美弥るりか インタビュー|the Wonder「MIYA COLLECTION」

2019年6月に宝塚歌劇団を卒業した美弥るりかの新たな世界観を具現化するthe Wonder「MIYA COLLECTION」。昨年2月、劇場入りまでしながら新型コロナウイルスの感染拡大防止のため中止となってしまっていたステージが、1年を経て上演されることになった。演出に河原雅彦、音楽を瓜生明希葉、共演に仙名彩世と魅力的な布陣で作り上げる今回のステージは、はたしてどのようなものになるのか。並々ならぬ想いで公演に挑む美弥に話を聞いた。

 

――昨年2月に公演が中止となり、ちょうど1年後に上演できることになりました。どのようなお心持ちですか。

昨年の2月に公演が中止になった時は……どうしても、仕方がないこととはいえ無念と言いますか、受け入れるのに時間がかかってしまいました。ですから、まさか1年後にまたできるなんて、と思いました。もちろん、希望としてはできたら嬉しいと思っていましたが、それが形となってきて、みなさまにお知らせできたことが何よりも嬉しくて。本当に、お待たせしましたという気持ち。待っていてくださった方への感謝でいっぱいです。


――1年前とはまた違ったお気持ちで上演に向かわれる感じでしょうか。

1年前の時は、とてもタイトなスケジュールになっていて、しかも内容は盛りだくさん。楽曲も多くて、毎日振付をして、とにかく形にして勢いで行こう!というような感じだったんです。ある意味、時間ができて丁寧に向き合うことができる嬉しさもあります。かなり謎だったと思うんですけど(笑)、配信(「ミヤコレからの贈り物」)も何回かさせていただいて、みなさんもちょっとずつ内容を知ったことで、一緒に過程を楽しんで、1年の歩みを実感していただけたのではないでしょうか。そういうお気持ちで見ていただけたら、より楽しんでご覧いただけるのではないかと思います。


――改めて「MIYA COLLECTION」とはどのようなステージなんでしょうか。

演出の河原雅彦さんとは、いわゆるザ・コンサートじゃないものにしていきたいですね、とお話していて。河原さんご自身、初めての音楽ものの演出で、私も宝塚を卒業後にこういう形でやるのは初めてで、お互いに未知の状態でしたから、どうしましょうか?としっかりお話をしたんです。それで、1部は少しストーリー性も感じるような、メッセージ性もあるような……1曲ごとに完結ではなく、みなさんに何かメッセージをお届けできるようなものにしました。特にテーマ曲の「Mirror」は、鏡の中の自分とどっちが真実なのか、本当の自分と向き合うという楽曲で、そこからスタートするんです。ある意味、観ている方も自分の心の中の何かとリンクする部分もあったら面白いな、と。ちょっと新しい形のコンサートと思っていただければと思います。


――そこから、また2部も違った雰囲気になるそうですね。

そうですね、2部はちょっとリラックスしていただくような、みなさんともコミュニケーションを取れるようなものになればと思っています。1部はこちらから提示するステージになると思うので。その感想の中にお芝居チックなものが入っていたら、面白いかなと思っています。新しい自分を見つけていくことを、みなさんと楽しむような感じですね。でも、最後に振り返ってみたら、うーんコンサートだったのかな?くらいの感じでしょうか。衣裳も今回とっても素敵なので、視覚的にも面白くなっています。


――より五感を刺激されるようなステージですね。河原さんとはどんなお話をされたんですか?

何度か打ち合わせをする中で、お互いに好きな音楽をいくつか出し合ったんですよ。私はこういうジャンルの音楽を聴きます、とか。河原さんもすごく音楽に詳しくて、海外の音楽とかすごく知識があって、そういうのをお聞きしているうちに、すごく面白いものになるんじゃないかという気になりました。今まで居た宝塚の雰囲気には無かったようなショーにしたい、という気持ちは一緒だったのが良かったかなと思います。


――美弥さんから見て、河原さんはどんな方ですか?

