舞台「フラメンコ~私の地、アンダルシア」SIROCO(シロコ) インタビュー

現代フラメンコ界を代表する貴公子JUAN DE JUAN(ファン・デ・ファン) と、日本人男性として初めてフラメンコ界の頂点に立ったSIROCOが贈る「舞台フラメンコ〜私の地アンダルシア」11月に東京、大阪で開催決定!

公演を前に、SIROCOさんにインタビューを敢行。京都出身のSIROCOさんのことばは、ときに関西弁がまじって柔らかな印象を与えながらも、常にフラメンコへの思いがにじむとてもまっすぐなものでした。


――19歳のときに映画『フラメンコ』(監督:カルロス・サウラ、出演:ホアキン・コルテスほか。1955年)を見てフラメンコをやりたいと志したSIROCOさん。それまでの人生で見聞きしてきたほかのどれとも違う“特別な何か”を感じたからこそフラメンコに惹かれたのだと思いますが、“特別な何か”をことばで表現するとしたらどんなことばになるでしょうか。

SIROCO「フラメンコは、(映画を観た)その当時、ぼく自身が考えていることや、(当時やっていた)ダンスに懸ける思い、日々の生活のフラストレーション、そういうものがぶつけやすい踊りだったんですよね。
民族音楽、ジャズ、ヒップホップ…って、根底に「魂の叫び」みたいなものがあってできてきたように思うんです。(映画を見た)当時、ぼく自身がそういうものをぶつける手段として選んだのがフラメンコだったと思うんです」


――発散する、ということですか。

SIROCO「そうですね。フラメンコの一般的なイメージは、眉間にしわをよせて踊ったり、凄い形相をして踊ってたりする。バラをくわえて「オレ!」と叫ぶイメージもあるだろうけど。簡単なことばでいうと「情熱的」といわれるような拳を突き上げたりする動きは、優雅なもんではなかったんですよね。(“特別なもの”をことばにするなら)「情熱」なんでしょうね。その「熱さ」ですよね。スペインのアンダルシア、暑い、灼熱の中に生まれた文化。ギターや歌や踊りに宿る、ジプシーの魂の叫び、嘆き、そういったものが魅力なんじゃないかな」


――映画に感銘を受けたとひとことにいっても、ご家族にフラメンコをやっていた方がいらっしゃるわけでもなければ、スペイン語が話せたわけでもない。それでもその情熱で、スペインへ行こうというエネルギー、勢いがすごいですね。

SIROCO「無謀ですよね(笑)。若いときだったからできたことですね。なにも考えてなかったので。ただ本能のまま、行きたい、踊りたい、あれ(フラメンコ)をやりたい、だからスペインへ行く!というだけで」


――今回のインタビューにあたって、SIROCOさんに関する資料や映像も拝見しました。当時、スペインで住んでいたというのが洞窟のような場所でしたけれども、よほどの意志がないとここでは暮らせないなと個人的には思ってしまいました…。

SIROCO「洞穴に住んだのも、昔、ジプシーがそこに住んでたという歴史があったからですね。(フラメンコの)ルーツを辿るのも、ひとつの人生の肥やしというか。留学して勉強していたことも、現地に行って生のフラメンコを観ないとわからないことでした。
今回の公演にしても、パッと見て(公演のチラシを持ちながら)「カッコいい兄ちゃんだ!」っていうのは簡単じゃないですか(笑)。でも、公演のようすを後からYoutubeで見て「いい舞台だね」っていうより、何メートルか先でそれが行われている生の空気っていうのは、やっぱり違うもんだと思うんです。それを体験してほしいなあと。CDで(不変の)なにかを発表するようなものじゃないんですね、舞台っていうのは。映画と違って毎回一緒でもない。だから、ナマで見てほしいということですね」


――公演のお話が出たので、次はぜひ今回の公演のお話をお聞きしたいのですが、先日、スペインで今回の公演のプログラムを作ってこられたとか。ソロの公演ならおひとりでプログラムを考えて作っていくのだと思いますが、今回の公演のように他のダンサーの方と一緒の場合は、プログラムはどのように作るのですか?

SIROCO「プログラムじたいは、僕とファンがふたりで作ります。ぼくたちが作っていって、それをメンバーに伝えていくという感じですね」


――もうだいたい出来上がっているという感じですか。

SIROCO「そうですね。枠組みができて、あとは詰めていく感じで。
フラメンコは即興性の部分と、舞台(作品)として制作していく部分と両面を兼ね備えているんで、実際、本番直前に全員が集まってから(公演が行われる)4日間でかたちになっていくんですね。そこ(公演本番)でできたものが発表するすべてです。4公演見ても、プログラムは一緒なんですけど、全部表情が違う。一応プログラムはあるんですけど、その中では描けないものもある。フリースタイルというか、個々それぞれの「自分が解放できる瞬間」を常に設けているのがフラメンコの醍醐味ですね」


