梅棒17th Mystery『花婿は迷探偵 -THE FINAL-』|稽古場取材レポート

(C)角田大樹

ダンスエンターテインメント集団「梅棒」の最新作、梅棒 17th Mystery『花婿は迷探偵 -THE FINAL-』が東京・大阪・愛知の3都市で上演される。

アーティストのLIVE、映画・テレビ番組などの映像メディア、宝塚歌劇団や2.5次元舞台等において、振付・演出でも活躍する梅棒による公演の魅力は、ダンスというジャンルに留まらないエンターテインメントを見せてくれるところだ。J-POPにのせて躍動するキャストの身体と同時に、歌詞とリンクしながら豊かに変化する表情、ストーリー性を持った振付の雄弁さで繰り広げられる作品は、まさにダンスであり、演劇である。セリフがなく身体で表現するという意味では、パントマイムとも通じるところがあるかもしれない。

本作のストーリーは、“名”探偵として名高いが、実は役立たずのとんだ”迷”探偵の森小次郎が、とある秘宝を手に入れて一躍時の人となり、恋愛リアリティショーに出演することに。花嫁の座を狙う女性たちが火花を散らす中、恐ろしい事件が幕を開け、果たして”迷”探偵は真実にたどり着くことができるのか? という推理劇。

各方面で幅広く活躍するゲストキャスト4名(滝澤諒、山野光、五十嵐ゆうや、Ken)と、梅棒の8名(梅澤裕介、鶴野輝一、塩野拓矢、櫻井竜彦、楢木和也、天野一輝、野田裕貴、多和田任益)、総勢12名の男性キャストで挑む、梅棒初のミステリー作品となる本作の稽古場を取材した。

(C)角田大樹

この日はキャスト全員が稽古場にそろった。まず稽古していたのは、博物館からとある秘宝を盗もうとする犯人が、小次郎の“迷”推理により犯行失敗となり逃げていく、というシーン。楽曲に合わせたダンスと芝居が繰り広げられ、セリフなしで動きと歌詞の力でストーリーを描いていく構成力の高さにより、一気に世界観に引き込まれた。一度シーンを通した後、動きや段取りの細かい確認作業が始まった。総合演出の伊藤今人が「表情が見えなくなっちゃったから」と振付の細かい調整を要求する。セリフで語ることができない分、キャストの豊かな表情をしっかりと観客に見せていくことも重要だ。

今回が梅棒初主演となる楢木和也が、美しい立ち姿でキリっとした表情を見せたかと思うと、情けない表情やドタバタとした動きでコミカルに立ち回るなど、センターで色鮮やかに存在感を放っている。楢木のサポート役的立場を担う多和田任益には安定感があり、そんな2人を呆れつつも見守る立ち位置の滝澤諒は包み込むような柔らかな雰囲気が印象的だ。

休憩を挟み次に稽古に入ったのは、小次郎が出演することになった恋愛リアリティショーの一つ目のゲームセッションが行われるシーン。各セッションごとに小次郎は気に入った女性にバラの花を渡すことになっており、8人の女性たちがライバル心むき出しで火花を散らし合う。あちこちで小競り合いが起きる中、バラの花をゲットするのは誰なのか? 

ポップな曲に合わせて、小次郎のハートをつかもうと自分をアピールする8人の女性役(梅澤裕介、鶴野輝一、塩野拓矢、天野一輝、野田裕貴、山野光、五十嵐ゆうや、Ken)の仕草や表情のかわいらしさに、見ているこちらも思わず頬が緩んでしまう。しかしひとたびパフォーマンスが終わり素の状態に戻ると、女性役を演じていた先ほどまでとは雰囲気がガラリと変わることに驚かされる。表情や仕草が違うだけで、人に与える印象というものはこんなにも異なって見えるものなのだと改めて思い知らされたと同時に、オンとオフでその切り替えがきっちりできる彼らの表現力の高さをうかがい知ることができた。小次郎を利用しながら登場人物全員を強引に振り回すような役どころを任されたのは櫻井竜彦。伸び伸びと自由に暴れまわるほどに、より一層ストーリーが混迷していくことになる憎まれ役だが、実に楽しそうに演じている。

しかし正直なところ、このシーンを最初に見たときに面白いと感じたのと同時に「少し疲れたな」と思ってしまった。個々がバラバラな動きでストーリーを語るシーンということもあって情報量が非常に多かったうえに、アップテンポな曲にのせて情報が次々と視覚に飛び込んでくるので、それを頭で処理するのに精いっぱいになってしまったのだ。同じことを伊藤も思ったのだろうか、1回通した後で「わかりやすくしよう」「手数を減らそう」と言いながら動きの整理をしていた。舞台作品においては特に、情報量が多いことがわかりやすさにつながるわけではない。伝えるべき情報を精査して、それを伝えるにはどの振付や表情を選択するのか、というブラッシュアップを経ることで、誰が見ても楽しめる梅棒のエンターテインメント作品は完成されていくのだ。

取材中一番印象に残ったのは、そこまで順調に進んでいたように見えた稽古が、少し止まったときのことだった。曲の頭から最後まで通した後、2人のキャストが口々に「難しい!」と口にした。どのあたりがどう難しかったのか、総合演出の伊藤と、その曲の振付担当(※梅棒では曲ごとに分担して梅棒メンバーが振付を担当している)を交えて話し合いが始まった。どうやら2人が小競り合いをする部分の動きと、役としての感情の紐づけがうまくいっていないらしい。

なるほど、これが純ダンス公演であればダンサーは「こういう振付だから」と割り切ることもできるだろう。しかし、梅棒は「ダンス×演劇」と銘打っているように、キャストはダンサーであり、俳優でもあるのだ。一つの振付、一つの動きそれぞれがセリフの役割も担い、そこには役としての感情が伴う。だからこそ、演じるキャストと総合演出と振付担当がこのように話し合い、目指す方向性をすり合わせる作業が重要になってくる。それは、芝居とダンスの両立の難しさを感じさせる瞬間だった。しかし、梅棒はその難しさに挑戦し続けてきたカンパニーなのだ。

梅棒作品では、クリエイションの中で「演劇」を取るのか、「ダンス」を取るのか、選択を迫られる瞬間というものが数多く出てくるのだろう。つまり、一つのアクションを「芝居」に寄せるのか、「ダンス」に寄せるのか、という判断が必要になってくる。かといって、どちらかを捨てるというわけではない。両立させながら、どちらをより立たせるかを決めるという、非常に高度な判断の連続で作品が出来上がっていくのだと感じた。

稽古場の雰囲気は明るく和やかで、梅棒メンバーとゲストメンバーが境目なくフラットに稽古に参加している様子から、全員が互いを信頼し合ってクリエイションしていることが伝わってくる。この日は梅棒・野田裕貴の誕生日で、「今日はすいーつ(※野田の愛称)さんの誕生日です!」という声と共に稽古場が賑やかなお祝いムードに包まれるひと時もあった。稽古場の雰囲気は作品に少なからず影響するはずなので、この温かな空気から生まれた作品は観客をよりハッピーな気分にしてくれることだろう。

難しいことは考えず、頭を空っぽにして劇場の座席に座り、目の前で繰り広げられる梅棒エンターテインメントを存分に浴びてみてほしい。ハラハラドキドキのミステリー、心躍る楽曲、カッコよかったりキュートだったりするダンス、クルクル変わるチャーミングな表情、などなど、見る人それぞれの楽しみ方で自由に受け取ることのできる本作は、年末年始の観劇納め・観劇初めにぴったりの作品となるに違いない。

取材・文:久田絢子