独特の空気感がありますが、すごくお優しいんですよね。私の意見をまず受け入れてくれてから、河原さんの意見を言ってくださる。一緒に作っていく、ということをすごく感じられる時間でした。宝塚の頃は、台本も曲もすべて決まっていて、提示されたものを受け入れるしかない。だから、何がしたいの?って言われることに慣れていなかったんです。「何を歌いたいの?」『言っていいんですか!?』みたいな(笑)。最初はおそるおそるだったんですけど、引き出してくださいました。その中で、河原さんのこだわりもしっかり出してくださって、「それは良くないかな」とスパッと切ってくださることもありましたし、優しさの中に芯をしっかり持っていらっしゃる。稽古場では、みなさんをリラックスさせてくださる方でしたね。緊張感を人に与えないので、いいパフォーマンスをできる空気を作ってくださる。つい興味を持ってしまう魅力的な方です。


――今回は公演によって違うゲストを招いたステージもあるそうですね。ぞれぞれのゲストの印象を伺いたいと思いますが、まずは東山義久さんの印象はいかがですか。

東山さんは在団中から舞台を観に来てくださったり、私も観に行ったりしていました。東山さんにしか出せない、不思議な色気というか余韻のある方ですよね。オーラと言うんでしょうか、ほかに変えることのできないものを持っている方だと思います。でも、お話するととても面白くて(笑)。関西の方ですしね。すごくギャップがあります。東山さんのダンスもすごく好きなので一緒に踊るようなコラボをさせていただけたらと思っています。


――続いて伊礼彼方さんの印象は?

伊礼さんとは、ゲストに決まるまでお話したことが無かったんです。去年だとお話するのにちょっと緊張もしていたんですが、舞台を拝見させていただいたり、配信でコメントをいただいたりして、以前よりももっと楽しくお話できるんじゃないかな、と思っています。でも、一方的に舞台は拝見していて、すごく端正な方じゃないですか。リアル王子様というか。初めて観た作品が「王家に捧ぐ歌」のラダメスで、こんなに似合っちゃう人がいるんだ!と思いました。でも、しゃべったら伊礼さんも本当にユーモアのある方です。お稽古の時に、声量の大きさと表現の大きさのすばらしさも感じましたし、すごく刺激を受けましたね。


――最後に、平方元基さんはいかがでしょうか。

平方さんは、延期になって今回から加わってくださった方。先日、シアター・クリエの「SHOW-ISMS」で初めてお会いしたのですが、客席からは以前から拝見していました。稽古場でお会いして、平方さんがお芝居されているシーンを見てすごく感動しました。ミュージカルってこうだよな、芝居と歌が奇跡のように一致しているから、人の心にこんなに響くんだよな、と感じました。すごく尊敬していますし、そういう方とご一緒できることは勉強になって幸せだな、と思います。


――今回は振付も、大澄賢也さん、KAORIaliveさん、桜木涼介さん、 港ゆりかさんと豪華な面々となっています。それぞれの振付でも雰囲気は変わりそうですね。

1部だと特にそうですね。5場面くらいあって、それぞれでかなりカラーが変わります。それぞれの振付の方の得意ジャンルや、私が踊ってみたいジャンルをそれぞれに当てはめていただきました。初めての方もいらっしゃいましたので、すごく刺激的で、今まで踊ったことの無いようなジャンルの振付もあって、去年は必死でした(笑)。そんな動き、したことない!って。今までは固めのダンスが多かったので、しなやかさや色っぽさとか、そういうニュアンスの振付をしたことが無かったので、体が驚いていました。そこ、曲げたこと無い!って(笑)


――自分からやりたいことを提案したり、新しいジャンルの振付に挑戦したりと、宝塚をご卒業されてから新たな試みがたくさんあったかと思います。その中で見つけた、新しい自分もあったのでは?

