『TALK DANGEROUS』岡崎大樹×渡辺謙典インタビュー

写真左より)岡崎大樹、渡辺謙典

東宝版初演から25周年を迎え、観る者を魅了し続けてきた大ヒットミュージカル『エリザベート』。同作の2025-2026年版に、作中で重要な役割を担うトートダンサー(黄泉の帝王「トート」の分身でトートの感情や死の概念を表現するダンサー)として出演した8人のメンバー、五十嵐耕司・岡崎大樹・澤村 亮・鈴木凌平・德市暉尚・中村 拳・松平和希・渡辺謙典によるイベントが3月1日(日)に東京・TIAT SKY HALLにて開催される。
(※澤村亮は一部演出に音声のみの出演)

本イベントに先駆け、「ローチケ演劇宣言!」では独占インタビューを敢行。
2015年からトートダンサーとして出演し、今期ではリーダーを務めた岡崎大樹、2019年より出演し、イベントの発起人でもある渡辺謙典の二人に、大千穐楽を終えて間もないタイミングで話を聞くことができた。『エリザベート』との出会いや出演時のエピソード、イベント開催への思いを語ってもらった。

必然的にミュージカルの世界へ

――お二人のダンスのルーツを教えてください。

渡辺:母親がダンスの振付や教室の講師をしていたので、子供の頃からダンスは身近な存在でした。実際に始めたのは大学生からで、進学した北海道の大学でYOSAKOIソーランの強豪チームに所属して。そこで初めて人前で踊りを披露するという経験をしたのですが、その時に自分の中でしっくりくる感覚があり、そこからダンスを本格的にやってみようと思ったのが始まりでした。

岡崎:僕は中高一貫の男子校で吹奏楽部に所属していたのもあり、音楽には馴染みのある環境でした。演奏の演出で踊ったりすることもあって、それが楽しいなと感じていて。広島県出身なのですが、劇団四季が地方公演で来た時に家族で観に行き、「自分でも挑戦してみたい」と強く心を惹かれました。
そこで興味を持ち始めて、東京の大学に進学した際にミュージカルサークルに入り、レッスンを積んだりしてそこからスタートという感じです。

――お二人とも大学生からダンスを始められたんですね。
『エリザベート』との出会い、また出演へ至った経緯をお聞かせください。

渡辺:母が宝塚が好きで、『エリザベート』は自分も一緒に観ていたので、よく知っている作品でした。僕が観てきたのは宝塚版だったので、初めて東宝版を観たときは「これは本物じゃない!」と思ってしまったのを覚えています(笑)。
21歳からテーマパークのダンサーを始めたのですが、その時に外部から来られた振付師の方が、『エリザベート』や宝塚歌劇の振付などもされている島崎徹さんだったんです。島崎さんの振付に出会い、「この方が振付されている舞台だったら、すごくやりがいのある踊りができるんじゃないか」と感じて。そういった背景もあり、トートダンサーのオーディションを受けてみようと思い、採用していただきました。

岡崎:僕は大学卒業後にサンリオピューロランドのショーに出演して、そこからミュージカルや演劇作品などのいろんな舞台に出るようになったのですが、2008年に一路真輝さん主演の『エリザベート』を観て、すぐに「トートダンサーやりたい!」と思って。観終わった帰りには皇居の公園で真似して踊っていたのを覚えています(笑)。その後2015年版のオーディションがあると知ったものの、大好きな作品だからこそ「落ちたら嫌いになって二度と観られなくなるかもしれない」という葛藤があり受けるかどうかすごく悩んだのですが、締め切りギリギリに決心してエントリーしてもらい、無事に受かることができました。

――実際にトートダンサーとして演じる側になり、イメージとの違いやギャップはありましたか?

岡崎:僕が出演した2015年版から振付が小尻健太さんになり、以前とガラリと変わったのもあって、「まったく新しいものをつくるんだ」という責任の重さを感じましたね。現場でどんどん新しいものが生まれて、健太さんもつくっては壊してとずっと試行錯誤されていたので、とても濃密な日々でした。
初日を迎えて舞台に出た瞬間は感慨を感じる余裕もなかったのですが、その日トート役で登板されていた井上芳雄さんの「最後のダンス」の歌唱後にショーストップ状態になり、「こんなことになるんだ……!」と感動して、そこで初めて実感したのを覚えています。

渡辺:僕はミュージカルに初めて出演したのが『エリザベート』(2019年)だったので、経験不足だったこともあり、苦しかった記憶の方が多いですね。観ていたときはもっとフレキシブルに踊るものだと思っていたのですが、実際は動きの制限も多く、自由がなくて、そこにしんどさを感じてしまって。なので、最初の年は「もう出たくない」って思ったのが正直な感想でした(笑)。

――そうだったんですね(笑)。でもそのあともご出演された理由とは……?

