の“踊る心”もこの作品の一部となり、劇場全体が「ダンス×演劇」に満たされた空間になることが楽しみだ。

稽古場写真

インタビュー・文/久田絢子
撮影/角田大樹