卒業後にライブやディナーショーをさせていただいたりしたのですが、意外と総合的に考えるのが好きなんだな、と思いました。トータルバランスというか。やりたい曲を提案するとかもそうですが、どういう順番で、何を取り入れて、どこに挟むか、観ている人の気持ちを落とさずに、むしろクレッシェンドしていくような形にするには……みたいなことを考えるのが、意外と好きで。いつも思うのは、最前列の方と最後列の一番端の方も、同じ気持ちになってほしいんです。どうしても。そのための演出をストイックに考えますね。演出というほどのものでもないんですけど、みなさんの気持ちとともにショーのバランスや衣裳、メイクなどの要素を考えるのが楽しくて、幸せですね。今までは忙しすぎて、役のことだけを精一杯考えていましたから。自分という個について考えて、みなさんとの関係性やつながりを、一番考えるようになりました。


――宝塚という団体の一員から、ご卒業されておひとりになられてからどういう変化がありましたか?

先ほども少しお話したんですが、一番大きかったのは、自分がやりたいことって何?という聞かれたことがないことへの、慣れない感覚ですね。宝塚では、与えられたものの中でやっていましたから。やはり団体だからこそできる団体美があって、列を揃えながらも、どう自分をプロデュースできるかが重要でした。ずっと団体の中にいましたから、最初はすごく孤独を感じましたし、ひとりで舞台に立つことも怖かった。ひとりの私を観に来る人がいるのかな、という不安もありましたね。それでも来てくださる方がいて、今のような世界的に大変な中でも会いに来てくださる方がいる。それを知った今は、その方たちに「想像よりも面白かった」と思ってもらえるものは何かを一番に考えています。そのためには、それ相応の熱量が必要だとも分かったので、今までよりもアンテナを張っていますね。世界の流れやエンターテインメントの流れの中で新しいものを生み出していくために、情報をすごく集めていかないと。新しいものを受け入れる怖さを捨てて、解放された……というよりは、フラットになった感じです。


――男役からその卒業、という部分ではいかがでしょうか。

私、宝塚に居た頃から、あまり男役だと意識していませんでした。卒業する最後の頃は、男役という枠にはいたけれど、何かを演じることに性別って関係ないな、ということに気付いてきていました。演じるのは自分の魂だし、男性にも女性にも心はある。人を愛するとか、憎むとかって、そこに男だから女だからって変なこだわりを持つことですごく固い鎧を着てしまうんじゃないか、表現がすごく小さくなるんじゃないかと思っていました。だからこそ、そういう部分は今もあまり変わっていないのかもしれません。いつも性別にあまりこだわってはいないっていう感じです。


――コロナ禍により思うように活動できない期間が続いていますが、その期間はどのようなことを考えていらっしゃいましたか。

舞台に携わっている方はみなさん思ったことかもしれないですけれど、こういう時に何もできなくなってしまった瞬間が、最初の頃は無力に感じてしまいました。誰の役にも立てない瞬間があることを、受け入れるのにとても時間がかかりましたね。ある意味もう一度舞台というものを考え直して、本当に自分は何がしたいのかというものだけが、最後に残った。今までは、お芝居やダンス歌など、自分が好きなことを表現することで、満たされていたのかもしれません。でも、そうじゃなくて、ひとりの人間として舞台に立った時に誰かに喜んでもらえる存在でありたい。自分の人生を見つめなおして、自分の人生を豊かにすることで、舞台に立った時に表現が豊かになって分厚くなると思うんです。自分自身を磨くこと……それは芸事だけじゃなくて、自分の魂というか、生き方を磨いていくことで、よりみなさまに充実感や納得感、幸せを届けられる。そういう存在になりたいと思っています。


――今回の公演が、そのひとつの形となるわけですね。楽しみにしています。本日はありがとうございました。

 

取材・文/宮崎新之
ヘアメイク/清原貴絵
スタイリスト/清原愛花

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