渡辺:その次の2022年の時は、もう一度チャレンジしてみたいという思いがあって。19年の時は自分の実力や経験が不足していたのもあり、演出の小池(修一郎)先生の話をちゃんと理解できていなかったところもあったんです。なので、改めて「役として踊る」ことに挑戦してみたくて。苦しみもありましたが、自分の中ではリベンジをやり切ったという感覚がありました。ちなみに、今期はエリザファンの母から「出てほしい」というリクエストがあったので出演を決めました(笑)。

――お母さまからのリクエストで(笑)

渡辺:22年はコロナ禍というのもあり、祖母の看病をしていた母は外出を控えていたので、一度も公演を観ることができなかったんですね。「次は地方公演も全箇所行くし、死ぬ前の最後のお願い」と言われて。

岡崎:それでお母さんは何回くらい観てくれたの?

渡辺:東京公演の初日と二日目だけ観て、「もう思い残すことはない」と言って早々に満足して終わりました(笑)。こっちはあと110公演残ってるのに……!

岡崎:お母さん面白い人だわ~(笑)。

――岡崎さんは2015年に初出演、今期でちょうど10年が経ちました。初出演時からSNSでの発信力も素晴らしく、そこで岡崎さんに注目された方も多かったと思います。今回初めてリーダーを務められてみて、いかがでしたか?

岡崎:若手の子たちはそれぞれに、強い個性と優れたスキルを持っていますがZ世代ですし、一番下の子とは18歳違うので、同じ価値観をわかり合うというよりは最終的にはお客さまに満足していただける舞台になればいいので、ほぼ放牧状態でした(笑)。

渡辺:あはは(笑)。

岡崎:ですのでみんなにはおいしい草を食べてもらって、鈴を鳴らす時は集合してもらって、という感じで。

――渡辺さんから見て、岡崎さんはどんなリーダーでしたか?

渡辺:まさににそんな感じでしたね。若い子たちはみんなピュアで可愛げがあるけど、僕を含めた中堅メンバーはだいぶめんどくさかったと思います(笑)。言うこときかないわりにかまってちゃんで、リーダーに甘えてるところも多くて……。

岡崎:すっごい甘えん坊なんですよ。でも甘えてくるときはまだ安心できるからいいんですけど、甘えなくなったときは危険信号ですね(笑)。皆さんが思っているよりだいぶ幼稚園な感じです。でも今期のメンバーは本当に仲が良かったよね。

渡辺:すごい仲良かったですね。だからこそ今回のようなイベントもできるんだと思います。

8人の職人技で魅せるのがトートダンサー

――トートダンサーを演じる上での面白さはどんなところに感じられていましたか?

岡崎:要素の五角形があるとしたら、『エリザベート』はすごくバランスのいい作品だと思うんです。歴史スペクタルがあり、ラブストーリーがあり……。その中でコンテンポラリーダンスが物語を構築する「額縁」として重要なところを占めているというのが面白いですよね。登場人物の皆がつくっているクラシカルな空気の中に突入していくのは、わくわくします。

渡辺:やはり歌、音楽の素晴らしさですね。あのリーヴァイさんの雄大な音楽のもとで、オーケストラの生演奏で踊れるというのは贅沢ですし、やはり何度出ていても面白さを感じます。

――作品の中でもトートダンサーの存在は大きく、影の主役のようにも思えます。

岡崎:そう言っていただけるのは嬉しいのですが、主役だと思って演じるとまた別物になってしまうんですよね。一つの役を8人で空気としてつくることが求められるので、“職人技”に近いものがあると思います。一人ずつ骨格や踊り方も違いますし、個性もバラバラですが、できるだけ全員で同じ空気を出す。それは個性を消す大変な作業ではありますが、揃ったときに生み出せるもの、伝わるものの素晴らしさはみんなわかっているので、とにかく集中して頑張る。週9回・112公演それを貫き通す「トートダンサーマラソン」ですね(笑)。

6人体制で乗り越えたコロナ禍の経験

――これまでのご出演で印象深いエピソードがあれば教えてください。

岡崎:コロナ禍(22年)で急遽6人体制でやらなければならないときがあって、袖に帰る度にみんなで「大丈夫だった?次はここがこう変わるからね」と毎回確認しながらやっている時期があったんですね。結果的に6人で対応できたことは素晴らしいことなんだけれども、それはお客さまに対して「8個入りのチョコを6個入りでお出ししてしまっている」状態なわけですよね。こういった事態にはどうしたらいいんだろう、永遠に課題だなと思いながら当時過ごしていました。

――お一人だけ欠けても、すべての動線が変わってきてしまいますよね。

岡崎:でもその時、プリンシパルの皆さんがすごく協力してくれて。当時シシィを演じていた愛希(れいか)さんとかも、「いくらでも練習付き合うから」って言ってくれて、思わず「姉御……!」って泣きそうになりましたね。