――おふたりの「腕のみせどころ」といったところでしょうか。

SIROCO「そうですね」


――ファンさんが他のダンサーの方と違うのはどのようなところか教えていただけますか。

SIROCO「いま彼は40歳なんですけど、(フラメンコの)最前線でいちばん脂ののった時期のダンサーなんですよね。これはもうぼくの主観かもしれないですけど、トップでやっていると思う。(スペインには)「踊り」はすごい人がいっぱいいるんですよ。そのなかでも彼は(踊るだけでなく)自分で作曲をして、ギターを弾いて、メロディを作って…そういったものも、他の人にない、彼の「芸術家」としての一面だと思うんです。
今回の公演は、公演のタイトルにもなっている「私の地、アンダルシア」という曲を発表する舞台でもあります。この曲は、5年くらい前、彼の家で僕とファンが一緒に遊んでいるときに突如できた曲なんですよね。その曲があったまって進化して、今回発表するに至った。
ファンと僕ももう7年くらいの付き合いがあります。2013年に、僕が彼を日本にはじめて招聘したところから(関係が)始まってるんです。だから6年ぶりの日本での彼の作品の発表の場、というところも大きな目玉ですね。前回は彼の単独公演だったんですけど、今回は日本のトップアーティストとスペインのトップアーティストとのコラボレーションのなかで、彼と僕とのヒストリーを描いていきます」


――SIROCOさんご自身は、作曲や演奏をやってみたいと思うことはあるのでしょうか。

SIROCO「いや、僕はギターも弾けないんでね(笑)。彼はギターも弾くしピアノも弾くし、この世界(フラメンコの世界)の「マスター」だと思うんですよ。全部できる。日本人は、まず彼らの文化を勉強してから始まる」


――スペインで生まれ育ったというベースがあるからこそ、ファンさんはそういうことができるということですね。

SIROCO「そうですね。だからそんな鬼才、天才といわれる人たちを、日本で、みなさんの前に届けられるということに喜びも感じています。なかなか見れないんですよ!」


――東京・大阪あわせてもたった4回の公演ですよね。

SIROCO「もちろん、日本の一般の方はファン・デ・ファンのことなんか知らないでしょうし、フラメンコすら見たことがないかも。でも、現地で売れてる人たちがなかなか日本に来ないですから。今回は、「ホンモノ」が日本に来て、現地の空気を運んでくる舞台だと思いますよ」


――SIROCOさん、ファンさんはじめ出演者の方のことが好きだったり、フラメンコが好きだという方は、今回の公演の「楽しみ方」をよくご存じだと思うのですが、たとえばそういった方に誘われて劇場に来た「初めてフラメンコを見る」お客様は、どういったところに注目するとより楽しめるでしょうか。

SIROCO「(フラメンコは)ひとつの「芸術」だと思うんですよね。「芸術」を観るには、感じたまんまに観てもらいたい、というのがひとつなんですよ。お客さんの感じたままに。もちろん「芸術」には好き嫌いもあると思いますが、僕たちは、誰ひとりとして手を抜くことなく、情熱をそこに燃やしているんで、その姿を純粋に感じて興奮してもらえたらいいなと。単純に「カッコいい」とかでもいいと思うんですよ。「迫力あったねえ」とか。男2人がメインですが、総勢14名の迫力の舞台を体感してほしいです」


――音楽や歌もそうですし、足を踏み鳴らす音や手拍子も、人間の心を煽っていくものですよね。

SIROCO「決してきれいな表現ではないと思うんですよ。なので、体感して熱くなってもらいたい」


――「きれいな表現」というのは…他のものを挙げるのがなかなかはばかられますが…たとえばクラシックバレエなどの表現でしょうか?

SIROCO「そうですね。静と動でいえば(フラメンコは)動の部類です。もちろんフラメンコにも「静寂」を表現する場面はありますけど、静寂を表現する芸術とは違うので、(フラメンコの)醍醐味はそれとは異なりますね。その解釈のまま、楽しんでいただけたらいいと思います」

 

★取材こぼれ話
取材終了後、SIROCOさんにお聞きしました!

――SIROCOさんがついつい気になってしまう、やってしまう、フラメンコダンサーならではの「職業病」はなにかありますか?たとえば信号待ちでついステップ踏んじゃうとか

SIROCO「あるあるある(笑)。ありますよ。メトロノームみたいな一定の機械音には反応してしまいますね。リズムの「裏」を取ろうとして、リズムの空いてる部分を埋めたくなっちゃうんです。


――「裏」を取る、は、一般の方はまずやらないですね(笑)

SIROCO「ダンス用の靴じゃなくふつうの革靴でもスニーカーでも、履いて少しでも音が鳴ったらこう鳴らしちゃいますしね(その場でタカタカタカ…と足を踏み鳴らす)。すぐ指を鳴らしちゃったり(パチン!と指を鳴らす)。
あと、手拍子。手拍子が全部パルマ(フラメンコの用語で「手拍子」)になっちゃうから、いわゆる一般的なパチパチする「拍手」ができない!(笑)こうなってくるともはや「職業病」というより「癖」ですね(笑)」


――もう、リズムのなかで生きていらっしゃるんですね!

SIROCO「そうですね。音楽のなかで生きていますね」

 

インタビュー・文・写真/ローソンチケット