渡辺:6人になったとき、僕は休演していた側で。皆さんが大変だったことは話には聞いていたのですが、実際の6人バージョンは見ていなかったんです。復帰した時に、独立運動のシーンでトート役の古川雄大くんが、元の振りにはないシェネジュッテ(回転とジャンプを組み合わせた動き)で前にパーンと出ていくのを見て、「何!?」ってすごくびっくりして(笑)。トートが盛り上げてくれている姿から元気を貰いましたし、その光景はずっと覚えていますね。

岡崎:ご本人に聞いてみたら、自分が埋められるかもしれないと思ってやったと言ってました。今期も一人休演になった公演があって、雄大君の回があったのでやるかなと思って見ていたらやらなかったので、あとで聞いたら「しまった、忘れてた!やりたかった!」って言ってました(笑)。

――お二人のお好きな場面を挙げるとしたら?

岡崎:舞踏会の場面が好きですね。僕らが舞台にどんどん入ってきて、いつの間にか黄泉の世界に変わっている、という。

――舞踏会のシーンでは岡崎さんがシシィとペアで踊られていますよね。

岡崎:シシィのお二人(望海風斗・明日海りお)のお芝居が毎回違うので、それもすごく面白かったですね。ものすごく不審がられて嫌がられることもあれば、逆にニコニコしてる日もあったり。やっていて一番お芝居が楽しい場面でした。

渡辺:僕は最初のナンバー「我ら息絶えし者ども」の、♪せか~いは と始まる冒頭の2回腕を上下させる動きが一番好きですね。振付の健太さんが「地面も一緒に呼吸して上がっているようなイメージ」と言っていて、それを概念として身体で表現するというのがすごく面白くて。僕たちの呼吸で登場人物たちが起き上がり、『エリザベート』という舞台が息を吹き返す、というイメージがあって、一番大事にしていた場面ですね。

岡崎:そこの動きはずっとこだわって鏡の前で練習していたよね。

渡辺:最終的には身体の中の部分の話になるのですが、見ている地面が一緒に立ち上がっていくような、すべての感覚がピタッと嵌る瞬間があって。その瞬間はやっぱり気持ちいいなと思いますね。

岡崎:そういう感覚は100回あったとしたらどれくらいの頻度であるの?

渡辺:せいぜい2回くらいですかね。

岡崎:すごい世界だよね。

――聞いていてゾクゾクしますね。改めてそのシーンを見返したいです。

渡辺:でも、今日いいかも!と思ったところにアグレッシブな動きの若手の子たちの姿が目に入ってきて集中力が途切れる、ということもあるんですよ(笑)。逆に自分が上手く嵌らないなと感じる日もあったり。

岡崎:日替わりで調子の良い人・悪い人が変わるからね。でも全体のムードは絶対に保たないといけないから、ケンケン(渡辺の愛称)も周りを見ながら調整してくれていたよね。この人がああなら自分はこうしよう、という具合に微細な調整をしていく、その連続ですね。

古川・井上・山崎 三者三様のトート像

――前回と今回でトート役を演じた古川雄大さん、井上芳雄さん、山崎育三郎さんそれぞれのトートとしての印象について教えてください。

岡崎:雄大くんのトートは、温もりを知らない獣がシシィの持っている「熱」みたいなものを初めて頬に受けて、そこからシシィに執着して追いかけているんだろうな、というイメージ。芳雄さんは、大地や自然現象、自然の摂理の中枢にいる、みたいな感じがしますね。超越した存在というか。いっくん(山崎)は、シシィが「セクシーな美男子が私の前に表れたらどうなるんだろう?」と妄想していて頭を打ったらあの紫の髪のトートが現れたんじゃないかなという気持ちにさせられる、官能的なトート像でした。

渡辺:雄大くんはウィーン版のロック調のトートに近いイメージがありますね。僕たちとの関係性を大事にしてくれて、こちらの様子も窺ってくれるトート。芳雄さんは一番形容しがたいかもしれません。壮大な感じで、孤高で帝王感がすごくあって……。三人ともトートダンサーの遣い方が全然違うのですが、芳雄さんの場合だと眷属というよりは羽根の一部として扱っているようなイメージがあります。育さんは毎日舞台を楽しんでやられている姿の印象が強いですね。裏でも「今日どうだった?」と声を掛けてくれたり、ハイタッチしてくれたり。いい兄貴分といいますか。
トートの感情の起伏が三人それぞれ違うのも面白いところですね。例えばデブレツェンの場面でトートがマントを翻すところがあるのですが、廻る速度や雰囲気も三者三様なので、こちらも自然と動きに合わせて変えていっていて。そこの場面はわかりすく違いが出ているシーンかなと思います。

「TDっぽいポーズで」のリクエストに応えてくれる二人

一人ひとりの個性、新たな一面を知ってほしい

――ここからはイベントについてお聞かせください。今回、どのような思いでイベントを企画されたのでしょうか。

渡辺:カーテンコールでも僕たちは話すこともないですし、一番後ろの列に並んで挨拶をするのですが、ここまで個を抑えてみんなで頑張ってきたので、自分たちが一番前で拍手をいただける機会をつくってみたいと思ったんです。また、トートダンサーとしての魅力は皆さんに知っていただけていると思いますが、一人のパフォーマーとして、ぞれぞれの姿を知ってもらいたいという思いもあり、今回このイベントを企画しました。

岡崎:今日初めてちゃんとケンケンの思いを聞いたけど、素晴らしいね。

――どんなイベントになりそうでしょうか。ダンスもあるとちらっとお聞きしていますが。

岡崎:そうですね。ダンスの振りは早々につくってくれていて、博多座公演中にリハもやって。個々のテイストが出るような踊りになっているよね。

――踊られてきたダンスのジャンルは皆さんそれぞれ違うのでしょうか。

岡崎:似ているタイプはいますが、基本的にバラバラですね。

渡辺:ジャズダンスやコンテンポラリーなど、大まかなカテゴライスはできますが、その中でもまた細かく分かれているので、一人ひとりのジャンルがあると言えるくらい違いますね。舞台では8人で一つになって表現していましたが、今回のイベントではソロで披露する形が多いと思います。

――トークの部分では、どんなお話が聞けそうでしょうか。

岡崎:公演の振り返りやエピソードを披露しつつ、という感じになると思います。当初はMCとして回していく自信があったのですが、だんだんみんなの素が見えてくるにつれて、「こんな一面あったのか、ヤバい」って思うこともあったりして(笑)。正直、回す自信がなくなってきています。中村(拳)くんとか怖いよね(笑)。

渡辺:要注意ですね(笑)。

――何が出てくるかわからない、まさに『TALK DANGEROUS』ですね(笑)

岡崎:とくに最初の昼の回がどうなるか怖いので、トークの練習は絶対しておきたいですね。みんなダンスの練習しかしたがらないと思うけど(笑)。

渡辺:でも逆のパターンもあるかもしれないですよね。大樹さん以外のメンバーはマイクを持って人前で話す経験はほぼないので、みんな喋らなくなってしまう可能性も……。

岡崎:そうなったら全然大丈夫。もうあとはこっちが引き出すだけだから(笑)。

――他にも構想があれば教えてください。

岡崎:(『エリザベート』の)他のキャストの方からも「歌っちゃえばいいんじゃない?」という意見を頂いているので、歌の披露も考えています。

渡辺:歌をやりたいというメンバーもいるので、歌わせてあげたいなと。そこで新たな一面も知ってもらえたら嬉しいですね。

――お二人は今後新たにやってみたいこと、挑戦してみたいことはありますか?

岡崎:いずれ『エリザベート』にはダンサーじゃなくて俳優として出てみたいですね。それで舞台袖から「トートダンサー頑張ってるなあ」って思いながら見てみたいです。

渡辺:僕はソリストのダンサーとしてミュージカルに出てみたいです。例えば『ダンス・オブ・ヴァンパイア』のヴァンパイア・ダンサー=伯爵の化身や、『ロミオ&ジュリエット』の死のダンサーをいつかやれたら。あと、ミュージカルや宝塚歌劇団での振付の仕事も今後やってみたいですね。振付師としても活動したいと思っています。

――今後のお二人のご活躍も楽しみです!最後に、イベントを楽しみにされているお客さまへメッセージをお願いします。

岡崎:今期のメンバーは本当に仲が良くて、バイオリズム的にも奇跡的なタイミングでできるイベントなので、ぜひ会場で目撃していただきたいです。今回のようなイベントは金輪際ない気がしているので、お祭りとして楽しんでいただけたらと思います。もしかしたら「あの人たち、喋らない方がカッコよかったね」ってなるかもしれませんが(笑)、それも味だと思って愛してほしいなと思います。

渡辺:僕自身も他のメンバーがどんな踊りや振る舞いをするのか、舞台上でのみんなの新たな一面を楽しみにしています。“ギャップ”を知ってもらう機会なので、観に来てくださる方々には引かずに心強く受け止めてもらえたらなと思います(笑)。あと、こちらはお願い事項になりますが、盛り上がっても立つのは禁止で、着席スタイルでお願いします。でも、心は立ち上がって楽しんでいただけたらうれしいです!

※「島崎徹」の崎はタツサキ
※「小尻健太」の尻は尸の中が丸

取材・文・撮影:古内かほ